Brave New World 六日目 3/3

松山と目が合う。
「あ、れ?先輩?」
血の気が引いていくのが分かった。
「柏木先輩、ですよね。何で先輩がここにいるんですか?」
「あっ、えっと…」
頭の中が真っ白で言葉が出てこない。
「しかも、裸で」
とっさに隠そうとするが、手は縛られたままだ。
「あれ?これは?」
私に入っている飛びっこを目ざとく見つけ、取り出す。
その瞬間、松山の顔が驚きから軽蔑へと変わった。
「私、知ってますよコレ。どうやって使うのかも」
「そ、そう」
松山が私の秘部に手を伸ばしてきた。
仰け反って避けようとするが、強引に手を入れてくる。
思わず全身に力が入る。
「先輩のココ、だいぶ濡れてますね。そんなに感じてたんですか?」
からかうでもなく、ただ冷たい表情で訊ねられる。
「そ、それは、その…」
「リモコンはきっと茜ちゃんが持ってるんでしょ」
「わ、私は…」
茜も、どうしたらいいのか分からないようだった。
「私が茜ちゃんと話してる間、二人で楽しんでたって訳ですか」
松山には、有無を言わさぬ迫力があった。
私は頷くしかなかった。
「先輩ってヘンタイだったんですね。なんかがっかりしちゃった。もっと立派な人だと思ってたのに」
俯く。
松山の顔を見ることができなかった。
「学校の皆が今の先輩を見たらどう思うかしら」
「お願い、他の皆には黙ってて」
「どうしようかな…」
「お願いします。言わないでください」
額を床につける。
「かっこわる」
松山の言葉が心に突き刺さる。
「今の先輩すっごくかっこ悪いですよ。後輩に敬語使って、土下座までして。仮にも吹奏楽部の部長ですよね。プライドとか無いんですか?」
「お、お願いですから、誰にも言わないで下さい」
「ほんと惨めね。あの柏木先輩とは思いたくないくらい。聞くまでもないですけど、先輩ってアレなんですよね?マゾ。マゾ女」
「そんな、私は…」
マゾという言葉を聞いた瞬間、身体が熱くなった。
自分の意思とは無関係に身体が反応する。
後輩にマゾ呼ばわりされても、悔しさは全く浮かんでこない。
ただ、条件反射のように興奮が沸き起こる。
その事が妙に悲しく思えた。
「実は今も興奮してたりして」
もう一度手を伸ばしてくる。
「うそ、やだ、本当に…どんどん溢れてくる…」
言葉として聞かされ、改めて自分の性を自覚する。
「やっぱりそういう事だったんですね。そうか、マゾだったんだ」
「わ、わ、わた、し、あの…」
「隠してももう遅いですよ。あー、敬語とかもう使わなくていいですよね。先輩マゾだから、むしろその方が嬉しいでしょ?いいよね、センパイ?」
「そ、そんな事、私は…」
「返事は?」
「は、はい」
「従順なのね。茜ちゃんに調教されてたんでしょ。その成果が出てるのかもね。茜ちゃんもそう思うでしょ?」
茜は何も言わない。
「どう、年下にタメ口で話されて。私には分からないけど、やっぱり感じちゃうものなのかしら?」
「そんな訳、ない…」
頭を掴まれた。
強引に顔を引き寄せられる。
松山の顔が間近にあった。
目が合う。
あの目だ。
マゾヒストを隷属させる、あの目をしている。
「感じるんでしょ?」
「は、はい…感じてしまいます…」
もはや私にはプライドの欠片も残っていなかった。
「そう、それは良かったわね。ヒモ、解いてあげるから出ていらっしゃい」
「はい」
クローゼットから這い出る。
茜と視線が合った。
私から顔を逸らし、天井の一点を凝視している。
身体が小刻みに震えていた。
立ち上がろうとする私を、松山が押さえつける。
「センパイ、ここでオナニーしてよ」
「…え?」
「私が見ててあげる。恥ずかしいの好きなんでしょ?」
「そんな、そんなの…」
「それとも、もっと多くの人に見てもらいたいのかな?部活の…」
「や、やります!やらせて下さい」
松山はベッドに腰掛け、足を組んだ。
松山の足元まで這っていき、足を開く。
決して人には見られたくない行為。
それを自分の後輩に見せている。
先ほどまで自分を慕っていた後輩。
その後輩は今、ベッドの上から加虐的な笑みを浮かべてこちらを見下ろしている。
倒錯的な状況に私が陶酔するのに時間はかからなかった。
「センパイ、さっきからクリトリスばかり弄ってるけど、クリ派なの?」
「はい、クリ派です」
「はい、クリ派です」
馬鹿にしたような言い方で真似をされる。
「イジワルしないで…」
いつしかクリトリスを擦りあげることに夢中になり、松山の笑い声も耳に入らなくなった。
数回イッた後、大きなオーガズムがやってきた。
床の上でぐったりしていたが、やがて意識がはっきりしてくる。
その時、携帯のカメラで撮影されていた事を知った。
「ちゃんとセンパイのエッチな顔、撮っておいてあげたよ」
「あ、あ…」
「ほらセンパイ、これで首輪作ってあげる」
先ほどまで手を縛っていたヒモだ。
ヒモの先端が輪っかになっている。
輪っかを首にかけられた。
「これでセンパイは私のペットね。ほら友子、散歩に行くわよ」
四つんばいの姿勢のまま、松山の後に続く。
「ちょ、ちょっと待ってよ!散歩って、その格好のままで?」
茜が止めに入る。
「いいじゃない、友子も楽しいだろうし。ね、友子?」
頭がボーっとする。
顔を上げると、松山と茜の顔が視界に入ってきた。
上気した顔の松山と、今にも泣きそうな茜。
「あ、あかね…」
首輪が思い切り引っ張られる。
顔が松山の方に向けられる。
「友子、あなたの飼い主は私なの。私だけを見てなさい。沢山かわいがってあげるから」
「は、はい…」
すすり泣く茜の横を通り、松山に連れられるまま部屋を出た。
階段を降り、そのまま玄関へ向かう。
誰もいないのを確認した後、そのまま外にでた。
「ほら友子、あそこに電信柱があるね。あそこにマーキングしなさい」
「は、はい…」
電信柱の傍まで歩いていき、その場にしゃがみこんだ。
片足を上げて、そのまま勢いよく放尿する。
飛び散る尿で太ももが濡れていく。
「あははは!いい子、いい子」
松山に頭を撫でられた。
その後部屋に戻った私は、松山に散々弄ばれた挙句、絶対服従を誓わされた。
松山が帰った後、部屋には私と茜の二人だけが残った。
まともに茜の顔が見れない私は、いそいそと服を着た。
心に締め付けられるような痛みを感じる。
決して甘くはない、本当の意味での痛み。
茜は一言も喋ろうとしない。
服を着終わり、飛び出るようにして部屋を出る。
ドアを閉めた途端、不意に視界が霞んできた。
顔を拭う。
階段を降りる途中、茜の部屋から泣き喚く声が聞こえた。

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