lunatic 1話

「ねえ、澪。来週の金曜日、帰りが遅くなるかも」
都が言った。
「プロジェクトがひと段落したから、みんなで飲みに行こうって話になって…」
「そう…分かった。楽しんでおいで」
「ごめんね」
申し訳なさそうに言う都に、笑顔で応えた。
実際のところ、残念な思いはある。
でも、職場の付き合いなら、仕方ない。
私たちは、付き合い始めてから、もうじき3年になる。
その記念日として、来週の金曜日に二人で食事をしようと約束していたのだ。
小関都とは、会社の同期だった。
最初はさほど接点もなかったが、今の部署に異動してから、仕事上でのやり取りが増えた。
昼食を一緒にする回数が増え、プライベートでも遊ぶようになり、やがて…といった感じだ。
週末は、こうしてどちらかの部屋で会っている。
ただ、付き合っていることは、周囲には話していない。
月曜日。
都のいる部署へ、決裁のおりた書類を届ける。
担当者へ書類を渡しつつ、目で都を探す。
いた。
同じ部署の社員数人と打ち合わせをしている。
都の隣に座っている女子社員を見て、少しだけ胸がざわめく。
岩村すみれ。
私たちより4年遅く入社してきた彼女は、何かにつけて私に対抗心を持って接してくるのだ。
ライバル視されているならまだ可愛げもあるが、どうもそういうものとも違う。
しかし、私以外の社員への接し方は、至って普通なのだ。
ほぼ全くと言っていいほど接点のない私と岩村だが、唯一といえる接点が、都だった。
岩村の入社時、彼女の指導担当についたのが、都だったのだ。
岩村は、都に対して好意を抱いている。
先輩と後輩としてではなく、おそらくそれ以上の感情を。
一度、そのことについて都と話したことがある。
岩村の、都への態度について。
そして、私への態度について。
しかし、都は笑い、真剣に取り合おうとはしなかった。
私も、それ以上言うのはなんだか格好悪い気がして、以来その話はしていない。
ミーティング中の、岩村の都へ向ける眼差し。
モヤモヤとした感情を抱きながら、私は自分の部署へと戻った。
金曜日、独りきりの夕食。
本当は、都と二人で食事をしているはずだったのだが、考えても仕方のないことだった。
夕食を終え、借りてきた映画を観る。
画面を眺めるが、内容に集中できない。
結局、途中で見るのをやめた。
こんな日は、早く寝てしまうに限る。
お風呂に入っている時、部屋の方からスマホの着信音が聞こえてきた。
都からだろうか。
なんとなく気になり、お風呂からあがる。
バスタオルで体を拭き取り、スマホの置いてあるテーブルへと向かう。
スマホの画面には、都からの着信履歴。
酔ってしまったので迎えに来て、という電話だろうか。
折り返し、都に電話する。
出ない。
20コールまで待ってみたが、繋がらなかった。
酒に酔った都が、操作を間違えて掛けてしまったのか。
酒に弱い都なら、ありそうなことだった。
電気を消して、そろそろ寝ようとしている時だった。
再び、スマホが鳴った。
ため息をつく。
起き上がり、スマホを取る。
「もしもし、都?」
返事がない。
「もしもーし」
まったく、もう。
「もしもーし、今どこにいるのー?」
やはり、返事はなかった。
電話を切ろうとしたが、なんとなく、ひっかかる。
耳をこらす。
都の声。
酔った時の都が出す、甘えたような声。
しかし、都の声はやや遠くに感じる。
胸騒ぎがして、スマホを耳に押し当てる。
都の声。
誰かと話しているのだろうか?
プロジェクトのメンバーと、まだ飲んでいるのか。
しかし、お店にいる割には、雑音はあまり聞こえない。
都と、もう一人、女性の声。
ただ、その声色は、ただの同僚に対するものではないように感じた。
むしろ、恋人同士が睦み合う時のそれに近い。
そう思った瞬間、強い衝撃を受けた。
いや、都に限って、そんなはず…
会話は途切れ途切れで、よく聞き取れない。
代わりに、水音と、甘ったるい息遣いが聞こえてくる。
ふがて、都の嬌声が耳に入ってきた。
私と睦みあっている時に出す、都のあの声。
しかし、私はそこにはいない。
その後、何度も都に電話したが、繋がることはなかった。
不安が胸の中で渦巻く。
良からぬ考えが、頭の中を何度もよぎる。
都にかぎって、そんなこと…
何度も、自分にそう言い聞かせる。
起き上がり、都に電話を掛けて、繋がらないことにヤキモキしながら、再びベッドで横になる。
そんなことを、眠りに落ちるまで何度か繰り返した。
学生同士のカップルが、楽しそうに会話している。
同じ部活に所属している二人。
晴れて恋人同士になった二人は、青春を謳歌していた。
どこかで見た光景。
これは、確か…
思い出した。
私がまだ幼かった頃に見た深夜映画だ。
あの日、夜中に目が覚めてしまった私は、どうしても再び眠りにつくことができなかった。
眠くなるまでテレビを見ようとして、たまたま放送していたのが、その映画だった。
部活帰りの二人が、楽しそうにじゃれあっている。
いつしか、主人公役は私に、恋人役は都に入れ替わっていた。
甘く、幸せな時間を都と過ごす。
しかし、何故か私は胸騒ぎがした。
何故だろう…
場面が切り替わる。
私は、暗く狭い場所にいた。
都の部屋の、押入れの中。
かすかにあいた隙間から、押入れの外を覗く。
ベッドの上で、裸同士の女が二人。
一人は都、もう一人は顔が隠れて見えない。
汗にまみれた二人が、艶めかしく、うごめいている。
押入れに隠れた私は、声を押し殺し、その様子を見つめる。
都と女が、情熱的なキスを交わす。
女の手、舌。
都の胸、お腹、太もも、大事な部分を這いまわる。
二人は互いの敏感な部分を擦り合わせ、高め合っていく。
私は、そんな二人を覗きながら、強い嫉妬にかられていた。
私ではない、別の女とのセックス 。
二人の声が、徐々に高く、大きくなっていく。
どす黒い感情が渦巻く。
嫉妬、屈辱、惨めさ…
嫌だと思っても、目が離せなかった。
声が一際大きくなり、やがて、二人が達する。
体を痙攣させる二人を、私は食い入るように見つめる。
ベッドの上で、荒い息をしながら、ぐったりとする二人。
やがて、女がゆっくりと起き上がる。
この女が、都を…
女に対する悔しさと嫉妬が、私の胸に渦巻く。
よくも、私の都を…
押入れの中から、女を睨みつける。
女がゆっくりとこちらを振り向く。
目が合った瞬間、私は強い衝撃を受けた。
自分の叫び声で、目が覚めた。
荒い息。
周囲を見回す。
見慣れた、私の部屋。
先ほどまで見ていた夢を思い出す。
かつて、幼い頃にみた深夜映画。
幼心に、子どもが観てはいけない内容だと、すぐに分かった。
しかし、なぜか見るのをやめることができなかった。
見終わった後の、言いようのない不安。
当時はそれが何なのか分からず、子どもが見てはいけないものを見た罰なのだと思った。
誰にも相談できず、必死に忘れようと努めた。
そして、さっきの夢を見るまで、そんなことがあったことすら忘れていたのだ。
あの時の、言いようのない不安。
何故、あのような感情に苛まれたのか、今ならわかる気がする。
押入れの中で覗いた光景。
その時の感情が、生々しく残っている。
最愛の人が、自分以外の誰かに抱かれている。
最愛の人が、目の前で奪われているのに、何もできないもどかしさ。
悔しさ、みじめさ、嫉妬。
それだけではない。
私は欲情していたのだ。
自分の最愛の人が、別の人に奪われる。
そのことに、言いようのない興奮を覚えたのだ。
まだ性に対する知識のない、幼い頃の私。
それでも、自分が何か間違った感情を持ってしまった気がして、それがどうしようもなく怖かったのだ。
喉が渇いている。
ベッドから降り、冷蔵庫まで歩く。
麦茶をコップに注ぎ、飲み干す。
心臓がバクバクしている。
目を閉じると、鮮明に思い出してしまう。
振り返ったあの女の、岩村すみれの顔を。
結局、あの後はウトウトすることはあっても、深い眠りにつくことはできなかった。
土曜日。
もともと、都と過ごすはずだったので、今はスケジュールは空いていた。
スマホを見る。
都からの返信はない。
私は、都のアパートまで来ていた。
自室でモヤモヤとし続けるより、来てはっきりさせようと思ったのだ。
ただでさえ、変な夢を見た後だ。
しかも、寝不足の頭は、不安なイメージをより加速させる。
都の部屋の前まで来てしまった。
心臓がバクバクする。
震える手で、チャイムを鳴らそうとする。
物音。
室内から、何か聞こえた。
反射的に手を引っ込めてしまう。
周囲を見渡し、人がいない事を確認する。
耳を、ドアに寄せる。
側から見れば、今の私は完全に不審者だった。
しかし、そんなことを気にする余裕もなかった。
都の声。
息を殺して、もう一人の気配を探る。
やはり、誰かいるのか。
わからない。
わからないが…
やはり、都以外にも部屋にいるような気がする。
チャイムを鳴らし、乗り込むべきか。
寝不足の頭で、必死に考える。
私は、バッグの中に、都の部屋の合鍵があったことを思い出した。
バッグから合鍵を取り出す。
私は、何をしているのか。
音を立てないようにそっと鍵を差し込む。
そんな私を、どこか他人事のように感じている自分がいた。
ドアを開ける。
都の靴。
そして、見知らぬ靴があった。
心臓の音が大きくなる。
私は、靴をそっと脱いだ。
都の声。
そして、もう一人。
私は、その声の主を知っている。
部屋のドアが、少しだけ開いていた。
足音を立てないように、近づく。
その隙間から、中を覗く。
ベッドの上。
いた。
都と岩村。
一糸まとわぬ姿で抱き合っている。
情熱的なキスをする二人。
頭が真っ白になる。
やがて、岩村が動いた。
都の下腹部に顔を埋める。
都が嬌声をあげる。
都の声。
徐々に大きくなっていく。
もう少しで達する。
そう思った時、岩村が顔を上げた。
「まだダメです。まだ、イかせてあげませんよ?」
「そんな…岩村、イジワルしないで…」
「ふふ。もっと気持ちよくしてあげます。高瀬先輩のことなんか忘れるくらい、気持ちよくしてあげますね」
「そんな、澪の話はしないで…」
胸が締め付けられる。
「でもまさか、ホントに高瀬先輩と付き合ってたなんてね」
「誰にも言わないでよ…」
「わかってますよ。でも、先輩って相変わらずお酒弱いですよね。私のこと高瀬先輩だと間違えて甘えてくる小関先輩、可愛かったなぁ」
「くっ…一生の不覚だわ」
「そんなこと言って、あんなに気持ちよさそうだったじゃないですか。説得力ないですよ?」
部屋の中に入っていくこともできず、立ち去ることもできない。
「ほら、こうされるの、小関先輩好きでしょ?」
都の下腹部に顔を寄せる岩村。
都が、ふたたび喘ぎ始める。
達しそうになる直前で、また止められる。
「なんで、やめちゃうの?やめないでよ…」
「ふふ、イかせてほしいですか?」
「う、うん…」
恥ずかしそうに言う都。
「じゃあ、イかせてくださいってお願いできたら、イかせてあげます」
「そ、そんなこと、言えるわけないでしょ…」
「言えないんですか?やめちゃいますよ?」
イジワルそうな表情で、都を焦らす岩村。
「わ、わかった、言う、言うから…岩村、お願い、イかせて」
「イかせてください、でしょ?」
「い、イかせてください…」
「小関先輩、後輩の私にイかせてくださいなんてお願いして…そんなにイかせて欲しいんだ?」
「そうよ、だから、お願い…」
「わかりました。じゃあ、イかせてあげる」
都が嬉しそうな声をあげる。
声が少しずつ、高く、大きくなっていく。
何度も聞いたはずの声。
私だけが聞くことのできたはずの声。
私の大好きな都の声。
それが今、私の胸に突き刺さっていく。
都が達した。
今まで聞いたことのないような声を出して、都は達した。
都の荒い呼吸。
「じゃあ、今度は小関先輩にしてもらおうかな」
そう言って、ベッドに腰掛ける岩村。
「わ、わかった」
のそのそと動き、ベッドから降りる都。
ベッドの上の岩村と、ベッドの下で跪くようにして正座する都。
都が、岩村の下腹部に顔を埋める。
そんな都を上から満足げに見下ろす岩村。
これだけを見れば、岩村が都に奉仕させているような図だ。
現実感のない光景。
ただ…
見たくないと思っても、やはり目が離せなかった。
嫌悪感や悔しさ、怒りや嫉妬に混じった、もう一つの感情。
昨夜見た夢と同じ。
二人の情事を見て、欲情しているのだ。
都が岩村に取られてしまう。
岩村への怒り、嫉妬、悔しさを感じれば感じるほど、お腹が熱くなるのだ。
気付くと、私はズボンの中に手を入れていた。
下着が、驚くほど濡れている。
岩村に跪き、奉仕する都。
都の頭を撫でながら、満足そうに眺める岩村。
感情が、グチャグチャになる。
自分がどうしたいのかもわからず、ただ情欲に突き動かされるように、自分を慰める。
最愛の人が、自分ではない別の女に奉仕している。
しかも、相手はあの岩村なのだ。
悔しくて、悲しくてたまらないはずなのに…
私は二人を止めることもできず、ドアの隙間から覗き見しながらオナニーをしている。
滑稽だった。
やがて、岩村の声が高く、大きくなっていく。
岩村の体が痙攣した。
静寂と、岩村の荒い呼吸。
そして…
「小関先輩、気持ちよかったですよ…」
都の頭を撫でる岩村。
顔を上気させ、恥ずかしそうにうつむく都。
岩村が都に顔を寄せる。
再び、キスをする二人。
啄ばむような、優しいキス。
やがて、お互いをむさぼるような、激しいキスへと移っていく。
「小関先輩、好きです」
「うん…」
「高瀬先輩なんかより、私の方がもっと小関先輩のこと気持ちよくしてあげますよ?」
「そんなこと…」
「高瀬先輩じゃ、こんなに気持ちよくしてくれなかったでしょ?」
「それは…」
「じゃあ、もっと気持ちいいことしてあげる」
そう言って、岩村は立ち上がると、床に落ちていたストッキングを拾い上げた。
そのストッキングで、都の両手を縛る。
「どうですか、小関先輩。これでもう、私に抵抗できなくなっちゃいましたよ?」
「うん…」
「以前から思ってたんですけど、小関先輩ってMっ気がありますよね」
「な、何言ってるの。そ、そんなことない…」
恥ずかしそうに言う都。
「絶対Mですよ。ほら、手を縛られただけで、もうこんなに溢れてきてる」
そう言って、都の秘所に触れる。
「あっ、ダメ…」
「ほら見て、先輩」
秘所から手を引き、濡れた手を都に見せつける。
「あ、ああ…」
「ふふ。やっぱり先輩はMなんだ」
「やめて、言わないで…」
「実は私、責める方が好きなんです。私たち、相性がいいと思いませんか?」
都にまたがり、いたずらっぽい表情で見下ろす岩村。
都が、モジモジとする。
「高瀬先輩も、きっとMですよ。そうでしょ?」
「わ、わかんないよ…」
「Mな高瀬先輩じゃ、小関先輩を満足させられませんよ。今から、たっぷりとそれを教えてあげます」
「あっ」
都の乳首をつまみ、指先で優しく転がすようにさする。
口を真一文字に閉じ、耐える都。
「ほら、こうすると、気持ちいいでしょ」
時折、少し強めに乳首を引っ張る。
「どうです?痛かったら、やめますけど」
「や、やめなくていい…」
「ふふっ」
余裕のない顔で、岩村の責めに耐える都。
一方、岩村は楽しそうに都の乳首を弄んでいる。
優しく、指先で乳首をさする岩村。
ウットリとした表情の都。
すかさず、乳首を引っ張る岩村。
「あああっ!」
すぐに力を緩め、乳首をさする。
「ほら、小関先輩の乳首、こんなに固くなって、自己主張してますよ。もっといじめてください、もっと強く引っ張ってください、って」
「そんなこと、言うな…」
顔を真っ赤にしながら、必死に耐える都。
「ほらほら、ここをこうして、コリコリってされると、気持ちいいでしょ」
乳首をつまみ、軽く押しつぶすようにして転がす。
「ああっ、それ、ダメ…」
「ほら、小関先輩の乳首がよろこんでるよ」
「そんなこと…ああっ」
岩村が、都の耳元で何かを囁いた。
ここからは聞き取れなかったが、都が恥ずかしそうに頷いた。
「ほら、小関先輩、どうしたの?言わないとわからないよ?」
挑発するような言い方の岩村。
都は顔を赤くしながら、必死に何かに耐えている。
しかし…
「い、いかせて、岩村…」
「イかせて欲しいの?だったら、ちゃんとお願いしなさい。さっきはちゃんと言えたでしょう?」
「ち、調子に乗るな…」
その声は弱々しかった。
岩村が、都の乳首を強く引っ張る。
都の口から、艶を帯びたため息が出る。
「ほら、ちゃんとお願いしなさい、都」
口を固く結び、耐える都。
「ほらほら、乳首をコリコリされながら、イかされたいんでしょう?」
都が目を閉じる。
「い、イかせてください…」
絞り出したような声。
「後輩の手で乳首をコリコリされながら、イかされたいのね、都は」
「い、岩村…の手で、乳首をコリコリされながら、イかされたい、です…」
悔しそうな、恥ずかしそうな表情の都。
「ふふ…じゃあ、高瀬先輩と別れて、私と付き合いなさい。そうしたら、イかせてあげる」
「そんな、できない、そんなこと…」
「じゃあ、イかせてあげない」
「イジワルしないで…もうガマンできない…」
「だったら、高瀬先輩にしてもらったら?」
「でも、澪だと、その…」
言いにくそうな都。
「高瀬先輩だと、何?」
「岩村、みたいに、責めてくれないから…」
都、なんでそんな事言うの?
「あはは!やっぱり高瀬先輩じゃ満足できないんだ?」
「み、澪は、あなたと違って優しいのよ…」
私の大切な都。
その都が、今、別の女に奪われようとしている。
ドロドロとした感情が、胸に渦巻く。
泣きたいほど嫌なのに、私は自分の手を止めることができない。
こんなのはおかしい。
そう思っても、手を止めることができないのだ。
私は、どうにかなってしまったのか。
「ほら、マゾな都さん、早くお願いしなさい。じゃないと私、帰っちゃうよ?それともマゾな高瀬先輩と一緒に、これまでどおり満たされないセックスを続けるつもり?」
セックスは、愛があれば、相手を想う心があれば満たされるの。
そうでしょ、都?
「い、岩村に、いじめられたい…です」
都…
「じゃあ、グズグズしてないで、さっさとお願いしなさい。マゾな都を、これからたっぷりといじめてください、すみれ様。はい」
や、やめて、都…
「ま…マゾな、都を、これからたっぷりと…いじめてください、す…すみれ、さま…」
何を言っているの、やめて…
「私は、マゾな澪ではもう満足できません。これからは、すみれ様にいじめてもらいたいです」
「わ、私は、マゾな澪ではもう満足、できません…これからは、すみれ様に、いじめてもらいたい、です…」
「よく言えました。えらいね、都。いい子いい子」
都の頭を撫でる岩村。
「これから、たっぷりと可愛がってあげる」
私は、怒りでどうにかなりそうだった。
大切な都を乱暴に奪い取った岩村に。
恋人である私を、いとも容易く裏切った都に。
そして何より、それを止めることもできず、ただ眺めているだけの自分に。
いや、眺めているだけではない。
大切な存在が奪われるのを眺めながら、発情し、オナニーをしているのだ。
憎い岩村の、勝ち誇った顔を見るたび。
私を裏切り、どこか媚びたような表情を岩村に向ける都を見るたび。
そして、惨めにオナニーをするしかない自分を思うたび。
体の奥底から、際限なく劣情が湧きあがってくるのだ。
脳がショートしてしまったのかもしれない。
私は、自分が泣いていることにも気付かぬまま、独り、達した。

コメント

  1. みどり より:

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    都の部屋のシーンで私も心臓をバクバクさせながら読んでました。3人の関係がどうなっていくのか続きが待ち遠しいです。

  2. slowdy より:

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    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > みどりさん
    ありがとうございます!
    第1話の一番の見せ場なので、どう表現するか悩んだのですが、頑張った甲斐がありました。
    3人の関係性が、今後どのように変化していくのか、ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
    今度の水曜日には続きを投稿できると思います。