土曜日の夕方。
雪乃の住むマンションまで来た。
入り口のインターホンで、雪乃の部屋番号を入力する。
雪乃の声。
ドアが開く。
建物に入り、エレベータで雪乃の住む部屋の階まで上がる。
雪乃の部屋。
チャイムを鳴らす。
ドアが開き、雪乃が顔を見せる。
「ようこそ。どうぞ中へ」
「お邪魔します」
部屋には、上品そうな家具が並んでいる。
先週は、だいぶ酔っていたし、そんな余裕もなかったが…
部屋に案内され、ソファーに座る。
雪乃がスマホとノートパソコンを取り出した。
「じゃあ、約束どおり音声データは消去しますね」
スマホの音声メモアプリを起動し、データを削除する。
続いて、ノートパソコンに保存された音声データも削除する。
「これで、消去完了です」
本当かどうかは分からない。
しかし、他にもバックアップがないかどうか、確認のしようもないのだ。
「それじゃ、お待ちかねのご褒美、あげますね」
胸が高鳴る。
「ほら、こっちに来て、先輩」
寝室へ案内される。
二人で、ベッドに腰を下ろす。
見つめ合う。
雪乃の目。
まるで吸い寄せられるように、目が離せない。
「ここに来るまでの間、ずっと期待してたんでしょ?」
「べ、別に、そんな事…」
「嘘。正直になってください。そうでなきゃ、こうして、ここまで来ないでしょ?音声データも消したし、これ以上ここにいなくてもいいんですよ?」
頭を撫でられる。
「ほら、正直になって、ね?」
「う、うん…ホントは、期待してた、かも…」
「ふふ、やっぱり」
恥ずかしくて、俯く。
初めて雪乃に責められたあの日、私は雪乃に何かを埋め込まれてしまった。
そしてそれは私の中で芽吹き、この一週間で着実に育っていった。
仕事中も、気付くと雪乃の事を考えていた。
帰宅後、自分で慰めようとしても、どうしても満たされない。
そして、気付くと雪乃に責められている自分を想像してしまうのだ。
そんな自分に嫌悪感を持てば持つほど、それは確実に私の中で大きくなっていった。
「私の言った通り、夏希先輩はMの素質があったでしょ?」
「う、うん…」
消え入りそうな声で、かろうじて返事をする。
「ほら、こっち向いて」
顔を上げる。
私の顎を持ち、顔を引き寄せる。
雪乃の唇。
柔らかい。
いい匂いがする。
ついばむような、優しいキス。
ウットリしながら、身をまかせる。
次第に、キスが熱を帯びていく。
雪乃が、私の服を脱がせていく。
上着を脱ぎ、下着姿になり、やがて、一糸まとわぬ姿になった。
「可愛いよ、夏希」
そう言って、私の手を縛った。
「えっ?」
「大丈夫、安心して」
伸縮性のある紐で、自分で取ろうと思えば取れるほどの緩さ。
それでも、雪乃に拘束されている気がして、被虐心が刺激される。
足、ふくらはぎ、太もも、鼠蹊部と、唇を這わせる雪乃。
私は、これまで感じたことのない期待と刺激に、身を震わせる。
私の最も敏感な部分。
雪乃の舌が触れそうになる。
しかし、その周辺を執拗に責め、一向にその部分へ触れようとしない。
早く、お願い…
恥ずかしくて、口に出して言えない。
雪乃の唇が、触れる。
私の口から嬌声が漏れた。
雪乃の笑い声。
再び、雪乃の唇が優しく触れる。
雪乃の舌が、的確に私の秘所を責める。
刺激に悶えながら、私は必死に声を抑える。
波。
快楽の波が押し寄せてくる。
徐々に高まり、私を飲み込もうとする。
その瞬間…
「まだダメ」
「えっ」
雪乃が顔を上げる。
「まだまだ時間はたっぷりあるから、もっと責めてあげる。それに、その方が夏希先輩も嬉しいでしょ?」
「そんなこと…」
焦らされる。
雪乃の常套手段。
そんな焦らしが、私の被虐心を刺激することを雪乃は熟知している。
「ほら、いくよ」
再び、雪乃が舌を這わせる。
「ねえ夏希さん、提案があるんですけど」
「て、提案?」
「実は今夜、地元の友人がこの部屋に遊びに来るんですけど、その子に夏希さんのこと紹介したいんです」
「紹介、って…」
面識もない子に会って、どうしろというのだ。
「会社の先輩としてじゃなくて、私のペットとして、ね」
「ぺ、ペット?」
「夏希さんの名前も、住所も言わない。特定されるようなことは決して」
「そんなこと、言われても…」
「ここに、顔をすっぽりと覆えるマスクがあるの。これを被れば夏希さんの顔もわからないし、もし万一どこかで会ったとしても、わからないわ」
「で、でも…」
「もし会ってくれたら、今日だけじゃなく、これからも夏希さんのこと、気持ちよくしてあげる」
私は…
雪乃に渡されたマスクを被り、全裸のまま寝室で待機する。
襖を隔てた向こうで、雪乃と、雪乃の友人の話し声が聞こえる。
今から起こるであろう出来事を想像し、心臓がかつてないほどの早さで脈打つ。
会社の後輩の部屋で、言われるまま、全裸になる先輩。
どう考えても、変態だ。
雪乃の友人は、そんな私を見てどのような反応をするだろうか。
面白がって、こちらをからかってくるだろうか。
それとも、蔑んだ目でこちらを見てくるだろうか。
マスクを被っているとはいえ、初対面の女の子の前で、一糸纏わぬ姿を晒すのはさすがに恥ずかしい。
相手は私のことを知らない。
そして、今後二度と会うこともないであろう相手。
だから、大丈夫。
私は、自分に言い聞かせる。
雪乃と、友人の笑い声。
そして…
「そういえば、この前春那ちゃんに話した、Mな先輩の事、覚えてる?」
「うん、雪乃ちゃんが調教したいって言ってた人でしょ?」
「そうそう。実はね、その先輩のこと、春那ちゃんに紹介しようと思って」
「へー。ということは、うまくいったってこと?」
「うん。でね、実は今、うちに来てるの」
「えっ」
「今から連れてきてもいい?」
「う、うん…」
「ナツ、入ってきなさい」
「は、はい…」
襖を開ける。
ソファーには、雪乃ともう一人女の子が座っていた。
目が合う。
春那と呼ばれている女の子は、私を見て目を見開いた。
恥ずかしい…
春那が、私の全身を見回している。
見られている。
それも、年下の女の子に…
会社の後輩と、初対面の女の子の前で立ち尽くす、全裸の女。
それが、今の私だった。
「ナツ、自己紹介しなさい」
「は、はい…」
春那が、固唾を飲んだ。
「雪乃様に、ペットとして可愛がっていただいています、ナツと申します」
事前に雪乃に言われた通り、挨拶する。
「は、はぁ…」
春那の、呆気にとられたような顔。
「ナツ、いつまでボケっと突っ立ってるの。座りなさい」
「は、はい」
ソファに座る二人の前で、正座する。
「今日、春那ちゃんが来るって言ったら、春那ちゃんにいじめてもらいたいって言うから…」
そんな事、言ってない。
雪乃を睨むが、雪乃に睨み返される。
「ほ、ホントに、雪乃ちゃんのペット、なんですか?」
「は、はい…」
「へー、ホントだったんだ」
「春那ちゃん、せっかくだから、この子に何か命令してあげなよ」
「め、命令って…でも、私達より年上の女性なんだよね。なんか、悪いよ」
「そんな風に遠慮することないよ。春那ちゃんにいじめてもらいたくて、こんなカッコして待ってたんだよ。それに、私達みたいな年下の女の子がいじめてあげたほうが、この子も嬉しいんだよ」
「そ、そうなんですか?」
春那が、恐る恐ると言った表情で尋ねてくる。
「は、はい。雪乃様のおっしゃる通りです」
「そ、そうなんだ」
感心したように頷く春那。
「じゃ、じゃあ…私の靴下のにおい、嗅いでください」
く、靴下のにおい…
「ちょっと春那ちゃん、この子にそんな敬語使わなくていいの。においを嗅ぎなさいって、命令してあげて」
「そ、そうなんだ…じゃあ、ナツさん、いや、ナツ、私の靴下のにおい、嗅ぎなさい」
ソファに座り、私を見下ろしながら命令する春那。
雪乃に植え付けられた被虐心が、反応する。
悔しいはずなのに…
私は、さっき会ったばかりの女の子の前でひざまずく。
春那が、私に足を突き出す。
「今日、ずっとブーツを履いてたから、臭うかもしれないけど…」
思わず、唾を飲み込む。
「はい、嗅いでください…じゃなかった、嗅ぎなさい、ナツ」
「わ、分かりました…」
突き出された足に、鼻を近づける。
確かに、春那の言ったように、蒸れたにおいがする。
「ほんとに、においを嗅いでる…」
「ね?この子、ホントにMなの」
「年上の女性にこんなことさせて、なんか不思議な気分」
「ふふ、春那ちゃん、楽しそう。Sの素質あるんじゃない?」
「うん、なんか、ハマっちゃいそう」
楽しそうにはしゃぐ二人の足元で、情けなく靴下のにおいを嗅ぐ。
「はい、もういいよ、ナツ」
「はい…」
「ちょっと、靴下のにおいを嗅がせてもらったんだから、春那ちゃんにお礼を言いなさい」
無茶苦茶なことを言われていると思ったが、反論できる雰囲気ではなかった。
「あ、ありがとうございました、春那様」
「うん」
さっきまでの遠慮が消え、楽しそうにこちらを見下ろしている。
「ねえナツ、普段、雪乃ちゃんにどんなことされてるの?」
「えっと、それは…」
「ナツ、言いなさい」
「は、はい!」
思わず、そう答えてしまう。
「職場では、下着を履かずに過ごすよう命令されています」
「へえ、それじゃあノーパンで仕事してるんだ。ナツさんはそれで興奮しちゃうんだ」
「は、はい…」
「ふぅん、じゃあ露出狂の気があるのかもしれないね。今もこんなカッコだし」
「そ、そんな…」
「ノーパンで仕事をする他には、何かないの?」
「え、と…人のいないところでキスされたり、あ、アソコを…いじってもらったり、してます…」
「ナツはウブだからね。少し触っただけですぐ真っ赤になっちゃって、可愛いんだ」
「へー」
春那の無遠慮な視線。
「もしかして、ナツさんて今までそういう経験なかったとか?」
「そういう経験…?」
「エッチ、したことないの?」
「あ、ありません…」
「えー、そうなんだ。意外。ふうん…」
「スタイルもいいし、マスクの下も美人さんなんだけどね。意外でしょ」
「うん。なんか、もったいないね」
散々な言われようだった。
「ねえ、ナツはどうしてMに目覚めたの?」
「それは…雪乃様に調教していただいて、それで…」
「じゃあ、それまではノーマルだったんだ」
「はい…」
「でも、ナツさんは私達より年上でしょ?私達みたいな年下の女の子にこんなことされたり言われたりして、悔しくないの?」
「そ、それは、悔しいです。でも…」
「でも、その悔しいのがいいんだ。そうでしょ?」
「は、はい、そうです…」
「変態だね」
春那の言葉が突き刺さる。
「雪乃ちゃんのせいでこんな性癖にされちゃったんだね、可哀想…雪乃ちゃん、ちゃんと責任とらないとだめだよ」
「はいはい。というか、春那ちゃんも結構Sっ気があるね」
「そうかな?でも、そうかも。年上の女性にこんな態度とれることって今までなかったし、なんか楽しくて。それに、そう扱われたほうがナツも嬉しいでしょ。ね、ナツ?」
「は、はい、嬉しいです」
悔しい。
情けなくて、惨めで…でもそれが興奮の材料になってしまう。
「ねえ雪乃ちゃん。もう少しナツさんで遊んでいいい?」
「いいよ」
年下の女の子に、まるで物のように扱われている。
「やった!じゃあナツ、お馬さんゴッコしよ?ここで四つん這いになって」
「はい」
春那の前で四つん這いになる。
私の背中にまたがる春那。
春那の重さが、ズシリと背中に加わる。
床にはカーペットが敷かれているが、それでも膝が痛い。
「ほら、ナツ進みなさい」
そう言って私のお尻を叩く春那。
「は、はい」
膝の痛みに耐えながら、床を這い回る。
その間も遠慮なく私のお尻を叩く春那。
そして、そんな私達を楽しそうに眺める雪乃。
「ねえ、雪乃ちゃん。記念に私のスマホで動画撮ってもらっていい?」
「え、動画撮るの?」
「こんなこと、一生のうちに一度しかないから…ずっと、覚えておきたいの」
「うーん、どうしようかな…」
私は、雪乃を見ながら必死に首を振った。
「雪乃ちゃん、お願い!」
「分かった、いいよ」
「ホント?ありがとう!」
「安心して、ナツ。マスクをしてれば分からないし、ナツの顔は入らないようにするから」
そんな…
春那のスマホを手に取り、こちらに向ける雪乃。
そして、私のお尻を楽しそうに叩く春那。
私は、春那を背に乗せ、床を這い回る。
「ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくるね。春那ちゃん、あんまりうちのナツを苛めすぎないでよ」
冗談交じりに言い、部屋から出て行く雪乃。
「ねえ、ナツさん」
私の耳元で囁く春那。
「は、はい」
「ナツさんて、スタイルいいですよね。なにかスポーツしてるの?」
「いや、今はしてない、です」
「ふーん。でもその割には筋肉も引き締まってるし…」
雪乃が、私の太ももを優しく撫でる。
思わず、息が漏れる。
「今はってことは、昔はなにかスポーツしてたの?」
「え、と…ソフトボールを、少し…」
「ふーん。ソフトボールをしてたんだ」
「は、はい…」
もう、だいぶ昔の話だ。
「もしかして、体育会系だったり?」
「ど、どちらかといえば」
「ふぅん。じゃあ、後輩の女子とかにも結構厳しいこと言ったりしたんだ?」
「え、と…少しは」
「ふふ。その後輩さんたち、今のナツさん見たら、どんな顔するかな?」
「は、恥ずかしいです」
「チームは結構強かったの?」
「いや、あんまり強くは、なかったです」
「またまた、謙遜しちゃって。県大会で2位なんて、すごいですよ」
「そんなこと…え?」
確かに、私たちのチームは県大会で2位だった。
惜しくも、インターハイを逃したのだ。
でも、なぜそれを…
「ナツさんて、夏希さん、ですよね?」
「えっ?」
予想もしていなかった突然の言葉。
頭が真っ白になる。
「昔、一度だけお会いしたことがあるんですけど、覚えてないですよね」
「いや、あの、私は…」
「上条楓那、覚えてますか?」
「かみじょう、かな…あっ」
思い出した。
同じソフトボール部の後輩で、私が3年の時、2年生だった子だ。
「私、上条春那といいます。楓那は、私の姉です」
「そ、そう…」
「県大会の決勝戦。私、観客席で応援してました。姉の応援だったんですけど、夏希さんも見てました。皆に指示を出してて、カッコいいなって思ってたんです」
あまりの出来事に、頭が真っ白になる。
「あの後、親の事情で引っ越しをして。転校先で雪乃ちゃんと出会ったんです」
「え、と…」
「雪乃ちゃんと同じ会社にいるっていうのは知ってたんです。でもまさか、こんなことになってるなんて」
「ち、違うの、これは…」
「やっぱり、夏希さんだったんですね。でも、誤魔化さなくてもいいです。本当に嫌なら、なんとなく分かりますから。でも夏希さん、凄く楽しんでましたよね」
「それは違くて、あの…」
「私、ショックでした。夏希さんに初めてお会いした時、すごく美人で、かっこよくて、ずっと憧れてたんです。いつかあんな人になりたいって、ずっと思ってたのに…」
「それは…」
「まさか、こんなヘンタイになってたなんて。なに、年下の小娘相手にヘコヘコして、こんなことされて喜んでるんですか。ガッカリしました」
「ご、ごめんなさい」
「このこと、地元のみんなが知ったらすごくビックリすると思いますよ。だってあの夏希さんが、年下の女子にこんなことされて、怒るどころか喜んじゃうヘンタイマゾになってるなんて…」
「お願いだから、他の人には言わないで!」
「どうしようかな。みんな信じないだろうけど、雪乃ちゃんに撮ってもらった動画を見せたら、信じざるを得ないよなぁ。声も、完全に夏希さんだし」
「お願いだから。お願い、します…」
「黙っててほしい?」
「はい」
「だったら、私のドレイになりなさい」
耳元で囁く、春那の声。
ゾクゾクっとした。
「言っておくけど、雪乃ちゃんの責めみたいな甘いものじゃないよ。私なしじゃ生きていけなくなるくらい、骨抜きにしてあげる」
「あ、あ…」
春那の声が、甘く脳に染み込んでいく。
「ほら、誓いなさい。春那様のドレイになるって」
「わ、私は…」
「グズグズすんな、ヘンタイマゾ!返事は!?」
「は、はいっ!誓います!春那様のドレイになります。ならせてください!」
「んー、よしよし。いい子だね、夏希。これからたっぷりと可愛がってあげるから、覚悟しなよ」
「あ、ありがとうございます」
「よしよし、いい子、いい子」
甘い声で、囁きながら頭を撫でてくる春那。
もう、完全に春那に服従してしまった。
やがて、雪乃が戻ってくる。
「おまたせ」
「おかえりー」
先ほどまでの気迫が消え、これまで通りの口調に戻る春那。
「どう、楽しんでる?」
「うん。このお馬さん、私のこと気に入ってくれたみたい」
「そう、よかった。でもナツは私のだから、春那ちゃんにはあげないよ?」
「あはは」
私は、これから訪れるであろうドレイとしての日々に思いを馳せながら、春那の馬として床を這い回り続けた。
コメント
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甘々な感じなのかなと思っていたら予想外の展開で驚きました。
二人きりになったときの春那の変化がすごい良かったです!
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> みどりさん
甘めのエンディングが続いていたので、今回のようなお話にしてみました。
マンネリにならないようにと思っているのですが、なかなか難しいです。
楽しんでいただけるか不安もあったのですが、コメントをいただけて安心しました。
いつもありがとうございます!