ポニーガールとご主人様 最終章(16)刑の執行、目覚めた二人のサディスト

スクリーンのすぐ横、二人から見て左側には、台が置かれていた。
1m四方、高さ20cmほどの小さめの台。
いつの間に置かれたのか。

「外のみんなを待たせたら悪いので、さっそく始めましょうか。4号、そこの台に乗りな」

呼びかけられた4号がビクッと震える。
新田の顔色をうかがうように見るその目には、怯えが浮かんでいた。

鳥越が優しく声をかける。
「ほら、歩ける?」
鳥越に腕を支えられながら、新田のもとへ歩み寄る4号。

新田は4号に少しだけ気の毒そうな視線を向ける。
「かわいそうだけど、これがルールだし…それに、負けた先輩が悪いんですからね? 」

ゆっくりと台に上がる4号。
まるで、晒し台だった。

自分を抱きしめるように、両腕で肩を抱く。
その手はブルブルと震えていた。

新田の命令で、私と3号も台の左右後方へと移動した。

4号を挟むように斜めに立ち、待機のポーズを命じられる。
レースには負けなかったが、罰ゲームを彩るオブジェとして使われているのだ。

「これから映像を流します。でも、さっきとは違って、モザイクはありませんし、声も加工していません」

新田からリモコンを渡される4号。
「ご自分でボタンを押してください」
4号が、目を見開いた。

映像が流れる、ということ。
それは、藤崎舞の部活内での「社会的な死」を意味していた。
これまで先輩として振る舞ってきた相手に、最も恥ずかしい姿を見られてしまう。

大貫も優菜も、もう彼女を先輩として扱わないだろう。
表面上は敬意を装っていたとしても、内心では見下しているに違いなかった。
そして、鳥越たちのように、彼女をペットのように扱うのだ。

映像を流すためのリモコンを持たされ、ボタンを押すよう命じられる。
まるでギロチン刃を落とすロープを、自分で握らされているような気分だろう。

もし、最後の直線で私が4号を追い抜けなかったら、あの台に立っていたのは私だった。
そうなっていたら、私は…

身を焦がすような羞恥心に包まれながら、さらし台へと登る私の姿。
1年生たちのつき刺すような視線に耐えながら、『その時』を迎えるのだ。

「ほら、いつまでやってるんです? いい加減、覚悟を決めてください!」

新田の声に、私はハッとした。
4号の指が、ボタンの上に置かれる。
そして…

BGMが流れ始める。
ドーン、ドーンという重低音が、響く。

真っ黒い画面。
そこに、赤い文字が浮かぶ。

「罰ゲーム、執行」

筆で荒々しく書いたようなフォント。

不意に、甲高いシンセサイザーの音が鳴り響いた。
聞く者の不安をかき立てるような、不協和音めいた旋律。

その底では、儀式めいたビートが刻まれている。

まるで公開処刑のような雰囲気…
いや、それそのものだった。

映像が映し出される。

白いボンデージを着た女。
カメラに向けて、お尻を突き出していた。
突然、鞭が振り下ろされる。

バシッ!

映像を見つめる大貫の体が、ビクッと震えた。

肉を打つ音は、すぐに不気味な曲に埋もれていく。

「大学名と、学年を言いなさい」

鳥越の声。
これまで聞いたこともないような、冷たく鋭い声。

胸をかき乱すようなBGMでむき出しになった私の心に、それは容赦なく突き刺さった。

女が答える。

うわずった声。
しかし、明らかに聞き覚えのある声だった。

再び鞭が振り下ろされる。

乾いた音が一瞬、閃く。
女が、身悶えしながら呻く。

私は全身に力を込めて、その音を、声をやり過ごそうとする。

「サークルは?」

「…馬術部、です」

「指導すべき立場の2年生が、なぜ1年生の前でそんな格好をしているの?恥を知りなさい!」

バシッ!

「ごっ、ごめんなさいっ!」

「顔を両手で覆ってから、こちらを向きなさい」

女は上体を起こし、言われたとおり両手で顔を覆う。
そのまま、ゆっくりとカメラの方を向く。

「お前は不相応にもサディストを気取り、愚かにも新田に勝負を挑んだ。その結果、負けて家畜へと堕ちた。間違いないな」

「間違いありません…」
負け犬に相応しい、弱々しい声。

レース前に流れた映像には、まだイジワルさというか、滑稽さがあったように思う。
しかし、今我々が見ているものには、そんな甘さは微塵もなかった。
形式を重んじる、厳かな儀式。
あるいは、裁かれる罪人のような…

「後輩に屈服し、馬として引き回されたお前は、鞭で叩かれ、罵声を浴びながら浅ましく全身をブルブルと震わせた」

女が、喉を鳴らす。

「その後、お前は私のペットとなり、汚れた靴下のニオイに発情する、見下げた色情魔としての本性をあらわにした。間違いないな」

「間違い、ありません…」

「私のペットとなったお前は、今、1年生たちの前で再び負けて、本当の意味で家畜へと堕ちるのだ。両手を下ろし、その恥知らずな素顔を晒しなさい」

画面に映る女の両手が、小刻みに震えている。
そして、目の前で台に立っている、4号の体も…

気の毒になるほど、ブルブルと震える両手。
それを、ゆっくりと下ろしていく。

現れた、女の顔。
画面を見つめている大貫も、優菜も、よく知っている人物だった。
目を見開き、半分開いた口が、微かに動く。
しかし、声は出ない。

「先輩でありながら、後輩に服従するマゾヒスト。名乗りなさい」

「…藤崎舞、です」

ゴーンという、重い鐘の音が響く。
藤崎の肩が震えた。

残響が、私の胸を締め付ける。

画面が停止する。
静寂。

「藤崎先輩。台から降りて、大貫と優菜の前に立ってください」
新田の声。

待機のポーズをしていた4号が、台から降りる。
新田に言われた通り、フラフラと前へ歩いていく。

ただ、両手は胸元で揃えたまま。

そうしなければいけないと思っているのか。
あるいは、そんなことにも気づかないほどの精神状態なのか。
その様子は、どこか滑稽で、哀れだった。

「二人の前で、マスクを外してください」

マスクに手をかける4号。
ゆっくりと、引き上げていく。

4号の素顔が、露わになる。

二人にとって、見知った顔。
つい昨日も、先輩として敬っていた人物。

今、ボンデージ姿で二人の前に立ち尽くしていた。

涙に濡れた顔。
俯きながら、何かに耐えるかのように唇を噛んでいた。

「自己紹介してください、センパイ?」
新田の声。

頷き、ゆっくりと顔を上げる藤崎。
その表情は、意外なほど明るかった。

椅子に座る後輩たちを、見つめる。
そして…

先輩としての尊厳。
生まれた時から持っている、人としての権利。

それを…

「ふっ…藤崎、舞、です」

今ここで、放棄した。

あっけに取られている二人の前で。
エヘヘと、少し恥ずかしそうに笑う。

「ほら、舞センパイ。チャンスですよ?」
藤崎に歩み寄っていく、鳥越。

「ち、チャンス?」
「ええ。センパイが二人にしてもらいたいこと、あるでしょう?オネダリしてみたら?」

そう言って、椅子に座る二人の足もとを顎で示す。

「もう、二人にはセンパイのご趣味のこと、知られてるわけですしぃ…恥ずかしがらなくてもいいんですよ?」
「う、うん…」
目が、釘づけになっている藤崎。
「ほら、どうしたいの、センパイ?あの靴下で、お顔をグリグリ~って、されたいんじゃないの?クンクン、クンクンって、嗅がせてほしいんでしょう?」
惚けた顔の藤崎に、耳元でささやく鳥越。
藤崎が喉を鳴らす。

「大丈夫、二人なら、きっと受け入れてくれますよ。だから、ね。素直になりましょう、センパイ?」
甘い誘惑が、藤崎の脳を、理性を溶かす。

藤崎が、顔を上げる。
期待か羞恥か、耳まで赤くした藤崎。
後輩たちの視線に、一瞬躊躇する。

そして、意を決したように、口を開いた。

「わたっ、私のこと、踏んで、ください…」

大貫と優菜の前で、藤崎はあおむけになる。
椅子に座りながら、顔を見合わせる二人。

とまどいながらも、靴を脱ぐ。
そして…
ゆっくりと、足を持ち上げる。

様子を伺うように、藤崎の顔に足を乗せる二人。
藤崎が、鼻を鳴らし始める。

「遠慮しないで、踏んであげてね。ほら、藤崎センパイ、喜んでるでしょう?」
鳥越が、二人に語りかける。

両手で二人の足を掴み、鼻に押し当てる藤崎。
二人は驚き、その後、照れたように笑う。

次第に遠慮は取れ、楽しみ始める二人。
その口元には笑みが浮かんでいた。

「部活中は先輩のフリしてていいですよ。他の部員の手前もありますし、藤崎センパイの面子もあるでしょうから」
嗜虐的な笑みを浮かべる大貫。
「でも、部活が終わったら…分かってますよね?」
鼻を鳴らしながら寝そべる女に向けて、言い放つ。

「は、はい…」
どこか虚な目で答える、藤崎。

「なんだか、不思議な気分ですぅ…先輩の顔を踏んでるなんて、普段じゃ絶対にありえないし…こうしてると、まるで私が偉くなったみたい…」
藤崎を見下ろしながら、優菜がつぶやく。

「先輩って、マゾさん、だったんですね。最初はなんか、可哀想かなって思ってたんですけど…でも、後輩に踏まれて、靴下のニオイを嗅いで、幸せそう…」

普段のオドオドした態度はまだ残っているものの、その奥には残虐なものが目覚め始めていた。

「私、センパイに感謝してるんです。私って、ドジだし不器用だし、なんでも器用にできる藤崎センパイって、すごいなぁって思ってて。でも、こんな私にも優しくしてくれるし…」
訥々と語り始める優菜。

「そんなセンパイが喜んでくれるなら、これからは後輩としてじゃなくて、ご主人様として…先輩が可愛がってくださった分、これからはセンパイのこと、私が可愛がってあげますね」

慈愛と嗜虐の入り混じる視線を、藤崎に投げかけながら。

「センパイ、どんな風に踏んで欲しいですか?もっと強く?それとも、こうやってお顔にスリスリってされるのが好きです?」
鼻を鳴らす藤崎の顔に、足の裏を擦りつける優菜。
「でも、ごめんなさい。今日、家を出る時に靴下を履き替えてきちゃったんですぅ。この次は、部活終わりの靴下で踏んであげますね、センパイ?」

「まったく、私たちは後輩なんですよ?悔しくないんですか?見下ろされて、お顔を踏まれて。いつもみたいに、私たちを叱ってくださいな」
言葉とは裏腹に、口元に残酷な笑みを浮かべる大貫。

「そういえば、鞭で叩かれるのもお好きだそうですね。僭越ながら、私が叩いて差し上げましょうか?そうすれば、そのだらしないお顔も、少しはマシになるでしょうし」
大貫。
三井ほどではないとはいえ、彼女も令嬢だった。
どこか逆らい難い威厳を、醸し出し始めていた。

「藤崎センパイ…いえ、あなたのような恥知らずな女に敬語は不要かもね。ほら、舞、こっちを向きなさい」
顔を覆う靴下の間から、藤崎の目が覗く。

「新田が言ってたけど、強い言葉で詰られると興奮するんだってね。恥ずかしいヒトね、アナタって。あーあ。そんなヘンタイに、これまで敬語を使ってたなんて。謝りなさい、マゾ女」
藤崎の肩が、ビクっと震える。
喉から、小さな嗚咽が漏れる。

「ごっ、ごめ、ごめんなさい…」
「ほら、目を逸らさない!ちゃんと私の目を見て、きちんと謝りなさい。仮にもセンパイなんでしょう!?」
「ごめんなさい、ごめんなさい…」

「でも、安心して?お前のその恥ずかしい性癖は、私がちゃんと治してあげるから。服も何も着てないお前に跨って、性癖が治るまで鞭で叩いてあげる。それでも直らなければ、今度入ってくる新入生たちの前で、同じことするからね。そんなの、イヤでしょう?」

熱に浮かされたように『ごめんなさい』を繰り返す藤崎。
言葉とは裏腹に、その声には媚びが多分に含まれていた。
そんな彼女を、楽しそうに踏みつけ、詰る後輩たち。

私と三井は、そんな光景を待機のポーズをしながら見つめていた。
部活内でのヒエラルキー。
下位へと転落した藤崎は、もう二度と彼女たちの上に立つことはない。

大貫と優菜に踏まれる藤崎を見つめながら。
私は、いつしか別の世界を漂っていた。

もし、負けていたのが藤崎ではなく自分だったら…
想像する。

スクリーンに映し出される、己の痴態。
後輩に調教される、情けないマゾ女。
それをじっと見つめる、後輩たちの視線。
ヘンタイ女の正体が、私であることが晒される。
晒し台の上に立つ私に、視線が集中する。

驚き。
蔑み。
嘲笑。

取り返しのつかない現実。
二度と、かつての中谷紗枝には戻れない。

新田に命じられ、後輩たちの前でマスクを脱ぐ。
晒された素顔に突き刺さる、好奇な視線。
プライドが、土足で踏みつけられていく。

私は、かつての後輩であり、今は自分より立場が上となった女の子たちの前で、お尻を突き出す。
そして、オネダリをさせられるのだ。
『どうか、私のお尻を鞭で叩いてください…』

女の子たちは、最初は遠慮がちに、しかし次第に容赦なく鞭を振るう。
自分のほうが立場が上であることを誇示するかのように。
下位へと転落し、二度と戻れないことを、私に思い知らせるために。

フラッシュバックする。
部活中、彼女たちを厳しく指導する私。
そんな私を畏れる後輩たち。

鞭で叩かれるたび。
その映像が乱れ、書き変わっていく。

あざ笑う後輩たちに囲まれ、私は卑屈に顔色をうかがう。

『紗枝、鞭で叩いてあげるから、お尻出しな?』

私を取り囲む女の子たち。
気付けば、見知らぬ女の子たちも混じっていた。

『ほら、新入生の前だからって、恥ずかしがってんなよ?』
『先輩ぶってないで、さっさとケツだしな』

私は、おずおずと、命令に従う。

新入生たちが、驚きの声をあげる。

体がカッと熱くなる。
耳まで赤くなり、思考力が奪われていく。

『ほら、1年、よーく見てな。さっきまでエラそうにしてたコイツの本性、見せたげるから』
どこか遠慮がちな新入生たちの顔に、期待と蔑みの色が混じる。

振り上げられる鞭。

と。
ふいに、現実へ引き戻される。
私は、あることに気付いた。

大貫と優菜の視線。
足元の藤崎ではなく、私に向けられていた。
思わず、息を飲んだ。
まるで、私の想像を見透かしたかのように、、二人の口もとにイジワルな笑みが浮かぶ。

ふーっ…
ふーっ…
荒い息。

全身を駆け巡る血液の音。

二人の視線。

よく見ると、左右へ揺れている。

見比べている。

私と。

その隣にいる女。

三井。

横目で盗み見る。

私と同じように、二人の視線を感じながら、身もだえていた。

と。

三井の目が、こちらを向いた。

瞬間、全身に電流が走った。

慌てて視線を逸らす。

屈辱?
羞恥心?

分からない。

三井の震えが伝わり、私の火照りが彼女に流れ込む。

他の誰にも触れさせてはいけない、秘めた大事な部分。
それが、お互い共鳴してしまったかのような、感覚。

大貫と優菜を見る。
まだ、こちらを見ていた。
先ほどの私たちのやり取りも、見ていたのだろう。
二人とも、クスクスと笑っていた。

「さて、まだまだ続けたいところだけど、そろそろ時間です。マスクをかぶってください、藤崎先輩」

ヨロヨロと起き上がる藤崎。
どこか、戸惑ったようなで新田を見る。

『4号』ではなく、敢えて『藤崎』と呼んだことにだろうか。
それとも、新たなご主人様たちとの営みを中断されたことに対してか。

新田に睨み返され、顔を伏せる藤崎。

「それと、大貫と優菜に改めて言っておくけど、4号の正体が誰だったかは、他の二人には言わないでね。罰ゲームの内容がどんなだったかも。楽しいゲームは、まだ始まったばかりなんだから」

「はいはい、分かってるって」
大貫が答える。

浜本が、ロビーで待つ三人を呼びに行った。

「ねえ、藤崎センパイ。マスク、被らなくていいの?」
優菜が藤崎に語りかける。
心配そうな声には、明らかに揶揄うような響きが含まれていた。

慌ててマスクを被る藤崎。
そんな先輩を見ながら、クスクスと笑う優菜。
大貫は、見下したような笑みを口元に浮かべている。

小さな変化かもしれないが、二人の目には、さっきまではなかった妖しい光が宿っていた。

サディストの目覚め。
鳥越と浜本がそうであったように。
大貫と優菜も、その資質を開花させつつあった。

それが、私たちにどのような屈辱を与えることになるのか。
先ほどの、二人が私に向けていた視線。
獲物、あるいはオモチャを見るような目。

『こいつが、羨ましいんでしょう?』
『ふふっ。次は、キミの番だからね』

仄かな期待が、私の体をチリチリと焦がすのだった。

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