ポニーガールとご主人様 第四章(1)合同調教

久しぶりの調教の日。
4回目のレースから一週間後。
新田と私は、ホテルの一室で、とある人物を待っていた。

乗馬服の新田。
私は、レースの時と同様、全頭マスクと馬のコスプレ姿。
待ち始めて10分ほどした頃、ドアがノックされた。

「お待たせー」
入ってきたのは、藤崎と、その後ろに三井。
「準備にちょっと時間かかっちゃってさ。ごめんね」
「いえいえ。じゃあふたりとも、着替えのほうを…」
「ん、わかった。ほら、アッキー、行こ」

4回目のレース後、最初の調教となる今回。
新田と私、藤崎と三井による合同調教をしようという話になった。
新田と藤崎のどちらが言い出したのかは分からない。
ただ、ふたりとも、乗り気だった。

大人数用の、広めの部屋。
その片隅で、藤崎と三井が着替え始める。
ベッドに腰かけた新田と、その足元で正座をしながら待つ。

ふたりが着替え終わり。
「お待たせ」
乗馬服を着た藤崎。
一方、三井は私と同じ姿。

乗馬服姿の後輩ふたりと、全頭マスクをつけた馬の先輩ふたり。
支配する側と、される側。
私たちのユニフォームでもあり、両者を分ける明確な印でもあった。

「うーん…」
私たちを見比べながら、藤崎がつぶやく。
「これじゃ、お馬さんたちの見分けがつけにくいなぁ」
確かに、背格好も似ていて、顔も髪も全頭マスクで覆われているのだ。

「だったら、ネームタグ、付けさせましょうよ」
「ネームタグ?」
「学生証です」
「あぁ、なるほど」
イジワルな笑みを浮かべる、後輩ふたり。

「ほら、聞いてたでしょ?さっさと付けな、学生証」
新田に命令され、慌てて自分のバッグへと駆け寄る、三井と私。
互いに声を掛けることも、顔を見ることもなく。
家畜として、自身に与えられたタグを用意する。

ベッドの上で、支配者として振舞う女の子たち。
私の学生証には、彼女たちよりも上級生であることを示す、学籍番号が書かれている。
でも…
今、そんなことは何の意味も持たなかった。
ただの数字とアルファベットの羅列であり、家畜としての私に与えられた個体番号に過ぎないのだ。

学生証を、ネームホルダーに入れる。
ホルダーには予めマスキングテープが貼ってあり、私の顔写真、名前、学籍番号が隠れるようになっている。
これだって、本当は意味のないことだった。
正体を隠すべき相手には、既に私の正体を気付かれているのだから。

家畜としての『タグ』を首輪から下げた女ふたり。
ベッドに腰かけたご主人様たちの前で、並んで直立する。
蔑むような笑み。
無遠慮な視線。
ヒトとしての、先輩としての尊厳が、踏みつけられるような感覚。

調教。
すぐには始まらない。
いや、とっくに始まっていた。
ネームタグを付けさせられ。
もう一方の家畜とともに、並んで立たされる。
そして、自身の立場が、彼女たちよりも下であることを自覚させられる。
湧き上がる感情。
ちろちろと燃える火のように、被虐心を刺激する。

どれくらい、そうしていたのか。
既に時間の感覚が曖昧になっている。
気付いた時には、藤崎の足もとで、三井が四つんばいになっていた。
三井の背に、当然のような顔で藤崎が腰掛ける。

「それじゃ、さっそく始めましょうか」
三井をイス代わりにしながら、開始を告げる。
その右手にはスマホ。
新田が私を調教する様子を録画しているのだ。

ベッドに腰かけた新田。
その手には、乗馬鞭が握られていた。
嗜虐的な笑み。

言葉はない。
目と目で、交わす。

『これで、叩いて欲しいんでしょう?でも、まだダメだからね』
は、はい…
『ほら、いつもの挨拶、始めな』
わ、分かりました…

私は手を頭の後ろに回した。
そして、ゆっくりと腰を落とす。
中腰のまま、媚びるような視線で新田を、ご主人様を見つめる。
そのまま、ご主人様の言葉を、待つ。

「始めな、1号」

私を支配してくださる女の子。
彼女に楽しんでもらえるよう、心を込めて体を動かす。

指先を太ももに這わせる。
少しずつ、上の方へ移動させていき…

腰。

脇腹。

胸。

首。

今度は、指を下へ移動させていく。
指の動きに合わせて新田の視線が動く。

今度は、腰をゆっくりと左右に揺らしながら。

ご主人様を楽しませるために始めた、煽情的なダンス。
私は、この少女に楽しんでもらうために、自身の体を使う。
どうすれば、喜んでもらえるか。
それだけを考えながら。

私の胸元で揺れる、家畜としてのネームタグ。
これが、今の私の全てを表していた。

高校時代、厳しい先輩たちのしごきに堪えてきたとしても。
部長として、部員たちを率いてきたとしても。
猛勉強し、難関大と呼ばれる大学へ進学できたとしても。

私には、この個体識別番号以上の意味を持てない。

大学で過ごす、普段の私。
それは、仮の姿でしかない。

今後、どんなに経験を積み、どんなに知識を吸収し、どんな立場へなったとしても。
それは、変わらない。

ベッドに腰かけた少女。
彼女の寵愛を受けるために媚びへつらう、一頭の家畜に過ぎないのだ。

尻に生えた、馬の尻尾。
腰の動きに合わせて、ゆらゆらと揺れる。

太もも。
ウエスト。
胸。
自身のそれを、少しでも魅力的に見てもらえるように振舞う。

焦らす。
服を脱ぐ、ということはできない。
それでも、方法はあった。

お尻。
新田は、このお尻が好きらしい。
他の女の子に比べて大きい、このお尻が、私はあまり好きではなかった。
でも…

『紗枝ちゃんのお尻、白くておっきくて、やわらかいお尻。いつ見てもキレイで、エッチでうらやましいな。ずっとこうして見てたいくらい』

いつだったか。
この子に、新田に言われた言葉。
その言葉が、私のコンプレックスを和らげてくれた。

腰の動き。
徐々に、大きくしていく。
新田の意識が、そちらへ向いたのが分かった。
嬉しさを押し隠しながら、私は身体の向きを半回転させる。
お尻を新田に向ける。
そして…
すぐに、元の向きに戻る。

新田の視線。

期待。

見たがっている。
私の、お尻を。

今度は、逆向きに身体を半回転させる。
お尻。
新田に向けたまま、左右に揺らす。
後ろを振り返りながら、新田の顔を見つめる。
その目を、私のお尻にくぎ付けにすることだけに、神経を集中する。
そして…
また、身体を元の向きへと戻す。

女の私が、女としての体を使って、同性である女の子を楽しませている。

新田の目。
見られている。
体が熱くなる。

粘性のある、ドロドロの液体。
コールタールのようなそれは、下腹部からとめどなく湧き、全身へと巡っていく。

見られたい…
でも、もっと焦らしたい…
被虐と嗜虐の入り混じった感情。

新田の視線が動いた。
目が合う。

射抜かれた、と思った。

自分より優れた、より強い個体。
年下で、身体も小さいはずの女の子。

目だけで、組み伏せられてしまった。
心が、体が、屈服してしまった。
もう、どうにかなってしまいそうだった。

見てください…
心の中で、つぶやく。

身体を半回転させ、元の向きに戻り、逆側から再び半回転させる。
左右へ揺れながら、ゆっくりと回転し、背中側を向けていく。
そのまま、身体の向きは戻さなかった。
新田に向けて、お尻を突き出す。
左右に揺らす。

見てください…
見て…

太ももの裏側。
ハムストリングに、指先を這わす。
下から上に。
上から下に。
焦らすように、這わす。
そして…

下半身を覆う、布切れ。
両手の親指を、ひっかける。
少しずつ。
少しずつ。
ずり下げていく。

貴女の好きな、白くておっきくて、やわらかいお尻ですよ。
いっぱい見て、いっぱいエッチな気持ちになってくださいね。

心を込めながら。

尻たぶを、さらけ出す。

どうぞ、ご賞味ください…

ゆっくりと。
円を描くように、左右へと揺らす。
差し出す。
ご主人様に、食べてもらうために。

もちろん、言葉通りの意味ではない。
白いお尻を、その手に持った鞭で、真っ赤に腫れあがるまで。
いや、腫れた後も、彼女が満足するまで、叩いていただくのだ。

「よくできました」

ご主人様の声。

褒められた。

悦んでもらえた。

脳が、痺れる。

幸福感が、全身に拡がっていく。

鞭。

お尻に当てられた。
意識が飛びそうになる。

「ねえ、もう濡れてるんだけど?」

はい…

「叩かれることを期待して、興奮してたの?」

はい…

「それとも、私に見られて興奮してたのかな?」

はい…

「あぁ、どっちもか」

言葉に出さずとも、彼女には全てお見通しだった。

「ほら、お前のカワイイ姿、藤崎先輩に撮られてるよ」
藤崎。
ニヤニヤしながら、左手を振っている。
「後で一緒に観ようね。どんな顔しながらお尻を振ってたのか、見てあげる」
顔が熱くなる。

鞭。
尻の肉が叩かれる音。
室内に響く。
脳までじんわりと届く衝撃。
痛み。
待ちわびていた。

途中、藤崎からヤジが入る。
「普段、そうやってイジメてもらってるんだ?」
「あーあ、あんなに腫れちゃって、かわいそー」
「うわぁ、お猿さんみたいなお尻」

支配者側として振舞う藤崎。
でも…
私には分かっていた。
興奮しているということ。
顔を赤らめ、声が少し上ずっていた。

先日、藤崎が新田から受けた罰ゲーム。
鞭で叩かれながら、馬として引き回され…
ついには、言葉だけで達してしまった女。

その時の記憶が、藤崎を昂らせている。
それを、気取られないよう振舞う藤崎。

バレバレだった。

きっと、新田も気付いているだろう。
気付かないフリをしながら、あくまで彼女を支配者側として振舞わせている。

そもそも、なぜ藤崎がそちら側にいるのか。
私や三井と同じ、マゾヒスト。
あの日、あんなにブザマな姿を晒した女が、なぜ偉そうに振舞っているのか。

彼女にとって屈辱的な罰ゲーム。
馬として、コースを1周する。
それが、結局は3周もすることになったのだ。
涙と鼻水を垂れ流しながら、新田のお馬さんとして這いまわった藤崎。

後片付けのあと。
私と畑川、三井は先に帰らせ。
ふたり残って、話し合いが行われたらしい。

その話し合いがどのような内容だったのかは知らない。
でも。
結局、今も藤崎は三井のご主人様であり続けている。
新田のことも呼び捨てだし、私のことは『1号』と呼んでいた。

「はい、いったん、ここまでね」
新田の声。
えっ…

いつもの調教と比べると、もの足りない。
むしろ、これから、というところなのに。

「なぁに?もの足りないの?」
い、いえ、そんなことは…
「あんまりイジメ過ぎちゃうと、この後に差し支えちゃうからね」
こ、この後って…
「痛みが引いたら、お尻、仕舞っていいよ。別に、出したままでもいいけどね」

休憩する新田と藤崎。
ジュースを飲みながら、楽しそうにおしゃべりしている。
そんなふたりが腰かけているのは…
彼女たちの指導担当であり、彼女たちの調教馬でもある3年生。
そして今は、彼女たちからイスとしての役割を与えられていた。
三井だけでなく、今度は私も。

2mほどの間隔をあけて、私は三井とともに四つんばいで横並びになっていた。
ただ、後輩たちの交わす言葉を聞きながら。
ご主人様の体重を感じながら。
じっと、床を見つめる。

すぐ横には、私と同じ状況の三井。
その存在は感じても、見ることはしなかった。

動くことは、ご主人様から禁じられているのだ。
それに…
ライバルのミジメな姿。
あれは、私の姿でもあるのだ。

「この後なんだけどさぁ、私、面白いこと考えてきたんだよね」
「えー、何ですか?」
「くつしたのニオイ、あてっこさせるの」

「このふたりに?」
「そうそう。目隠しさせて、顔に足の裏を押し当てるの。新田と私で順番にね」
「いいですね。やりましょう」
私たちの意思など関係なく、話が進んでいく。

「でも、ちょっと恥ずかしいかも…」
「何が?」

「今日、練習があったでしょう?履き替えてないし、すごく汗をかいたから、ニオイがキツいかも、って」
冗談めかしていう新田に、藤崎が笑い声をあげる。

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