Magic stone 2話

朝。
執務室にて、ソフィーとともに準備をする。
いよいよ、今日から巨大魔石の調査が始まるのだ。
気持ちを静めるために、深呼吸をする。
気が昂っているのは、調査に対する緊張からだけではない。
映像の魔石に記録されていた、ハンナとソフィーの姿。
友の痴態。
全裸で犬のように這いつくばり、尻をふる。
情けなく媚びを売り、秘所から魔石を取り出す。
己の魔力をたっぷりと吸わせた魔石を、部下に…ソフィーに差し出す。
そのソフィーの声を思い出すたび、胸が締め付けられるようになる。
実は、あの時の映像の魔石は、まだ私が持っていた。
ソフィーに返そうと思ったが、タイミングを逃してしまったのだ。
目の前にいる、ソフィーという女性。
どちらかというと、優しそうで、気の弱そうな印象を受ける。
今はまだ、本性を隠しているということなのだろうか。
「マーティナ様、どうされました?」
「…え?」
「あの、私の顔をじっと見ていらしたので、その…」
「あ、ああ、悪い。少し考え事をしていた」
不思議そうに首を傾げるソフィー。
上級士官用の制服に着替える。
高い対魔性と機動性を持っており、見た目だけでなく、実用性も兼ね備えている。
制服は部署や階級によってデザインが若干異なり、ソフィーの着る一般職員用はもう少し簡素なものとなっている。
巨大魔石のある洞窟は、村の北部に位置する山奥にある。
緊張からか、お互い口数が少なくなる。
大戦中に起こったとされる事故。
それがどんなものだったのかは分からない。
今回の調査の中で、それが再び起こらないとは限らないのだ。
しかし、調査が成功すれば、無尽蔵ともいえるほどの魔力を取り出せるようになる。
そうすれば、国の抱えるエネルギー問題を解決できるし、私の昇進も確実なものとなるのだ。
かつて魔石の採掘で賑わったという山。
朽ちかけた看板や、削られた岩肌が、当時の名残を伝えている。
目印を頼りに山道を進む。
進むにつれ、道が細く、険しくなっていく。
「ここです」
ソフィーの声。
立ち止まる。
洞窟らしきものは周囲になく、ただ、人の頭ほどの大きさの石がいくつか散らばっている。
一見すると、何の変哲もない場所だが…
ここに、例の巨大魔石が眠る洞窟がある。
ソフィーが、周囲の石を一つひとつ見て回る。
私は目を閉じ、周囲に張り巡らされた気配を探る。
山全体が放っている魔力。
ソフィーの魔力。
そして、この辺りに漂う、不自然な魔力の流れ…
目を開ける。
「石の確認が終わりました。やはり、想定していた通りです」
「分かった」
周囲に散らばった石。
今度は二人で、一つずつ確認していく。
何の変哲もない石に見えるが、その底面には術式が刻まれている。
決められた術式を決められた順番で配置し、それぞれを魔力で結ぶことで、一つの結界を作ることができる。
石…魔石の材質をソフィーが確認し、底に刻まれた術式を私が確認する。
全ての魔石の確認が終わる。
「さて、始めるか。ソフィー、準備はいいか?」
「はい、大丈夫です」
背中のバッグから、同じくらいの大きさの石を取り出すソフィー。
それを、地面に置く。
この石と魔石の一つをすり替えることで、結界を破壊することなく、一時的に結界を解除することができる。
結界を壊すのは比較的容易だが、それが引き金となってトラップが発動する可能性がある。
それに、中での作業が終わったら再び結界を戻さねばならないのだ。
私は目を閉じ、意識を集中する。
結界用の魔石と、その間を循環する魔力。
その輪の中に、先ほどソフィーが置いた魔石を加える。
慎重に、元々あった結界用の魔石一つを、循環から外していく…
「マーティナ様、成功です。入り口が現れました」
ゆっくりと、目を開ける。
先程まで何もなかった岩肌に、ぽっかりと穴が現れた。
それを、ホッとしたような顔でソフィーが眺めている。
薄暗い洞窟の中を、松明の明かりで照らしながら進む。
照明用の魔石や魔術もあるのだが、何が巨大魔石の事故を引き起こすトリガーになるかわからない以上、使用は控えたかった。
思っていたよりも、内部は広くなってる。
進めば進むほど、魔石の気配が強くなっていく。
しばらく進むと、やがて広い空間へと出た。
「あれが…」
紫色をした、巨大な魔石がそこにあった。
高さは4〜5mはあるだろうか。
地面から突き出るようにしてそびえる魔石。
魔石自体が淡い光を放ち、周囲を照らしている。
不思議な光景だった。
思っていた以上に大きい魔石に、圧倒される。
放っている魔力もそうだが、それ以上に膨大な魔力をその中に湛えているのを感じて…
吸い込まれそうな、押しつぶされてしまいそうな感覚に陥る。
あれが、今回の調査対象。
私たちは、ゆっくりと巨大魔石に近く。
巨大魔石の周囲を囲むようにして、太い鎖が張り巡らされている。
おそらく、この鎖自体が、巨大魔石に対する結界になっているのだろう。
巨大魔石を侵入者から守るためのものか、あるいは巨大魔石から我々を守るためのものか。
戦時中に起こったとされる事故。
何があったのか、未だに詳細は分かっていない。
ことの重大性の割に、残っている情報が不自然なまでに少ないのだ。
おそらくは、当時の軍部が意図的に隠したのだろう。
知られては都合が悪いようなこと。
他国に対してか、あるいは自国民に対してか。
事故の内容については、いくつかの説がある。
魔力が暴走して辺り一面が吹き飛んだという説。
強い魔力を浴びすぎて、魔力中毒になってしまったという説。
巨大魔石が見せる、集団幻覚という説。
この山や洞窟内を見た限り、周囲が吹き飛んだような形跡は見られないが…
巨大魔石を囲う、鎖。
慎重に解析し、結界の種類を確認する。
鎖の材質、刻まれた模様、込められた魔力、巻き方等々。
これから行う巨大魔石の解析に、この結界が障害となる場合は、取り除かなければならない。
ただ、できることならそれは避けたかった。
「ふぅ…」
解析が終わり、一息つく。
「いかがでしたか?」
少し、不安そうなソフィー。
「大丈夫だ、解除する必要はない」
「よかった…」
巨大魔石から少し離れた辺りに、ソフィーが等間隔で魔石や金属片を並べていく。
様々な種類の魔石や金属片を、巨大魔石の魔力にさらす。
数日後これらを回収して、中に残っている魔力を解析する。
巨大魔石の持つ魔力の解析。
そして、それを安全かつ効率的に取り出す仕組みを構築すること。
そのために、どんな材質が適しているのかを、今回の解析で調べるのだ。
ソフィーが、魔石と金属片を並べ終える。
「さて、と。これでひと段落かな」
周囲を確認し、やり残しがないことを確認する。
「じゃあ、一旦戻るとするか」
「はい」
地面に置いたバッグを持ち上げる。
その時、バッグから何かがこぼれ落ちた。
「あれ?マーティナ様、何かが落ちましたよ?」
ソフィーがそれを拾い上げる。
映像の魔石。
「あれ?これは、私の…」
ハンナとソフィーの痴態が保存された、例の魔石。
「なぜこれを、マーティナ様が?」
「あ、いや、これは…」
ソフィーが私を見る。
ソフィーの目。
全てを見透かされているような気がしてくる。
「昨日、ミーティングテーブルの下に落ちていたんだ。後で返そうと思ったんだが、その、返しそびれてしまって…」
「そうですか」
ソフィーが私から目を逸らさずに言った。
「ご覧に、なりました?」
「…え?」
「中の映像です。ご覧になったのでしょう?」
「え、と、それは…」
「正直におっしゃってください、マーティナ様」
ソフィーが近寄ってくる。
思わず、後退りしてしまう。
「マーティナ様、どうされたのですか?」
魔石に保存された、ハンナの情けない姿。
己の上官を跪かせ、責め立てるソフィーの声。
その映像に浸りながら、己の情欲を慰める自分。
「もしかして、マーティナ様…」
「ち、違う…」
「違う?何がですか?まだ何も言っていませんよ?」
ソフィーの口角が、少し上がったような気がした。
心拍数が上がる。
その直後。
洞窟内が明るくなった。
巨大魔石を振り返る。
先ほどまでとは明らかに様子が違う。
淡かった光が、徐々にその強さを増していく。
まずい!
慌てて結界を張ろうとしたが間に合わず、私たちは光に飲み込まれていった。
出張所の執務室。
そこで、私はソフィーが来るのを待っていた。
あることを告げるために…
ドアがノックされる。
心臓の鼓動が早くなる。
しかし、努めて冷静に言う。
「入れ」
「失礼します」
ソフィーが執務室に入ってくる。
何も知らないという顔をしているソフィー。
今から私は、このソフィーに告げるのだ。
「マーティナ様、お呼びでしょうか?」
「ああ。まあ、座れ」
「失礼します」
椅子に腰掛けるソフィー。
少し不安げな表情で、こちらを見ている。
「話というのは、他でもない。君の魔石についてだ」
「魔石、ですか?」
「私が初めてここに来た日。魔石の説明をしてくれたな」
「は、はい」
「あの日の夜、1つの魔石がテーブルの下に落ちていた」
テーブルの上に、その魔石を置く。
「あっ」
ソフィーの顔が青ざめた。
「悪いが、中を確認させてもらった」
「はい…」
ソフィーの、消え入りそうな声。
「この魔石に保存された映像…映っていたのは、ハンナのようにも見えたが」
「は、はい、そうです」
顔を赤らめるソフィー。
「確か、ハンナは君の、上官だったな?」
「そ、そうです…」
「映像の中では、あられもない姿のハンナが映っていた。それに、そんなハンナに対して手をあげる、女性の声も入っていた。君の、声だな?」
冷静さを保とうとしているが、顔が熱くなるのを感じた。
萎縮するソフィーに、優しく声をかける。
「確かにハンナは私の友人だが、そのことを責めているわけではない。ただ、私の知っている彼女とは、ずいぶん印象が違ったのでな」
「信じていただけるかどうか分かりませんが、あれはハンナ様が望まれたことなのです」
「しかしな…」
「私が新人として配属された時、よく面倒を見てくださったのが、ハンナ様でした。最初は先輩と後輩として、仲良くしてくださって…いつしか、姉と妹のような関係になっていました。ただ…」
「ただ?」
「ある日、ハンナ様に打ち明けられたのです。ハンナ様が抱えている悩みを。私にどのような感情を抱かれているのかを。私にどんなことをしたいのか、どんなことをされたがっているのかを」
「あの、ハンナがな…」
「一つ、私からも質問してよろしいでしょうか?」
「ああ、構わん」
「なぜ、そのようなことをお聞きになるのですか?」
ドキッとした。
ソフィーの目。
ハンナほどと違い、萎縮している様子はない。
「責めている訳ではない、とおっしゃいました。確かに、マーティナ様とハンナ様はご友人であられますが…」
「それは、だな…」
「私をお呼びになったのは、そのことではありませんか?」
ソフィーの、強い目。
思わず、私は目を逸らした。
「あ、ああ、そうだ、な…」
言わなければ。
ソフィーの目。
既に、怯えの色はない。
むしろ、まるで獲物を見つけた捕食者のような…
もしかしたら、既に気づかれているかもしれない。
「マーティナ様、はっきり仰ってください」
どこか、責めるような口調。
普段なら、そんな物言いは許さないが…
秘めた願望を打ち明けることに対する、不安、羞恥心。
そして、これから訪れるかもしれない屈辱に、手が震えた。
「単刀直入に言おう。ハンナと同じように、その、私を、責めてほしい…」
まともにソフィーの顔を見ることができず、目を伏せたまま、言った。
顔が燃えるように熱い。
無言。
何とか、言ってくれ。
視線を上げ、ソフィーの顔を見る。
『やはり』という表情をしていた。
「そうでしたか。しかし、上官であるマーティナ様にあのようなことをするだなんて、私にはとてもできません。確かに、ハンナ様にはあのようなことをしましたが…マーティナ様は、上官と言っても上級上官であられます。そしてこの任務が終われば、さらに責任のあるお立場に就かれ、いずれは機関を、いや、国の未来を背負われるお方。そのようなお方に失礼をしたとあっては、私も無事ではいられません」
「大丈夫だ。これは私が望んでいることだ。機関には報告しないし、君にも迷惑がかからないようにする」
「それでは…大変恐縮ですが、一つだけ、許可をいただきたいことがございます。映像の魔石へ、記録させていただけますでしょうか?決して、マーティナ様を信じていない訳ではないのです。ただ私も自分の身は自分で守らなければなりませんので…」
「わ、わかった」
それが、自分にとってどれほどリスクの高いことなのか。
分かっているつもりだが、それでも被虐願望は抑えることができなかった。
「かしこまりました。それでは、失礼いたします」
魔石を手に取り、ボソボソと術式を唱えるソフィー。
一瞬、魔石が光を放ち、手のひらから漏れた。
「それでは、始めましょうか、マーティナ様?」
「あ、ああ、よろしく頼む」
少し上ずった声で答える。
「まず、改めて確認させていただきますが、これから行われることは、マーティナ様ご自身が望まれていること、ということでよろしいでしょうか?」
「そうだ」
映像に残ってしまう。
わずかに残った理性が、その危険性を感じた。
しかし…
「それではまず、着ているもの全てを脱いでください」
「全て…あ、ああ、分かった」
上級士官用の服。
脱いで、テーブルの上に置く。
続いて、下着に手をかける。
ソフィーの視線。
屈辱と恥ずかしさで、頭がクラクラする。
しかし、体の火照りが、劣情が、止まることを許さなかった。
意を決して、下着を脱ぐ。
一矢まとわぬ姿の私を、ソフィーが満足そうに眺める。
「それでは、そのままこちらへ来てください」
立ち上がり、言われるままソフィーの側まで歩く。
入れ替わるように、机の方へと歩いていくソフィー。
「マーティナ様の脱がれたこの服、着させていただきますね」
「あ、おい、ちょっと…」
私の制止も意に介さず、自身の一般職員用の服を脱ぐソフィー。
そして、私が脱いだ士官用の服を着た。
「一度着てみたかったんです、上級士官の服」
上級士官用の服を着たソフィー。
一方私は、全裸のまま、立たされている。
そのまま、私の席へと座るソフィー。
ニコニコしながら、私を眺めている。
「それではマーティナ様、始めましょうか」
「あ、ああ…」
「まずは、所属とお名前、階級を仰ってください」
これが映像に残るのか。
今更ながら、少し後悔する。
上層部には決して知られてはいけない。
必ず回収しなければ。
危機感とともに、ゾクゾクっとした快感が体を走る。
上級魔術の一つ、記憶操作。
倫理上、この魔術を使うには上層部に許可を受けなければならない。
しかし、ここにいるのは私とソフィーの二人だけ。
ソフィーの記憶操作をした後、あの魔石を回収してしまえば、上層部に知られてしまうこともない。
「研究開発部、技術調査課長のマーティナだ。階級は、大佐」
私の裸が、私の情報が、魔石に記録されていく。
「マーティナ様といえば、この任務が終われば長官となられるお方。そんな方がなぜ全裸で、部下である私の前に立っているのですか?」
「そ、それは、その…」
回収するとはいえ、魔石に己の性癖が刻まれるのだ。
恥ずかしさと情けなさとで、クラクラする。
「ほら、マーティナ様、私が聞いているんですよ?答えてくださらないと」
上級士官服を着たソフィー。
私の服なのに…
私の席なのに…
今の私は、ただのみじめなマゾ女にすぎない。
「わ、私は、部下であるソフィーに頼み…それで、このような格好を、している」
舌が上あごにくっついてしまい、うまく喋れない。
「マーティナ様らしくありませんね。あいまいな内容で、ちっとも伝わってきませんよ?もう一度、きちんと説明してください、マーティナ様」
ソフィーの慇懃な言葉づかい。
それが、私の被虐心を刺激する。
「わ、私は、その…ソフィーの魔石に記録されていた映像を観て…ソフィーの上官であるハンナが、ソフィーに調教されているのを観て…私も、ソフィーに調教されたいと、思ったのだ」
「映像の中で、ハンナ様はどのようなことをされていましたか?」
「服を着ずに、全裸で正座させられていた。そして、体の中に入れていた魔石を…自分の魔力を吸収させた魔石を、それをソフィーに差し出していた」
何も言わず、こちらを見つめるソフィー。
「その見返りとして、ハンナは、四つんばいになって、その、お尻を…」
「お尻を、何です?」
お尻を突き出して、ソフィーに、叩かせていた」
「ハンナ様は私に魔力を貢いでいて、それだけでなく、私にお尻を叩かれていたのですね?」
「ああ、そうだ」
「それで、部下に魔力を貢ぎながら、お尻を叩かれていたハンナ様は、どのような表情をなさっていたのですか?」
「私の知るハンナとは違って、とても情けない表情をしていた。卑屈な顔でソフィーを見上げ、ソフィーに向かってお尻を突き出す姿は、滑稽を通り越して哀れですらあった」
「ふふ。ずいぶんとひどいことをおっしゃいますね。でも、マーティナ様?マーティナ様も、ハンナ様と同じように、私に調教をされたいと仰っていましたね?」
「あ、ああ」
「よろしいのですか?ハンナ様もそうですが、マーティナ様もお立場のあるお方。それが、私のような者に調教されたいなどと」
「か、構わない。ただ、このことは他言無用で頼む」
「頼むなどと…お命じくださればよいのです。『私がマゾヒストであることを、ハンナと同じようにソフィーにお尻を叩かれたがっていることを、絞りカスになるまで魔力を貢いで調教されたがっていることを、決して他者へ漏らすな』と」
「なっ!」
「違いますか、マーティナ様?」
「お、おい、流石にそれは言葉が過ぎ…」
「いいのですか?嫌なら、やめてしまってもいいのですよ?その代わり、マーティナ様への調教は今後一切いたしません。私に調教されている様を想像しながら、ご自分でその情けない欲求をお慰めください」
「わ、悪かった。私が間違っていた」
「ふふ。素直なお方。それでは、お認めになるのですね?ご自分が貢ぎマゾになりたいヘンタイさんであるということを。搾りカスになるまで、その貴重な魔力を私に貢ぎ続けたいのだということを」
「み、認める、認めるから…」
「ああ、いいですね、その表情。私などではとても足元に及ばないマーティナ様が、こうして私にすがるような目で…」
心底楽しそうなソフィー。
「かしこまりました。マーティナ様のお望みどおり、私がマーティナ様を調教して差し上げます。ですので、ここで誓っていただけますか?」
「ち、誓うって、何を?」
「今後、マーティナ様にはこの魔石を体に入れて過ごしていただきます。場所は…お分かりですね?」
「わ、分かっている」
「その魔石はマーティナ様の魔力を吸収していきます。ご存知とは思いますが、魔術を使うなどして消費した魔力は自然に回復していきます。魔力を吸収された場合もそれは同じです。ただ、魔力が回復し切らないまま、魔力を吸収され続けると…吸収された分の魔力が、元に戻らなくなってしまいます」
思わず、唾を飲み込む。
「マーティナ様のように、膨大な魔力をお持ちの方であれば、魔力が底を尽きるなどということはないとは思いますが…」
「気をつける」
「魔石は、定期的に回収させていただきます。魔力を蓄えた魔石を1つ回収させていただくたびに、マーティナ様のお望みになさっていることをさせていただきます」
「わ、分かった」
「それでは…」
ソフィーが立ち上がる。
そのまま、私の目の前まで歩いてくる。
息がかかりそうなほどの距離で、見つめ合う。
ソフィーの不敵な目。
思わず、目を逸らす。
「マーティナ様、ここで跪きなさい」
背中に電気が走った。
「膝をついて、額を床につけるの」
「そ、それは…」
「これは命令よ」
「わ、分かった…」
ゆっくりと、両膝をつく。
見上げると、上級士官服を着たソフィーが、私を見下ろしている。
心拍数が上がる。
脳に、何か熱いものがじんわりと広がっていく。
取り返しのつかないことをしているのではないか。
湧き上がってくる不安を抑え込む。
やはりこのことは、他の者に知られてしまうわけにはいけない。
記憶操作の魔術。
使うしかない。
魔石も、回収する。
だから、大丈夫…
心臓の音。
床に視線を落とす。
ゆっくりと、額を床に近づけていく。
ひんやりとした感触が、額に伝わる。
不意に、後頭部に重みが加わった。
額が床に押しつけられる。
頭を動かそうとしたが、押さえつけられてしまい、動かせない。
何をされているか気づいた瞬間、体の奥が熱く燃え上がった。
頭を、踏まれているのだ。
この私の頭を、あんな小娘に…
頭へ一気に血が昇ってくる。
下腹部に、ドロドロのマグマのような劣情が渦巻く。
30年に一人の逸材と言われ、この任務を終えれば長官としての座が約束されているこの私が…
全裸で這いつくばりながら、あろうことか部下に頭を踏まれているのだ。
あんな、小娘に…
屈辱、怒り、憎しみ。
みじめさ、情けなさ、悲しさ。
興奮、快感。
様々な感情が、一気に押し寄せる。
脳がオーバーヒートしそうになる。
「ほら、誓いなさい、マーティナ。ご主人様である私に、マーティナの魔力を捧げ続けると。私に屈辱的な調教を受けるために魔力を貢ぐ、哀れな貢ぎマゾになると。ほら!誓いなさい!」
頭にかかる重さが、さらに強くなる。
「ち、誓います!私、マーティナは、ご主人様であるソフィーに魔力を捧げ続ける貢ぎマゾになります!ならせてください!」
「お前の才能は、ご主人様に貢ぐために持って生まれてきたの。魔力だけでなく、お前の才能も、地位も、名誉も、何もかも私が吸い尽くしてあげる。だから、感謝しなさい!感謝しながら、私に頭を踏まれてイけ!このヘンタイマゾ!」
「あ、ありがとうございます!私の魔力も、才能も、地位も、全てソフィー様の者です!どうか、私から全てを奪ってください、ソフィー様!」
「ほら、さっさとイけ、ヘンタイ!」
「あぁ、あ、ありがとうございます!い、イきます、イク、イクイク、イッちゃう、イクぅっ!!」
かつて経験したことのない、大きな波が私を襲う。
土下座をしたまま、頭を踏まれたまま、私は体を何度も何度も、大きく痙攣させた。
目を開けると、巨大魔石の洞窟内だった。
あれ?私は何を…
私もソフィーも、地面に倒れ込んでいた。
ソフィーの手元には、映像の魔石が握られていた。
思い出した。
確か、私のバッグから映像の魔石がこぼれ落ちて…
それを、ソフィーが拾い上げて、それで…
何があったのだろう。
だめだ、思い出せない。
ソフィーの手にある、映像の魔石。
反射的に、それを拾い上げる。
何故かは分からないが、これを私が持っていたことをソフィーに知られてはいけない気がする。
「おい、ソフィー、起きろ」
ソフィーが目を覚ます。
「ん…あれ?ここは…」
「巨大魔石の洞窟内だ。我々は気を失っていたんだ」
ぼんやりとした目で、ソフィーが見てくる。
「とにかく、当初の目的は達成した。一旦戻るぞ」
「わ、分かりました…」
来た道を戻る。
私たちが気を失う前に、何かがあったはずだ。
しかし、思い出せない。
二人とも気を失うくらいだから、よほどのことがあったはずなのだが…
それだけではない。
気を失っている間、夢を見ていた気がする。
ただ、やはり内容は思い出せない。
巨大魔石にまつわる噂。
戦時中の事故。
頭をよぎる。
しかし、こうして二人とも生きているのだ。
深く考えるのは、出張所に戻ってからにしよう。
ソフィーも何か思うところがあるのか、口数は少なかった。

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