ポニーガールとご主人様 第三章(5)もうひとりのターゲット

「さてと、それじゃ会場づくりから始めましょうか」
新田の言葉を合図に、作業に取り掛かる。

部屋の各所に数本ずつ置かれた、銀色のポール。
それを、藤崎の指示に従い等間隔で並べていく。

ポールの先端には赤いベルトが収納されており、引き出して隣のポールへと引っかけられるようになっていた。
前回までの会場である多目的練習室に比べ、あっという間にコースが完成する。
コースの長さも、これまでとほとんど変わらないように思える。

会場づくりもひと段落し。
新田と畑川が、お手洗いに行っている、ほんのわずかな間の出来事だった。

「ねえ、ちょっといい?」

声のしたほうを振り向くと、藤崎が立っていた。
「三井センパイがあんな風になっちゃって、ビックリしたでしょ」
三井のいるほうを、顎でしゃくる。
「なんかね、あの日、初めてあんな姿のセンパイを見て、すごくビックリして…でも、同時に、これまで考えたこともないようなことが頭に浮かんだんだよね」

藤崎の目。
私を見据えている。
なぜ、私に話しかけてきたのか。
何を、言わんとしているのか。
聞きながら、考える。

「今までは仰ぎ見るほど大きな存在だと思ってたのに、ホントはこんな人だったんだって」

真顔のまま、言葉を続ける藤崎。
「軽蔑したとか、ガッカリしたってわけじゃなくて…なんかね、すっごいカワイイなって思ったの。今までは、かっこいいなとかキレイだなとか、ただ憧れてるだけで。ああなりたいなんて、畏れ多くてとても思えない。一緒にいられるだけで、光栄なことだと思ってた。でも…」
そこで一度、言葉が途切れた。

「三井センパイが恥ずかしがったり悔しがったりしてる姿を見てると、なんかね、すごくドキドキして…もっと恥ずかしいことさせたい。そしたらどんな顔するんだろうって」
口元に笑みを浮かべる三井。

「まさか、こんな関係になれるなんて思ってもみなかった。それが今日で終わりなんて、絶対イヤなの」
目には狂気が浮かんでいた。
「でね。実は今、もう一つ、こうなるといいなって考えてることがあるの。なんだか分かる?」

分かるわけない。
思ったが、声には出せない。
ただ…
嫌な予感。
藤崎が、口を開いた。

「三井センパイだけじゃなくて、そのライバルも、ペットだったら面白いんじゃないかって」

冷や汗。
にわかに、心臓の音がうるさくなる。

「部のツートップであるふたりが、私にひざまずくの。卑屈な顔をしながら私の顔色をうかがって、ペット同士で競い合ったり、私の命令一つでどんな情けないことも恥ずかしいこともするの。そんなの、最高じゃないですか?」

捕食者の目。
体が動かない。
恐怖、あるいは絶望。
口の中が乾く。

ある可能性から、必死に目を背ける。
しかし、それもあっけなく終わってしまう。

「隠してるつもりみたいですけど、バレバレですよ、中谷センパイ?」

心臓をわしづかみにされたような気分だった。

「部のツートップであるおふたりを、私が飼ってあげます」

いつからだ?
いつから、気付いていた?
必死に、考える。
そして思い出される、藤崎とのやりとり。
尊大な態度をとる藤崎に対して、私はなんと卑屈な態度をとってきたか。
身体がカッと熱くなる。

『アハハ!ペットがペットの散歩してる!』

『ただでさえ立場が低いのに、そうやって学生証ぶらさげてると、更に格下の存在ってカンジがして、いいね』

『ペットの癖に、いっちょ前に恥ずかしいんだぁ。ほら、隠すなよ、マーゾ?』

つい先ほど言われた言葉が甦る。

怒り。
続いて、悔しさ。
最後に、強烈な恥ずかしさ。
藤崎は、私の正体に気付いていた。
そのうえで、私にあんな態度をとってきたのだ。

「三井センパイと一緒にお散歩させてあげます。三井センパイのこと、羨ましそうに見てたでしょ。気付いてますよ?」

体に灯った恥辱の火が、藤崎の言葉に、態度に煽られていく。

「それとも、競わせてあげましょうか?ワンちゃんとして、どちらがご主人様を楽しませられるか。それとも、センパイの場合はお馬さんとしてがいいのかな?溝口や小乃実ちゃんだけじゃなくて、部内で飼ってあげる。センパイに憧れてる子って結構多いから、乗ってみたいって子も多いんじゃないですか?」

藤崎の目。
こちらを見下したような表情。
藤崎のクセに…
意思に反して、体がゾクゾクと反応する。

「でも、そんなことになったら、もう先輩面はできませんね。1年生どころか今度入ってくる新入生にも。いったい、彼女たちにどんな自己紹介をなさる気ですか?」

思考を、感情を、搔き乱される。
落ち着け…
落ち着くのよ…
レース直前のタイミングで言うのは、私を動揺させるのが目的か。
藤崎がこのレースで勝てば、再び三井をレンタルすることができる。
そうなれば、三井は更に藤崎に逆らえなくなっていくだろう。
それだけではない。
私も、藤崎に逆らえなくなる。

まだ間に合う。
いや、もう手遅れか。
思考が堂々巡りする。

新田や藤崎だけでなく、部内で飼われるふたり。
ツートップとして君臨していた私たちは、部の最底辺として堕ち。
馬に乗るどころか、乗るための馬として、新入生たちに自己紹介する。
最初はためらっていた新入生たちも、すぐに遠慮がなくなっていき…

『ほら、中谷センパイ遅いですよ』
『章乃ちゃん、紗枝ちゃんに負けたら、またオシオキだよ』

楽しそうな新入生たち。
いっぽう私たちは、最上級生であるにも関わらず、逆らうこともできず彼女たちのオモチャにされている。
あまりにも、現実離れしている。
そんな非現実的なこと、起こるわけがない。
でも、もしかしたら…

恐怖。
絶対に避けなければいけない未来。
大学生として、いや、人として終わってしまう。
それなのに…
そんな状況に惹かれ始めている自分に、恐怖を覚えた。

トイレ休憩も終わり、全員が集合した時。
「それじゃ、勝負の前に条件を確認しましょうか」
条件については、前回のレースが終った後、あらかじめ決めていたのだ。
それを、新田が改めて確認していく。

まずは、藤崎チームから。

【藤崎】
勝利…引き続き三井をレンタル
敗北…畑川の馬になってコースを1周

三井のレンタル期間は今回のレースまで。
このレースに勝てば、その期間を次回レースにまで延ばすことができる。
それが、新田の課した条件の1つだった。

そして、もう一つの条件。

もし、勝負に負けた場合。
畑川を乗せて、コースを周回する。
それも、私や三井がしているような馬のコスプレをして、だ。
その姿は動画として記録される。

条件を快諾した藤崎。
動画を撮られることなど、何とも思っていないのか。
あるいは、自分が負けるなど考えてすらいないのか。

【三井】
勝利…現状維持
敗北…次回は他の取り巻きも観客として招待

立場が地に堕ちた彼女にとって、勝利によって得られるものはない。
良くて現状維持なのだ。
そして、負けた時の条件。
彼女を慕う取り巻きの中からふたりが、次回レースの観客となる。

誰が観客に選ばれたのか、彼女自身はレース当日まで知ることはできない。
首元に学生証をぶら下げ、馬のコスプレ姿をした三井。
手綱を引かれながら入場してきた彼女を、軽蔑と好奇の目で眺める取り巻きふたり。
その時はじめて、彼女は誰が選ばれたのかを知ることができるのだ。

次に、畑川チーム。

【畑川】
勝利…藤崎に跨ってコースを1周
敗北…藤崎の馬になってコースを1週

藤崎の条件に対応するような、畑川の条件。
これは、あくまで表向きのものだ。
彼女にとっての本当の条件は、別にあった。
もちろん、このことは藤崎は知らない。

勝てば、一時的に貞操帯を外してもらえるのだ。
そして新田より与えられる、私の屈辱的な動画。
それを観ながら、自身のクリトリスを指の腹で撫で上げ、擦り上げる。
恥も外聞もなく快楽を貪る己の姿を、新田と私に見られながら。
彼女にとって、恥辱と屈辱に彩られた極上のご褒美なのだ。

しかし、もし負けてしまったら。
次回レースまで、オアズケなのだ。
それどころか…
貞操帯のカギをチラつかせながら、私を責める新田。
先輩に対してとは思えない高圧的で恥辱的な命令に、嬉々として従う私。
それを、正座をしながら眼前で見せられ続ける。

年下のご主人様に懇願し、涙を流しながら、額を床に擦りつける。
期待を煽るだけ煽られ、しかし解錠は許されない。
帰宅後も、昂った体を鎮めることもできず。
網膜と耳にこびりついた映像と声が、彼女を苛み続ける。
無意味と知りつつ、腰を床に何度も打ち付ける。
それが、毎週続くのだ。

【中谷】
勝利…現状維持
敗北…藤崎にマスクをはぎ取られる
   次回、後輩を観客として招待+学生証一部公開

三井同様、私に与えられた権利は、良くて現状維持ということ。
ただ、これは今回に始まったことではなかった。
そしてそれを、私は受け入れているのだ。
問題は、負けた時の条件。

藤崎に、マスクを剥ぎ取られる。
彼女は私の正体に気付いていた。
ただ、証拠はないのだ。
彼女がいくら主張したところで、誤魔化しようはあった。
でも、素顔を見られたら…
そこで、完全に立場は入れ替わる。
そうなったらもう、二度と彼女に逆らえなくなる。

それに加えて、後輩を観客として招待するという条件。
後輩というのは、溝口と高倉のことだ。
もし今回負ければ、学生証の学籍番号だけマスキングテープを外した状態で、彼女たちの前で馬として姿を晒すことになってしまう。
そして、そのレースでも負けてしまったら…

『部のツートップであるおふたりを、私が飼ってあげます』
『センパイに憧れてる子って結構多いから、乗ってみたいって子も多いんじゃないですか?』
『もう先輩面はできませんね。1年生どころか今度入ってくる新入生にも。いったい、彼女たちにどんな自己紹介をなさる気ですか?』

先ほど藤崎に言われた言葉。
溝口と高倉どころか、新入生にすら下に見られ、オモチャとして扱われる。
想像するだけで、血が凍るような屈辱だった。
そんなことになったら、本当にヒトとしての尊厳は奪われてしまう。
それなのに…

なぜ見てみたいと思ってしまうのか。
高校を卒業して間もない女の子に屈服させられる光景を。
憤りと恥辱で顔を紅潮させ、更なる屈辱への期待で体を震わせる己の姿を。
新入生を乗せて這いまわる、かつてのツートップ。
私たちを嗤う後輩たち。
新入生は生意気にも、彼女らには従順なのだ。

レースの出走順を決めるコイントス。
表なら畑川チーム、裏なら藤崎チームから。
新田が、親指に乗せた10円玉を弾く。
空中で回転するそれを、両手でキャッチする新田。
ゆっくりと、左手を離す。
手のひらの10円玉は、裏を向いていた。

「えー、私たちから?まぁ、いいけど。アッキー、行くよ」
藤崎の呼びかけに、三井が反応する。
スタート地点であり、ゴールでもある黒いビニールテープの前。
ご主人様が乗りやすいよう、少しだけ身をかがめる三井。
そんな彼女に、ためらうことなく藤崎は跨った。

左手で鞭を、右手で手綱を握る。
その姿は堂々としていて、かつてないほど自信に満ちていた。

コメント

  1. 佐々木 より:

    これは中谷さんチームに負けて欲しいですなぁ♪そちらの方が無様とみました!

    • slowdy より:

      >佐々木さん
      返信、遅くなりました💦
      実は、既にアンケートで勝敗を決めさせていただいていました。

      ただ、今回選ばれなかったほうの展開も、ifストーリーとして、いつか公開できたらと考えていますので、どちらのパターンもぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。

      • 佐々木 より:

        女王様ぶってる藤崎ちゃんがマゾ堕ちするのもそれはそれで!
        自分がされたいことしてたことになるのかな。
        IFストーリーも本当に楽しみにしています。いつも読んでます頑張ってください。

  2. 匿名 より:

    藤崎のクセに…と怒りを覚えてももう何もできない中谷先輩。
    素晴らしい展開。

    • slowdy より:

      >匿名さん
      コメントありがとうございます!
      自分より格上になってしまった後輩に、何を言われても言い返せない屈辱。
      でも、そんな状況にすらゾクゾクしてしまう、Mな中谷なのでした。