ポニーガールとご主人様 最終章(8)深夜の従属者たち

深夜のサークル棟。
静まり返った廊下に、1年生3人とペット3匹の足音が響く。

新田、浜本、鳥越の3人は、それぞれのリードを手に、楽しそうに談笑しながら歩いている。
その足元で、私と三井、藤崎は、無言のまま、ただ這い進む。

リードで繋ぎながら、前を歩く後輩。
新田は私を、浜本は三井を、鳥越は藤崎を。
時折こちらを振り返っては、冷たい笑みを投げかけてくる。

屈辱とともに、甘い痺れが全身に広がる。

私服姿の彼女たちとは対照的に。
私たちが身につけているのは、全頭マスクとボンデージ、首輪のみ。

首輪には学生証が括りつけられていた。
歩くたびに揺れて、カチャカチャと音を立てる。

学生証に、マスキングテープは貼られていない。
私の顔も、名前も、学年も、全てさらけ出された状態で。

知られてしまったのだ。
浜本にも、鳥越にも。

普段は中谷紗枝として、彼女たちの先輩として振舞う。
ただ、調教の時間だけは、私は従順なペットとして彼女たちの前に現れるのだ。

部活中の、私を敬う彼女たちの態度。
そして、その裏に隠された本音が、私の自尊心を刺し、マゾヒスティックな欲望と想像を掻き立てる。

先輩として厳しい口調で指示を出しながら、調教時の後輩たちの姿を思い出し、体を昂らせる。
そんな自分に気付かれないよう、私はさらに厳しい態度を取る。
だが、素直に従いつつ、どこかほくそ笑む後輩たちの視線に、私の体はドロドロに煮えたぎっていく。

正体を知られたのは、私だけではない。
三井も、藤崎も。

後輩にリードを引かれながら廊下を這う、犬に堕ちた先輩3人。
無言で、ただ前を見つめ、互いの存在を痛いほど感じながらも、顔を見合わせることはない。

冷たい床の感触、ボンデージが肌に食い込む圧迫感、そして後輩たちの軽やかな笑い声。
私の隣を四つ足で這う、マゾ女たちの息遣い。

すべてが、私の心を締め付ける。

サークル棟の窓からは、月明かりが淡く差し込んでいる。
遠くで空調の低い唸り音が響く。

静寂。
ただ、完全ではない。
時折する物音が、私たち以外の学生が建物にいることを伝えてきた。

這うたびに首輪が首に食い込む感覚。
この苦しさが。
新田に支配されている、服従しているという実感をより与えてくれる。

部活では先輩として振る舞い、後輩たちを厳しく指導する自分。
ペットとして、ご主人様に従いながら床を這う自分。

新田たちの軽やかな声が耳に届くたび、先輩としての私がうめき声をあげる。
その一方で、その痛みがたまらなく愛おしいと思う自分もいる。
彼女に…新田に出会えたからこそ、知ることができた感情。

「部室に戻ったら、競争させるからね」
こちらを振り返った新田が、私たちに告げる。

浜本と鳥越が目を輝かせる。
「3号、負けんなよ?」
浜本が笑いながらリードを軽く引く。
「4号、頑張ったらご褒美あげるからね」
鳥越もニヤリと笑う。

日頃は先輩として敬われている、上級生。
首元には、その正体を示す身分証が揺れていた。
マスキングテープもない、無防備にさらけ出された状態で。

3年生の三井章乃と、2年生の藤崎舞。
そこには、全頭マスクに隠された彼女たちの素顔さえも、しっかりと写っている。

それでもなお、彼女たちは自身の後輩に3号、4号と呼ばれていた。
上級生であろうと、部の先輩であろうと関係ない。
今のふたりは、彼女たちのペットであり、嗜虐心を満たすためのオモチャでしかないのだ。

どんなに無礼で屈辱的なことをしても、決してやり返してこない。
悔しそうにしつつも、潤んだ目で訴えかけてくるのだ。

『もっと、イジメてください…』

日頃、偉そうにしている先輩が、従順なペットとして自分に服従してくる。
こんなに刺激的で、自尊心を満たす遊びを、浜本たちは他に知らないのだ。

かつて抱いていた畏敬の念は、歪んだ情欲となって先輩へと向けられていた。

あと少しで部室へ着く、という時だった。
新田が突然、思いついたように口を開いた。

「そうそう。2人にはまだ話してなかったけど、考えてることがあるんだよね」

浜本が興味津々に身を乗り出す。
「なになに?」
「次回のレースのこと。観客として誰を呼ぶかって話なんだけどさ」

観客。
また、誰かを呼ぶつもりなのか。
浜本や鳥越だけではなく。
これ以上、我々はどこまで堕ちていくのだろうか。

陰鬱とした気持ちとともに、下腹部が甘く疼く。
気持ちとは裏腹に、体が、脳が期待していた。
ペットとしてのこの身を晒す、次の存在は、いったい誰なのか。

「1年生全員を呼ぼうと思って」

全身に、電流が流れた。
聞き間違えであって欲しい、そう思ったが…
3号は目を見開きながら、新田を見上げている。
4号は怯えた表情で、1年生と3号を見比べていた。

目を丸くした浜本。
「え、すっご! ってことは、優菜や内海ちゃんも? 」
「うん。大貫も溝口も、それ以外の子も全員、ね」
「でも、来てくれるかなぁ…」
「うーん、そこなんだよね。内海って正義感強いから、こういうの嫌がりそうだし」
新田が少し心配そうに言う。

浜本が続ける。
「優菜は優しいから、泣いちゃうかもね。大貫なら面白がりそうだけど」

「そう?大貫ってお嬢様だから、こういうの怒りそうじゃない?」
鳥越。
「『こんな下品な姿で這うなんて、見るに耐えない。どういう神経してるのかしら。恥を知りなさい』」

大貫の声真似をする、浜本。
「あはは!言いそう!」
「あとは、溝口か。あの子、協調性ないし、頭の中は馬術のことばっかだからなぁ…」
「うーん…」

「そうだ!」
鳥越が提案する。
「じゃあさ、『食事会』っていう体で、開催してみたら?」

馬術部の恒例行事として、同じ学年同士で集まる食事会というものがあった。
次年度に向けて同期の結束を高め、モチベーションを高めるため、毎年この時期に開催しているのだ。
1年生にとっては、初めての食事会でもあった。

「馬術の勉強会ってことにしてさ、その余興?サプライズイベントとして、レースを開催するの」
浜本が頷く。
「なるほど! それならできそうかも」

新田が笑いながら私を見下ろす。
「1号、あんたからも1年生全員に言っときな。食事会には参加するように。『先輩命令だぞ』ってね。あんた、腐っても3年生なんだからさ」
鳥越がクスクス笑う。
「あはは、それなら来るかも。溝口って、1号には懐いてるっぽいしね」
浜本もニヤリと笑う。
「あんな態度とってるクセに、1号の言うことなら聞くんだよねぇ」

溝口。
ナマイキで、どこか人を小馬鹿にしたような態度の1年生。
その鋭い瞳と、試すような薄い笑み。
でも、彼女にはそれに見合うだけの実力があった、
馬術の才能だけでなく、誰よりも努力を重ねる後輩。
向上心の塊のような彼女は、口先だけの部員には容赦なく冷たかった。

私に対しても、例外ではない。
いつも鋭い視線で睨みつけ、どこか挑戦的な笑みを浮かべる。
それなのに、なぜは私の言葉には従うのだ。
不思議と、嫌われていると感じたことは一度もない。

「ま、こいつは馬術の実力だけはあるからね」
「憧れる先輩が、実はこんなヘンタイだなんて知ったら…溝口、どんな顔するかな」

もし溝口が、今の私の姿を見たら…
全頭マスクとボンデージで身を覆う、マゾ女。
ペットの証としての首輪。
私が中谷であることを示す、学生証。

溝口の冷たい瞳は、どう変わるか。
失望か、軽蔑か、憐れみか、それとも…

動くたびに擦れ合うボンデージの音。
静寂の中、キュッ、キュッという音が耳につく。

肌に食い込む、きつい感触。
それ以上に、締め付けられるような胸の痛み。

震えが止まらない。
恐怖なのか、期待なのか。

激しい息遣いが聞こえる。
隣にいる三井も、興奮しているのか。
チラっと視線を向けると、目が合った彼女が、慌てて顔を背ける。

でも、すぐに気づく。
その喘ぐような、苦しい息遣い。
それは、私の口から洩れていた。

『お散歩』を終えた私たちは、部室に戻ってきた。

1年生たちは椅子に悠然と座り、ペットである私たちに目で促す。

ご主人様たちの前で、私たちは並んで立つ。

中腰になり、前足を胸元で揃える。
「待て」のポーズ。
後輩たちの視線が、私のプライドを踏みにじるように突き刺さる。
顔、肢体、首元で揺れる学生証。

この時間は、ただ私たちに羞恥を味わわせるためのもの。

先輩という立場から、後輩のペットへと成り下がった情けない存在。
ぞんざいに扱われ、屈辱的な命令をされ、体を昂らせるマゾ。
椅子に座る彼女たちとは、身分が違う。

身悶えするような恥辱に、心が、体が震える。
そんな様を、嗤われながらじっと観察される。

体の芯が、燃えるように熱い。
じっとしているだけなのに、頭の中が沸騰しそうになる。
恥辱と、抑えきれない期待が、脳を焼き尽くしていく…

視界が狭まる。
見えるのは、目の前の少女だけ。
イジワルな笑みを浮かべた、私のご主人様。

その唇の動きに、体の奥が震える。

荒い呼吸が響く。
誰のものかも分からない。
いや、きっと私のものだ。

服を着た後輩。
ボンデージと全頭マスク姿の私たち。

椅子に座る後輩。
中腰で『待て』のポーズをする私たち。

命令する後輩。
それに服従する私たち。

永遠に続くとも思われる時間。
彼女たちとの「身分の違い」を、徹底的に刻み込まれる。

学生証に書かれた学籍番号。
私は彼女たちより上級生のはずなのに。
なのに、なぜ。

ぼうっとした頭で考える。

下級生は上級生よりも偉い。
上級生は下級生の命令に従わなければいけない。
だから、私たちは今、こんな姿で彼女たちの前にいる。
そんな当たり前のことを、なぜか忘れていた。

3号の肩が、震え始める。
鳥越に指摘され、申し訳なさそうに頭を下げる3号。
その姿を見て、4号が大きく息を吐く。
まるで、体内を駆け巡る興奮を少しでも逃がそうとするかのように。

後輩のペットへと成り下がった、情けない女。
発情した肉体を持て余しながら、なおもその身を晒し続ける。
全頭マスクによって個性を奪われてなお。
首元の学生証が、私が『中谷紗枝』であることを忘れさせてくれなかった。

ご主人様が、私に手で合図をする。
こっちへ来なさい。

待てのポーズを崩さないまま、私は体を寄せる。
ボンデージが擦れ、キュッと小さく鳴る。

イジワルな笑みを浮かべたまま、悠然と構えるご主人様。
彼女の唇が動く。

『マゾおんな』

はっきりと聞こえた。

私の顔を見て、クスクスと笑う少女。

再び、唇が動く。

『マゾおんな』

心臓が、わしづかみにされる。

少女の手。
私に伸びてくる。
そして…

指で、私の学生証を弾いた。
カチッという鋭い音が、部室に響く。

脳が、スパークする。
まるで、私の存在そのものが否定されたかのように。

コメント

  1. 匿名 より:

    最高ですね…

  2. 匿名 より:

    最近更新がなかったので久々の最新話嬉しいです。
    ここで更新を待っている者もいるので、今後も楽しみにしています。

    • slowdy より:

      ありがとうございます。
      このブログは私にとって原点でもあり、読者の皆さんと歩んできた大切な場でもあります。
      感想は本当に励みになります。今後も楽しんでいただるような作品をお届けし続けられるよう頑張ります。