Magic stone 1話

若い、二人の女性が会食している。
どちらも、身分の高そうな服装。
一人は、上級士官にのみ着ることを許された礼服を着ている。
もう一人は貴族だろうか、丁寧に仕立てられたドレスを着ている。
品のいい調度に囲まれた部屋。
照明も、明るすぎず、暗すぎず。
食事を終え、テーブルの食器類が下げられる。
しばしの歓談。
上級士官が手を叩く。
部屋に、召使いが入ってくる。
召使いの持つリードに引かれて、全裸の女。
全裸の女がうやうやしく、二人の前で土下座をする。
召使いが退席し、部屋には三人が残った。
土下座した女の頭に、上級士官が足を乗せる。
頭を踏まれている女は、体を赤く染めながら、お礼を述べる。
上級士官の命令で、扇情的なダンスを踊る女。
その様子を愉快そうに眺める二人。
上級士官が手を叩く。
女はダンスをやめ、再び二人の前で跪いた。
貴族の女の片足を手にとり、靴を脱がせる。
そしてその素足に、舌を這わせる。
貴族の女は顔を上気させながら、女を眺める。
足の指の一本一本を、丁寧に口に含む女。
そして、反対側の足にも手を伸ばす。
上級士官が、何かを呟く。
直後、女が嬌声をあげ始める。
腰をくねらせながらも、貴族の足を舐め続ける女。
しかし、女の意思に反して、腰の動きは大きくなっていく。
「マーティナ、こちらの方の大事なところを、口でご奉仕なさい」
「かしこまりました…」
「その、恥ずかしい、です…」
「ご安心ください。ここには、我々の他にこの女しかおりません。どうぞ、気兼ねなくお楽しみください」
「は、はい…」
恥ずかしそうにしながらも、期待を隠しきれない様子の貴族。
顔を赤らめながら、スカートの中に手を伸ばす。
下着を下げる。
椅子に浅く腰掛け、スカートの裾をつまみながら、女を見る貴族。
「それでは、お願いしますね」
「はい…」
マーティナと呼ばれた女が、スカートの中に顔を入れる。
発情した雌の匂いに、女の頭がクラクラする。
貴族の大事な場所に、舌を伸ばす。
敏感な部分を、弱く、優しく、焦らすように責める。
貴族が、声を押し殺したようなうめき声をあげる。
その声が、少しずつ大きくなっていく。
上級士官が、また何か唱えた。
マーティナの下腹部が、更に熱くなる。
体の奥で、マグマのようにドロドロとしたものが出口を求めて蠢く。
貴族の声に合わせるように、マーティナの腰が動く。
しかし、いくら刺激を求めても、満たされることはない。
自らの熱く溢れる秘所に手を伸ばす。
しかし、肝心な部分に触れる前に、貞操帯に阻まれてしまう。
うつぶせになる。
貴族の大事なところを舌で刺激しつつ、己の腰を床に打ち付ける。
床からの衝撃を、鉄の下着が分散させてしまう。
何度も、何度も腰を床に打ち付ける。
カツン、カツンという音が、虚しく響く。
貴族の女性が、体を小刻みに震わせる。
上級士官が、再び何かを呟く。
マーティナの体が、燃えるように熱くなる。
「研究開発部、技術調査課長、マーティナ。貴職を巨大魔石の調査の任に命ずる」
魔術機関の主だった面々が集う会議。
私は、直属の上司にあたる長官より任務を命じられた。
この任務を終えれば、正式に長官としての昇任が決まる。
この任務は、私ともう一人の職員とで行うことになっている。
本来であれば、私の直属の部下が調査に同行することになっていた。
魔術の能力だけでなく、武術にも長けており、何より魔石の扱いに精通していた。
しかし、調査の準備をするために先行して旅立った際、暴漢に襲われてしまったのだ。
幸い命に別状はなかったが、調査ができるような状態ではなくなってしまった。
そこで白羽の矢が立ったのが、ソフィーという職員だった。
彼女も、魔石の扱いに精通しているとのこと。
元々ソフィーとは所属が異なるため、直接会って話したことはないのだが、周囲の評判は悪くなかった。
彼女が、一時的に私の直属の部下として配属される形になる。
調査期間は、どれほどになるか。
スムーズにいけば半年、長ければ1年、あるいはそれ以上か。
引き継ぎを終えた私は、巨大魔石のある村へと出発した。
魔術大国、エミティノ共和国。
かつて、その強大な魔術の国として、周囲の国々に恐れられていた。
大戦後、大きな争いのなくなった今も、エミティノ共和国の中で、魔術は日常のものとして身近に存在している。
他国にも魔術の使い手はいるが、その数は少ない。
それに引き換え、エミティノ共和国で生まれ育った全ての者は、魔術の資質を有している。
能力の差こそあれ、彼らは日常的に魔術を使用していた。
その魔術について研究したり、使用方法を管理したりしている組織、それが魔術機関だ。
かつて、エミティノ国軍魔法部隊として存在していたが、大戦の終結とともに今の形に姿を変え、今日に続いている。
出発して3日目の昼過ぎ、ようやく村に到着する。
人口1000人ほどの村。
かつては魔石の採掘で賑わったというこの村も、今は穏やかな農村といった雰囲気だった。
村の中部にある、煉瓦造りの建物。
ここが、魔術機関の所有する出張所、兼、宿泊施設だ。
古ぼけてはいるが、歴史を感じさせる建物に、これからしばらくの間住むことになる。
ドアベルを鳴らす。
少しの間があり、ドアが開く。
出迎えてくれたのは、まだ少しあどけなさの残る女性。
「技術調査課のマーティナだ」
「衛生課のソフィーと申します。お待ちしておりました。どうぞ、中へ」
建物の中へ入り、執務室と思しき部屋へと案内される。
応接テーブルに腰かける。
「改めまして、衛生課所属の、ソフィーと申します。マーティナ様の身の回りのお世話と、調査の補佐をさせていただきます。よろしくお願いいたします」
緊張しているのか、表情が少し固い。
「技術調査課のマーティナだ。調査が終わるまでの間、よろしく頼む」
会釈すると、彼女も慌てて頭を下げた。
苦笑する。
「そんなに緊張しなくていい。年齢もそれほど離れている訳でもないし」
「は、はい」
とはいえ、緊張するのも無理からぬことではあった。
稀代の魔術師。
それが、私に付けられたあだ名だった。
ソフィーの案内で、自分の寝室へと向かう。
途中、私のお腹が鳴った。
そういえば、昼食がまだだったな…
「荷物を置いたら、昼食をとりたいのだが。近くに良い店があれば、教えてくれないか?」
「そ、それでしたら…」
上目遣いでこちらを見るソフィー。
「もしよろしければ、私がご用意いたします。少しだけお時間をいただけますか?」
「ああ、頼む」
「かしこまりました」
ニコッと笑った彼女に、不覚にもドキッとしてしまう。
そんな自分に動揺しつつ…
「昼食をとりながら、今後について話そう」
そんなことを言っていた。
ソフィーが作った昼食をとりながら、再び自己紹介をする。
普段の業務内容や、得意な魔術、共通の友人等。
「そうか、ハンナと同じ部署か」
「はい。私が新人として配属された時から、よくしてくださって」
私の同期の一人が、ソフィーと同じ部署であることが分かった。
しばし、ハンナの話で盛り上がる。
昔はよく食事を共にしたり、休日にもあったりしていたが、忙しさもあり、最近は会う機会も減っていた。
「ハンナは、元気か?」
「はい。この任務が決まった時も、ご自宅に招いてくださって…」
楽しそうにハンナの話をするソフィー。
少しずつ、緊張もほぐれてきたようだ。
「そういえば、君は魔石の扱いにも精通しているのだったな」
「ヘレン様にはとても敵いませんが…一応、一通りの魔石は使用できます」
「この後、少し見せてもらえないか。巨大魔石のこともそうだが、魔石を使った魔術について、改めて知っておきたい。
「もちろんです、マーティナ様」
ニコッと笑う、あどけない表情。
眩しくて、つい目を逸らしてしまう。
昼食後、再び執務室へとやってきた。
ソフィーが、自室から持ってきたバッグを開ける。
その中から、いくつかの魔石を取り出すソフィー。
色も形も大きさもそれぞれ異なる石が、テーブルに並べられていく。
「こんなに種類があるのか」
魔石には、その種類によって効力が異なり、様々な使われ方をされている。
魔術の効力を高めるための補助アイテムとしての使われ方。
簡易な魔術を魔石に込めておき、いつでも自由に魔術を使えるマジックアイテムとしての使われ方。
己の魔力を魔石に保存しておき、いざ魔力が不足した時に、そこから魔石を取り出す、という使われ方。
魔石の主な使われ方としては、こんなところだ。
「ご存知だと思いますが、魔石の種類によって、効力や用途は異なります。例えばこの魔石は、魔術の効力や成功率を高めるために使われます。そして、この魔石は、あらかじめ魔術を込めておくことで、任意のタイミングで、魔力をほとんど消費せずに魔術を発動させることができます」
「他には?」
「珍しいものとしては…映像の魔石という物がございます。ご覧になったことは?」
「何度か。数える程度だが。ただ、実際に映像を記録したり、再現したりといったところを見たことはない」
「今は、魔石を使わずとも映像を残すことができますからね」
他国からもたらされた、映像を保存するための器具や技術。
魔術の才能によらず、誰でも自由に映像を記録することができるようになった。
これに対し、使用できる者が限られており、かつコストの高い映像の魔石は、使われなくなっていった。
「まずは、実際にご覧いただきましょうか」
テーブルに並んだ魔石の中から、白い、半透明な魔石を取り上げる。
八面体にカットされたそれを、ソフィーが握る。
ボソボソと、ソフィーが何かを呟く。
ソフィーが握っている魔石が、微かに光を放った。
「今、私が見聞きしているものを、この魔石に保存しています」
「ほう」
「私が今見ているものや、聞こえているものが、この魔石に記録されていっています」
「ふぅん…」
1分ほど経っただろうか。
「今度は、この魔石に保存した映像をお見せいたします。マーティナ様、手をお出しいただけますか?」
「ん、ああ。構わないが」
言われるまま、右手を差し出す。
「失礼いたします」
魔石を握ったのと反対側の手で、私の右手に触れるソフィー。
「そのまま、目を閉じてください」
言われるまま、目を閉じる。
「これから、映像をマーティナ様に送ります。まぶたの裏を見続けるような感じでいてください」
「ああ…おっ、これは…」
まぶたの裏に、私の姿が浮かぶ。
夢を見ているようだが、夢よりも映像がはっきりとしている。
『今、私が見聞きしているものを、この魔石に保存しています』
『ほう』
先ほどの会話。
映像と連動して、ソフィーや、私の声が聞こえる。
「目を開けてください」
目を開ける。
映像も、音声も途切れた。
「いかがでした?」
「ああ、なんというか、うまく言えないが、不思議な感覚だ。夢を見ているようだったが、夢とはまた違うし…」
「術者の技量や使用する魔力量、魔石の質等によって、映像の鮮明さなども変わってきます」
「そうか、奥が深そうだな」
「それと、今回は私を経由して映像をご覧いただきましたが、魔石から直接映像をご覧いただけるようになると、更に鮮明にご覧いただけますよ」
「魔石から直接、か。私にも出来るだろうか」
「適正もありますが、マーティナ様であれば、おそらく出来ると思います。ただ、習得するにはある程度の日数が掛かります。中には一週間ほどでできるようになった方もいるようですが、大体は2〜3週間ほど掛かります」
「そうか…やり方を教えてもらえるか?」
「もちろんです」
ソフィーが手に持った魔石を差し出してくる。
魔石を受け取る。
「魔石を握って、目を閉じてください」
「ああ、わかった」
目を閉じる。
「それで、どうすればいい?」
「魔石が放っているエネルギーを、捕まえてください」
「捕まえる?」
「あ、ええと…魔石が放っているエネルギーを、感じ取れますか?」
「魔石が放っているエネルギー…」
手のひらの魔石。
さっきまでソフィーが握っていたため、温かさが残っている。
八面体の、少しだけゴツゴツした感触。
「手のひらの感触というよりは、魔石の気配というか、雰囲気というか…」
「気配、雰囲気…」
新人の頃受けた、魔術の訓練を思い出す。
立ち合い。
相手が、どのような魔術を放とうとしているか。
相手と向き合っていると、その人が放っている独特のエネルギーを感じる時がある。
あれが、魔術の気配なのだとしたら。
手に持った魔石と対峙する。
魔石の放つ気配。
これは…
なんとなく掴みかけたものを、離さないように集中する。
そして、その掴んだイメージを自分の意識と同調させる。
あと一つ、何か手順があったはず。
確か…
ソフィーが呟いた、詠唱の言葉。
聞こえたままの言葉を、同じように呟く。
突然、視界が開けた。
目の前には、テーブルを挟んで、私が座っている。
ソフィーの説明に、少し驚いた表情を浮かべる。
ただの映像ではなく、手を伸ばせば実際に触れられそうな…
思わず、手を伸ばす。
しかし、私の動きは映像の中には反映されない。
声も、実際に耳で聴いているようにしか思えない。
目を開ける。
「これは、すごいな」
「も、もしかして…」
「映像が見えた。こんなにはっきりと見えるのだな。見えるというより、映像の中に入ってしまったような感じだった」
「す、すごい。たった数分で…」
ソフィーが、目を見開いている。
「マーティナ様は、魔石使いとしての素質もお持ちなのかもしれません。正直、驚いています」
他にも、いくつかの種類の魔石を、実演しながら説明してもらう。
「ヘレンが魔石を使っているのを見たことはあったが、こんなに色々な使い方があったとはな。それに、こんなに若い君が使いこなしているというのも、驚いた」
私の調査に同行するはずだった直属の部下、ヘレン。
彼女も魔石の扱いに長けていたが…
「マーティナ様にそうおっしゃっていただけると…ヘレン様にはとても敵いませんが、恐縮です」
「どこで、これを学んだのだ?差し支えなければ、教えてもらえないか?」
ヘレンやソフィー以外にも、機関の中で魔石使いはいる。
しかし、この若さでここまで精通している者はそうはいないはずだ。
「私の育ての親が、魔石に詳しかったのです」
「む」
微妙な話題だったか。
「イースコート修道院というところで、私は育てられました。孤児であった私を拾い、育ててくださったのが、そこにいたシスターだったんです」
イースコート修道院。
どこかで聞いたことがある。
確か…
「シスター・エリアナ」
「ご存知でしたか」
「魔術機関出身の女性だったな。魔術師としても研究者としても優秀な方だったと聞く」
今日に伝わる魔石の技術は、彼女の功績によるところが大きい。
指導者としても期待されていたが、何故か機関を去り、故郷の地で修道院を開いたという。
「エリアナ様は、私の育ての親であり、命の恩人でもあるのです」
修道院を開いてからも、彼女は時々魔石を使っていたのだという。
魔石の種類によっては、怪我の治療や精神状態の改善に効果を発揮するものもある。
ソフィーは、そんなエリアナを見て、魔石に興味をもったらしい。
しかし、そういえば…
戦時中、当時軍部にいたエリアナは巨大魔石の調査を行なってはいなかったか?
今回の任務である、巨大魔石。
「巨大魔石について、君の知っていることを教えてくれ」
「かしこまりました」
巨大魔石。
この村の山奥に封印された、巨大な魔石。
「実は、この魔石については分かっていないことが多いのです」
この任務を命じられる前から、巨大魔石の存在自体は知っていた。
しかし、調べようとしても、巨大魔石について書かれた資料は驚くほど少ない。
運よく見つけても、私が知っている範囲のことくらいしか記載されていないのだ。
まるで、意図的に隠されているかのような…
「先の大戦でも使用された巨大魔石ですが、その危険性から封印されてしまったのは、ご存知ですね?」
「ああ」
無尽蔵とも思えるほどの魔力を秘めた巨大魔石。
先の大戦中は、その効果を遺憾なく発揮した。
攻撃を防ぐ結界の魔術を広範囲に張りつつ、攻撃の魔術で相手国を攻撃する。
他国には真似のできないこの戦術は、非常に効果的だった。
ただ、欠点もあった。
強力な魔術を使える者が多かったとされる当時であっても、それほど強力な魔術を使える者は限られていた、という点。
そしてもう一つは、これらの魔術は膨大な魔力を必要とする、という点。
戦況が厳しさを増すにつれ、人材や魔力不足は深刻化していった。
そこで出されたのが、『巨大魔石から魔力を取り出すことはできないか』という意見だった。
ある日突然発掘されたという、大きな魔石。
調査の結果、膨大な魔力を蓄えているということが分かった。
しかし、その場から持ち出そうとしてもびくともせず、砕いて運び出そうとしても、傷一つつけることはできなかったという。
戦時中、魔力不足に悩まされた軍部は、巨大魔石から魔力を取り出す方法を本格的に探し始めた。
そしてついに、魔力を取り出すことに成功する。
魔力不足により防戦一方となっていた軍は、ここで一気に攻勢に転じる。
しかし、そこである事故が起きた。
事故の内容については、詳細を記した資料が残っていない。
ただ、その危険性から巨大魔石の使用は禁止され、巨大魔石自体も封印されることになった。
今では、巨大魔石の存在自体、知らない者もいるくらいだ。
「あ、もうこんな時間ですね。長旅でお疲れでしょうし、明日も早いですから、今日はこの辺にしておきましょうか」
翌日から始まる、巨大魔石の調査。
出発時刻や装備品、諸注意等の確認をし、解散した。
自室へと戻るソフィー。
私は、執務室の中でしばし考え事をした。
巨大魔石の危険性。
今回の任務の難しさの1つは、そこにあった。
何が起こるか分からない中で調査を行わねばならないのだ。
そして、上層部はこのことについて周囲に知られるのを嫌っている節がある。
調査を行う者の安全を確保しつつ、巨大魔石の解析を行う。
しかも、可能な限り少人数で。
シスター・エリアナ。
巨大魔石の研究していた彼女なら、当時の事故について何か知っていた可能性はある。
あるいは、事故に関与していた可能性も。
機関を去り、修道院を開いたことと、何か関係があるのだろうか。
そして、そのエリアナに育てられたという、ソフィー。
そのソフィーが、こうして巨大魔石の調査に携わることになったのだ。
「おや?」
ソフィーの魔石。
テーブルの下に一つ落ちていた。
たしか、映像の魔石、だったか。
「無用心だな」
ソフィーに渡しに行こうと思い、六面体の魔石を拾い上げる。
『マーティナ様は、魔石使いとしての素質もお持ちなのかもしれません』
ソフィーの驚いた顔を思い出す。
もしそうなら、この任務がひと段落した頃、本格的に学んでみてもいいかもしれない。
ヘレンの体調が戻ったら、相談してみるか。
暴漢に襲われ、負傷した部下を思う。
それにしても…
先ほどの、映像の魔石から直接得た感覚を思い出す。
あんなにも鮮やかに、リアルに感じることができるのか。
魔石の可能性に思いを馳せる。
これらをうまく活用することができれば、できることの幅が驚くほど広がる。
元々持っている私の魔術と、魔石を組み合わせたら。
ざっと考えただけでも、何通りもの組み合わせが頭に浮かんでくる。
久しぶりに、ワクワクしてくる。
この魔石には、どんな映像が保存されているのだろう。
ふと、そんなことを思う。
さっきの魔石のようでもあるが、何となく形や大きさが違うような気がする。
気持ちが昂っていたのもあるだろう。
悪いとは思ったが、好奇心には勝てず、魔石を握る。
そして、その魔石が放つ気配を捕らえ、自分の意識を重ねていく…
保存されていた映像。
それは、私が思っていたものとはかけ離れていた。
まず目に入ったのは、ハンナの姿。
そういえば、ソフィーはハンナと同じ部署だったな。
久しぶりに見るハンナの顔に、一瞬懐かしさを覚える。
しかし、それもすぐに消し飛んでしまう。
映像の中のハンナは、なぜか服を着ていなかった。
顔を赤くさせたハンナが、正座をしている。
普段は毅然とした態度をしていることの多いハンナ。
プライドは高いが、能力も高く、周囲からの評判もよい。
そのハンナが、卑屈な笑みを浮かべながら、こちらを見ている。
「ハンナ様、魔力は貯めてきてくださいましたか?」
聞き覚えのある声。
「あ、ああ。ほら…」
腰を浮かせ、自らの秘所に手を伸ばすハンナ。
取り出した魔石を両手で持ち、捧げるようにして差し出す。
「う、受け取ってくれ」
差し出された魔石をつまみ上げ、宙に浮かせるようにして眺める、視界の主。
「はい。さすがハンナ様のだけあって、美味しそうな魔力…」
魔石を眺める視界の主、ソフィーと、卑屈な笑みを浮かべるハンナ。
「な、なあいいだろう?魔力も渡したことだし、そろそろ…」
「でも…」
「で、でも、なんだ?」
「前回の時より、少し薄くなってるような…」
「そ、そんな」
「魔石に吸われてしまった分の魔力は、ちゃんと補充しましたか?」
「そ、それは…業務が忙しくて、なかなか…」
「そうですか。ハンナ様ほどの魔術の素養がある方ですから大丈夫とは思いますが…気をつけてくださいね。ハンナ様ほどの方が、気がつけば一般職員以下、下手をしたら新人の子にも勝てないような、なさけなーい魔術師になってしまうかもしれませんよ?」
「そ、そんな…」
「でも、安心してください。もしそうなっても、私がハンナ様を養って差し上げます。かわいいマゾ犬として、ね」
ハンナが、悔しそうに下唇を噛む。
「ですから、これからも好きなだけ私に貢いでくださいね?貢ぎマゾのハンナ様」
「くぅ、んっ…」
ハンナの体が、小刻みに震えた。
「あれ、どうなさいました、ハンナ様?もしかして、今の言葉で達してしまわれたのですか?」
「ご、ごめんなさい…」
「いえ、気になさらないでください。でも…」
わざとらしく、声を落とすソフィー。
「本当に、気をつけてくださいね。魔力を吸われるのって、だんだん癖になってしまうようですから。魔力を吸われるのが大好きな、魔力を吸われることなしには生きていけないような変態さんには、なりたくないでしょう?」
「は、はい…」
「じゃあ、貢いでくださった魔力の分、可愛がって差し上げますね、ハンナ様?」
「あ、ありがとうございます…」
「上官であるハンナ様が、部下である私にそのような言葉づかいをなさってはいけませんよ?いつものように、命令してくださっていいのですよ?」
「そんな…イジワルしないで、ください…」
「ふふ。スイッチが入ってしまったようですね。分かりました。それでは、こちらにお尻を向けてください」
「は、はいっ!」
嬉々として、自分の部下にお尻を突き出すハンナ。
「もう、こんなに濡らして…そんなに期待なさっていたんですか?」
「は、はい、期待してましたぁ。ソフィーにお尻ペンペンされたくて、ずっと我慢してたのぉ…だから、早くぅ…」
突き出したお尻を左右に揺らし、ソフィーに懇願するハンナ。
もはや、普段の威厳などカケラも残ってはいなかった。
「あーあ、こんな姿のハンナ様、他の人に見られたらゲンメツされちゃいますよ?」
「いいのぉ、ゲンメツされてもいいから、早くぅ…」
「はいはい、分かりました。それじゃあ、いきますよ」
大きく振りかぶった手を、勢いよくハンナの臀部に叩きつけるソフィー。
パシッという、乾いたような大きな音が響く。
「ぁぁぁっ」
ハンナの、苦痛とも悦びとも取れるうめき。
そのまま、手のひらでハンナのお尻を叩き続けるソフィー。
真っ白だったお尻が、みるみるうちに赤くなっていく。
叩かれるたび、ハンナがうめき声を上げる。
その声を聞くたび、何故か胸が甘く締め付けられる。
「ハンナ様の体に刻み込ませていただきます。魔力を貢ぐたびに、こうしてこうしてお尻が真っ赤になるまで叩いてもらえるということを。いかがですか?ハンナ様の貴重な魔力は、これからも私がきちんと搾り取って差し上げますからね?」
「あ、ありがとう、ございますぅ!」
お尻だけでなく、顔まで真っ赤になったハンナ。
「でも、本当に気をつけてくださいね。魔力の補充が追いつかないまま魔力を吸われ続けてしまうと、本当によわよわの魔術師になってしまいますからね。嫌でしょう?せっかく魔力の才能を持ってお生まれになって、努力もたくさんなさって、ようやく上官にまでなられたのに、新人にも勝てないようなザコ魔術師になってしまうのは」
「い、嫌、ですぅ」
「ふふ。でしたら、精進なさってくださいね、ハンナ様?」
映像を見終わった後、しばらく呆然としていた。
あまりのことに、頭が混乱していた。
私の記憶の中のハンナは、いつも毅然とした態度をとっていた。
しかし、映像の中のハンナは、あまりにも情けない姿を晒していた。
そして、この映像を魔石に保存した張本人である、ソフィー。
優しげで、どこか気弱に見える彼女の、もう一つの顔。
上官であるはずのハンナが、服も着ずにソフィーに跪き…
卑屈な笑みを浮かべながら、己の魔力を差し出す。
その対価として、ハンナのお尻を叩くソフィー。
あまりにも倒錯していて、現実味がない。
互いに認め合っていた友に裏切られたという怒り。
あるいは、大切な友をぞんざいに扱う、少女のようなソフィーに対する怒り。
それだけではない。
先ほどの映像を見てから、体が火照って仕方ないのだ。
そんな自分に戸惑う。
ある感情が、自分に生じている。
否定すればするほど、その感情は強く、大きくなっていく。
ありえないことだ。
魔術師としての高い才能を持って生まれ、30年に一度の逸材と言われた私。
同じく、魔術師として恵まれた才能を持って生まれたハンナ。
しかし、その魔力を部下であるソフィーに貢ぎ、その見返りとしてマゾヒストとしての欲求をソフィーに満たさせている。
ソフィーの言葉を借りれば、貢ぎマゾとして調教されているのだ。
魔術師の風上にも置けない奴。
あんな、破廉恥な…
自らの秘所に手を伸ばす。
下着が、驚くほど濡れている。
私は周囲を見渡し、ソフィーの気配がないことを確認してから、下着を勢いよくずり下げた。
ここ数年、色事とは無縁だった。
それが、あんな映像を観て、あてられてしまったのだ。
だから、仕方ない。
任務に集中するために、仕方なくやるのだ。
私は再び魔石に手を伸ばす。
目を閉じ、先ほどの映像に浸る。
部下に魔力を貢ぎ、屈辱的な格好で責められる上官。
慇懃無礼な態度と言葉で、己の上官を責める部下。
魔石を握る手とは反対側の手で、自らの最も敏感な突起に触れる。
こんなこと、こんな屈辱的なこと…
否定すればするほど、快感が、脳に食い込んでいく。
ソフィーが、慇懃無礼な言葉で、ハンナを、私を追い込んでいく。
私は、ソフィーに貢ぎマゾとしての忠誠を誓うハンナに自分を投影しながら、体を震わせた。

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