夏休みのある日、沙織が遊びに来た。
「いらっしゃい」
「真衣先輩、こんにちは」
「外暑かったでしょ。あがって」
「お邪魔しまーす」
「私の部屋で待ってて、飲み物持ってくるから」
「あ、お気遣いなく」
沙織は一年下の後輩で、可愛らしい元気な子だ。
同じ部活で、彼女が新入生の頃から面倒を見ている。
彼女を指導しているうち、懐かれてしまったらしい。
頑張り屋で、いつしか私も彼女の事が気に入った。
最近ではこうして私の家へ遊びに来るようになった。
冷蔵庫から麦茶を取り出し、コップに注ぐ。
そのまま部屋へ持って行こうとしたが、昨日親戚がお土産を持ってきたことを思い出した。
可愛らしい形をしたクッキーで、沙織が喜ぶかも知れない。
ついでにいくつか持っていく事にした。
「あれ?」
お茶菓子入れにあると思っていたクッキーはもうなくなっていた。
まだ残りが置いてあるはずだ。
戸棚を開ける。
木に実ったリンゴのイラスト。
包みを解いて、お茶菓子入れに載せた。
麦茶とクッキーを持って部屋の前まで行く。
「沙織、ドアを開けてもらえる?両手が塞がってて」
「は、はい!ちょっと待っててもらえますか?」
少ししてからドアが開いた。
「お待たせ」
テーブルに麦茶とクッキーを置き、ベッドに腰を下ろす。
「このクッキー、親戚がくれたんだけどね…」
沙織は立ったまま動こうとしない。
「沙織、どうかした?」
「あ、いえ、なんでもないです」
そう言って私の隣に腰を下ろした。
少し様子がおかしい。
顔もなんだか赤みがかっている。
「もしかして暑い?冷房強くしてあげようか?」
「あ、大丈夫です」
「そう?」
その後しばらく話をしたが、沙織はやはりどこか上の空だった。
「ねえ、もしかして気分が悪いの?」
「いえ、大丈夫です、本当に」
「ならいいんだけど」
そうは言うものの、いつもの沙織とはどこか違っていた。
「あの、真衣先輩、一つ聞いてもいいですか?」
「ん、いいよ」
沙織はリンゴを模ったクッキーを見つめている。
迷っているようだったが、意を決して私に向き合ってきた。
「さっき先輩が飲み物取りに行ってる時、こんなモノ見つけちゃったんですけど」
沙織は表紙が裏返しになった文庫本を見せてきた。
「あっ!」
本棚に隠していた官能小説。
「ちょ、ちょっと!何勝手に…」
「先輩が飲み物を持ってきてる間、何か読ませてもらおうと思って…そしたらこれを見つけたんです。背表紙が裏表になってたから、なんだろうと思って」
気まずい空気が流れた。
「か、返して」
それだけ言うのが精一杯だった。
「少し読んでみたんですけど、これSMってヤツですよね?」
顔が熱くなった。
「先輩、こういうの興味あるんですか?」
「な、ないわよ。お父さんの部屋にあったから、ちょっと無断で借りて読んだだけ」
「そうですか?他にも何冊か本棚にありましたけど」
「それは…」
何も言い返せなくなってしまった。
「やっぱり、興味あるんですね」
「そんな訳ないでしょう」
恥ずかしくて沙織の顔を直視できない。
「これらの本、どれも女の人が酷い事されてますよね」
「だ、だから何よ」
「ほら、縄で縛られてたり叩かれたり、恥ずかしい事言わされてたり」
本を開けて文章を見せてくる。
「後輩の前ではいつもあんなに厳しい先輩がねぇ。ちょっと驚きましたよ」
「ち、違うって言ってるでしょ!」
沙織は本棚から別の本を取り出した。
同じく表紙が裏表になっている。
「見た感じからして、この本が一番読まれてるみたいですけど」
沙織はその表紙を取り去った。
血の気が引くのが分かった。
「まさかとは思いましたけど…こういうの、好きなんですよね?」
一番見られたくない本だった。
「この本、知ってますよね?どんな内容か教えてくださいよ」
「それは、っていうか、そんな事あなたに関係…」
「どんな内容かって聞いてるんですよ」
沙織の顔には気迫があった。
「お、女の子が犬として扱われる話、よ」
勢いに飲まれて、そう答えてしまった。
沙織の顔に不敵な笑みが浮かぶ。
ドキっとした。
「誰に?」
「え?」
「その女の子は、誰に犬として扱われるか聞いてるんです」
「そ、それは…」
「それは?」
「年下の、女の子に…」
「そうですか。で、その二人はもともとどんな関係だったんですか?」
「学校の、先輩と後輩」
「先輩なのに、どうして後輩にそんな扱いをされなければならないんですか?」
「後輩に、自分の性癖を知られてしまって、それで…」
「性癖?どんな性癖ですか?」
「沙織、そろそろいい加減に…」
「答えてください。どんな性癖なんですか?」
「い、虐められると感じてしまう性癖」
「虐められて感じるんですか?ヘンタイなんですね、その先輩って」
沙織は私の顔を覗き込みながら言った。
身体が熱くなった。
「私も知ってますよ。そういう人って、虐められるとエッチな気持ちになっちゃうんですよね?不思議です。でも、先輩にならそういう人の気持ちも分かるんじゃないですか?」
「いい加減にしなさい!」
「あ、顔が真っ赤になってる!カワイイ!」
沙織の態度が明らかに変わっていた。
「先輩、マゾでしょ」
「なっ!」
「先輩、私が先輩のこと虐めてあげましょうか?」
胸が屈辱で締め付けられる。
年下にこんな事を言われて、怒らないわけがない。
しかし…
意志とは裏腹に、身体が反応してしまう。
誰にも知られてはならない秘密。
初めて自分の性癖に気付いてしまった時から、少しずつ大きくなっていったもの。
嫌悪し、何度否定しようとも消せなかった性癖。
それは隠し通すことのできないところまで育ってしまったらしい。
「わ、私は…」
「やっぱり、身体は誤魔化せないみたいですね」
沙織には全て見通されている。
「今から先輩には私のペットになってもらいます。いいですね?」
不安か、それとも期待か。
身体が震えた。
あの本を読んだ時から、何度も主人公を自分に重ねてきた。
そんな状況に酔いながら自分で自分を慰めた事も一度や二度ではない。
禁断の果実。
いままで夢想してきた事が、現実のものとして目の前にある。
しかし…
「いいですね?」
「わ、分かったわ」
拒むにはあまりにも魅力的過ぎた。
「まずはどうしよっかなー。あ、そうだ。ペットなんだから服は必要ないですよね。脱いでください」
手が震えて、上手く脱ぐ事ができない。
心臓が大きく脈打っている。
どうにか下着姿になった。
沙織の顔を覗う。
「なにしてるんですか。全部脱ぐんですよ」
言われたとおり、下着も脱いだ。
恥ずかしくて目眩がする。
「脱いじゃいましたね。私後輩なんですよ?後輩に命令されて裸になっちゃうなんて普通の人にはできないですよ。やっぱり先輩は本物のマゾだったんですね」
言葉の一つ一つが突き刺さる。
脳に何かが湧き出してきた。
ボーっとして、何も考えられなくなる。
「分かりました、徹底的に先輩を躾けてあげます。嬉しいですか?」
「う、嬉しい」
言葉に出すことで、更に身体が燃え上がった。
「あれ、私は先輩のご主人様なんですよ?言葉遣いがおかしくないですか?」
「嬉しい、です」
「よくできました。あ、そういえばペットに敬語を使う必要はないですよね。それに、その方が先輩もいいんでしょ?」
「うふふ、嘘みたい。あの先輩がこんな従順になっちゃうなんて。私前から先輩に憧れてたのよ?それがこんなヘンタイだったなんて…」
自分の惨めさが、より興奮を駆り立てる。
「真衣、私の足舐めて」
「それは、さすがに…」
「ご主人様の言う事が聞けないの?」
「わ、分かりました」
沙織が足を差し出してくる。
靴下を取り、ゆっくりと口を近づけていく。
鼓動が信じられないほど速く打ち、息苦しくなってきた。
暑さのせいか、沙織の足はややニオイを放っている。
頭がクラクラする。
舌が足に触れた。
最初はつつくだけだったが、次第にゆっくりと舌を這わせていく。
途中でタガがはずれ、気付いた時には夢中で足の指一本一本を舐めあげていた。
「あはは、信じられない!本当に舐めてる!」
沙織の声が遠くに感じる。
顔を上げると、軽蔑した目で私を見下ろしていた。
「情けない顔してるわよ?そりゃそうよね、後輩に命令されて足を舐めさせられてるんだもの」
「恥ずかしそうね。でも真衣はそれが好きなんでしょ。どう、ご主人様の足はおいしい?」
「お、おいひいです!」
「そう、ならちゃんとお礼言わないとね。足を舐めさせてあげてるんだから」
「あ、あひをなめはへてくだはってあひがほうごはいまふ」
「はい、よく出来ました。いい子いい子」
頭を撫でられた。
馬鹿にされていると分かっていても嬉しくなってしまった。
「ねえ、真衣ちゃんていつもどのくらいオナニーしてるのかな?」
「あ、お、オナニーなんて、してません」
「嘘つかないの。嘘つく子にはオシオキしないとね。お尻こっちに向けなさい」
言われるまま、お尻を突き出した。
沙織の手が容赦なく叩いてくる。
自分が小さい子供になったみたいで、恥ずかしい。
「どう?反省した?って、アソコからどんどん溢れてきてる!もしかして悦んでるの?もう、オシオキにならないじゃない」
「ご、ごめんなさい」
「もう一回聞くわ。オナニーはどのくらいしてるの?」
「月に2、3回くらいです」
「今度はもっと痛いオシオキにするわよ?」
「し、週に4、5回はしてます!」
「ふーん。で、どんな風にしてるの?」
「想像しながら、してます」
「どんな想像?」
「あの本の主人公みたいに、と、とても恥ずかしいことされてる所を想像してます」
「もしかして、私に酷い事されてる所を想像したりもしてたの?」
「はい、してました…」
「先輩って根っからのマゾなのね…分かったわ。オナニーしなさい。私が見ててあげるから」
「そ、そんな、無理です。それはできません…」
「あなたは恥ずかしい事ほど嬉しいんでしょう?それとも、もっと恥ずかしい事のほうがいいのかしら」
「わ、分かりました。します」
手をゆっくりとアソコにあてる。
自分でも驚くほど濡れていた。
ゆっくりと指を這わせる。
「遠慮しないの。いつもはもっと激しくしてるんでしょ?」
「は、はい」
どうしても沙織の視線が気になったが、次第にそれすらも興奮を掻き立てるスパイスになってきた。
「どう?後輩に見られながらするオナニーは。興奮する?」
答えようとしたが、声が上手く出なかった。
「まるで盛りのついたメス猫みたい。ホント情けない格好ね。すごい顔してるわよ」
快感が高まり、昇りつめる瞬間だった。
「はいストップ!」
腕を掴まれた。
「な、なんで…」」
「駄目。私に許可なくイクのは許さないわ」
その後も、イキそうになる度に腕を掴まれた。
「もう、イカせてください。おかしくなっちゃう…」
「だーめ」
もう我慢できなかった。
何度も絶頂を阻止された頭では、もうイクことしか考えられなかった。
「イカせてください!お願いです!何でもしますから!」
沙織は手を離した。
「あなたはイクためにならなんでもするの?情けない。プライドの欠片もないの?」
自由になった手で、私は再び自分の大事な場所を刺激する。
「は、はい、私はプライドの欠片もないヘンタイです!だから…」
「そこまで言うなら仕方ない、好きなだけイキなさい。ただし条件があるわ。これからも私の言う事にはなんでも聞くこと。分かった?」
「わ、分かりましたからぁ」
また腕を掴まれた。
「本当に分かってるの?一生私の言いなりになるのよ?私はあなたの後輩なのよ?理解してる?」
「してますぅ。理解してますからぁ」
「じゃあ証拠をとるわよ。今からあなたの裸を写真に撮るわ。それが嫌ならイカせてあげない。どう?」
「しゃしんとってください、とってぇ」
「本気なのね、分かった」
沙織が腕を放した。
欲求を満たす許可を与えられ、私は一心不乱にクリトリスを擦りつけた。
「これで契約は完了。先輩はこれからもずっと私に尽くすのよ」
目を閉じると、沙織の蔑んだ表情が浮かんできた。
「気の済むまでイッて頂戴」
目蓋の奥で、私は沙織にリードで繋がれている。
「わたしはぁっさおりさまのいぬでしゅっ」
「アハハ、私の声が聞こえてないみたいね!あなたのいやらしい姿を沢山撮ってあげるわ!」
私はしばらくの間、延々と向こう側の世界の沙織に服従した。
部屋は静寂で包まれていた。
窓からは既に西日が差している。
「じゃあ、私そろそろ帰ります」
沙織が立ち上がるのを、目だけで追った。
「また明日、部活で会いましょう」
「そうね…」
沙織はしばらく立ち尽くしていた。
そんな沙織をボンヤリと眺める。
「私だけじゃなくて、先輩も…」
「ん、何?」
「私だけじゃなくて先輩も、この結果を選んだんですよ。それは忘れないでください」
わたしだけじゃなくてせんぱいもこのじょうきょうをえらんだ。
わすれないでください。
どういう意味か考えようとする。
考えようとして、すぐにやめた。
「お邪魔しました」
沙織が部屋から出て行こうとして、一度だけこちらを振り返った。
今にも泣き出しそうな、悲しそうな顔をしていた。
コメント
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文章の雰囲気はかなり好きなんだけど…
この世界観が理解しきれてないのかなぁ
また、来てみたいと思います
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なんか月光っていう映画みたいでした。
あれは、男女の物語だけど。後輩の最後の表情の描写で、後輩の心情がすげえせつねえ。
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遅くなってごめんなさい!
>む・つ・か・し・い さん
このお話は雰囲気や読了感を意識して書いたのですが、その分分かりやすさを犠牲にしてしまったところがあるかも…です。
どちらも兼ね備えた小説が理想だと思うのですが、まだまだ精進です。
>kigsさん
『月光の囁き』でしょうか。
昔、深夜テレビでやっていたのを見た記憶があります。
当時はこういう世界についてよく知らなかったので、不思議な気持ちで観ていた気がします。
コメントありがとうございました。またいらして下さいね!