ただ妄想を膨らませながら、私は何度も体を熱くしていた。
いや、食事会が決まってからではなく。
新田を乗せて『お馬さんごっこ』をしたときから、かもしれない。
あるいは、幼いころに観たアニメ。
妹を乗せてお馬さんごっこをする少女を観た瞬間から、こうなることは決まっていた。
そんな気がする。
会場の傍らで固まるポニー4頭。
罰ゲームを免れた3号。
しかしその表情に安堵はなかった。
可愛らしくも残酷な、我々のご主人様たち。
このまま逃げ切りを許すほど、彼女たちは甘くないことを、三井は知っているのだ。
正体を知られずにこの場を切り抜けられるのか。
藤崎の罰ゲーム。
そして、私の罰ゲーム。
正体を晒し、羞恥に震える私たちを見ながら、怯え、期待する。
マゾヒストとしての性。
体の奥底から湧き起こる被虐の欲求からは、逃れることなどできないのだ。
一度知ってしまった以上は、永遠に。
4号。
先ほど『処刑』された彼女の体には、まだ色鮮やかに『記憶』が残っているはずだった。
その記憶は、私の処刑シーンによって再び鮮明によみがえる。
むしろ、そうすることによってクッキリと刻まれるのだ。
生涯消えることのないトラウマとして。
今も、被虐的な願望が彼女の中で渦巻いているのかもしれない。
彼女の、荒く熱っぽい呼吸。
じっと聞いてしまうと、共鳴してしまいそうだった。
畑川。
彼女自身の罰ゲームは免れた。
そして、目前に迫るのは私の罰ゲーム。
どんな気持ちだろうか。
寝取られマゾ。
私が新田に調教される様を、偶然覗き見てしまったという。
それで目覚めたという、彼女の性癖。
貞操帯という屈辱的な器具を身に着けさせられ。
目の前で見せつけられながら、ずっとオアズケをされている状態。
それでも新田に逆上するどころか、なお一層、ひれ伏しているように見えた。
好きな人を奪った相手に、自分自身の大切な『権利』も差し出す。
悲しいほど歪で、倒錯的な願望。
そして今、私は新田だけでなく、他の後輩たちにも差し出されようとしていた。
内海、溝口、優菜。
畑川の後輩で、彼女を敬う女の子たち。
3人とも、期せずして手に入れた権利。
畑川が一生を掛けても触れることのできないそれを、彼女たちは手のひらで弄ぶ。
そしてそれを、畑川の目の前で見せつけるのだ。
ポニーたちが抱える、それぞれの想い。
色も形も違うそれは、しかし共通した性質を持っていた。
ボンデージの中で密閉されたそれは、圧を高め、私たちを苛む。
口から微かに漏れ出たそれは、すぐ隣の個体へと吸い込まれていく。
宿主を替えて、更に凶悪に成長していく被虐願望。
新田たちのような強い個体群と、それに隷属する個体群。
私たちは、隷属する個体として、その特徴を強化していく。
反逆するためのキバを自ら溶かし、服従する歓びを何度も学習する。
弱い、隷属する個体である私たちにとって、それがどれほど幸福で、狂おしいほどの快感を与えてくれるのかを。
この待ち時間によって、改めて認識させられるのだった。
「さて、準備ができたので、早速始めましょうか」
新田の声。
その瞬間、風景は一気に色彩を取り戻した。
心臓が早鐘のように鳴り響く。
『さあ、そこの台に乗ってください、センパイ?』
私の心の準備などお構いなしに、物語は進行していく。
処刑台。
あの上で私は、馬術部3年生としての立場を、中谷紗枝としての経歴を失う。
文字通り『処刑』されるのだ。
そして、生まれ変わる。
1号として。
馬術部員ではなく、馬術部員を乗せて走るポニーガールとして。
台へ向かって歩く。
膝がガクガク震える。
全身が震え、奥歯が噛みあわない。
本能が感じる恐怖。
ヒトとしてこの世に産み、育ててくれた、お父さん、お母さん。
21年間、中谷紗枝として過ごしてきた記憶の数々。
何かが、必死に囁く。
今ならまだ、取り返しがつく。
引き返すなら、今のうちだぞ。
本当に、そうだろうか。
気付けば、台に右足を乗せていた。
せいぜい高さ20cmほどの台。
乗るのに造作もなかった。
観客席を振り向く。
パイプ椅子に座る3人の後輩たち。
内海の挑戦的な視線。
溝口の同情的な表情。
優菜の好奇心に満ちた瞳。
私と、彼女たちとを分けているものは何だろうか。
何かが違えば、私もあちら側で座っていたのだろうか。
三井や藤崎は、そうだったかもしれない。
サディストとしての資質は、間違いなく持っていた。
マゾヒストとサディスト。
不思議な関係だった。
私や畑川はどうだっただろう。
あの日、あのアニメを観なければ、私に被虐の資質は芽吹かなかったのではないか。
畑川は、私を好きにならず、新田に調教される私を見ていなかったら。
別の人生を歩んでいたのではないか。
あるいは、何かのきっかけで、サディストへと目覚めることがあるのかもしれない。
三井や藤崎がマゾヒストへとなったように。
私と畑川も。
そこまで考えて、やめた。
意味のないことだった。
どれだけ考えても、これから訪れる出来事を、結末を変えることはできないのだから。
ふと、両脇を見ると、右側には三井、左側には畑川と藤崎。
オブジェにふさわしいポーズをして、儀式を彩っていた。
「心の準備はできましたか、センパイ?」
新田の声。
台のすぐそばで、私を見ていた。
「それではこれを、受け取ってください」
リモコン。
そうだ、これを…
自分で押すのだ…
胸が、締め付けられる。
心臓がすり潰されるような感覚。
心の準備なんて、できない。
どれだけ時間があっても。
むしろ、時間が経てばたつほど、気がどうにかなってしまいそうだった。
手のひらにあるリモコンを見る。
再生を示す、▶。
視線を、前を見る。
期待に満ちた目で、あるいは緊張した面持ちで私を見る後輩たち。
このボタンを押せば。
彼女たちの中で、中谷紗枝という人物が書き変わる。
序列。
2学年も上でありながら、自分よりも格下へと成り下がった女。
畏れ敬うべき相手だったのが、今はこちらの顔色を窺いながら卑屈に媚びる忠犬。
大量に分泌される脳内麻薬。
恐怖に、痛みに備えているのか。
かつて経験したことがないほどの倒錯的な状況に、酔いしれているのか。
己の存在が、書き換えられる。
1年生にひれ伏し、マゾ犬として、調教馬として生涯を過ごす。
こちらを見上げる、3人の後輩たち。
数分後には、後輩ではなく、私の上位存在となる存在。
これが、中谷紗枝として見る最後の光景か。
震えが止まらない。
奥歯がカチカチと音を立てて鳴り合う。
この期に及んで、まだ覚悟ができていないのか、私は。
自分を叱咤するが、体の奥から湧き上がる感情を止めることができない。
「紗枝」
ご主人様の声。
「怖がらなくて大丈夫だよ。どんなことがあっても、私が紗枝のこと守ってあげる。生涯、愛してあげる」
それは、びっくりするほど優しい声で。
固く、意固地になっていた私の心を、優しく解きほぐしていく。
「あの時、言ったでしょ?カメラの前で」
彼女の囁きが、記憶を呼び覚ます。
これから流れる映像を撮った時、彼女は…
「言ったとおり、私なりの愛し方だけどね」
私の被虐的な性癖。
マゾヒストと名づけられた、衝動。
葛藤に苛まれる日々もあった。
でも、そのおかげで出会うことができた。
彼女と…新田と、絆を深めることができた。
きわめて歪な形をしてはいるが、私にとってはかけがえのないもの。
新田もまた、葛藤の中で生きているのだろうか。
分からない。
これまで、そういった話はしてこなかったのだ。
でも、もしそうなら…
彼女の力になってあげたい。
こみ上げる、温かい感情。
愛おしさ。
彼女と一緒なら。
彼女が傍にいてくれるなら。
私は…
リモコンの▶ボタンに、親指を乗せる。
私は、目を閉じ、息を止め…
親指に、力を込めた。
流れ始める、BGM。
藤崎の時と同じ、重低音が響く。
私は、リモコンを足元へと置く。
そして、待機のポーズを取る。
室内が薄暗くなっていく。
背を向けているので、スクリーンに映し出される映像は見えない。
しかし、脳裏にはっきりと浮かんだ。
真っ黒い画面。
そこに浮かぶ、赤い文字。
『罰ゲーム、執行』
甲高いシンセサイザーの音。
神経を逆なでるような不協和音が、私の不安を掻き立てていく。
ドッドッドッドッ…
底に流れるアップテンポのビート。
強制的に、鼓動が同調していく。
心が剥き出しになっていく。
私の、裸の心。
後輩たちの無遠慮な視線によって、踏みにじられていく。
『ねえ1号、これを見てる1年生に、アンタの学年と所属サークルを教えてあげな』
背後から新田の声。
数日前の記憶が、鮮やかに蘇る。
撮影の日、確かに聞いた言葉。
そして、私は…
『は、はい…3年生で、馬術部に、所属しています…』
体中の血液が、顔に集まっていく。
加工されていない声。
私の、中谷紗枝の声。
目の前で座る1年生たちが、目を見開いた。
3人とも、スクリーンではなく、私を見ていた。
気付かれただろうか?
気付かれてしまっただろうか?
必死に祈る。
気付かれていないことを願っているのか。
それとも、気付かれていることを願っているのか。
それすらも、分からないまま。
『3年生なのにさ、なんで1年である私の前で、そんなカッコしてるわけ?』
ソファにふんぞり返る新田。
その前で、私は待機のポーズをしている。
記憶に刻まれた光景。
『に、新田様は、私のご主人様で…私は、新田様のペットだからです…』
耳を塞ぎたくなるほど、卑屈で情けない言葉。
媚びるような声色が、嫌悪感を掻き立てる。
命令されているからではなく、自らの意思でそうしている。
そのことを、目の前の1年生たちははっきりと理解できただろう。
『これを見られてるってことは、アンタ、負けちゃったってことだよ。ついに知られちゃうんだ。センパイ面してるアンタが、ホントはどんな情けないヘンタイなのかをさ』
『もう、言い逃れできないよ?ほら、いつも見たいに可愛がってあげるから、取ってきな?アンタの大好きなオモチャ』
『わ、分かりました…』
そう言って、私は…
四つんばいの姿勢になり、床を這う。
ローテーブルに置かれた『それ』を口に咥える。
そして、ソファに座るご主人様へと差し出す。
私の大好きなオモチャ。
乗馬鞭。
というより、これを持つご主人様のお姿が、好きなのだ。
威厳があって、自身に満ちた、強い個体。
それを振るわれるたび、私は己の立場を思い知らされる。
痛み、衝撃とともに広がる、甘い痺れ。
そこに、ご主人様からの愛も感じられるから。
ご主人様の所有物であることを、強く感じられるから。
私をじっと見下ろす、ドミナント。
私は、差し出したそれを受け取ってもらえるよう、お尻を振りながら媚び続ける。
しかしご主人様は、なかなか受け取ろうとしなかった。
焦らされている。
いや、他の1年生に見せつけているのかもしれない。
3年生をひれ伏させる、己の姿を。
ブザマな姿を晒しながら後輩に媚びる、憐れなマゾ女を。
こんな姿を見られたら、もうその子には絶対に逆らえないだろうな。
そんなことを、あの時の私は考えていたはずだ。
そして今、その姿を見られている。
内海。
溝口。
優菜。
いや、もう呼び捨てにはできない。
先輩と後輩という関係性はなくなり。
あるのは、飼い主とペット。
支配する者と、服従する者。
もう、序列は入れ替わってしまったのだ。
今後、私がお仕えする方々のお顔を、じっと見つめる。
見慣れたはずの、3人の顔。
輪郭が、少しずつぼやけていく。
別の存在へと変わっていく女の子たち。
いや、変わっているのは私のほうか。
『それじゃ、可愛がってあげるね』
鞭を受け取った新田が、立ち上がる。
『アンタの大好きなお尻叩き。と、言いたいところだけど…』
私を見下ろしながら、呟く。
『その前に、ちょっとお散歩しようか、センパイ』
室内を、四つんばいの姿勢で這いまわる。
その背には、1年生の女の子。
右手に持った鞭で、私のお尻をペチペチと軽く叩く。
抑えめになったBGMのボリューム。
代わりに、はっきりと聞こえるようになったもの。
床の軋む音。
ボンデージの擦れる音。
映像の見えない私にとって、それは想像を掻き立てるのに十分だった。
三脚で固定されたスマホ。
その前を通過するたび…
『ひっ、ヒヒーン!』
馬のいななき。
ブルブルと首を震わせ、馬になりきる。
新田の命令だった。
『ダメ。なに恥ずかしがってんの?もっとお馬さんらしく鳴きな』
『ヒィ…ヒヒーン!』
声を張り上げる。
しかし、途中で声が掠れてしまった。
パシッ!
新田の鞭が、私のお尻を叩いた。
『ヒィッ!ヒヒーンッ!!』
痛みと興奮とが入り混じった、渾身のいななき。
あまりにも必死でブザマな姿に、内海と優菜が噴き出す。
目の前に先輩が、本人がいるにも関わらず。
全く遠慮のない笑い声。
『どう?私の馬、カワイイでしょ?』
冗談めかした、新田の声。
『ほら、進みな』
新田の太ももが、私の脇腹をギュっと締め付ける。
再び歩き始めながら、私は想像していた。
私のこの姿を見る後輩たちのことを。
そしてその時、私をどんな感情が襲っているのかを。
笑い声。
映像の世界へ入り込んでいた私の意識が、呼び戻された。
目の前の少女たち。
スクリーンを見ながら、クスクスと笑っていた。
二人の声が、表情が。
私のプライドを、すり潰していく。
その横で、溝口。
泣きそうになりながらも、じっと画面を睨みつけていた。
『ヒヒーンッ!』
クスクス…
私が鳴き声を上げるたび、失笑が漏れる。
『さっきと同じじゃないの。もっとお尻を突きあげて、ブルブルって震えながら鳴きな!?』
『ヒヒーンッ!!』
「アハハ!なにあれ、ひっど…」
内海の、無遠慮な態度、言葉。
「1号さん、カワイイ!大きなお尻も、ブルブル震わせちゃって。いいなぁ。私も乗ってみたい」
目を輝かせる優菜。
溝口は、スクリーンと私とを交互に眺め、下唇を噛んだ。
おそらく、気付いているだろう。
これだけ声を聞いたのだ。
溝口だけでなく、内海も、優菜も。
正体に気付いてなお、あんな態度を取っている。
それはもはや、私に対しておそれを抱いていないから。
見下しているのだ。
私は、自分のヒエラルキーが堕ちていくのを実感する。
先輩への敬意をなくし、笑い者にする後輩たちの姿。
それを、私はステージの上で見させられ続ける。
『ブルルルルッ!』
「アハハハハ!だめっ、笑わせないで…」
「あー、可笑し…1号さん、お馬さんだけじゃなくて、お笑いの才能もあるかも…」
馬になりきった私が、嘲笑の対象になっている。
いたたまれなかった。
どのくらい経っただろうか。
『止まりな』
ご主人様の声。
目の前の、後輩たちの顔を見つめながら。
意識は再び映像の中へと吸い込まれていく。
馬上のご主人様の命令。
停止した私のすぐそばには、スマホ。
後輩を乗せて這いまわる私の姿を、じっと撮り続けている。
背に感じる、新田の体重。
お尻に当てられる、鞭の感触。
全身を締め付ける、ボンデージ。
年下の女の子に、部の後輩に見られているという事実。
ヒトとしての、先輩としての自尊心を傷つけていく。
それが、どうしようもないほど狂おしく、愛おしかった。
自傷行為。
あるいは、破滅願望に近いのだろうか。
違うのは、ご主人様の存在。
その温もりを、愛情を、確かに感じていた。
『よし、降ろしな』
『は、はぃ…』
身を屈め、降りやすいようにする。
『ウォーミングアップは、これで終わり。それじゃお待ちかねのアレ、してあげるね』
『は、はいっ!』
嬉しそうに返事をする、マゾ女。
これが自分の声でなければ、嗤っていたかもしれない。
目の前に座る、内海や優菜のように。
『お尻、突き出しな、センパイ』
『はっ、はいっ…!』
脳裏に、鮮やかに浮かぶ己の痴態。
ペチペチと、肉を叩く音。
その感触まで、はっきりと思い出すことができた。
ビュッ!
ビュッ!
鞭が、空を切る音。
『今日は10回、叩いてあげる。自分で数えるんだよ?』
『はいっ、わかりましたっ』
上擦った声が、神経を逆撫でる。
ビシッ!
一回目。
柔肌に叩きつけられる、乗馬鞭。
響き渡る強烈な音が、容赦のなさを物語っていた。
鞭を打たれた調教馬が、切なげに悶える。
か細い鳴き声には、どこか媚びが含まれていた。
衝撃とともに、鋭い痛みが尻肉に広がっていく。
私の心と体に刻み込まれたあの感覚。
音を聞いただけで、私の中で再現されていく。
ジンジンと熱を持って主張する痛みが、私の下腹部を熱くする。
『いっ、いっかーい!』
叩かれた回数をカウントする、私の声。
掠れたそれは、私の恥ずかしさを増幅させる。
後輩たちの顔に、緊張が走る。
優菜など、鞭の音に反応して体をビクッと震わせていた。
『あーあ、聞かれちゃったね。センパイの情けない声』
クスクスと笑うご主人様。
脳で分泌された媚薬が、全身に溶けていく。
体は熱く火照り、秘部が疼く。
ビシッ!
二回目。
乾いた音。
馬の鳴き声が続く。
そして…
『にっ、にかーい…』
深く沈んでいった痛みの上に、鋭い痛みが重なっていく。
声を上げそうになるのを、内ももを擦り合わせて必死に耐える。
『ふふっ。震えちゃって、カワイイね。その姿を見て、その声を聞いて、2号は寝取られマゾに目覚めちゃったんだよねぇ。これを見てる1年生のみんなには、どう映るかな?』
真剣にスクリーンを見つめていた3人の後輩たち。
少し気まずそうに、あるいは照れたように俯いた。
そして、再び顔を上げる。
空気を切り裂く鞭。
肉に叩きつけれらる瞬間。
白い肌に赤く浮かぶ、痕。
乗馬鞭。
彼女たちの見慣れたはずのそれが。
馬ではなく、ヒトに振り下ろされる。
ビシッ!
三回目。
『さっ、さんかー…い…』
『ほら、声が小さくなってる!もっとちゃんと数えな!いつもみたいに大きな声で!センパイのクセに、言われなきゃ分かんない?』
『…っ!さっ、さんかーい!』
『まったく。三年生にもなって声が小さいなんて一年生に注意されるの、アンタくらいだよ?恥ずかしくないの?』
ヒトに擬態するために、何重にも纏った衣。
鞭によって、それが1枚ずつはたき落とされていく。
痛みの余韻で、尻肉がヒクヒクと痙攣する。
ふうっ…と。
背後から、熱い吐息が漏れる。
ビシッ!
四回目。
鞭の音が聞こえるたび、優菜の体が小さく震える。
会場を支配する、緊張感。
その内に潜む淫靡な響きが、彼女たちの心を切なく締め付ける。
内海も、溝口も、優菜も。
体をギュっと固くしつつも、目が離せなくなっていた。
時折、何かを確かめるかのように、視線がこちらへと向けられる。
目が合った時の反応は、それぞれ違った。
慌てて視線を逸らす者。
口もとに笑みを浮かべる者。
じっと、こちらを観察する者。
そのどれもが、私の羞恥心を煽ってくる。
尻に刻まれた、四筋の赤い線。
皮膚が敏感になり過ぎて、微かな風さえ痛みに変わる。
目に浮かぶ涙。
それなのに。
心の底から浮かぶのは、被虐の悦び。
ご主人様の息遣い。
想いが、鞭を通して伝わってくる。
ビシッ!
五回目。
私のプライドを削ぎ落してきた、新田の鞭。
私に馬としての悦びを教えてくれた、新田の鞭。
鞭打たれるたび実感する、ご主人様の存在。
私の立場。
自分自身ですら気付いていなかった、心の奥底にある願望。
その輪郭が、クッキリと浮かび上がっていく。
『ほら、姿勢崩すな』
冷たく言い放つ新田。
『ご、ごめんなさいっ!』
声が上擦り、必死に尻を突き出す私。
厳格な主従関係。
背後で繰り広げられる映像。
調教師と、調教馬。
新田と、私。
汗で濡れたボンデージが、肌に張り付く。
逃げ場のない、下腹部の熱。
ボンデージの下で、乳首が固く尖る。
身じろぎする度に擦れ、甘い電流が走る。
後輩に調教される、情けないセンパイの声。
待機のポーズをする私を眺める、後輩たちの視線。
体から噴き出す愛液の感触。
ボンデージの内側に溜まったそれが、太ももを伝ってしまうのではないか。
それを、後輩たちに見つけられてしまうのではないか。
考えれば考えるほど、私の身体は熱く火照っていく。
ビシッ!
六回目。
『ろっ…ろっかーい!』
『だーかーらぁ、姿勢崩すなっての』
鞭打たれるたびに蓄積されていく、痛みと熱。
意思とは裏腹に、私の体は鞭から逃れようとしてしまう。
それはヒトに備わった本能で、自然なこと。
だから、不自然なのだ。
私はヒトではないのだから。
新田が、私を叱責する。
それを聞きながら、私はいたたまれなくなる。
全身を刺すような羞恥心。
後輩に叱られている姿を、別の後輩たちに見られている。
尻を叩く掲げ、次の衝撃に備える。
ビシッ!
七回目。
実際に叩かれたわけではないのに。
音だけで、私の体が反応する。
痛みと衝撃で、身悶えする。
鞭を避けようと、腰をクネらせる。
『ワザとやってるわけじゃないよねぇ。調教のし直しが必要かな?1年生たちの前でさ、その根性、叩きなおしてあげよっか?』
叱責。
真剣さと揶揄いの混ざり合った声色。
私は興奮でめまいを覚えつつ、慌てて謝罪の言葉を口にする。
目の前に座る後輩たち。
映像は、彼女たちの何かを目覚めさせたようだ。
ある者は、鞭を振るう者の権威性に。
ある者は、鞭を通した主従関係の尊さに。
ある者は、鞭を打たれる者の切なく狂おしい甘美に。
肉を打つ音。
牝馬の艶っぽい鳴き声。
三者三様の共鳴。
ビシッ!
八回目。
あっ…
ボンデージの隙間から、熱い滴りが太ももに伝っていく。
お願い…
気付かないで…
後輩たちを見つめながら、祈る。
視線。
気付いただろうか…
気付いたかもしれない…
実際に、鞭で打たれている訳でもないのに。
映像を見ているわけでもないのに。
音声を聞きながら、思い出し…
体を熱くさせながら、股を濡らしている。
卑しい、女の顔をして。
違う。
牝馬。
発情したメスのケモノ。
それを、人である女の子たちに見られている。
ずっと隠していた、私の正体が…
『みんなに見られちゃったねぇ』
ゾッとするほど冷たい、新田の声。
それだけで、体がブルッと震えてしまった。


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