カメラ!カメラ!カメラ! 3話

その後、瀬里奈と顔を合わせたが、何も変わらず普段どおりだった。
もしかしたら、私が変な勘違いをしていただけだったのかもしれない。
そんな気さえしてくる。
そんな時、再び樹里がやってきた。
「浅野さん、こんにちは」
樹里が私に気づき、会釈する。
「こんにちは、飯田さん」
「名前、覚えててくれたんだ」
「はい、飯田さんも」
爽やかな笑顔。
でも、あの時…
ベランダでの一件を思い出し、顔が赤くなってしまう。
動揺していることに気づかれないよう、努めて冷静な声で言った。
「今日も、カメラの?」
「はい。と言っても、ほとんど雑談ですけどね」
樹里の背負っている荷物に気付く。
「それも機材?結構大きいのね」
「え?あ、ああ、これですね。まぁ…」
どこかぎこちなく笑う樹里。
失礼します、と言い、瀬里奈の部屋へ入っていく。
自室に戻る。
家事をしつつも、隣の部屋の様子が気になってしまう。
それとなく、ベランダに近づいてみる。
かすかに、話し声が聞こえる。
私は何をしているのだろう。
盗み聞きなんて、悪趣味だ。
苦笑し、ベランダから離れる。
家事もひと段落したところで、休憩に入る。
二人はどんな話をしているだろう。
お茶を淹れながら、考える。
カメラ、か。
昔買ったものが、おそらく実家にあるはずだ。
学生にとって決して安くはない買い物だったが、友人のアドバイスで思い切って購入したカメラ。
購入した当初は色々な物を撮っていたが、ある事がきっかけで、ほとんど使わなくなってしまった。
もう使うことはないだろうと思っていたが、楽しそうな瀬里奈達を見ていると、再びカメラを触りたくなってくる。
確か、実家の押入れに仕舞ってあったはずだ。
風景や植物を撮るのが好きで、旅行先でよくカメラを構えていた。
友人に、カメラの設定や撮り方等を聞いた覚えがあるが、今ではほとんど忘れてしまった。
今撮るとすれば、どんな写真だろう…
あれこれと思いを巡らせていた時だった。
ベランダの方から声が聞こえた。
おそらくは、瀬里奈と樹里の話し声だ。
さすがに、それはいけない…
自分を落ち付けようとするが、鼓動が早くなっているのが嫌でも分かった。
テレビのスイッチを入れる。
バラエティー番組。
集中しようとするが、内容が全然頭に入ってこない。
先日聞いた、瀬里奈の声。
胸が締め付けられるような、脳が痺れるような感覚。
身体が火照ってくる。
自分でも、どうしようもなかった。
樹里の声。
甘く、艶のある声。
どれくらい抗っていたかは分からない。
気付くと、私は立ち上がり、ベランダの方へと歩いていた。
戸をゆっくりと開け、ベランダへと出る。
しゃがみながら、瀬里奈の部屋側へ近づく。
必死に自分を止めようとするが、無駄だった。
瀬里奈の部屋へ近づくほど、二人の声がよく聞こえるようになった。
窓を開けているのか、先日の時よりも声が聞き取りやすかった。
「樹里さん、可愛いですよ」
「ほんと?」
シャッターを切る音。
「ほんとに。ほら、お尻をこっちに向けて、そのまま上目遣いでカメラを見て。そう」
再びシャッターを切る音。
「そのネコのコスチュームも、すごく樹里さんに似合ってる。可愛いなあ」
「嬉しい…瀬里奈に見てもらいたくて、買ったの」
通路の外で話していた時とは想像もつかないような、甘えるような樹里の声。
会話の合間に、シャッターを切る音が続く。
「樹里ちゃん、モジモジしちゃって、どうしたのかな?」
「あのね、また…瀬里奈に、してもらいたくて…」
「何をしてもらいたいの?言わないと分からないよ?」
「瀬里奈ちゃん、私のお尻、ペンペンってして?」
「樹里ちゃんは、お尻をペンペンってされるのが好きだね。この前もしてあげたでしょ?」
「うん、好き。だから、お願い…」
「いいよ。じゃあ、樹里ちゃん、ズボンと下着を脱ごうね」
「うん」
ゴソゴソという音。
シャッターの音が続く。
「はい、脱ぎました」
「ちゃんとお尻も出せて、えらいね、樹里ちゃん」
「えへへ」
「お尻を振っちゃって、早くペンペンして欲しくてしょうがないのね」
「うん、お願い…」
「お願いします、でしょ?樹里」
「お、お願い、します…」
「よく言えました」
直後、パシッという音。
樹里の悩ましい悲鳴。
「樹里のお尻、赤くなっちゃった。撮ってあげるね」
シャッターを切る音。
「あ、ありがとう、ございます」
「再び、パシッという音。
それから、少しずつ音の感覚が短くなっていく。
「樹里のアソコから、エッチなお汁が出てきたよ。お尻を叩かれて、感じちゃったの?」
「は、はい…」
「樹里のお尻、真っ赤になっちゃったよ?ほら、もっと強く叩いてあげる」
「うれしい、です」
瀬里奈の声が、次第に強くなっていく。
「ほら、エッチなネコちゃん、こっち向いて。蕩けきったその顔、カメラで撮ってあげる」
「にゃ、にゃあん」
「可愛いよ、樹里。いい子だね、お前は」
シャッターの音、叩く音が、何度も入れ替わる。
次第に、樹里の声が高くなっていく。
「もう、いきそうなの?いいよ、いきなさい。ほら、ほら、ほら!」
叩く音の感覚が短くなっていく。
樹里の一際高い声がしばらく続き、途切れた。
静寂。
二人の息遣いのみが聞こえる。
心臓が、ものすごく早く脈打っている。
目がチカチカする。
身体が熱い。
二人が動き出す気配を感じ、私は慌てて自室へ戻る。
下着の中に手を入れる。
驚くほど、濡れている。
瀬里奈の声。
樹里の声。
もう、自分を抑えることなどできない。
頭の中で、何度も何度も二人の声を反芻しながら、私は自らを慰めていた。
「ほら、葉月、ちゃんとお願いしなさい?」
「う、うん…」
まただ。
私は夢の中にいた。
「うん、じゃなくて、はい、でしょ?」
「は、はい…」
椅子に座っている千秋の前で、私は全裸のまま、立っていた。
「ち、千秋、さま…お願いします、私のお尻のこと、どうか、叩いてください…」
「しょうがないなあ。いいよ、叩いてあげる」
千秋の要求は更にエスカレートしていた。
やがて、SM紛いのこともやり始めたのだ。
スパンキングと呼ばれる、お尻を叩く行為。
痛いのは嫌なのに、何故か、また叩かれたくなってしまう。
千秋は、スパンキングをする前に、私に『お願い』を言わせてくる。
千秋を千秋様と呼び、お尻を叩いてくださいと言わせるのだ。
始める前の儀式のようなものだったが、今は様付で呼ぶことに抵抗がなくなってきている。
スパンキング以外の時も、様付で呼ばされるようになった。
もう、立場が逆転したどころではなかった。
「ほら、ここ」
千秋が自分の膝を叩く。
私は、千秋の膝の上で、うつ伏せの形で乗る。
オーバーザニーという体勢らしい。
千秋の掌が、私のお尻を撫でる。
叩く前、そうするのが千秋は好きだった。
私の身体は、この後の刺激を知っている。
覚え込まされてしまった…
手を振り上げる気配。
すぐに、私のお尻に衝撃が走った。
パシッという音とともに、じんわりと痛みが拡がる。
イタズラをした子どもが、親に叱られている時のような格好。
屈辱感と、被虐心が刺激される。
身も心も無防備になり、全てを千秋に委ねる。
リズミカルに、私のお尻を叩く千秋。
今日もまた、身体に、脳に、刺激が、興奮が刻まれていく。
ひとしきり叩いた千秋が、手を止めた。
「ほら、お礼は?」
「あ、ありがとう、ございます。気持ちよかったです…」
「葉月のお尻、真っ赤になってる。お猿さんみたい。お猿さんのお尻、カメラで撮ってあげるね」
近くに置いていたカメラを取り、シャッターを切っていく千秋。
行為の度にカメラで撮られている。
写真の数は、どれくらいになっただろうか…
場面が切り替わる。
サークルに顔を出した私の顔を、メンバー達がチラチラと見てくる。
ニヤニヤしながら見てくる人もいれば、汚いものでも見るかのような視線を向けてくる人もいる。
可哀想な人を見るかのような視線もある。
ヒソヒソという、話し声。
何か、嫌な事が起こっている。
なんとなく、それは分かった。
でも、一体何が?
答えは、すぐに分かった。
テーブルの上に置かれたカメラ。
私の恋人が使っているのと同じ機種の一眼レフだった。
何が起こったのか察するのと同時に、血の気が引く。
さっきから、メンバーから投げかけられている視線の意味を理解する。
「ごめん。テーブルの上にこれが置いてあってさ。興味本位で、中のデータを見ちゃったんだ。悪気はなかったんだけど…」
サークルの幹事長の声。
どこか、遠い場所から話しかけられているような感じがした。

コメント

  1. ファン より:

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    楽しみにしてました!
    年下に様付け、とても良いですね!!
    次も楽しみにしてます!

  2. slowdy より:

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    > ファンさん
    ありがとうございます!
    呼び方が変わることで、関係性の変化がよりはっきりとして、私も好きです。
    葉月や瀬里奈達が今後どうなっていくか、是非楽しんでいただけたらと思います!