lunatic 3話

土曜日。
部屋を掃除したり、布団を干したり、散歩をしたりして過ごす。
じっとしていると色々と考えてしまうので、とにかく体を動かし続けた。
それでも、考えてしまう。
都の変わりよう。
岩村への、媚びた表情。
岩村の足元に跪き、奉仕する都。
今まで見たことのない都が、そこにはいた。
信じられないような光景だったが、岩村に強制されているようには見えなかった。
『私が本当に求めていたもの。それを、すみれ様が気付かせてくださったの』
都の言葉。
それが本当なのだとしたら、この3年間は何だったのか。
私が3年間かけて辿り着けなかったものを、岩村はたった数日で辿り着いてしまったというのか。
岩村への怒りや悔しさ、嫉妬といった感情の中に、別の感情が混じり始める。
岩村への劣等感。
岩村の言う通り、都に相応しいのは私ではなく岩村なのではないか。
岩村より劣っている自分は、二人のそばでオナニーをしているのがお似合いなのではないか。
そんなことを考えている自分に気付き、慌てて頭を振る。
しかし、岩村への怒りの感情を強く持とうとすればするほど、別のイメージが強く浮かび上がってくる。
岩村に命令され、二人のセックスをそばで眺める私。
イメージの中の岩村は、私にオナニーを命じたり、逆に禁止したりする。
その命令に反発しつつ、内心嬉々として従う私。
そんなことを考えている自分に気付き、驚きや嫌悪感を持ちつつも、確実にマゾとしての資質を開花させつつある自分に胸が高鳴ってしまうのだ。
都を取り戻したいという思いは、いまだに強く持っている。
一方で、岩村に服従し、命令されたいという願望を秘めている自分にも気付いてしまった。
しかし、この願望は絶対に間違っている。
決して受け入れてはいけない。
抗い、克服しなければいけないのだ。
そんなことを考えている時だった。
メールの着信音。
スマホを見る。
メールの送り主は、都。
内容は、昨日のことだった。
私に黙って岩村と過ごしていたことへのお詫び。
岩村のことで迷い、自分でも戸惑っているということ。
勝手で申し訳ないが、また自分の部屋まで来て欲しい。
岩村も交えて、3人で話がしたい。
メールには、そう書かれていた。
都を取り戻す、最後のチャンスになるかもしれない。
都の部屋。
既に、岩村は先に来ていた。
睨みつける。
「そう、怖い顔しないでくださいよ」
岩村の余裕そうな表情を見ていると、不安や焦りが強くなる。
「呼び出したりしてゴメンね。私、澪が、その、寝取られマゾっていう人だって、どうしても信じられなくて…」
「都が確かめたいんですって。本当に、高瀬センパイが寝取られマゾなのかどうか」
挑発するような岩村の表情に、私は胸が高鳴る。
そんな自分に戸惑いつつも、それを隠すように岩村を再び睨みつける。
「それで、私にどうしろっていうの?」
「私とすみれさ…岩村で、今からエッチをするの。澪は、それをここで見ていてほしいの…」
「な、なんで私が、あなたたちの…」
「私たちがエッチしているところを見て、高瀬センパイが興奮しないことを確かめたいんですよ、都は」
岩村。
「それで、もしセンパイが興奮していなければ、私はいさぎよく都から身を引きます」
明らかに、岩村はなにかを企んでいる。
「興奮しているかどうか、なんて…」
「私たちのエッチを見て、何もなければ、高瀬センパイの勝ち。もし、我慢できずにオナニーしちゃったり、下着をすっごく濡らしていたりしたら…」
バカバカしい。
「嫌だと言ったら?」
「高瀬センパイが寝取られマゾだって、みんなにいいふらしちゃいます。もちろん、私は都から身は引きません」
最低だ。
かといって、断るわけにもいかない。
「わ、わかった」
「ふふ、ありがとうございます」
岩村が不敵な笑みを浮かべる。
「澪、ごめんね…」
嫌な予感がするが、後には引けない。
賽は投げられたのだ。
「都、おいで」
「はい…」
都が、岩村に寄り添う。
見つめ合う二人。
岩村が、都の髪を優しくなでる。
ウットリとした表情の都。
胸が痛む。
都のあごを持ち上げ、顔を近づける岩村。
そのまま、再び見つめ合う。
やがて、啄ばむような優しいキス。
岩村に身をまかせる都。
岩村が、チラッとこちらを見る。
挑発的な笑み。
頭がカッとなる。
「ねえ、都」
「んっ、何ですか?」
「服、脱いで」
「え…、はい、分かりました」
恥ずかしそうな都。
岩村が意味ありげに笑う。
ゆっくりと、服を脱いでいく都。
目を疑った。
SMで、Mな女性が身にまとっているもの。
確か、亀甲縛りといったか。
麻縄のような本格的なものではないが、黒いエナメル質のひもが都の体を覆っている。
「なっ」
「えへへ、やっぱり恥ずかしいな…」
照れたように笑う都。
「私が、都にプレゼントしたの。似合ってるでしょ」
「そんな…」
「これを付けてると、なんだか支配されているような、所有物になったみたいで、興奮しちゃうの」
「ほら、都、いつもの挨拶、しなさい」
「はい、わかりました…」
ゆっくりと起き上がり、ベッドから降りる都。
「今日も、たくさん気持ちよくなってください、すみれ様」
正座をしたまま、頭を下げる。
「よくできました」
都が、岩村の足に手を伸ばす。
そのまま、靴下を脱がせる。
岩村が腰を少し浮かせ、その間にズボンと下着をずり下ろす都。
「失礼します」
そう言って岩村の秘所に口づけをする都。
前の時も思ったが、まるで主従関係だった。
口や舌を使い、丁寧に愛撫する都。
そんな都を、ベッドの上から満足そうに見下ろす岩村。
「気持ちいい、ですか?」
「気持ちいいよ、都」
「ふふっ」
二人だけの世界。
蚊帳の外の私は、ただ見ているしかできない。
何なのだ、これは。
これではまるで、最初から二人で申し合わせていたような…
岩村の息遣いが、徐々に熱を帯び始める。
そして…
岩村の体が、小さく痙攣した。
都が口を離す。
徐々に、痙攣も収まっていく。
「ありがと、都」
都の頭をなでる。
「じゃあ、ごほうびあげる。ほら、おいで」
「はい…」
岩村に導かれるまま、ベッドに上がる都。
優しくキスをする二人。
岩村が、都のエナメル紐に手を伸ばす。
下腹部の部分に付いたジッパーを、ゆっくりと下げていく。
今度は、岩村が都を愛撫する番のようだ。
岩村が、ジッパーの隙間から舌を差し入れる。
嬌声を上げる都を、私はただ眺める。
私も、都とのエッチの時、口で愛撫をしたことは何度もあった。
でも、あそこまで都が声を上げることはなかった。
都が乱れる。
都が達しそうになった瞬間。
岩村が、口を離した。
「えっ…」
なんで?と言いたげな都。
「ふふっ。まだだめ。まだ、いかせてあげないよ」
「そんなぁ」
「せっかく高瀬センパイが見てるんだから、もっと見せつけてやろうよ」
「え…もうっ」
照れたように笑う都。
勝ち誇ったような笑みを浮かべる岩村。
また、胸が痛んだ。
再び、都の大事な場所に口づけをする岩村。
都が、喜色を浮かべる。
「都、高瀬センパイの目を見なさい。命令よ」
「は、はい、わかりました」
都が私を見る。
切なげな表情。
私に、見せつけようというのか。
岩村の責めはよほど上手いのか、また都に余裕がなくなってくる。
達する時に見せる、都の表情。
「あっ、いく、いきます…」
そして…
「あっ…なんで…」
また、岩村が口を離した。
「まだイかせないよ」
「なんでですか?イジワルしないで…」
「そんなにイきたいの?」
「イきたいです」
「じゃあ、イかせてあげる。でもその前に、そこで物欲しそうにしているマゾ女に、オナニーさせてきなさい。そうしたら、好きなだけイかせてあげる」
マゾ女という言葉に、私の体が勝手に反応する。
胸の痛みが、甘くじんわりとひろがる。
ベッドから降りた都が近づいてくる。
「ほら、澪、オナニーしたいんでしょ?いいよ、我慢しないで」
「で、でも…」
そんなことしたら、都は…
「大丈夫、そんなことで澪のこと嫌いになんてならないから、ね?」
「う、うん、でも…」
オナニーしたら、都は岩村のものになってしまう。
それなのに、なんでそんなことを言うの?
「大丈夫。澪が興奮してるって、私、分かってるから。それに…」
都が、ズボンの上から、私の大事なところを触る。
耳元で、都がささやく。
「澪のこーこ、もう、トロトロになってるんでしょう?」
脳内に、快楽物質が放出される。
頭が真っ白になる。
澪の手が、ズボンの中に入ってくる。
「ほら、澪の下着、こんなにグッショリになってる…」
都の甘い声が、直接脳内に溶けていく。
「もう、ガマンできないんでしょう?」
「あ、あああ…」
都の爪が、下着の上から私の敏感な部分を優しくこする。
「ほら、ここをこうやって、指先でやさしーくコリコリコリってするの、澪、好きだったよね。私とすみれ様がエッチしてるところを見ながら、ここを、自分の手で、好きなだけコリコリしていいのよ?」
都の声が媚薬となり、私の全身を駆け巡っていく。
「ほら、コリコリ、コリコリ。気持ちいいね。コリコリ、コリコリ…」
「や、やめて、都、お願い…」
「私がすみれ様に取られそうで、悔しいんでしょう?でも、悔しければ悔しいほど、澪のここは、コリコリされたくなっちゃうの。私の体に触れられるのは、澪じゃなく、すみれ様なの」
「都、やめて…」
「悔しくて、情けなくて、悲しくて、みじめだけど、澪のここはエッチなお汁が溢れてきちゃうのよね?」
「都、みやこぉ…」
「澪、悔しい?」
「くやしいよぉ…」
「私とエッチしたい?」
「みやこと、エッチ、したいよぉ…」
「でも、だーめ。私はもう、すみれ様のモノなの。澪とはもう、エッチできないのよ」
「やだよぉ…」
意思に反して、腰がビクっと動く。
何かを察したのか、都の手が離れた。
都からの刺激がなくなり、私の体は、代わりとなる刺激を求め始める。
勝手に、太ももと太ももを擦りわせるように、モジモジと動く。
「ん?澪、どうしたの?」
わざとらしく、驚いた顔をする都。
「もしかして、オナニー、したくなっちゃったの?」
「ち、違う…」
「そうだよね。澪は、本当は寝取られマゾなんかじゃないよね。さっきはあんなこと言ったけど、私、信じてるから」
急にわざとらしく態度を変える都。
「私のこと本当に好きなら、オナニーなんかしないよね?まして、他の女とエッチしてるところなんか見て、興奮するような人じゃないよね?岩村から私のこと取り戻してくれるって、信じてるからね?」
「う、うん」
太もも同士をこすり合せる動きが、止まらない。
「だから、頑張ろ、ね?コリコリするの、我慢しよ?我慢できたら、私が澪のこと、いっぱいコリコリしてあげる。ほら見て?この指で、澪の敏感な所、優しく、激しく、コリコリって、されたいでしょ?」
脳からの快楽物質が、理性を削っていく。
「それとも、本当に、澪は寝取られマゾなの?私と岩村がエッチなことしてるのを、ただ眺めるだけで興奮しちゃうの?クリトリスをかたーく尖らせて、コリコリ、コリコリ、コリコリってしながら、よだれを垂らして、負け犬オナニーをするようなヘンタイなの?」
「やめて、都、お願い…」
脳がチリチリする。
足の動きが、さらに大きくなる。
もう、ダメ…
「やだよ、私、そんな澪、見たくないよ。ほら、この手で、澪のかたーく尖ったクリトリスと、乳首も、コリコリなんて、しないよね?」
私の手を取る都。
ゆっくりと、私の手を、ズボンの中に誘導する。
濡れそぼった下着。
そして、刺激を求めて自己主張する、私の最も敏感な突起。
触れた瞬間。
これまで我慢していたものが、一気に決壊した。
声にならない声をあげ、その敏感な突起を刺激する。
下着の上から、そこを何度も何度もこすりあげる。
脳に、熱いものが広がっていく。
岩村の、高らかな笑い声。
都の顔を見る。
見下したような、蔑むような笑顔。
その笑顔から目をそらすことなく、私はもう一方の手を胸に伸ばす。
硬く尖った乳首。
指先で、優しく転がすようにしてつまむ。
強く、優しく、こすったり、押し潰したり、引っ張ったり…
都が、声を出さずに口を動かす。
『コリコリ、コリコリ…』
その口の動きを見ながら、私は夢中で指先を動かした。
都が、岩村の元へと去っていく。
「おまたせしました、すみれ様」
「おかえり」
愛おしそうにキスをする二人。
それを、私は食い入るように見つめる。
二人の、見せつけるような情熱的なキス。
岩村が、都の胸に、お尻に秘所に触れる。
岩村が膝立ちになり、都が四つん這いの姿勢になる。
都の頭をつかみ、自らの秘所に引き寄せる。
都が、口を使って岩村に奉仕する。
それを、私に見せつける岩村。
「ほら、お前の大好きな都が、私のアソコを美味しそうに舐めてるのが分かる?」
「うう…」
「お前はもう都に触れることも、触れられることもできないの。だから、せいぜいそこでオナニーしながら見ていることね」
「そんなぁ…」
「ほら都、見なさい。あなたの元恋人が、私たちのエッチを見ながらみじめにオナニーしてるのよ」
岩村に奉仕をしながら、横目で私を見る都。
軽蔑を含んだ視線に、私の胸が高鳴る。
「都、そんな目で私を見ないで…私を軽蔑しないで…」
「あはは!そんなこと言いながら、手の動きがさらに激しくなったじゃない」
岩村の声。
「ほら都、あのブザマなマゾ女に、もっと見せつけてやりましょう」
シックスナインの体制で、互いを愛撫する二人。
体勢を変え、互いに秘所同士をこすり合せる二人。
気持ちよさそうに、激しくこすり合せる二人に合わせて、私も手を動かす。
もはや、二人は私の存在など忘れているかのように求め合っている。
やがて、声が高くなる。
二人が、ほぼ同時に達した。
痙攣する二人を見ながら、私も独り達した。
こうして都の部屋から変えるのは何度目か。
地に足がついていないような、フワフワとした感覚。
現実味がないような…
夢でも見ているのだろうか。
そんなことを思う。
体は自然と自宅のある方へと動いている。
しかし、自分の意思ではなく、体が勝手に動いているような気さえしてくる。
夢であってほしかった。
夢なら、どんなによかったか。
しかし、いずれにせよ私は負けたのだ。
岩村の仕組んだことだったのかはわからないが、挑発に乗って、負けた。
目先の快楽に、負けた。
都を失い、岩村と都の前で、負け犬として惨めな姿を晒したのだ。
都は、私のもとに戻ってくることはないのだろう。
岩村と都は、お似合いのカップルだ。
なぜ、こんなことになったのだろう。
なんとなく、考えてみる。
岩村が現れなければ。
プロジェクトチームの飲み会がなければ。
都が、お酒に強ければ。
都が、MではなくSだったら。
ぼんやりと考える。
私が、初めて岩村と都のセックス を目撃した時、そのまま部屋に踏み込んでいたら。
私が、こんな性癖を持ってさえいなければ。
思考がぐるぐると、何度も同じ経過をたどる。
すれ違う人が、私を見てギョッとした顔をした。
なんだろう。
よほど、ひどい顔をしているのかもしれない。
自宅に着く。
洗面台で顔を洗う。
鏡は、あえて見ないようにした。
そのまま寝室へ行き、ベッドに倒れこむ。
シャワーを浴びて、着替えないと…
そう思ったが、起き上がることすら面倒だった。
月曜日。
会社に行かなければ。
無理やり、体を起こす。
先週はどこか救いのあった出勤。
今回は、気が重い。
二人に会いたくなかった。
会社に着く。
無意識に、二人がいないかどうか周囲をうかがってしまう。
これまで通りの日常。
同僚から、顔色が悪いよ、心配された。
ありがとう、でも、大丈夫だから。
そう応える。
仕事に集中することで、二人のことを頭から締め出す。
何かから逃れるように、仕事に没頭する。
上司は喜んでいたが、同僚には奇異に映ったかもしれない。
「体調が悪いなら、無理しないほうがいいよ」
そっと声をかけてくれる同僚に、感謝しつつ、申し訳ない気持ちになる。
夜は長かった。
寝付くのに時間がかかる。
たとえ、早く眠れたとしても、その分早くに目が覚めてしまうのだ。
平日は、この繰り返しだった。
都から再びメールがあったのは、木曜日の夜だった。
メールには、『明日の夜、私の部屋に来て』とだけ。
用件のみの、一方的なメール。
そこには、これまであった愛情や気遣いは感じられなかった。
胸が苦しくなる。
その一方で、都の部屋での出来事を思い出す。
明日、都の部屋には岩村もいるのだろうか。
今度は、なにをさせられるのか。
再び、二人の営みを見せつけられるのか。
そうだとして、私は冷静でいらえるのか。
岩村のワナだったら。
負け犬の自分に対し、まだなにかしてくるつもりなのか。
わからない。
しかし、信じられないことに、ワナであることを期待さえしている自分がいるのだ。
マゾとは、ここまで業が深いものなのか。
下腹部が熱くなる。
私は絶望の入り混じった期待を胸に秘めながら、ズボンに手を差し入れた。
金曜日の夜、都の部屋。
案の定、そこには岩村も居た。
「高瀬センパイは、私がいいって言うまでここで座っててくださいね」
言葉こそ丁寧だったが、明らかに見下した態度を取っている。
「この前みたいにオナニーしたくなっても、勝手に始めたら許しませんよ」
「わ、わかった」
「ほら、都、マゾな元カノに、また見せつけてあげようね」
「はい、すみれ様…」
前回の時よりも、さらに二人の主従関係がはっきりしてきたように感じる。
主人として振る舞う岩村は、どこか風格さえ感じさせる。
一方、都はそんな岩村に心酔しているようにも見える。
ベッドに腰かけた岩村と、その足元に正座する都。
かつて、新入社員とその指導担当者だった二人は、今や完全にその関係性が逆転していた。
岩村の突き出したつま先を、ためらくことなく口に含む都。
岩村の、どうだと言わんばかりの顔。
「あなたが大事にしていた都は、私の足を舐めるのが大好きになったみたい。驚いた?」
「くっ…」
私が触れることも許されない都。
その都に対し、やりたい放題の岩村。
上気した顔で、鼻息を荒くしながら岩村の足を舐める都。
「ほら、こんなに美味しそうな顔しちゃって」
わざと挑発するように言っているのはわかった。
それでも、その言葉に、私の体が熱くなってしまう。
「悔しい?悔しいよね。あなたの大好きな都にこんなことさせて。あなたは都に触れることすらできないのにね」
ああ…
悔しさを感じれば感じるほど、下腹部が熱くなる。
頭の中が、痺れていく。
つま先をくわえたまま、都が振り返る。
ウットリとした表情。
心の底から幸せそうな、陶酔しきった顔。
ああ、都…
「都、反対の足」
「は、はい…」
当然のように、左足を突き出す岩村。
都は右足を離し、左足にも同じように奉仕を始める。
私の本能が、囁きかけてくる。
『この光景を見ながらオナニーしたら、とっても気持ちいいよ…』
私はその声を無視した。
左足への奉仕も終わった。
ようやくベッドの上に上がることを許された都。
都を抱きかかえるようにして座る岩村。
都の太ももに、優しく触れる岩村。
太ももの内側に、ゆっくりと手を這わせる。
都の、切なそうな表情。
そのまま、都の耳元で岩村が囁く。
『大好き』
『愛してる』
私にも、かろうじて聞こえるくらいの声。
都の、照れたような、嬉しそうな表情。
岩村の右手が、太ももから少しずつ中心に向かっていく。
そして、左手。
都の乳房を、優しく包む。
あくまで優しく、乳房全体を撫でる岩村。
乳輪を、円を描くように指でなぞる。
乳首に触れるとみせかけて、なかなか触れようとしない。
都がじれったそうにする。
「ほら、見なさい、都」
岩村が私の方を見る。
「あなたの元カノが、羨ましそうな目でこっちを見てるよ。あなたに触れたくてたまらないって顔してる。かわいそうに」
バカにしたように言う岩村。
「どう?この前みたいに、お猿さんみたいにオナニーしたくなってきたんじゃない、寝取られマゾの澪ちゃん?」
「澪、私、とっても気持ちいいよ。すみれ様の手で触れられると、とても幸せな気持ちになるの。澪も気持ちよくなりたいでしょ?澪の大好きなコリコリ、したいでしょ?」
私の最も敏感な部分。
なるべく意識しないようにしていたが、もう我慢できなくなりそうだ。
「でも、ダメよ澪。すみれ様のお許しが出るまでは、コリコリはダメ。我慢してね」
「そ、そんな…」
「ふふっ、いい顔ですよ、高瀬センパイ。マゾ女らしい、情けない、みじめな顔」
「ほら澪、すみれ様にお願いしたら?そうすれば、すみれ様もきっと許してくれるよ」
許してくれるだろうか。
「高瀬センパイ、どうする?私にお願いしてみる?私はべつにどちらでもいいけど」
「ほら、澪も一緒に気持ちよくなりたいでしょ?コリコリ、したいでしょ?」
「どうなの、センパイ。寝取られマゾのセンパイらしい、はずかしーいお願いができたら、考えてあげてもいいけど」
わ、私は…
「でも、そんなことしたら、都の心は更に離れていくと思うけど」
イジワルな岩村。
「ま、今更か。都があんたの元に帰ることなんて、もうないんだし。どうするの、マゾセンパイ?都を奪った私に、オナニーさせてくださいって、懇願させてあげてもいいけど?」
「ほらほら、澪、早く」
「ど、どうか…」
もう、ムリだった。
私は、正座をしたまま、両手と額を床につけた。
「どうか、私に、オナニーをさせてください…」
屈辱で、ゾクゾクする。
「アッハハハ!やっぱり我慢できなくなっちゃったのね。可哀想なマゾセンパイ。悔しくて、悔しくて、興奮しちゃったのね」
可笑しそうに笑う岩村。
顔を上げずとも、岩村がどんな表情をしているか想像できた。
「でも、それだけじゃ許す気になれないなぁ。もっと誠意を見せてくれないと」
「もう、すみれ様のイジワル」
二人の笑い声。
これ以上ない屈辱。
しかし私は、もうオナニーのことしか考えられなくなっていた。
そのためなら、プライドを捨ててもいい。
いや、むしろ屈辱だからこそ、オナニーの欲求は高まるのだ。
「ほら、そこの寝取られマゾ、続きの言葉はないの?それともこのまま帰って、独り寂しく思い出しオナニーでもする?」
「い、いえ!言います、言わせてください!私から大事な恋人を寝取ってくださった岩村様。どうかこの哀れなマゾ女に、お二人のセックスを見ながらオナニーをさせていただくことをお許しください!」
一息に言った。
心臓がバクバクしている。
「ふふっ。よく言えたね、マゾセンパイ。ほら、顔を上げて、こっちを見て」
岩村の優しい声。
顔を上げる。
岩村と目が合う。
そして…
「高瀬センパイ、オナニーをさせて…あげなーい」
「えっ」
「まだダメ。オナニーさせてあげない」
「そ、そんな!約束が違う!」
「あら、考えてあげるとは言ったけど、オナニーさせてあげるとは言ってないけど?」
「そんな!お願いします、お願いします!」
再び、頭を床につける。
「アハハハ!オナニーさせて欲しくて土下座するなんて、プライドのカケラも残ってないんですか?」
「お願いします!オナニーさせてください」
もはや、自分が何をしているのか、何を言っているのかも分からなくなってきた。
ただ、オナニーがしたくて仕方がなかった。
でもそのためには、ベッドの上にいるこの人の許可が必要なのだ。
だから、許してくれるまで必死にお願いするしかない。
「お願いします」
「ねえ、そんなにオナニーしたいの?」
「はい、オナニーしたいです」
「じゃあ、私の言うこと、聞ける?」
「はい、何でもします、しますから…」
「ん…わかった」
「あ、ありがとうございます!」
「じゃあ、条件を出すよ」
「じ、条件、ですか?」
「ひとつ、今後、私のことは、すみれ様と呼ぶこと」
「わ、わかりました、すみれ様…」
「それと、もう一つ。澪、顔を上げて、そのまま立ちなさい」
「は、はい…」
言われた通り、立ち上がる。
「そのまま、目を閉じなさい。私がいいと言うまで、目を開けてはダメよ」
「わ、わかりました…」
「都、澪にアレを」
「かしこまりました」
都が立ち上がり、動く気配があった。
ごそごそと物音がする。
都が近づいてくる。
都の香りが、鼻腔をくすぐる。
「澪、じっとしててね。少しヒヤッとするかもしれないけど、我慢してね。目を開けちゃダメだよ」
そう言って、私の下腹部に触れる。
不意に、私の下腹部が、何か冷たいものに覆われた。
「な、何?」
「大丈夫よ。安心して、澪…」
優しく囁く都。
なにやら金属音がする。
「いいよ、目を開けて」
都の声。
目を開けた私の視界に入ったもの。
それは…
「どう、私からのプレゼント。気に入ってくれたかしら?」
これは、一体?
「な、何をしたの?これは…?」
「それは、貞操帯。それがある限り、あなたは勝手にオナニーすることはできない。外してほしければ、せいぜい私に媚びることね、センパイ」

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