ポニーガールとご主人様 最終章(6)メルティキッス

3周目。
再び、ミストレスたちの前で芸を披露する飼い犬たち。
ただ…
正直、もうネタ切れだった。

『おーい、紗枝。そのダンス、ワンパターンじゃない?さすがに飽きてきたんだけど』
かつて、新田に言われた言葉。
改めて思い返す。
先ほどの、彼女の冷めた視線も、きっとそれを意味していた。

頭を振り絞る。

ご主人様たちに背を向け、お尻を突き出した。

ボトムスに手を掛け、お尻を振りながら、ゆっくりとずり下げていく。
露わになった、私のお尻。
両手で、思い切り叩く。
部屋に、乾いた音が響いた。
再び、手を振り下ろす。
お尻が赤く、熱くなっていくのを感じる。

セルフスパンキング。

背後からの反応は、ない。
恐る恐る、振り返る。

3人の、冷めた目つき。

滑っていた。
それも、完膚なきまでに。
慌てて顔を戻す。
3人の表情が、目に焼き付いていた。
こみ上げる羞恥心。
顔が、耳まで熱くなっていくのを感じる。
辱めを受けるのとはまた別の、いたたまれなさだった。

何とも言えない雰囲気が場を支配する中、私はボトムスを履いた。
向き直り、3人に頭を下げる。

「もう終わりなの?」
「今までよかったから期待してたのに、ガッカリ」
鳥越、浜本の無慈悲な感想。

新田が、顎で『代われ』と命令する。
オシオキを確信しながら、私はそそくさと三井と交代した。

ただ、三井も私と状況は同じだったらしい。
3人の前で跪いた彼女。
新田の足を両手で持ち、それを自身の頭へと乗せた。
ジタバタともがく仕草をする、三井。

場の雰囲気は、変わらない。
それどころか一層、冷え切っていくのを感じる。
新田の足をどけて、チラっと反応を窺う三井。
芳しくない状況に、焦りを浮かべ始める。

対象が新田から鳥越へ移っても、状況は変わらなかった。
焦った三井は、リアクションを強めていく。

浜本の足に踏まれる三井。
踏まれた頭を、必死に引き抜こうとするマネ。
お尻を左右に振りながら、切ない鳴き声を上げる。
「んっ…んっ…」
艶っぽい、声。
ほんの一瞬、声に三井が表れた気がした。
ドキッとした。
2人に、気付かれていないか。
他人事ながら、不安になる。

見ている限り、大丈夫そうではあるが…
三井の声は、うめき声へと変わっていく。

そのまま、小刻みに震え始め…
「うっ…」
ビクッ…
ビクッ…
体を震わせた。
頭を踏まれながら、オーガズムを迎えたマネということなのだろう。

鳥越の、呆れとも嘲笑ともとれる、苦笑い。
新田は、口をへの字に曲げていた。
浜本は、無表情で足元の犬を眺めている。

もう、見ていられなかった。

審査員たちにウケていないことを悟った三井は、やはり恥ずかしそうに舞台から退場していく。

トリは、藤崎。
さすがに緊張していた。
先ほどの失態に加え、この冷え切った空気なのだ。
後輩たちからの、期待と退屈の入り混じった視線。

意を決した藤崎が、中腰になる。
両手を胸元で揃え、背を向けた。
そして、お尻を突き出す。

「えー、またぁ?」
浜本の、あからさまにカッガリした声。
他の2人も、同じような表情を浮かべていた。

ふーっ、と、大きく息をついた藤崎。
突き出したお尻を、腰をくねらせるようにして、ゆっくりと動かしていく。

おや?と思った。

彼女が最初にした芸のような、煽情的な要素が感じられなかったのだ。
ただ、滑稽さとも違う何かを感じさせた。

ゆっくりと横に動いたお尻。
その後、左右に斜め下へと動く。
最後に、右上の方で、軽くお尻を突き出す。

チラっと、こちらを振り向く藤崎。

3人が、戸惑っているのが分かった。
藤崎の意図が分かりかねているのだ。

藤崎が、再び前を向く。
先ほどと同じ軌跡を辿って動く、お尻。
横。
斜め下。
そして、右上。

あ!
これは、もしかして…

ピンときた。
そして、やられた!と思った。

ジッと見ていた後輩たち。
ハッとした浜本が、声をあげた。
「あ、分かった!犬!」
新田と鳥越が、浜本を振り返る。
「犬?犬って、何が?」
「全然、犬の動きに見えないけど…」
「そうじゃなくて!尻文字!」

藤崎が、嬉しそうに小さく頷いた。
そして、三度、お尻を動かす。

お尻の辿る線を見て、他の2人も歓声を上げる。
「あぁ、そういうことか」
「アハハ!確かに、『犬』だねぇ!」
そんな2人の反応に、なぜか得意げな浜本。

「すごいじゃん、4号!もっとやってよ」
鳥越のリクエストに、頷く藤崎。

今度は、さっきよりも複雑な動きだった。
「えー?こんな文字、ある?」
いぶかしむ浜本。
しかし、他の2人より先に当てようと夢中になっていた。

「いや、急に難しくなったな」
「分かんない!ヒントちょうだい!」
藤崎が振り返り、Vサインをした。

「え?どういう意味?」
「あぁ、もしかして、2文字ってこと?」
頷く。
しかし…
「いや、それでも分かんないって」
「もっとヒント、ちょうだい!」

すっかりのめり込んでいる審査員たち。
藤崎が、一瞬ためらったあと…
自分を指差した。
「え?4号?」
続けて、私と三井も指を差していく。
「1号と3号も?」
頷き、前を向く藤崎。

腰をくねらせながら、尻で文字を描く4号。
ついに、その時がやってきた。

「分かった!」
大きな声を上げる新田。
その場にいる全員が振り向いた。

「マゾ」

正解!と言わんばかりに、頷きながら新田を指差す藤崎。
「あぁ~、私が当てようと思ったのに」
「言われてみると、確かにそうかも」
残念がる、浜本と鳥越。
しかし、その声はどこか満足げでもあった。

「『マゾ』な『犬』かぁ」
「まさにキミたちのことだね」
鳥越と浜本が、ニヤけながら蔑みの言葉を投げかけてくる。

「4号、なかなかよかったよ。最後に汚名を返上できてよかったねぇ」
新田から賜った、お褒めの言葉。

嬉しさか、悔しさか、羞恥心か。
土下座をした藤崎の腕が、小刻みに震えていた。

三度目のジャッジをするまでもなく、結果は明らかだった。

「1号、3号、分かってるよね」
新田。

「今回のオシオキは二人かぁ。どんな内容にするの?」
「もう、考えてあるんだよね」
浜本の問いに、そう答えた新田。

「前々から思ってたんだよ。二人とも、もっと仲良くしたらいいのにって」
「え、どういうこと?」

「お互い、対抗心がすごいの。どうせマゾなら、マゾ同士仲良くすればいいのにさ」
「言われてみれば、靴下を取ってこさせるゲームも、今回の芸も、お互いのこと意識しまくってたね」
「そう。でね、思ったの。それだけ相手の存在が大きいってことなんじゃないかって」
「うん」

「きっかけがあれば、お互いのこと、もっと好きになれるんじゃない?ね、どう思う、二人とも?」
新田が、私たちを見比べる。
彼女が、何を考えているのか。
何を、私たちにさせようとしているのか。

分からないが、きっと碌でもないことなのだろう。

「二人で、ディープキスしな」

一瞬、何を言われたか分からなかった。

ディープキス?
しかも、三井と?
頭が真っ白になる。

三井の方を見る。
三井も私を振り向く。
目が合った。

恋愛経験のなかった私は、キスなどしたことがなかった。
ファーストキス。
いつ、誰とするのだろうと考えたことはあったが…
それがまさか、こんな形で。
しかも、相手はあの三井?

「中途半端に距離があるからいけないの。言葉じゃなくて、お互いの体温を…粘膜を通して触れ合えば、お互いのこと、もっと深く分かるでしょ?似た者同士の二人なら、特にね」

一見もっともらしいことを言いながら、実際は私たちを辱めることしか考えていない。

それは、この場にいる全員が分かっていることだろう。

三井に恋愛経験があるのかは分からない。
ただ、浮いた話は聞いたことがなかった。
取り巻きの二人。
浜本は一見遊んでいそうだが…
鳥越と一緒に、顔を赤らめながら目を輝かせている姿を見ると、もしかすると意外と奥手なのかもしれない。

「せっかくだし…畑川先輩も、傍に来て見ましょうよ」
「え、う、うん…」
畑川。
明らかに動揺していた。

「どうせ二人とも、そっちの方は奥手なんでしょ?私がレクチャーしてあげるから。まずはお互い、ハグするところから始めなさい」
三井と向き合う。
顔には戸惑いが浮かんでいた。

私も、おそらく同じ顔をしているのだろう。
でも、これはオシオキなのだ。
そして、ご主人様からの命令。

水着姿の二人。
肌と肌が触れ合う。
三井の体温が、温もりが伝わってくる。
三井の匂い。
吐息が、耳をくすぐる。

「お互いの体温を感じながら、ムードを高めていくの。ほら1号、3号の頭を優しく撫でて、緊張をほぐしてあげなさい」
抱き合ったまま、三井の後頭部に手のひらを当てる。
全頭マスクごしに、三井の頭を優しく撫でる。
三井が、ふぅっと息をついた。
嫌悪感か、あるいは別の感情か。

「そしたら、お互い見つめ合うの。こら、睨みあうな。微笑みながら、安心できる存在だって、伝えるの。そうそう」

至近距離で、三井と見つめ合う。
不安げに揺れる瞳。
そこに、嫌悪感は見当たらなかった。
拒絶されている訳ではなさそうだ。
ホッとする。
ホッした自分に戸惑いつつ。

三井の心をほぐすよう、優しく見つめる。
三井の目が、次第に潤んでいくのを感じる。

「そしたらぁ。今度は、軽く、唇同士で触れ合ってみよっか。チョンって、くっつけるだけでいいよ」
私を抱きしめる三井の腕に、力が入った。
さすがに、分かる。
三井も初めてなのだ。

大丈夫だよ。
目で、語り掛ける。
不安げな三井の、問いかけるような視線。
言葉は、分からない。
ただ…
大丈夫だよ、と。
頭を優しく、ポンポンと叩く。
三井が、目を閉じた。
強張ってはいるが…私を受け入れようとしてくれているのだ。

全頭マスクの穴から覗く、不安げに震える、三井の唇。
私はそっと、己の唇で触れた。
「あっ…」
微かに聞こえた、三井の声。
おそらく、私にしか聞こえないほどの大きさで。

顔を離す。
唇に残る、ほのかに湿った温もり。

「いいね。そしたら、もっかい、やってみよっか」

新田の指示に従いながら、唇を重ねる。
小鳥がついばむような、軽いキス。
回数を重ねるたびに、三井の心にあった、固い何かが溶けていくのを感じる。
それが、なぜか嬉しくて。
気付くと、新田の指示なしで唇を重ねていた。
熱っぽい、切なげな三井の表情。

三井の吐息に混じる、微かな生っぽさが、鼻腔をくすぐる。
いつもの勝気な彼女からは想像もできないような顔に、子宮の辺りがキュンとなる。
可愛い…
こみ上げる、愛おしさ。
いや、相手はあの三井なのだ。
そう思い直すが、自分を抑えることはできなかった。

鳥越や浜本の、黄色い声。
気にならなかった。
それどころか、見せつけてやりたいような気分だった。

チラっと、視線を移す。
畑川。
余裕ぶっているクセに、目には涙を浮かべていた。
マゾのクセに、ご主人様然として、エラソーな態度を取ったバツよ。
畑川に、流し目を送る。

アンタはそこで、指を咥えて見てなさい。
泣きそうな顔をしながら太ももを擦り合わせるマゾ女に、無言で言葉を投げつける。
視線を、三井へと戻す。

「そしたらぁ…唇をすこぉし開いて…相手の唇を、自分の唇で挟んだりぃ…」
遠くで聞こえる、新田の声。

三井の潤んだ目。
トロンとした表情。
半開きになった唇が、私を誘惑する。
情欲か、独占欲か分からないが、私の中の何かが掻き立てられていく。
「じゃあ次は…1号、3の口に自分の舌を入れな。3号はそれを優しく受け入れるの」

子宮が、再び疼いた。
熱に浮かされたまま、舌を三井の中に差し入れていく。
三井の口内で、柔らかな熱とかすかな酸味が私を迎え入れた。
絡ませるうちに、それはほのかな甘じょっぱい余韻となって広がっていく。
「ん…ふぅっ…んっ…」

三井の唾液が、切ない吐息が、媚薬となって私の脳に染み込んでいく。

「1号、3号の舌、感じて?舌と舌が触れたらぁ、3号の舌を舐めるように、やさしーく、触れ合わせるの」
唇を重ね合わせたまま。
舌を、三井を感じたまま。
鼻息。
三井の荒い息遣いが、顔に当たる。
耳をくすぐる。

「そしたらぁ、舌同士を絡ませてぇ…力は抜いたまま、ね?」
三井が目を閉じる。
唇を震わせながら、私の舌に触れてくる。
三井の腕が一瞬強張り…すぐに緩んだ。
鼻腔に流れ込んでくる、かすかに甘く、生温かな気配。
粘膜同士が擦れ合わさり、唾液が淫靡な音を奏でる。

「ほら、気持ちいいでしょう?気持ちよくて、愛おしくて、相手のことがとっても大事に思えてくるねぇ」
顔を離す。
三井の、寂しげな、切なげな顔。
『もう、止めちゃうの?』
そう、言っているような気がして…
私の理性は壊れてしまった。

再び、唇を重ねる。
貪るように、舌を求める。
『嬉しい…』
三井の舌が、口腔全体が、私を迎え入れる。
震えるような喜びと、興奮をもって。

相手は、あの三井なのだ。
お互い、対抗心を剥き出しにしていた…
馬上でも、マゾヒストとして調教を受けているときも…

私に剃毛されているときの、悔しそうな顔。
私を剃毛しているときの、嬉しそうな顔。

ライバルなのに。
いや、ライバルだからこそ、なのか。
この震えるような、いてもたってもいられなくなるような、昂りは。
それとも…

『きっかけがあれば、お互いのこと、もっと好きになれるんじゃない?』
もともと、相性がよかったのか。
分からない。
どうでもいい。
ただ、三井を、彼女を感じていたい。
独占し、貪り続けたい。
そう、思った。

それなのに…

「はーい、そこまで!」
新田の、無慈悲な宣言。

まだ、離れたくない。
離したくない…
「ほら、いつまで盛ってんの。終わりだってば」

口を離す。
二人の口と口をつなぐ、唾液のブリッジ。

息遣いの荒い、三井。
うっとりとしていた顔に、少しずつ理性が戻っていく。
胸が、少しチクッとした。
「今度ケンカしたら、またキスさせるからね」

鳥越と浜本。
途中から、声が聞こえなかったが…
惚けたような顔で、口を半開きにしていた。

畑川。
下唇を嚙みながら、現実を受け入れないとでも言いたげに、首を小さく振っていた。

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