Magic stone 4話

あの日以来、私は吸収の魔石を入れながら、過ごすことになった。
魔石に魔力を吸収される感覚は、いまだに慣れない。
魔術師にとって大事な魔力を奪われているというのに、そのことを意識するたび、被虐心で体がゾクゾクしてしまう。
部下に、大事な魔力を…
頭をふり、気持ちを奮い立たせる。
この任務が終われば、長官としてのポストが待っている。
一刻も早く、解術の隙を見つけなければならない。
しかし…
私の魔力をたっぷりと吸い取った魔石。
それを、私は毎晩、ソフィーに差し出さなければならなかった。
魔力を溜めなければいけないのに…
私の大切な魔力。
それを、当然のようにソフィーは受け取った。
悔しい。
悔しいのに、なぜ…
胸が、甘く締め付けられる。
首元に手を伸ばす。
服従の首輪という、忌々しい枷。
そもそも、私とソフィーとでは勝負にならないほど、圧倒的な実力差があるのだ。
高位魔術を組み合わせれば、あるいは力技で外すことができるかもしれない。
この首輪を外すことさえできれば、ソフィーなどどうにもできる。
ただ、それには膨大な魔力と集中力を必要とする。
万全な状態の時の私なら、それができたかもしれない。
しかし、魔力が足りない。
私の大切な魔力を無遠慮に吸い取っていく、吸収の魔石。
たっぷりと魔力を吸い取った魔石は、この原因を作ったソフィー本人に差し出さねばならないのだ。
吸収の魔石。
下腹部が、チリチリと刺激される。
悔しさと、情けなさと、恥ずかしさ。
解除する方法を見つけなければ。
頭の中で、高位魔術の術式を組み合わせていく。
しかし、気づくと、今夜も行われるはずの調教に想いを馳せ、体を熱くさせている自分がいるのだ。
解除の方法。
一つだけ、アテがあった。
近日中に、私の部下がここを訪れることになっている。
巨大魔石の解析に必要な資材の配達。
それと、進捗状況を含めた業務連絡。
予定では、アンリエッタが来ることになっていた。
優秀な魔術師であるだけでなく、ビーストテイマーとしての資質も持っている。
彼女が、猛獣を服従させるためにこのアイテムを使っているのを見たことがある。
アンリエッタなら、この忌々しい首輪を外す術を知っているのではないか。
ただ、問題はそれをどう聞き出すかだった。
再び、首元に手を伸ばす。
この首輪をなぜ私がつけているのか、それを説明しなければならない。
うまく誤魔化せるか。
あるいは。
聞き出した上で、アンリエッタの記憶を操作してしまうか。
それに、ソフィーの存在もあった。
彼女が黙って見過ごすとも思えない。
私の部下が来ることは伝えていたが、それがアンリエッタであることは伝えていない。
ソフィーに邪魔されないうちに、アンリエッタから方法を聞き出さねばならない。
この首輪さえ外せてしまえば、あとはどうとでもできる。
夜、執務室にて。
得意げな顔をして、私を見つめるソフィー。
唇を噛みながら、私は吸収の魔石を差し出す。
私の魔力を吸った魔石が、淡い光を放っている。
それを確かめるように宙にかざし、満足そうに眺めるソフィー。
「それじゃ、ご褒美をあげますね、マーティナ様」
ソフィーの声。
ソフィーの表情。
この声を聞くたび、表情を見るたび、体の奥が疼いてしまう。
ソフィーに、逆らえなくなっていく。
「ほら、いつもみたいに、ご主人様におねだりしてください?」
「あ、ああ、分かった」
上級士官服を脱ぎ、全裸になる。
そのまま、部下の足元で両膝をつく。
両手をつき、ソフィーに向けて、深々と頭を下げる。
「ソフィー様…どうか、マーティナを、可愛がってください…」
ご褒美と称した、ソフィーからの調教。
無理やり言わされていたこの言葉も、今では口にするたび、胸が高鳴ってしまう。
「ふふ。いいですよ。たっぷりと可愛がってあげます」
そう言って、私の前でしゃがみ込むソフィー。
頭を撫でられる。
「あっ…」
頭がぼうっとしてくる。
「マーティナ様は、こうされるのがお好きですよね。可愛いですよ」
「うう…」
「それに、この首輪も、すっかり馴染んできましたね」
騙し討ちのような形で、取り付けられた首輪。
この首輪の効果だろうか、ソフィーに対する怒りや反抗心が、逸らされてしまってる気がする。
それだけではない。
こうして頭を撫でられたり、優しい言葉を投げかけられると、心が靡いてしまうのだ。
そして、身も心も平伏してしまいたくなる。
恐ろしいアイテムだった。
早く、何とかしなければいけない。
「上質な魔力を提供してくださる、私の可愛いワンちゃんに、明日とっておきのご褒美を用意しているんです」
そういって、また私の頭を撫でる。
「とっても屈辱的なご褒美ですよ。嬉しいでしょう?」
耳元で、ソフィーが囁く。
「う、嬉しい、です…」
この状況を抜け出さなければ、と思う。
しかしその反抗心を、首輪が削いでしまう。
代わりに、ソフィーの言葉が私の心に優しく染み込んでいき…
気づくと、がんじがらめにされてしまっている。
「でも、どんなご褒美かは内緒。明日のお楽しみです」
屈辱的なご褒美。
頭では拒絶しても、体が自然と反応してしまう。
「ふふ。期待なさっているのですね。ほら、マーティナ様のここ、こんなになってますよ…」
ソフィーの手のひらが、私の太ももを優しくさする。
「あうっ、ふぅ、ん…」
手のひらが、ゆっくりと中心部に近づいていく。
挑発的なソフィーの視線。
私の最も敏感な場所を、ソフィーが捉える。
「くぅっ、あんっ…や、やめて、くださ、いっ…」
ソフィーが手を止め、私に見せつけるようにする。
「ほら、見て?私の手、マーティナ様のエッチなお汁でこんなに濡れちゃったのよ?」
「そんな、こと…」
「ふふ。マーティナはエッチなワンちゃんだね。今日もたくさん可愛がってあげるからね」
「あ、ありがとうございます…」
このままでは、本当に逆らえなくなってしまう。
でも…
あと数日で、アリエッタが来るはず。
それまでは、耐えなければ。
「ほら、お尻をこちらに向けなさい、マーティナ」
「は、はい、分かりました…」
頭を低くし、お尻を突き出す格好になる。
映像の魔石で観た、ハンナへの責め。
今は、私がソフィーから同じように責められている。
私から尊厳を奪い、代わりにマゾとしての屈辱を徹底的に叩き込むソフィー。
痛いのに、恥ずかしいのに、悔しいのに…
体が、ソフィーにそうされるのを望んでしまう。
早く、叩いて欲しい…
「お尻を叩いて欲しいんでしょう、マーティナ?そういう時はどうするのか、忘れたのかな?」
私は、お尻を上下、左右に揺すり始めた。
ソフィーが満足するまで、私はこの卑猥で滑稽なダンスをしなければならない。
「マーティナのお尻ダンス、今日も映像の魔石に保存してあげるからね。稀代の魔術師とも言われた天才様の、情けなくて惨めなマゾダンス、永遠に保存しておいてあげる。プライドも魔力も失っていく様を、部下の女に媚びて屈服していく様を、後世に残してあげる。可哀想にね。稀代の魔術師として名を残すはずが、代わりに変態マゾとして名を残すことになるかもしれないなんて」
ソフィーの言葉が、私を追い込んでいく。
「ほら、マーティナの同僚が、部下が、この映像を見て驚いてるよ?だって、あのマーティナがこんなことするなんて、夢にも思わないものね。でも、後世の人たちはマーティナのこと知らないかもしれないね。後世の皆さん、今私の目の前でお尻をフリフリしているこの人は、魔術機関の大佐であり、私の上官でもあるマーティナという方ですよ。30年に一人の逸材と言われながら、変態マゾであるがために、その才能を無駄にしてしまう、可哀想な女性です。覚えてくださいね?」
「う、うう…」
こんな、こんな屈辱…
それでも、私はソフィーが満足するまでの間、こうしてお尻を振り続けるしかないのだ。
翌日。
夕暮れ時、私たちは再び執務室に居た。
ソファーに腰掛けるソフィー。
私は、ソフィーの足元に跪いている。
屈辱的な首輪意外、なにも身につけないまま…
「マーティナ様は、認識操作の魔術についても長けていらっしゃいますよね」
認識操作。
対象者の五感に、変化を起こさせるもの。
敵の目を欺くためのもので、隠密部隊などがよく使用している。
嗅覚や聴覚、触覚、味覚、視覚。
働きかける対象によって、難易度は大きく変わる。
複数の感覚を同時に操作することもできるが、難易度は跳ね上がる。
高い集中力と、高い魔力、何よりセンスが求められる魔術だった。
「これから、とあるお客様がいらっしゃいます。マーティナ様にはそのお姿のまま、その方を迎えていただきます」
「なっ、何?」
「問題ありません。その方に、認識操作をなさればよろしいのです。ここにいるのはマーティナ様ではなく、私に飼われている一匹の犬。名前は…そうですね、メルとでもしておきましょうか」
「そ、そんな…」
「マーティナ様ほどの方なら、決して難しいことではないでしょう?」
「それは…」
「どのみち、そのお姿のまま、ここにいていただきます。認識操作をしながら犬として振舞われるか、それとも認識操作はせずに、哀れなマゾ女としてのありのままの姿を見られてしまうか」
「くっ…」
本来の私なら、躊躇わずに反抗するだろう。
しかし、この首輪によって反抗心を押さえつけられている。
認識操作自体は、普段の私なら造作もないことだった。
相手にもよるが、かつては同時に5人の視覚と聴覚を操作したこともある。
ただ、今の私は吸収された魔力が回復できておらず、本来の力が発揮できない。
そして、こんな格好のまま、高い集中力を維持しなければいけない。
それに…
マゾヒストとしての性が、更なる恥辱、屈辱を求めていた。
「ふふ。分かりますよ。見られたくないという気持ちと、見られたいという気持ち、どちらもあるのですよね?」
「う、うう…」
来客を告げるベルの音。
「あ、来たようです」
立ち上がり、出迎えようとするソフィー。
こちらを振り返り、一言。
「忘れられなくなるくらい、恥ずかしいことさせてあげる。だから、いい子にするのよ、私の可愛いメルちゃん?」
来客者の声を聞いて、衝撃が走った。
アリエッタ。
アリエッタが、なぜ?
予定よりも、何日か早い。
アリエッタが部屋に入ってくる気配を感じて、私は慌てて意識を集中する。
魔術の詠唱。
アリエッタの意識を捕まえる。
そして…
ドアの開く音。
ソフィーに案内される形で、アリエッタが部屋に入ってきた。
「お疲れでしょう、アリエッタ先輩?どうぞくつろいでください」
「ありがとう、ソフィー。そうさせてもらうわ」
ソファーに腰掛けるアリエッタ。
「あら?」
アリエッタと目が合う。
心臓の音がうるさく感じるほど、脈が早くなっている。
全裸で、首輪を付けた変態女。
部下たちの間で畏怖すらされている私が、こんな情けない格好でいる。
「ねえ、ソフィー」
「はい、何でしょう?」
「この子、どうしたの?」
そう言って、アリエッタが私に近寄ってくる。
逃げることもできず、私は体を硬直させる。
私の前でしゃがみ込むアリエッタ。
そして、私の首元を優しく撫でる。
「可愛いでしょう?メルっていうんです。野良犬だったんですけど、可愛がってあげたら、懐かれてしまって…」
「ふぅん、そんなんだ」
言いながら、私の首やお腹を撫で続けるアリエッタ。
「あれ、この首輪…」
ドキっとする。
アリエッタなら、この首輪が何であるか知っているはずだ。
「先輩から頂いた首輪、使わせていただいてます」
「あー、やっぱり。見たことがあると思ったのよね」
この首輪は、アリエッタがソフィーに渡したものだったのか。
「先輩が猛獣を調教している時に使っているのを見て、カッコいいなって思って。ビーストテイマーとしての資質は私にはありませんでしたが、この首輪と私の魔石を組み合わせることで、私なりにできることがあるんじゃないかって、思って…」
「私は、ソフィーにもビーストテイマーの資質があると思ってるんだけどね。でも、魔石と組み合わせてみたりとか、色々工夫してるの、すごいと思うよ」
「ありがとうございます。でも、結局こんな使い方をしてしまって…せっかくいただいたのに、すみません」
「いいのよ、別に。それに、この子にも似合っているし。それにしてもこの子、野良だった割に毛並みがいいのね。それに、すごく賢そう…でも、よくマーティナ様が許してくださったわね」
「ええ。でもマーティナ様も犬がお好きみたいで…今では私より気に入っているくらいなんです」
「へえ、意外」
「ふふ。ですよね」
そう言って、意味ありげに笑うソフィー。
「でも、この任務が終わったらどうするの?寮生活のあなたには飼えないだろうし。マーティナ様が飼うとしても、この任務が終われば今まで以上にお忙しくなるだろうし」
「そうなんですよね。寮を出て、一人暮らししようかなぁ。あ、アリエッタ先輩も動物はお好きですよね。この子、飼ってみませんか?」
びっくりして、ソフィーを見る。
「簡単に言わないでよぉ。うーん、飼いたいけど、ね…」
ドキドキしながら、アリエッタを見る。
ビーストテイマーとして、猛獣を手懐けている姿はよくみたことがあった。
調教している時の厳しい声、表情。
調教が終わった後の、優しそうな声、表情。
アリエッタにペットとして飼われているところを想像してしまう。
きっと、可愛がってくれるだろう。
そんなことを考え、ふと我にかえる。
何を考えているのだ、私は。
「なんて、冗談ですよ。それに、この子のことは、もう決めてあるんです」
「なんだぁ。だったら最初からそう言いなさいよ」
「ふふ、ごめんなさい、先輩」
悪びれた様子もなく、ソフィーが言う。
「あ、何かお飲み物、お持ちしますね」
「ああ、ありがとう」
ソフィーが退室する。
「ふぅ…」
アリエッタがため息をつく。
「マーティナ様、お出かけ中だったなんて。早く戻ってこないかなぁ…」
まさか、こんな形で再会することになるとは。
完全に不意をつかれた。
ソフィーはアリエッタが来ることを知っていたのか。
しかし、なぜ…
アリエッタが、私を見る。
「メル、お前はいいね。マーティナ様に可愛がってもらってるんだって?私もマーティナ様に労いのお言葉、かけてもらいたいなぁ…そしたら、疲れなんて吹っ飛んじゃうのに」
切なそうなアリエッタ。
「なんて、ね。マーティナ様の方がもっとお忙しいんだから、そんなこと言ってられないよね。マーティナ様の大事な時なんだから、私たちも頑張らないと」
アリエッタ…
「マーティナ様、早くお会いしたいな…」
アリエッタは、優秀な部下だ。
ビーストテイマーとしてだけでなく、魔術の才もある。
また、私の意をよく汲み取ってくれた。
そんなアリエッタに、全幅の信頼を置いていたのだ。
しかし、私の前で弱音を吐いたところは、みたことがない。
上官として、尊敬の念を抱かれているのは感じていた。
しかし、アリエッタはそれ以上の感情を私に向けていたのかもしれない。
それなのに…
今の私の姿は、とても彼女に見せられるような状態ではなかった。
「私の代わりに、マーティナ様の力になってあげてね」
頭を優しく撫でられる。
「お待たせしました」
ソフィーが入ってくる。
お盆に乗せたコップを、テーブルの上に2つ置く。
「ありがとう、ソフィー」
アリエッタが立ち上がり、ソファーに腰を下ろす。
代わりに、ソフィーが私に近づいてくる。
手に持っていた何かを、私の前に置いた。
お皿。
「ほら、メルも喉が渇いたでしょう?お前の大好きなミルクだよ」
そう言って、悪戯っぽく微笑むソフィー。
これを、飲めというのか。
ソフィーを睨む。
「ほら、飲まないと、アリエッタ先輩に怪しまれちゃいますよ?」
小声で、ささやくソフィー。
ふふ、と笑い、ソフィーもソファーに腰掛けた。
ソファーに腰掛けた二人の部下が、私を見ている。
全裸で、首輪のみ付けた女。
その前に置かれた、ミルクの入ったお皿。
頭がカッとなった。
しかし、ソフィーの言うように、飲まないとアリエッタに怪しまれてしまう。
ゆっくりと、お皿に顔を近づける。
舌を伸ばし、ミルクを舐めた。
これではまるで、本当に犬のようではないか。
正体に気付いていないとはいえ、私を慕う部下の前で、こんな屈辱的なことをさせられているのだ。
「ふふ、おいしそうに飲んでる。可愛い」
アリエッタの声。
心が乱れそうになるが、気を緩めるわけにはいかない。
アリエッタが、足元にいる私の頭を撫でる。
支援物資の運搬を終えたアリエッタは、すっかりくつろいでいた。
「手伝ってくれてありがとう、ソフィー。おかげで荷物は全部運び込めたわ」
「いえ、そんな…これで、先輩の任務は完了ですか?」
「あとはマーティナ様が戻られたら、いくつか相談させていただいて、終わり」
「そうですか。でももうこんな時刻ですし、今夜は泊まっていかれるんでしょう?」
「そうさせてもらえると、助かる。あの子たちも、休ませてあげたいし」
荷物の運搬と、アリエッタの護衛という任務を受けた魔獣たち。
ご主人様に従順な屈強の戦士たちは、今厩舎で休んでいる。
「それにしても、本当に賢そうな犬ね」
私の撫でながら、アリエッタが言った。
「賢そうだけじゃなくて、本当に賢いんですよ。見ててくださいね」
そう言って、私に右手を差し出すソフィー。
「メル、お手」
こ、この…
睨み付けるが、ソフィーは意に介さない。
仕方なく、差し出された手に、右手を乗せる。
「おかわり」
右手を引き、左手を乗せる。
「本当だ。賢いね」
「そうなんです。ほら、ちんちん」
くそっ…
立ち上がり、少し膝を曲げたまま、両手を軽く曲げて、前に出す。
「メル、お前は賢いね」
アリエッタに、頭を撫でられる。
「なんだか、人の言葉が分かるみたい」
ドキッとした。
「ふふ。ホントに分かってたりして」
ソフィーが、意味ありげに笑う。
「私の言うことも、聞くかな?」
「やってみますか?」
「うん」
アリエッタが、私に向き直る。
アリエッタの眼差し。
「メル、伏せ」
手のひらを下に向けたまま、私に差し出す。
一瞬ためらったが、そのまま伏せのポーズをとった。
テーブルの上にあったクッキーを手に取り、私の目の前に差し出す。
「メル、待てだよ、待て」
真剣な表情のアリエッタと、今にも吹き出しそうなソフィー。
数秒ほど、『待て』の時間があり、そして…
「よし、食べな」
私はアリエッタの手に顔を近づけ、クッキーを口に入れた。
上目遣づかいで、アリエッタを見る。
満足そうなアリエッタの顔を見て、くすぐったいような気持ちになる。
「この子、本当に野良だったの?ちょっと、びっくり…」
「私も、驚いてます」
ニヤニヤしながら、こちらを眺めているソフィー。
「ちょっと、お手洗い借りるね」
「どうぞ」
アリエッタが、部屋から出ていく。
「名演技ですね、マーティナ様。アリエッタ先輩も、本当に犬だと信じ切ってます」
「おい、調子に乗りすぎだぞ」
「でも、嫌がっているようには見えませんでしたよ?むしろ、アリエッタ先輩に可愛がられて、とっても嬉しそう」
「そ、そんなわけないだろ!あれは、仕方なく…」
「ふふ、お顔を真っ赤にされて否定なさらなくても…あ、そうだ」
ソフィーが、棚から何かを取り出した。
「今から、マーティナ様にはこれを付けていただきます」
そう言って、手に取ったものを見せてくる。
不思議な形をした魔石だった。
玉が連なったような、デコボコした棒状の魔石。
その先端には、30cmほどの長さの毛束が付いている。
「なんだ、それは…」
「しっぽです。可愛いでしょ?」
「しっぽ、だと?」
「ほら、付けてあげますから、お尻をこちらに向けてください」
「し、しかし…」
「ご主人様に逆らうの?」
ソフィーの、低い声。
耳元で囁かれると、逆らえない…
「くっ…分かった」
うなだれつつ、その実、密かな期待を抱きつつ、お尻をソフィーに向ける。
「いいですか、入れますよ?お尻の力、抜いてくださいね」
耳元で囁くソフィー。
「わ、分かった」
お尻に、ひんやりとしたものが当たった。
そのまま、ゆっくりと私のお尻に侵入してくる。
「ほら、分かりますか?マーティナ様のお尻が、私の魔石をどんどん飲み込んでいっていますよ?」
異物感。
「ほら、もう飲み込んじゃった。ふふ、可愛らしい尻尾が出来ましたよ」
「う、ん…」
アリエッタの足音。
慌てて、意識を集中する。
ドアを開け、アリエッタが戻ってきた。
「あれ?」
「どうしました?」
「この子、こんな尻尾だったっけ?」
訝しむアリエッタ。
冷や汗が出る。
「そうでしたよ。気付きませんでした?」
「え、ええ…まあ、いいか」
ホッとしたのも束の間。
「ひゃっ」
突然、お尻に入れた魔石が振動し始めた。
「えっ?」
びっくりした顔のアリエッタが、あたりを見回す。
慌てて口を閉じる。
「さっき、マーティナ様の声が聞こえなかった?」
「いえ、聞こえませんでしたよ」
「そう?確かに聞こえた気がしたんだけど…」
振動を続ける魔石。
甘い刺激が、腰全体に、緩やかに広がっていく。
ソフィーを見る。
悪戯っぽい笑みを浮かべて、こちらを見ている。
ソフィーが、魔術で振動をさせているのだろう。
止めるよう目で訴えるが、一向に止める気配はない。
「ねえソフィー、この子、なんだか苦しそうじゃない?」
アリエッタが近づいてくる。
「え、ホントですか?」
「うん、ほら」
やめて、来ないで…
「メル、どうしたの?具合が悪いの?」
アリエッタの手が、私の肌に触れる。
「あんっ」
「…え?」
魔石の力なのか。
敏感になった私の体は、アリエッタの手が触れただけで電気が走ったようになった。
「ねえ、やっぱり何か、変じゃない?うまく言えないけど…」
声を押し殺そうとするが、どうしても漏れてしまう。
「なんだろう、わからないんだけど…それに、この子の鳴き声を聞いていると、不思議な気持ちに…」
アリエッタの手が、私の尻尾に触れた。
血の通っていないはずの尻尾。
それなのに、まるで本当に生えているかのように、触られた感覚が伝わってくる。
「あっ、だめっ…だめぇっ…」
執拗に、尻尾を撫で続けるアリエッタ。
逃げようとするが、アリエッタはそれを許さず掴まれてしまった。
「やめて、お願いだから、やめて…」
意識が乱れる。
アリエッタに掛けている、認識操作の魔術。
必死に、魔術に意識を集中しようとする。
しかし、耐えれば耐えるほど、アリエッタからの刺激は強まっていく。
腰が勝手に動き出す。
止めようと思っても、止められない…
脳がチリチリする。
アリエッタを見る。
目が、異様な光を放っている。
ゾクゾクっとする。
これ以上は、もうダメ…
我慢できない…
立ったまま見下ろしていたソフィーが、しゃがみ込んだ。
私の耳元に顔を寄せ、そして…
「部下の前でイキなさい、この変態マゾ犬」
言葉の意味を理解するより早く私の体が痙攣した。
目の前が真っ白になり私は意識を手放した。
どのくらい意識を失っていたのだろうか。
ゆっくりと、目を開ける。
アリエッタ。
信じられないといった顔で、私を見ている。
しまった!
慌てて認識操作の魔術を試みるが、すでに遅かった。
認識操作は、相手の不意をつくことが前提となっている。
気付かれてしまえば、術を掛けることは非常に困難となる。
まして、相手は魔術師なのだ。
「マーティナ、様…?」
「ア、アリエッタ、違うんだ、これは…」
「マーティナ様、誤魔化してももう遅いです。アリエッタ先輩に知られてしまっては、もう…」
元はと言えば、お前のせいだろう。
そう思ったが、言葉にならなかった。
「認識操作の魔術ですね。気づかなかったとは言え、私はマーティナ様になんということを…大変失礼いたしました」
恐縮し切った顔で、頭を下げるアリエッタ。
「しかし、何故このような…それに、そのお姿は…」
慌てて、両手で体を隠す。
「こ、これには、深い理由があってな」
「深い理由、ですか?」
「あ、ああ…」
そうは言っても、なんと説明すればいいのか。
しかし、この忌々しい首輪を外すチャンスでもある。
それには、これまでの経緯も伝えなければならない。
きっと、アリエッタは幻滅するだろう。
どうする、どうする…
「マーティナ様に代わって、私がご説明いたします」
「おい、ソフィー、勝手に…」
言いかけた時、首輪に施された魔石が淡い光を放った。
ソフィーに睨まれ、私はとっさに目を伏せた。
ソフィーが、アリエッタに説明を始める。
魔石に保存された映像のこと。
それを観ながら、私が自慰行為をしていたこと。
それを、ソフィーが目撃してしまったこと。
自らの性癖を告白し、ソフィーのペットとして飼われることを懇願したこと。
「にわかには、信じられないけど…」
「しかし、実際にご覧になっていたではありませんか」
「それは、そうだけど…」
複雑な目で、私を見るアリエッタ。
「まさかマーティナ様に、そのようなご趣味があったなんて…」
「頼む、このことは他言無用に…」
「分かっています。そういった趣向は、人それぞれだと思いますし…それに、マーティナ様が悲しむようなことは、私はしたくありません」
ホッとする。
「本当にいいのですか、アリエッタ先輩?」
「…え?」
「失礼ですが、アリエッタ先輩の想いは存じているつもりです。上官としてだけでなく、一人の女性として、マーティナ様をお慕いしているということも」
「ちょ、ちょっと、ソフィー、マーティナ様の前で何を言っているの、やめ…」
「そのマーティナ様が、こうしてあられもないお姿を晒されているのです。それなのに、このまま何もなさらないのですか?」
「ソフィー、何を言って…」
「今なら、あのマーティナ様を、アリエッタ先輩の好きなようにできるのですよ?」
アリエッタと目が合う。
アリエッタが、喉を鳴らした。
「お聞きになったでしょう、マーティナ様の性癖を。部下にペットとして飼われたい、辱められたいというマーティナ様のお気持ちを」
「マーティナ様の、お気持ち…?」
「ええ。それに、ビーストテイマーとして数々の猛獣を手懐けてきたアリエッタ先輩ですが、今度はあの稀代の魔術師を手懐けてみたいとは、思いませんか?」
「なっ!そ、そんな恐れ多いことを…それに私などでは、マーティナ様ほどのお方を手懐ける、などと…」
アリエッタが、瞬きもせずこちらを見ている。
「ご安心ください。そのための、服従の首輪です。あの首輪がある限り、マーティナ様は先輩に逆らうことはできません。先輩のために、あの天才魔術師に縄をかけておいたんですよ?」
「そ、それは…でも…」
「ほら、先輩が敬愛してやまないあのマーティナ様が、こうしてあられもないメス犬の格好をして、アリエッタ先輩をお迎えなさったのですよ?そんなマーティナ様のお気持ちを、むげになさるおつもりですか?」
「あ、あ、私は…」
焦点の合わない目。
「それとも、私が独り占めしてしまってもいいのですか?」
目を見開いたアリエッタ。
獲物を前にした、空腹の獣。
今にも飛びかかってきそうな気配を漂わせる。
「ア、アリエッタ?やめなさい、ね」
「マ、マーティナ、様…」
「ほら、先輩、あのマーティナ様ですよ?気高く美しい、稀代の魔術師と言われた、マーティナ様です。この任務を終えれば、長官の椅子が待っていて、いずれは機関、いや、国を背負って立つマーティナ様です。ほら、こんな綺麗な顔も、髪も、形のいい胸や、お尻、スベスベなお肌…これら全て、先輩の好きなようにできるのですよ?」
アリエッタの耳元で囁くソフィー。
「嫌なら、いいのです。無理にとは言いません。意気地のない先輩の代わりに、私がマーティナ様を…」
「…だめだ」
「えっ?」
「だめだ!マーティナ様は私のものだ!ソフィーには渡さない!」
アリエッタの手が伸びてくる。
頭を掴まれ、そのまま唇を奪われた。
アリエッタの舌が入ってくる。
頭を掴んだ手と反対側の手で、私の胸を乱暴に掴む。
「い、痛っ、こ、こら、やめっ…」
助けを求めようにも、口を塞がれてしまい声が出せない。
やっと、口が解放されたと思った瞬間。
「マーティナ様、任務に励まれていると思っていたのに、こんな、こんな破廉恥なことをしていたなんて…」
「そ、それは…」
「私が、どんな思いであなたにお仕えしていたか…それが、こんな情けない、恥ずかしい格好をして、ソフィーのような小娘に…恥を知りなさい!」
アリエッタ。
いつもの冷静さは、微塵もない。
早口で、一気にまくし立てる。
「こんな、首輪までつけて、犬みたいな格好をして…服従の首輪をつける人間なんて、聞いたことありませんよ。マーティナ様にはがっかりです。失望しました。マーティナ様がこんな変態だったなんて…」
「ご、ごめんなさい」
「謝って済むことではありませんよ?私だけじゃありません。あなたを慕う部下や、ご友人、上層部の方々…機関だけじゃない、あなたを慕う、国中のみんなを裏切っているのです。マーティナ様がこんな情けない格好で、ソフィーのペットになってるなんて、誰も夢にも思っていませんよ?」
「そ、それは…」
「でも、これからは私がマーティナ様のこと、飼って差し上げます。あなたのようなヘンタイ、ソフィーには任せられません」
そう言って、着ていた服を脱ぎ出すアリエッタ。
下着ごとズボンをずり下げ、そのまま脱ぎ捨てる。
「ほら、見てください、マーティナ様。あなたのせいで、もうこんなになっているんですよ?」
アリエッタの、濡れそぼった秘所。
「ほら、ちゃんと責任を取ってください?」
頭を両手で掴まれ、そのままアリエッタのその場所へ押し付けられる。
オンナの、牝のにおいが鼻腔に広がる。
「どう、ご主人様のアソコの味は。ほら、舐めてください、マーティナ様」
言われるまま、舌を伸ばす。
アリエッタの最も敏感な部分に触れた瞬間、アリエッタが悩ましい声をあげた。
「ほら、マーティナ様、もっと真剣に舌を動かして。そ、そうそう、そうよ…」
腰をくねらせるアリエッタ。
「あなたをこんなふうにできる時が来るなんて…いいわ、私が叶えてあげる。ソフィーに奪われるくらいなら、私が壊してあげる。あなたの才能も、人望も、将来も、何もかも全て、私が台無しにして差し上げます。その代わり、私の犬として飼ってあげます。そこにいる小娘より、もっと情けなくて、屈辱的な人生を送らせてあげる。いいですね、マーティナ様?」
さらに強い力で頭を押さえつけられる。
一際、大きく震えるアリエッタ。
獣のような声を上げながら、アリエッタは体を震わせ続けた。

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