カメラ!カメラ!カメラ! 4話

私は、瀬里奈、樹里と三人で、近くの総合公園まで来た。
あの後、私は実家へカメラを取りに戻った。
押入れに仕舞っていたカメラは、当時のままそこにあった。
ここ数年触っていなかったが、問題なく使用できた。
その事を瀬里奈に伝えたところ、さっそく撮り方について教えてくれる事になったのだ。
また、樹里も一緒に来てくれる事になった。
瀬里奈がカメラの設定について説明し、樹里が補足してくれる。
以前使っていた時は、カメラの設定はあまり変えなかった。
友人から説明を受けたが、難しく、手間に感じてしまったのだ。
友人は『せっかく一眼レフを買ったのに、もったいない』と嘆いていたが、それからはほとんどオートモードで撮っていた。
「オートモードで撮るのも手軽で楽しいですけど、設定を自分で調整できるようになると、もっと楽しくなりますよ」
二人にいわれた通りに設定をいじる。
視度調整の方法と、カメラに付いている各モードの説明。
実演しながら、絞り、シャッタースピードについて説明してくれる瀬里奈。
ボケを使った表現や、ブレの調整について、写真を撮りながら説明を受ける。
昔、聞いたことがあったはずだが、あまり覚えていなかった。
人懐っこい笑顔を浮かべながら喋る瀬里奈。
説明の中で分かりにくい箇所があると、樹里が噛み砕いて説明してくれる。
また、時々被写体役を買って出てくれたり、荷物を持ってくれたり、さりげない優しさを見せてくれる。
楽しい、夢のような時間だった。
ただ、時々ふとベランダで聞いたあの声を思い出してしまう。
この二人が、あんな声を…
この状況では信じがたいような気がしてくるが、確かに聞いたのだ。
「葉月さん、どうかしましたか?」
樹里が声を掛けてくる。
今は、お互い下の名前で呼び合うようになっていた。
「え?」
「私の顔を見て、ボーッとしてたから」
「あ、ううん、何でもない。ごめんね、樹里ちゃん」
「今日はPモードで撮りましょう。慣れてきた頃、Avモードに変えましょう」
「うん、分かった、瀬里奈ちゃん」
「最初はたくさん失敗すると思いますけど、それでいいんですよ。失敗を減らしていくことで、上達していきますから」
夕方になり、撮影を切り上げる。
樹里と別れた後、私達は瀬里奈の部屋へ来た。
撮った写真データをパソコンに取り込んでいく瀬里奈。
「わぁ、たくさんあるね」
パソコンには、これまで撮ってきた写真データが入っているであろうフォルダが、いくつも表示されていた。
私の撮った写真データが、パソコンに表示されていく。
撮影中にも思っていたが、改めて見てみると、明るさが合っていなかったり、ピンぼけした写真が多い。
ただ、オートモードで撮っていた時より、写真を撮っているという時間があったし、何より楽しかった。
二人の説明も分かりやすく、程よく私を持ち上げてくれるので、モチベーションも非常に高く保てた。
「すみません、ちょっとお手洗いに行ってきます。写真、見てていいですよ」
部屋を出て行く瀬里奈。
改めて、部屋を見回す。
カメラの機材や、雑誌がたくさんある。
ただ、きちんと整頓されており、雑然とした印象はない。
本当に、カメラが好きなのだろう。
パソコンを見る。
どれくらいの写真データがこの中に入っているのだろう。
想像し、途方も無い気持ちになる。
そういえば…
樹里がこの部屋に来ていた時、シャッターを切る音がしていた。
もしかしたら、あの時の写真もこの中に入っているのだろうか。
いや、さすがにこの中にはないか。
そう思いつつも、好奇心には勝てなかった。
瀬里奈の性格だろうか、フォルダ名には撮影日や場所が付いている。
あの日は、何日だったっけ。
確か…
あった。
それらしきフォルダを見つける。
鼓動が早くなる。
恐る恐る、フォルダをダブルクリックする。
「う、嘘…」
表示された画像のサムネイルには、樹里が表示されている。
でも、これは…
ネコの衣装を来た樹里。
いつもの爽やかな表情ではなく、どこか恥ずかしげに俯いている。
次の写真も見てみる。
恥ずかしそうにしながらも、可愛らしいポーズをとっている。
他にも、様々なポーズ、様々な表情の樹里がそこにいた。
甘えるようなポーズや、扇情的なポーズの写真もある。
「あ、これは…」
樹里がズボンに手を掛け、脱いでいく。
ショーツにも手を掛け、恥ずかしそうな表情を浮かべる樹里。
ショーツを脱ぎ、手でお尻を隠そうとする樹里。
そして、カメラに向けてお尻を突き出し、物欲しそうな表情を浮かべる樹里。
思わず、唾を飲み込む。
あの時の写真だ。
瀬里奈に叩かれ、赤くなっていくお尻。
痛そうだが、樹里は恍惚とした表情を浮かべていた。
画像を閉じなければと思うが、目が離せない
「こんなのって…」
「やっぱり気になります、それ?」
ビックリして、後ろを振り向く。
瀬里奈。
「多分、葉月さんなら見つけるだろうと思ってました」
「ごめんね、勝手に見ちゃって…でも、これ」
「樹里さんて、見た目もかっこいいし、気配りもできるし、女性から人気があるんです。でも、周囲からの印象と実際の自分とのギャップに悩んでいたみたいで…」
言いながら、私の隣に座る。
パソコンに映る写真を見ながら、続ける。
「樹里さんの親御さん、男の子が欲しかったみたいで…男の子として育てられて、周りの子もそんな樹里さんが好きで、周囲の期待を裏切りたくなくて…」
「うん…」
「期待されている印象を裏切ってはいけないって思ってて、でも、本当はもっと可愛らしい服装が好きで。私がサークルに入った時も、やっぱり人気があって。でも、どこか、無理してるようにも見えて…だから私、言ったんです」
「な、何て…?」
「本当の樹里さんを撮りたいです、偽っていない、ありのままの樹里さんを撮らせてくださいって」
「本当の、樹里ちゃん…」
「最初は戸惑ってましたけど、少しずつ、樹里さんも分かってくれて。本当は可愛いものが好きとか、頼られるよりも頼り甲斐のある人に甘えたいとか」
意外ではあるが、言われてみるとそうなのかもしれないという気がしてくる。
「樹里さん、動物が好きで、特に小動物が好きなんです。見たり、触れ合ったりするのも好きだし、
自分が小動物になりきるのも好きで…」
「ふ、ふぅん…」
「それと、お気づきだと思いますが、責めるより、責められる方が好きなんです。たぶん、そうだろうと思ってはいたんですけど」
淡々とと話す瀬里奈。
表情からは、その真意を読み取ることはできない。
「それで、その、こういった写真を?」
「はい。私もそうだし、樹里さんも楽しいみたいです。今は樹里さんの方から撮って欲しいって言うことが多いくらい。撮影に使うコスチュームを探すのも楽しいみたいです」
「私も、楽しそうな樹里さんを撮るのが楽しくて…それに、樹里さんは責められるのが好きなんですけど、私は責める方が好きなんです」
瀬里奈がこちらを見る。
瀬里奈と目が合う。
心臓が飛び跳ねた。
そのまま、見つめてくる。
心の中を見透かされている気がして、思わず視線を逸らす。
「何となく、分かる時があるんです。その人がどんな事を望んでいるのか。樹里さんがそうだし、高校に通っていた時も…」
心臓の音。
「真面目そうな人だったり、クールに振舞ってる人だったり。学校で、普段は偉そうにしてる先生も。その人が抱えている本心が、何となく、見えてきちゃうんです。責められたい、恥ずかしい事をさせられたい、言わされたい、誰かにひれ伏したい。そういったものが」
「う、うん…」
「私が何で葉月さんにこんなこと言うか、分かりますか?」
「わ、分からない、よ…」
ようやく、声を絞り出す。
「ベランダで、聞いてましたよね。樹里さんと私の撮影会の様子」
気付かれていた。
「あれから、気になって仕方なかったんじゃないですか?樹里さんの声、樹里さんがお尻を叩かれる音。私の声、そして、シャッターの音」
「そんなこと、ない、よ…」
「別に恥ずかしいことじゃないですよ。葉月さんや樹里さんが特別という訳ではないですし、私もそれを馬鹿にしたりはしません」
瀬里奈を見る。
真剣な表情をした瀬里奈が、こちらを見ている。
口調からも、嘘をついているようではなさそうだった。
「私は、葉月さんの写真が撮りたいです。葉月さんが心の底で求めている事を、姿を、私は撮りたいんです」
「わ、私は…」
「本当は、私に写真を撮ってもらいたかったんですよね」
「うん…」
「いいですよ。じゃあ、始めましょうか」
カメラを構える瀬里奈。
シャッターを切る音。
ベランダで聞いた音の数々が、過去の記憶が蘇ってくる。
「上着、脱いじゃいましょうか」
瀬里奈の声。
恥ずかしさと期待が入り混じる。
瀬里奈の声に従いながら、服を脱いでいく。
下着姿になった私に、シャッターを切り続ける瀬里奈。
今、撮られているんだ…
いくつも年下の女の子に、下着姿の自分を撮られている。
下着姿だけじゃない。
この後は…
考えると、身体が火照ってくる。
瀬里奈の声に導かれながら、ポーズをとっていく。
「葉月さん、とてもいい表情ですよ」
恥ずかしくて、返事ができない。
「葉月さん、上のそれ、ホックを外してみて」
ブラのホックに手を掛ける。
ホックを外し、手でブラを押さえる。
「すごく、セクシーですよ」
シャッターを切る音。
「じゃあ、ブラを取って、置いてください。胸は手で隠したままでいいですよ」
言われるまま、ブラを取り去る。
無防備になった胸を手で隠す。
瀬里奈のカメラが、私の胸を狙っているように感じる。
シャッターの音。
「今度は、下も脱いじゃいましょう」
片腕で胸を隠し、もう片方の手をショーツに掛ける。
恥ずかしい。
でも…
ゆっくりと、ショーツを下ろしていく。
私の大事な所が、少しずつ露わになっていく。
シャッターを切る音が容赦なく続く。
ショーツを脱ぎ去る。
一糸纏わぬ姿になった私を、瀬里奈は撮り続ける。
年下の女の子の前で、私だけ、全裸で立っている。
「両手を、身体の横に持ってきて」
私は観念し、胸も、アソコも、瀬里奈の前に晒す。
あの瀬里奈に、私の裸を見られている。
顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
「いい、すごくきれい…」
シャッターを切る音。
「そのまま、ゆっくりと回ってください。そう…そこで、一旦止まって」
瀬里奈に背を向けた状態で止まる。
「きれいなお尻。大きくて、柔らかそうで…あっ、隠さないで。せっかくのきれいなお尻、手で隠したらもったいないですよ」
お尻が撮られている。
「じゃあ、ゆっくりとこちらを向いてください」
「はい…」
その後も、瀬里奈の声に導かれながら、ポーズをとっていく。
「樹里さんと私の撮影会、聞きながら、どんな事考えてたんですか?」
シャッターを切りながら、質問を投げかけてくる。
「分かんない。恥ずかしいような、聞いちゃいけないものを聞いてしまっているような…」
「でも、聞くのをやめられなかったんですよね」
「うん…」
「何でだと思います?」
「わ、分かんない、です…」
「樹里さんと同じこと、されたいんですよ、葉月さんは。樹里さんみたいに、私に写真を撮られたり、責められたりしたいんです」
「そ、そんなこと…」
「葉月さん、今とっても嬉しそうですよ。それに、とってもエッチな表情してる」
「そ、そんな、恥ずかしい、よ…」
「葉月さんの裸、写真に撮られてるんですよ。葉月さんより年下の女の子に。それなのに、そんなエッチな表情しながら否定されても説得力ないですよ」
「言わないで…」
「シャッターを切る度、葉月さんが興奮してるのが分かります。葉月さんのオッパイも、お腹も、太ももも、脇の下も、お尻も、アソコも、全身が私に撮られたがってますよ。ほら、また興奮した」
言われる度、身体が反応してしまう。
恥ずかしさとも、悔しさとも違う感情が込み上げてくる。
「ベランダで、撮影会の様子を聞いていた時、興奮しちゃったんでしょう?」
「それは…」
「撮影会の後も、その事が頭から離れなくて、樹里さんみたいにされたいって、何度も想像してたんでしょう?」
「そんなの、言えない…」
「嘘ついても、バレバレですよ。ほら、ちゃんと自分で言ってください。ちゃんと言えたら、今後もまた写真を撮ってあげますよ」
「そんな…」
その間も、容赦なくシャッター音が続く。
シャッター音を聞く度、思考力が削られていく気がする。
頭がボーっとしている。
「葉月さんの口から聞きたいの。お願い、教えて…」
「じゅ、樹里ちゃんのようにされたいって、何度も、思ってました」
「樹里さんのようにされているところを、想像していたんですね。それで、何度も、自分で自分を慰めていたのね?」
「そ、それは…」
「恥ずかしくないよ、恥ずかしくない。オナニーは決して恥ずかしいことじゃないわ。だから、ね」
「は、はい…樹里ちゃんのようになりたい、瀬里奈ちゃんに責められながら、写真を撮ってもらいたいって思いながら、なんども、その、オナニー、してました」
「えらい、えらいよ、葉月さん。ちゃんと言えたね。教えてくれてありがとう。じゃあ、ちゃんと言えた葉月さんにはご褒美をあげないとね」
「ごほうび?」
「うん。葉月さん、ここに両手をついて」
近くのテーブルを示す瀬里奈。
「えっと、こう?」
テーブルの縁に両手をつく。
お尻を突き出したような格好だ。
「恥ずかしい…」
「可愛いですよ、葉月さん」
耳元で囁かれる。
脳の奥が痺れる…
「葉月さんのお尻、叩いていきますね」
「痛くしないで…」
「大丈夫、優しくしますから、大丈夫ですよ…」
瀬里奈が優しく囁く。
頭がボーッとしてくる。
「じゃあ、いきますね」
パシッという音。
衝撃とともに、お尻にじんわりとした痛みが拡がる。
「続けますよ」
「は、はい…」
再び、お尻に衝撃が来る。
その後、瀬里奈はリズミカルに私のお尻を叩いていく。
瀬里奈の前で、お尻を突き出しているのだ。
それだけでも恥ずかしいのに、お尻を叩かれている。
お尻を叩かれる度、年上としての尊厳が崩されていく。
瀬里奈に服従しているかのような、倒錯感。
妹のような女の子に、お尻を叩かれて感じてしまっているのだ。
「葉月さんのお尻、赤くなってきたよ。可愛い…撮ってあげるね」
シャッターを切る音。
撮られている。
情けない格好で、真っ赤になったお尻を突き出している姿。
写真として、残ってしまう、残されてしまう。
「ほら、もっと叩いてあげるね。嬉しい、葉月さん?」
瀬里奈の声。
少しずつ、ベランダで聞いたあの声に近づいている。
「う、嬉しい、です」
胸が勝手に高鳴ってしまう。
瀬里奈の言うように、私は責められて感じてしまう人間なのだ。
手加減しているのか、音の割に痛みはさほど強くない。
ただ、何度も叩かれているうち、少しずつ痛みが強くなっていく。
それを察したのか、瀬里奈が叩くのをやめた。
「今日は、ここまでにしましょう」
ホッとしたのと同時に、名残惜しさも感じる。
「大丈夫、またしてあげますから。ね?」
「うん…」
脱いでいた服を着る。
お尻がじんわりと痛む。
「葉月さん、とっても可愛かったですよ」
「そんな、恥ずかしいよ…」
さっきまでの事を思い出し、顔が熱くなる。
「お尻、大丈夫ですか?優しく叩いたつもりだけど…」
「うん。我慢できないほどじゃないから」
「よかった…また、撮影会しましょうね」
「うん、お願い、します…」
恥ずかしくて、俯いてしまう。
「でも、樹里ちゃんには悪いことしちゃったような気がする。勝手に写真見ちゃって、知られたくなかっただろうに…」
「あー、それについては、大丈夫です」
「大丈夫って?」
「実は、樹里さんには、事前に了承いただいています」
「…え?」
「ま、まあ、それについてはまた後でお話ししますよ」
あはは、と照れたように笑う瀬里奈。
「あ、そうだ」
瀬里奈が自分のカメラからSDカードを取り出す。
SDカードをケースにしまい、私に差し出す。
「さっき撮った写真のデータが入ってます。これ、差し上げます」
「え、でも…」
「受け取ってください」
瀬里奈の真剣な顔。
私は、SDカードを受け取った。
瀬里奈なら写真を悪用したりはしないと思うが、彼女なりの誠意なのだろうか。
「楽しかったです。今日はありがとうございました」
「私も楽しかったよ。またやろうね」
あの一件があってから、私はサークルを辞めた。
講義でかつてのサークル仲間と顔を合わせることがあったが、極力接触は避けた。
彼女達も最初は何か言いたげだったが、やがてそれもなくなった。
大学構内で人とすれ違う時、ヒソヒソという話し声や、笑い声が聞こえることがあった。
見知らぬ人達だったが、私の性癖を誰かから聞いたのか、あるいは私の自意識過剰だったのか。
日頃から講義は真面目に出席していたため、卒業に必要な単位はほとんど取れていたのが救いだった。
千秋からの連絡は、全て無視した。
あの時の私は、何も信じられなくなっていた。
そして、怒りや悲しみを、全て千秋に向けていた。
そうでもしないと、自分を保てなかったのだと思う。
大学を卒業する1ヶ月ほど前だったか。
郵便受けに、一通の手紙が投函されていた。
差出人は、千秋。
やはり私は読もうとはせず、その手紙を…
手紙を、どうしたんだっけ…

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