lunatic 最終話

都の部屋。
家主不在の部屋で、私は家事をしていた。
掃除、洗濯、ベッドメイキング…
岩村と都は今、デートに出かけている。
私はこの部屋で、二人が戻ってくるまでの間に、家事を済ませなければならない。
二人が今夜使うであろうベッドを整える。
かつては、私と都が体を重ね、愛を語りあった場所。
シーツを、シワのないよう丁寧に敷く。
岩村と都が愛おしそうに体を重ねる姿が脳裏に浮かぶ。
ベッドの上の二人を、私は少し離れた場所で見ているしかできないのだ。
体が熱くなる。
下腹部に意識がいく。
しかし、鉄の下着に覆われたそこは、自分の意思で触れることはできない。
取り替えたシーツを、洗濯機に入れようとする。
シーツに鼻を押し付け、匂いを嗅ぐ。
都の匂いと、岩村の匂い。
頭がクラクラする。
湧き上がる情欲を解消しようとすればするほど、かえってその炎は勢いを増していく。
二人は今、何をしているだろうか。
幸せそうに、愛を語り合っているのか。
恋人同士の情熱的なキスをしているだろうか。
恋人を寝取られたにもかかわらず、こうして二人のためにベッドメイキングしているマゾ女を、嗤っているのだろうか。
悔しさ、みじめさ、嫉妬。
その感情が強ければ強いほど、私の心と体は昂ぶっていく。
何故、と思うが、考えても仕方のないことだった。
二人のセックスを見ていると、どうしようもなく苦しくなる。
自分の大切な人が、自分の憎い人と、幸せそうにしているのだ。
岩村は私から都を奪っただけでなく、都を従者のように扱っている。
しかし都はそうされるのが好きで、ますます岩村に媚びるような表情をするのだ。
そんな様子を、私は見ているしかできない。
辛いのに、見たくないのに。
意識とは裏腹に、私の本能がそれを許さないのだ。
まもなく、二人が帰ってくる。
そうして今夜も二人はこのベッドで愛を語り、体を重ねるのだ。
私は、そんな二人に頭を下げ、必死になってオナニーの許可を求めるのだろう。
玄関のチャイムが鳴る。
玄関で、出迎える。
「あー、楽しかった」
ソファに座り、くつろぐ二人。
私は少し離れた場所で正座している。
全裸に貞操帯、という格好で。
二人は、デート中の出来事を楽しそうに話している。
私は引きつった笑みを浮かべながら、二人の会話を聞いていた。
岩村が、私の方を見て右足を突き出した。
「足、マッサージして」
「えっ、あ、はい」
岩村の足元に跪き、両手で右足を持つ。
ふくらはぎを優しく丁寧にもみほぐす。
足の裏も、強さに気をつけながら指圧していく。
私がマッサージしている間も、二人は会話を続けている。
「次、反対」
「わ、わかりました…」
左足を持つ。
同じように、丁寧にもみほぐす。
ソファに座り、談笑する恋人同士の二人。
私は、全裸に貞操帯という滑稽な姿で、跪きながら後輩の足をマッサージしている。
憎いはずの相手に、こんな格好をさせられて、奉仕までさせられているのだ。
自分の今の境遇を考えると、胸が痛んだ。
しかし、それすらも情欲の燃料になってしまうことを、この主人然としている女は知っているのだ。
自分だけ、服を着ていない。
自分だけ、ソファの下で正座をしている。
それが、立場の違いをより明確に自覚させた。
「ねえ、澪、ちゃんと言いつけどおりできたの?」
「は、はい。掃除も洗濯も、ベッドメイキングも、しておきました」
「都の洗濯物の匂いを嗅いで、エッチな妄想をしてたんじゃないの?」
「そ、そんなこと、してません…」
悔しくて、体が熱くなる。
「ま、興奮しても、オナニーできないしね」
岩村の目。
侮蔑を含んだ視線。
「どう、その貞操帯、外してほしい?」
「外してほしいです…」
「それを外して、オナニーしたいの?」
「お、オナニー、したいです」
「澪の大好きなコリコリ、したくてたまらないのね?」
「は、はい、コリコリしたくてたまりません」
「私と都がセックスしてるところを見て、寝取られマゾオナニー 、したくてたまらないのね」
「はい…ね、寝取られ、マゾオナニー 、したいです…」
言えば言うほど、頭が痺れてくる。
悔しくてたまらない…
「じゃあ、お願い、しないとね。言える?」
「は、はい…」
私は、二人がデートをしている間に考えた言葉を思い出しながら言った。
「私から恋人を寝取ってくださってありがとうございます、すみれ様。私は、お二人のセックスを見て興奮する寝取られマゾです。今夜もどうか、私の元恋人とのセックスを、私に見せてください。よろしくお願いします」
卑屈な表情で、岩村にお願いする。
「ふーん。一日考えた結果が、その言葉なわけね。ま、いいか。及第点あげる。次はもっと頑張ってね。じゃないとオナニーさせてあげないよ」
「あ、ありがとうございます…」
屈辱と喜びがないまぜになる。
「じゃあ、シャワー浴びてこようかな。あんたは先に寝室で正座して待ってなさい。都、どうする、いっしょに入る?」
「やだぁ、もう」
じゃれ合う二人。
私は卑屈な笑みを浮かべたまま、寝室への向かった。
目の前で、二人が情熱的なキスをしている。
幸せそうな、恋人同士のキス。
私は正座をしたまま、黙ってそれを見つめる。
「ほら、あそこにいるマゾ女が、物欲しそうな目で見てるよ」
「もう、すみれ様、私のことだけ見てください」
「ふふ、ごめんごめん」
見せつけるように、長い時間をかけてキスをする二人。
「すみれ様、そろそろ私、我慢できなくなってきました…」
「そう、じゃあ、いいよ」
「ありがとうございます」
嬉しそうな都。
ベッドから降りて、岩村の右足を両手で持つ。
愛おしそうに頬ずりする都。
完全に、岩村に心酔しているらしい。
私と付き合っていた頃の都は、もういない。
岩村に心を奪われ、マゾとして開発されていくかつての恋人を、私はただこうして眺めていることしかできない。
前回の時より、じっくりと丁寧に足を愛撫する都。
恍惚とした表情で奉仕する都を、満足そうに眺める岩村。
「どう、美味しい?」
「美味しいです、すみれ様の…ありがとうございます」
陶酔しきった表情の都。
岩村が止めるまで、いくらでも続けていそうだった。
「足はもういいわ。次は、こっち、お願い」
「はい、すみれ様…」
膝立ちになり、岩村の両足の間に顔を埋める都。
口で、岩村の大事なところを愛撫していく。
「んっ…そうよ、上手になったじゃない…」
「ありがとうございます。すみれ様に気持ちよくなってもらいたくて…」
「可愛い…好きよ、都…」
都の頭を撫でる岩村。
嬉しそうに顔を赤らめる都。
「ありがとう、都。もういいよ。こっちに来なさい」
「はい…」
嬉しさを隠しきれない都。
都が、ベッドの縁に腰掛ける。
それを、後ろから抱きかかえるように座る岩村。
都のふくよかな胸を、両手で包み込む。
「あっ…」
都が、うれしそうな声をあげる。
「都の乳首、こんなにピンってなってる。ほら、分かる?」
「は、恥ずかしいです…」
「私のを舐めながら、興奮しちゃったのね」
「は、はい…」
「乳首、こんなに立たせちゃって。ほら、そこのマゾ女、見なさい。あなたの大切な都は、今こんなに乳首を固く、尖らせてるのよ?」
「や、やめてください、すみれ様、恥ずかしいです…」
私に見せつける岩村と、恥ずかしそうな都。
「私に触れて欲しくて、都は乳首をこんなに固く、尖らせてるの。私に、ピンって指で弾かれたり、摘んでコリコリってされたり…」
「あ、あ、あぁ…」
都がよだれを垂らしながら、恍惚とした表情を浮かべる。
「ほら、見なさい、澪。あなたの前で都がこんな顔したことある?ないでしょ?」
「ない、です…」
「そうでしょうね。ねぇ、都、あの寝取られマゾとセックスしてる時、満足できてたの?」
「満足できませんでしたぁ。でも、可哀想だから、満足してるフリをしてあげてました。でも、本当は…もっと強く、乳首をつねられたり、引っ張られたり、命令されたりしたかったんです。澪は優しいけど、それだけなんですもん…」
「アハハ!だって。聞いてた?あなたじゃ都を満足させられないの。まだマゾとしての喜びを知らなかった頃の都ならともかく、今じゃもう、あなたと居ても退屈なだけでしょうね」
「う、うう…」
乳首をつねられて、恍惚とした表情を浮かべる都。
つられるように、私の乳首も固く、尖っていく。
岩村が緩急をつけて都を責める。
優しく、胸を触る岩村。
不意に、乳首をつねったり、引っ張ったりする。
その度に、都は嬉しそうにうめき声をあげ、私の体が熱くなる。
そして、そのことは岩村も分かっているらしかった。
「可哀想に。あなたたちのどちらかがSだったら、まだ二人とも仲良くいられたかもしれないのにね。ま、おかげで私はこうして都を奪うことができたんだけど」
岩村が、都の乳首を摘まみ上げる。
自分がされているわけではないのに、私の乳首も反応する。
誰かに触って欲しくて、でも誰にも触られず、所在なさげに主張する私の乳首。
「ほら、都、どうしてほしいの?」
「もっと…もっと強く、つねってくださ…あああ!」
言い終わるよりも前に、都は乳首をつまみ上げられた。
これまでのように短い時間ではなく。
見ているこちらが痛くなってしまうくらい、都の乳首は引っ張られていた。
目をギュッと閉じ、苦しみとも喜びともとれる声を上げる都。
そして…
「ほら都、イけ、イきなさい!乳首をつねられながら、ほら、イけ、イけ、イけ!」
「あっ、いく、イきます、いっくぅ…っ!!」
都の体が大きく痙攣する。
こんな都は、私は一度も見たことがなかった。
ひとしきり体を震わせたあと、体の力が抜けた都。
倒れそうになる都を、岩村は抱きかかえ、ベッドに寝かせる。
都の荒い息遣いが聞こえる。
そして…
「都、あなた乳首だけでイっちゃったのね」
「ご、ごめんなさい…」
「いいのよ。気持ちよかった?」
「はい、すごく気持ちよかったです…」
「よかった。あなたの乳首、これからもっと開発してあげる」
「嬉しいです…」
私の知っている都が、岩村によってどんどん上書きされていく。
時が経てば経つほど、都も私も、かつての自分とはかけ離れていく。
そしてそれは、二人の距離が離れていくことでもあるのだ。
方向は違えど、同じマゾの素質を持っていた私たち。
突如現れたサディストは、私たちの秘めた素質を見抜き、育てていった。
都は、岩村の恋人兼従者として。
私は、寝取られマゾとして。
それがわかっていながら、私は岩村に抗うことができない。
むしろ、そうされることが私の願望であるかのように感じる。
「ほら、そこのマゾ!あんたの元恋人が、乳首だけでイっちゃったところ、見てたの?」
「み、見てました…」
「都を満足させられないあんたの代わりに、都をイかせてあげたのよ?何か言うことは?」
「あ、ありがとう、ございます」
「ありがとうって、何が?」
「都を満足させられない私の代わりに、都を満足させてくださって、ありがとうございます」
「それ、本心で言ってるの?」
「はい、本心です」
嘘ではなかった。
もう、私では都を満足させることはできない。
というより、もともと満足させることはできていなかったのだ。
それを、これ以上ないほど見せつけられたような気がして…
そして、それがどうしようもないほど私を欲情させるのだ。
「あっそ」
興味なさそうに、岩村が返事をする。
「ねえ、そろそろ、我慢できなくなってきたんじゃない?オナニー、したいでしょ?」
「したいです…」
「貞操帯、外してほしい?」
「は、外してください、お願いします!」
「どうしよっかなぁ」
「お願いします、お願いします!」
必死に、頭を床に擦り付ける。
そうするのが正しい事としか思えなかった。
「気が変わった。やっぱりそこで見てなさい」
「そ、そんなぁ…」
「なっさけない顔」
岩村が鼻で笑う。
「ほら都、起きなさい」
「は、はい…」
「そこのマゾ、オナニーしたくて仕方ないんだって。面白いから、もっと見せつけてやろうよ」
「ふふ、いいですね」
楽しそうに笑う二人。
絶望感を味わいながら、なおも懇願する。
「ねえ、澪。そんなにコリコリ、したいの?」
「したい、したいです!」
「乳首をつまんだり、引っ張ったり、クリトリスをコリコリってされるの、とっても気持ちいいよ?澪もされたい?」
「さ、されたい!されたいですぅ!」
「そうなんだぁ。でも、できないよね。貞操帯があるから自分ではコリコリできないし、すみれ様のお許しがないと乳首も触れないもんね。可哀想な澪…」
「お願い、都、都様ぁ…」
「ふふっ。可哀想な澪のために、代わりに私がもっとすみれ様に気持ちよくしてもらうから、ちゃんと見ててね」
「そんなぁ…お願いしますぅ…」
私の懇願も虚しく、二人が再び交じり合う。
シックスナインの体勢で、互いに愛撫する二人。
互いに、女性器を擦り合わせる二人。
二人が何度も達するそばで私は何度も許しを求めた。
しかし、私の声は二人に届かない。
鉄の下着から、愛液が溢れ出てくる。
私の太ももは、もうびしょびしょになっている。
顔も、涙と鼻水でぐしょぐしょになっている。
岩村は、都がイきそうになるたび、都の乳首をつねったり、引っ張ったりした。
都はその度に、苦悶の表情を浮かべながら、よだれを垂らして体を震わせる。
都の嬌声が聞こえるたび、体の奥底が熱くなり、愛液が太ももを濡らす。
自分が何を言っているのかも、わからなくなってきた。
「……い、……るの?」
誰かの声。
顔を上げる。
「みお…、…やっと、顔を上げたわね」
「あ…」
すみれ様と、都様が、私を見ている。
「そんなにオナニーがしたいの?」
「はい…したいです…」
「じゃあ、許してあげる」
「ありがとうございます」
何を言われたのか理解できないまま、条件反射で応える。
都様が、近づいてくる。
「貞操帯は外してあげる。条件付きでね」
「はい…」
「これから、お前のオナニーを動画に撮るわ」
「はい…」
「そして、今後は私たち二人に忠誠を誓う事。逆らうことは許さない」
「はい…」
「オナニーも、私が許可するまでは禁止。私がいいと言ったときだけ、オナニーさせてあげる。いいわね?」
「はい…」
「よし。じゃあ、都、外してあげて」
「わかりました」
都様が、貞操帯に手を伸ばす。
都様の香り…
手を伸ばせば都様に触れることができる。
でも、できない。
都様はすみれ様の恋人で、私は触れることを許されていない。
仮に、触れることができたとしても、私では都様を満足させることができないのだ。
貞操帯が外される。
「よかったね、澪。これでやっと、大好きなコリコリができるね。気持ちよくコリコリしてるところ、すみれ様に永久に残してもらおうね」
「はい、ありがとうございます、すみれ様、都様…」
「ほら、撮っててあげるから、好きなだけオナニーしな」
スマホを取り出し、私に向けるすみれ様。
ベッドに腰掛けるすみれ様と、それに寄り添う都様。
お似合いの二人に向かって、私は土下座をする。
「オナニーの許可を与えてくださって、ありがとうございます、すみれ様、都様」
二人の笑い声。
「私、高瀬澪は、私の元恋人である小関都様を寝取ってくださった岩村すみれ様の許可をいただき、お二人の前でオナニーをさせていただきます。寝取られマゾの惨めな忠誠オナニーを、どうかご覧ください」
これから私は、一生この二人に逆らうことはできないのだろう。
スマホで動画も撮られているし、決定的な弱みになるだろう。
でも、わたしは幸せだった。
だって、こうして敬愛するお二人の奴隷として、これからもお仕えすることができるのだ。
貞操帯を付けられたまま、お二人のセックスを見せつけていただき、オナニーのお許しをいただけるよう懇願することができるのだ。
なんとも惨めで、滑稽で、興奮するではないか。
「はいはい、御託はいいから、さっさと始めなさい、マゾ女」
体が熱くなる。
「あ、ありがとうございます、すみれ様」
私は、右手を秘所に伸ばす。
かつて、こんなにも愛液が溢れてきたことはあっただろうか。
左手を胸に伸ばす。
固く尖った乳首が、必死に自己主張している。
右手でクリトリスを、左手で乳首をこねくり回す。
待ちに待った刺激に、身体中が喜びの声を上げる。
目がチカチカする。
頭が痺れていく。
「あはは!やっとコリコリできたね、澪」
都様の声。
私は、声にならない声をあげながら、ただただ刺激を求めた。
「あーあ、見る影もないマゾ女になっちゃって」
「ふふ、ひどいです、すみれ様。澪がこんなになっちゃったの、すみれ様のせいなのに」
二人の笑い声。
「ねえ、すみれ様…澪のオナニー見てたら、私、また…」
「もう、エッチなんだから、都は」
「すみれ様のせいなんですよ?」
拗ねたように言う都様。
スマホはこちらに向けたまま、キスを始める二人。
私はこれから二人の奴隷として生きていくのだろう。
おそらく、それはすみれ様が飽きるまで続くのだ。
それまで私はお二人のために働き、家事をして、お二人のためにベッドメイキングをするのだ。
私が決して触れることのできない都様のために。
その都様を好きなように扱うすみれ様のために。
そのお二人のセックスを間近で見、オナニーを懇願しながら、惨めな寝取られマゾは、自らの性癖を呪いながら、胸を高鳴らせるのだ。

コメント

  1. みどり より:

    SECRET: 0
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    屈辱と支配の強烈なストーリーで最高でした!主人公がかわいそうなんですけど、無理強いされたりとかはないので嫌な感じもなく楽しめました。寝取られる前の前日譚で2人の恋人としての日常なども読んでみたいです。

  2. slowdy より:

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    > みどりさん
    ありがとうございます!
    内容がハード過ぎると、『エッチさ』よりも『かわいそう』が強くなってしまうため、そのあたりの加減に特に気をつけました。
    嫌な感じもなく楽しめたとのことで、安心しました…
    作中で、澪と都の普段の様子をほとんど書けなかったので、そのあたりもいつか書いてみたいですね。