三脚で固定された、藤崎のスマホ。
藤崎の提案で始まった屈辱的な遊戯は、もちろんしっかりと記録される。
最初は三井から。
ベッドに腰かけたふたりと、その足もとに正座する三井。
私は、三井の横で同じく正座している。
三井が後輩ふたりのくつしたを嗅がされる様を、間近で見させられるのだ。
三井のブザマな姿。
それは、数分後の自分の姿でもある。
三井が、藤崎から手渡されたアイマスクを付ける。
手がふるえ、息が荒い。
緊張ではない。
体が、脳が思い出しているのだ。
藤崎に受けた調教の記憶を。
「ねえ、どうしたんですか、三井センパイ。そんなに息を荒くして」
新田がイジワルそうにたずねる。
「コーフンしてるんでしょ。そうだよね。アッキー?」
「は、はい…」
三井の上ずった声。
こちらにまで伝染してきそうな昂り。
「それじゃ、いきますよ。まずはひとり目ね」
新田が右足を上げる。
そのまま、三井の顔に足の裏をあてる。
「ほら、かぎな?クンクン、クンクン…ご主人様のニオイはどっちかな?」
藤崎がからかう。
三井。
新田の足を両手で持ちながら、息を大きく吸っている。
スーッ…
スーッ…
新田のくつしたのニオイ。
めいっぱい、胸に取り込む。
スーッ…
スーッ…
全頭マスクに馬のコスプレをした女。
首からぶら下がった、学生証。
そこには、凛々しい表情をした三井が写っている。
そんな彼女が今…
新田のくつしたのニオイを一心不乱に吸い込んでいる。
こんな情けない姿をした女が彼女だと、誰が信じるだろう。
「はい。おしまーい!」
「ほらアッキー、離しな」
名残惜しそうに、足から手を離す三井。
「じゃあ次ね。はい、どうぞ」
新田の言葉と同時に、藤崎が足を上げる。
さっきと同じように、両手でつかむ三井。
スーッ…
スーッ…
恥も外聞もなく、ニオイを堪能する三井。
「こうして見ると、ホントにヘンタイって感じがしますね。あの三井センパイがねえ…」
「練習中はあんなに偉そうにしてたクセにね。ほら、クンクン、クンクン…」
「後輩のくつした嗅ぎながらコーフンする、情けないセンパイ?輝かしい未来が、性癖歪まされて台無しにされちゃったね?」
「ほら、腰をモジモジさせんな。ニオイに集中すんの。これで外したらオシオキだかんな?」
スーッ…
スーッ…
三井にとっては馴染み深いはずの藤崎のニオイ。
当てることができるのか。
「はい。おしまーい!」
「ほら、いつまで嗅いでんの。さっさと足離しな」
「ご、ごめんなさい…」
「それじゃ三井センパイ。目隠し、取ってもいいですよ」
アイマスクを外す三井。
「それじゃ、当ててもらいましょうか。まずは最初のくつしたは、誰のだったでしょうか?」
「この人だって思う人の前で土下座しな。アッキー」
ためらうことなく、新田の方を向く三井。
そして…
正座をしたまま、額を床につける。
そんな三井を、ニヤニヤしながら見下ろすふたり。
「はい。じゃあ、ふたり目はどっち?」
三井が、藤崎の方へ向く。
そして。
藤崎に向けて土下座をする。
満足げに笑みを浮かべる藤崎。
「せいかーい」
言いながら、三井の頭に足を乗せる。
「よく分かったじゃん!さすがアッキーだねぇ」
三井の髪をなでるように、足をこすりつける藤崎。
「あっ…ありがとうございます…」
「じゃあ、次は1号、オマエの番な」
新田が、私に向けて言い放つ。
「ほら、1号。さっさと準備しな?」
藤崎。
アンタに1号呼ばわりされる筋合いはない。
エラそうにしてるけど、アンタだって前回のバツゲームでは、あんな姿を…
考えても仕方ない。
新田が、私のご主人様が、それを認めているのだ。
どんな事情があるにせよ…
アイマスクを三井から受け取る。
三井の得意げな表情。
アナタに、当てられるかしら。
そう言っているかのような…
ふたりの前へと移動する。
アイマスク。
付ける。
視界が制限された分、他の感覚が鋭くなった気がする。
目の前にいる、ふたりの気配。
濃厚に、伝わってくる。
ドッ…
ドッ…
ドッ…
心臓の音。
同性の、後輩のくつした。
しかも、練習後の汗と汚れにまみれた…
それを、今から顔に押し付けられる。
嗅がされる。
心の準備ができていない。
でも…
「ほら、いくよ。まずはひとり目ね」
藤崎の声。
「ホレホレ、当てないと、キツいオシオキだぞぉ?」
ご主人様の声。
何かが、顔に近づいてくる。
足。
生暖かいそれを、顔面で受けとめる。
両手でつかむ。
ドッ…
ドッ…
ドッ…
「ほら、さっさと嗅ぎな?アッキーみたいに、クンクンするの。1号ちゃんにできるかな?」
藤崎が、バカにしたように煽ってくる。
息が苦しい…
思い切り、空気を吸い込む。
酸素とともに、鼻腔を抜けて通ってくる。
ツンと鼻をつく、ニオイ。
生乾きの雑巾のような、納豆のような…
微かな甘さと、それを遥かに上回る、酸っぱい臭い。
汗で湿ったそれが、私の顔を汚していく。
と。
私はあることに気付いた。
足の大きさ。
小柄な新田の足と、一般的な大きさの藤崎。
比較をすれば、すぐに分かるはずだった。
迷うことなくニオイの主を当てた三井と、それをすごいと思ってしまった自分。
種を明かせば、そんなものか。
後輩ふたりが、そのことに気付いているのか。
おそらくこれは新田の足だろう。
「はい、おしまい」
藤崎の声。
両手を離す。
足が離れていく。
もう、顔面に足の裏はない。
それでも、ニオイは消えない。
息をするたび、あの臭いが鼻腔を抜けてやってくるのだ。
次は、藤崎のはず。
この後、藤崎に顔を踏まれる。
くつしたのニオイを嗅がされる。
お前も、マゾのくせに…
笑い声。
藤崎が笑っている。
私を1号などと呼んでいるが、彼女は私の正体を知っている。
部活中の、先輩として振舞う私。
今の、滑稽でブザマな私。
比べているのか。
笑い声。
また!
でも、逆らえない。
私や三井と同じマゾ。
でも、私たちより格上の。
同じマゾでも、そこには序列があるのだ。
「1号、準備はいい?」
藤崎の声。
屈辱を堪えて、うなずく。
「じゃあふたり目ね。誰だろー?1号ちゃんに、分かるかな?」
バカにするな!
足。
顔に乗せられる。
両手でつかむ。
大きい。
さっきの足より、明らかに大きな足。
「1号、ニオイ嗅ぎな」
ご主人様の命令。
藤崎の笑い声。
スーッ…
スーッ…
藤崎のニオイをおもいきり吸い込む。
「ほらほら、1号、さっきのニオイとの違い、分かるかな?ちゃんと嗅いで、ご主人様に褒めてもらおうね?」
悔しさとともに、取り込んでいく。
染み込んでいく。
藤崎のニオイ。
「はーい、そこまで!」
両手を離す。
「まだ、目隠し外すんじゃないよ」
ベッドの上で、ふたりが身じろぎをする。
「よし、いいよ。目隠し、外しな」
ご主人様の声。
アイマスクを外す。
「ちゃんと分かっただろうね、1号」
ご主人様。
その様で、藤崎がニヤニヤしている。
三井を見る。
アンタなんかに負けないんだから…
笑いながら、目でそれを伝える。
ふふん、と、三井が鼻で笑った。
「ほら、よそ見すんな1号」
藤崎に怒られ、頭を下げる。
「じゃあ、答え合わせね。最初のくつしたは誰のかな?」
すかさず、新田のほうを向く。
そして、深々と頭を下げる。
「よぅし。じゃあ、ふたり目は?」
頭を上げて、藤崎に向き直る。
そして…
再び、額を床につける。
「それが、1号の答えね?」
藤崎の声に、沈黙で応える。
しばしの間。
もったいぶっちゃって。
焦らさないでよ。
しかし…
「ざんねーん!」
藤崎の声。
えっ!?
あわてて顔を上げる。
う、うそでしょ!?
うそですよね!?
ご主人様を見る。
口もとに笑みを浮かべたまま。
首を横に振るご主人様。
だって、一人目はご主人様だったはず…
「じゃあ、正解発表ね。ひとり目は確かに新田だったけどぉ…」
そこまで言われて、ようやく気付いた。
もう一つの可能性。
でも…
でも、そんなことって…
「ほら、こっちに来な」
藤崎に呼ばれてやって来たのは…
「ふたり目は、アッキーでしたぁ!」
三井。
全頭マスク越しの目。
笑っている。
さっきの薄ら笑いの意味を、ようやく理解した。
はらわたが、煮えくり返る。
「アハハ!ごめんごめん!そんなに怒らないでよ」
悔しい!
悔しい!
「今のはさすがにイジワルだったね。だからオシオキは勘弁してあげる」
ご主人様の言葉で、ようやく怒りがおさまってきた。
でも…
三井。
許せない。
ふたりと一緒になって、私をバカにして。
睨みつける。
三井も、負けじと睨みかえしてくる。
「あら?ペット同士、対抗心をむき出しにしちゃって」
藤崎が笑う。
「じゃあ、次のゲームしよっか。今度は1号と三井センパイ、一緒にさせるかんね。負けたほうにはオシオキだから、覚悟しなよー?」
望むところだった。
ゼッタイ、負かす。
それで、アンタの情けない顔を見て、嗤ってあげる。
ベッドに腰かけた新田と藤崎。
ふたりに尻を向けるように、四つんばいになる私と三井。
「ルールはカンタン。私たちのどちらかが投げたものを、口にくわえて持ってきたほうの勝ち。歩いちゃダメよ。ハイハイしながら取ってくるの。分かった?」
「はい」
三井が返事をする。
私もうなずいた。
「さっきも言ったけど、負けたほうはオシオキだかんね!いくよ…」
「それっ!」
黒い影が、私たちの頭を越えて飛んでいく。
と。
「ほーら、早く取りにいけー!」
ご主人様の号令。
部屋の隅に落ちたそれに求めて、2匹のペットが這い進む。
幸い、『それ』が落ちた場所は、私のほうが近かった。
勝った!
『それ』に顔を寄せて、くわえる。
布。
いや、ポリエステルか。
口内に苦みが広がる。
鼻腔に嗅ぎ覚えのあるニオイ…
くつしただった。
くつしたを取ってこさせられているのだ。
ただ、考えていても仕方ない。
急いで、ご主人様たちのもとへと戻る。
藤崎。
片足だけ裸足だった。
と。
三井が体をぶつけてきた。
少しよろけたが、なんとか持ちこたえる。
そして…
藤崎の足もとで、顔を上げる。
私がくわえていたものを、持ち主が取る。
「勝ったのは、1号!」
やった!
勝った!
三井を見る。
悔しそうに、私を睨んでいた。
ふふっ、いい気味。
ご主人様たちと一緒に私を嗤った罰だ。
「それじゃ約束どおり、負けてしまった三井センパイにはバツゲームが執行されまーす」
「ねえねえ、何させるの?」
興味津々な藤崎。
三井は不安そうに新田を見上げている。
「剃毛です」
「ていもう?」
「そう。平たく言えば、毛を剃ることですね。で、どこの毛かというと…」
「え、もしかして…?」
「ふふっ。アソコの毛、です」
「う、嘘でしょ…」
「三井センパイのアソコ、ツルツルにしてあげますね?」
「アッキーに拒否権なんてないんだよ?ほら、観念しな」
床に敷いたバスタオルの上で、仰向けになった三井。
下半身には、なにも纏っていない。
ムダ毛カット用のセーフティハサミ。
私はそれで、三井の陰毛を短くカットしていく。
屈辱か、羞恥心か。
下唇をギュっと噛みながら、天井を睨む三井。
蒸しタオルによって毛を柔らかくした後、シェービングクリームを塗っていく。
「んっ…」
微かに、三井が反応した。
左手で、三井の皮膚を軽く引っ張って伸ばす。
そして、クリームの乗った場所に、カミソリをあてる。
皮膚を傷つけないよう、最新の注意を払いながら。
毛の向きに沿って、カミソリを動かす。
カミソリを洗面器に入れて、キレイにする。
再び、クリームの乗った場所に、カミソリをあてる。
そうやって、少しずつ、陰毛を剃っていく。
そして…
「ほら、キレイになった」
「かわいい!小さい子みたい」
「アッキー、見てみな?ツルツルでしょ?」
藤崎が手鏡を三井に手渡す。
ふたりの笑い声。
三井も、毛のなくなった場所を見て、泣きそうな顔をしている。
「1号も、お疲れさん。ばっちいから、それ片付けたら、手、洗ってきな」
「ばっちいって。そんなこと言ったらアッキーがかわいそうだよぉ。ははっ、なんちゃって」
2回目。
さっきと同じように、四つんばいになって待つ、私で三井。
違うのは、三井が身につけているもの。
下に何も履いていない。
「章乃ちゃんの赤ちゃんオマ〇コ、見えちゃってるよ」
「アッキー、負けんじゃないよ!連続で負けたら、ただじゃおかないからね!」
「ううっ…」
三井がうつむく。
恐ろしい。
もし負けていたら、私がああなっていたのだ。
「1号!負けたらアンタも剃毛だかんね!三井センパイも…今度負けたら、お尻の穴、ですよ?」
新田の言う、お尻の穴。
あれは確か、2回目のレース後。
初めて馬として参加し、そして負けた三井。
新田の前でお尻をつき出しながら敗北宣言をさせられていた。
恐らく、三井にとって生まれて初めて刻まれた屈辱。
そして、マゾに目覚めるきっかけにもなった。
あれを、またさせるというのか。
「うそ…うそうそ…うそでしょ…」
つぶやく三井。
よほどイヤなのか。
目が、あやしい光を帯びていた。
かわいそうだが、負けるわけにはいかない。
「ほら、ふたりとも、準備しろー?」
「いくぞ?よーい…スタート!」
影が飛んで行く。
同時に、私たちも動き出す。
落ちたのは、ちょうど私からも三井からも同じ距離の場所。
キビシイか。
でも、ほんの少しだけ、私がリードしていた。
勝てる!
『それ』の前で、顔を近づけようとする。
と。
横から強い衝撃。
視界が回る。
体当たりされたのだ。
くそっ!
卑怯者!
慌てて体を起こすが、すでに手遅れだった。
新田の前で、くつしたをつき出す三井。
それを取った新田が、三井の頭をなでた。
頭に血が昇った。
ご主人様たちのもとに戻り、目で訴える。
こんなの、ズルい!
反則です!
しかし…
「なに?不服なの?」
藤崎。
「体当たりしちゃダメなんて言ってないでしょ?」
三井の頭をなでながら、ご主人様が言った。
そんなの…
あんまりです…
「じゃあ、今度は1号の罰ゲームね。アッキー?1号に剃られたアソコの毛の恨み、晴らしちゃいな」
「ふふっ…はい」
三井が笑みを浮かべる。
「ほら、今度はアンタの番よ。さっきはよくも、バカにしてくれたねぇ」
屈辱。
でも、受け入れるしかない。
悔しくても、納得がいかなくても。
それがルールなのだ。
バスタオルの上で、仰向けになる。
三井。
ニヤニヤしながら、私を見下ろしている。
私に仕返しができるのが、嬉しくて仕方ないのだろう。
悔しさを堪えながら、下に履いているものを脱ぎ去る。
セーフティハサミ。
今度は私が切られる番だった。
毛を刈っていく、ハサミの音。
浮かんだのは、子どものようになった、三井のアソコ。
私も、ああなるのだ。
そしてそれを、3人の前で晒される。
揶揄われる。
早く、終わってよ…
無心になろうとする。
しかし…
「ほら、アッキー。ゆっくり、丁寧にね」
「お揃いの、ツルツルのアソコにしてあげようね」
「はい…」
ご主人様たちからの無慈悲な言葉責めが、私の羞恥心を掻き立てるのだった。
「はい、次ね」
3回目。
よつんばいの姿勢。
今回は、私も下に何も履いていない。
「うわあ、これは引くわぁ」
言いながら、ゲラゲラ笑う藤崎。
「いい歳した女ふたりが、ツルツルのアソコを突き出してるって。すごい光景」
恥ずかしすぎる。
ただ見られているだけではない。
毛を剃られているのだ。
まるで、小学生に戻ったかのような…
それを、後輩ふたりに見られている。
撮られている。
「でも、分かりやすくていいね。お尻の赤いほうが1号。白いほうがアッキー。タグを見なくても分かるわ」
「次、負けたほうはカメラの前で恥ずかしいことさせっからね」
「撮った動画は、どうしよっかなぁ。次のレースの時、公開しちゃおっかなぁ」
「ひっ」
思わず、三井が声を漏らす。
「アハハ!ひっ…だってぇ」
「恐いの、三井センパイ?だったら負けられないねぇ」
ケラケラ笑う後輩ふたりと、翻弄される3年生ふたり。
「ほらほら、いくよ!よーい…スタート!」
熾烈な戦い。
互いに何度も体をぶつけあう。
必死だった。
ふたりの笑い声。
どうでもいい。
気にする余裕などない。
激しい息づかい。
互いの息が、汗がからみあう。
そして…
「1号の勝利ぃ!」
かろうじて、尊厳を守ることができた。
三井。
怯えながら、イヤイヤをしていた。


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