職場に行きたくない。
行けば、必然的に雪乃と顔を合わせることになる。
どんな顔をすればいいのか。
非常に気まずい…
金曜日の出来事を思い出すたび、頭を抱えたくなった。
ただ、職場へ行かないわけにもいかない。
いつもの通勤。
しかし、足取りが重かった。
職場に着く。
雪乃の姿。
目が合う。
思わず、目を伏せてしまう。
かけ寄ってくる雪乃。
「夏希先輩、おはようございます」
「おはよう」
身構えてしまう。
「先日はありがとうございました」
「え、ええ…」
そのまま去っていく雪乃。
今までと変わらない、いつもの雪乃だった。
何を言われるだろうと思っていたが…
職場で、それも人のいる中で何かをしてくることはないか。
安心はできないが、ひとまずはホッとした。
金曜日のあの出来事から、雪乃に翻弄されている気がする。
しっかりしろ、夏希。
自分に言い聞かせ、仕事の準備にとりかかる。
その後も、雪乃は普段通りだった。
仕事には真面目に取り組み、私をはじめ、職場の先輩や上司の指示には素直に従った。
このまま何もしてこないとは思えないが、職場で何かをしてくることはなさそうだ。
そんな風に思い始めた矢先。
地下の書庫で、書類の整理をしている時だった。
「夏希先輩」
「ん?なに?」
「覚えてます?この前のこと」
きた。
「この前のことって?」
「もう、分かってるくせに。暑気払いの後、二人きりで過ごしたじゃないですか。覚えてないはずないですよね」
「ああ…あれね」
「なんでもしますから、いかせてくださいって、私に言いましたよね」
「言ったっけ、そんなこと」
「ふぅん…」
ポケットからスマホを取り出す雪乃。
画面を操作している。
何のつもり?
『お願い、お願いだから、いかせて!いかせてください』
私の声。
恥ずかしさで顔が熱くなる。
『します!ホントにしますから、いかせて…』
雪乃を見る。
勝ち誇った顔。
あの時の雪乃の顔だ。
『い、いく、いきます、いくぅ…』
「貸しなさい」
「おっと」
スマホを取り上げようとするが、かわされた。
「力づくで奪ってもいいですけど、データは他にも保存してますから、消してもムダですよ」
「くっ」
「なんでもしてくれるんですよね、夏希先輩?」
「何が、目的なの?」
「言ったでしょ?私、Mな女の子が大好きなんです。だから、Mな夏希先輩のこと、可愛がってあげたいんです」
ふざけたことを…
「今日から一週間、下着を履かずに過ごしてください」
「…え?」
「ノーパンですよ、ノーパン。パンツは履いちゃダメ」
「ふざけないで」
「ふざけてないですよ。パンツを履かないだけなら、別に日常生活に支障はでないでしょ?」
「い、いや、そんなことは…」
「それと、私と二人っきりの時は、敬語で喋ってください。私のことは雪乃様って呼んでください」
頭に血がのぼる。
「嫌、ですか?」
嫌に決まっている。
だが、断れば更に面倒な要求をしてくるかもしれない。
「最後に…」
「ま、まだ、あるの…むぅ」
雪乃の口が、私の口を塞いだ。
雪乃の舌が、入ってくる。
雪乃のキス。
頭が、ボーッとしてくる。
「あっ、そこは、ダメ…」
雪乃の手が、スカートの中に入ってきた。
「ダメ、だ。やめ…」
再び口を塞がれる。
雪乃の指。
下着の上から、敏感な部分を優しく擦ってくる。
何度も、何度も…
「ねえ、とっても気持ちいいでしょう?」
耳元で、雪乃がささやく。
「ここをこうされると、気持ちいいコトしか考えられなくなっちゃうでしょう?」
雪乃の声が、脳にジンワリと溶けていく。
最初は優しかった指先が、少しずつ強弱をつけて責めてくる。
ねちっこく、執拗に…
足の力が抜けていく。
ダメだ、立っていられない…
「と、今日はここまで」
「えっ…」
スカートから、手が抜かれる。
「一週間です、たった一週間。ちゃんと守れたら、金曜日のことは誰にも言いません」
雪乃に支えられながら、ようやく立っている状態の私。
「そ、そうすれば、さっきの音声も、ちゃんと消すのね?」
息を切らせながら、ようやくそれだけ口にする。
「はい、消します」
本当に消すかどうか、怪しいところだが…
今は、従っておくしかない。
今は、だ。
「じゃあさっそく、下着を脱いでください、先輩。それとも、私が脱がせてあげましょうか?」
雪乃を押しのけて、自分で下着を脱ぐ。
「約束を破ったら、私にも考えがあるからね」
「大丈夫ですよ。破ったりしません」
スカートの下がスースーして、落ち着かない。
「ちゃんと守れてるかどうか、チェックしますよ。もしも約束を守ってなかったら…」
「分かっている」
「分かっています、でしょ?」
「ぐっ…分かって、います」
「ふふっ。じゃあ、戻りましょうか」
一週間、耐えればいい。
とにかく、他の人にバレないようにしないと。
足元を気にしつつ、部署へと戻った。
下着を履いていないことが、これほど心許ないとは思わなかった。
普通にしている分には、周囲の人にはまずバレないはずだ。
そう思いたい。
ただ、階段を使う時やしゃがむ時など、ふとした時に誰かに見られてしまうのでは、と思ってしまう。
職場の上司や同僚は、まさか私が下着を履いていないとは思うまい。
まして、それが雪乃の指示によるものだとは…
それに、さっき地下書庫での、雪乃からのキス。
そして…
雪乃の指の感触が、まだ残っている。
ああ、もう…
その日から、極力雪乃と二人きりになる状況を避けた。
しかし、雪乃の指導担当である以上、どうしても二人で行動しなければならない時がある。
また、雪乃自身、二人きりになる状況を作ろうとしてくる。
二人きりになるたび、雪乃に敬語で話さなくてはならないのだ。
そして…
「夏希先輩、チェックしますよ。ほら、見せてください」
「はい…」
誰もいない会議室。
私は自分でスカートをめくり、無防備な秘所を雪乃に晒す。
「見てください、雪乃様…」
悔しさを押し殺し、チェックの度に言わされる言葉を口にする。
「ちゃんと履かずにいますね。えらいえらい」
馬鹿にしたような口調の雪乃。
悔しさと情けなさが入り混じる。
「約束が守れたご褒美、あげますね」
「あっ」
雪乃の指が、私の敏感な部分に触れる。
「職場の皆さんも、まさか夏希先輩が下着を履かずに仕事をしてるなんて思いもしないでしょうね」
「はい…」
「でも、もしかしたら既に気付いてる人もいるんじゃないですか。言わないだけで」
耳元で囁かれる。
「そんなはず、あ、あんっ、ない、です…」
「そうですか?私、夏希先輩を見てると、時々見えちゃいそうな時ありますよ」
「う、うそ…」
「ほんとです。気をつけたほうがいいですよ。あ、それとも、誰かに見られたいんですか?」
「そ、そんな訳ないでしょ…ない、です…」
「耳、赤くなってますよ?」
私が避けても、何かしらの口実をつけて、私と二人きりの状況を作る雪乃。
そして、下着を履いていないかどうかチェックをする。
「夏希先輩、かわいい」
雪乃の唇が、私の唇に触れる。
啄むようなキスから、やがて情熱的なものへと変わっていく。
頭が蕩けそうになる。
身体が熱くなる。
「はい、ここまで」
「あっ」
雪乃の唇が、手が、離れる。
「ちゃんと約束を守れたら、明日もしてあげますからね」
いつも、そうだ。
昂ぶったまま、宙ぶらりんな状態で放り出されて…
会議室から出て行く雪乃。
私も、早く戻らないと。
でもこのままじゃ、仕事にならない…
職場のトイレ。
他に人がいないことを確認する。
声を押し殺し、自分を慰める。
雪乃のやつ、調子に乗って…
今に後悔させてやるから…
そう心の中で毒づきつつも、頭の中で、雪乃の意地悪な言葉、表情を思い出す。
雪乃め、雪乃…
達しそうになる。
『だーめ、いかせてあげない』
想像の中の雪乃が、私を焦らす。
「もう、なんで…」
雪乃に責められて以来、自分で慰めても、満たされなくなってしまった。
「もう、いい加減、戻らなきゃ…」
ため息をつき、私はトイレから出た。
その後も、二人きりになる状況を作っては、雪乃は私を責めた。
今日も、スカートをたくし上げさせ、下着を履いていないことを確認してくる。
そして、キス。
いつもなら、雪乃の指が私の大事な所に触れてくるのだが…
「ふふ、触って欲しいの?」
「そ、そんなこと…」
「いいよ、触ってあげる」
雪乃の指が、触れる。
身体が、雪乃の指を歓迎する。
「夏希先輩、私に触ってもらいたくて、すごく期待してたんですね。ほら、もうこんなに濡れてる…」
濡れた指を、私に見せつける。
「そんな、言わないで、ください…」
雪乃の意地悪な表情。
ゾクゾクっと身体が反応する。
「いい顔…もうすっかりマゾの顔になっちゃったね、夏希先輩」
再び、雪乃の指が触れてくる。
「あっ…」
「ちゃんと、私の言いつけを守れたね。きちんと約束を守れたいい子には、私からご褒美あげる」
「ご、ご褒美?」
「明日、私の部屋に来なさい。音声データのバックアップを消すついでに、いっぱい、可愛がってあげる」
「かわい、がって?あ、あんっ」
「ふふ、焦らされて、辛かったでしょ?ご褒美に、夏希先輩が狂っちゃうくらい、いっぱいいかせてあげる」
耳元で囁く雪乃。
「私の部屋に来なさい。いいわね」
脳が溶けるような感覚…
「返事は!」
「は、はいっ、行きます!行かせてください!」
思わず、そう口にしてしまった。
雪乃の指が離れる。
「あっ…」
「じゃあ、明日の夕方5時、私の部屋に来てください。待ってますね」
笑顔の雪乃。
そのまま、会議室から出て行ってしまった。
私は、しばらく呆然としていた。
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