「2号、こちらへ来なさい」
新田が、手のひらを上にして観客席を指し示す。
2号は、待機のポーズを解いた。
ぎこちなく、こわばった動きで。
新田に先導されながら、2号は歩き出す。
座っている後輩たちの前へと。
先ほどの映像の余韻か。
それとも、これから味わう屈辱と恥辱を思ってか。
足が震えている。
それでも止まることはできない。
うつむいたまま、ゆっくりと歩みを進める2号。
そして……
1年生たちが座る椅子の前までやってきた。
新田が立ち止まる。
目的地に着いたのだ。
2号も歩みを止めた。
前に座る1年生たち。
好奇心に満ちた視線を、2号は全身で受け止める。
相変わらず、俯いてはいるが…
後輩たちがどんな目で自分を見ているのか、肌で感じ取っているのだろう。
自分を抱くように両腕を回し、体をギュッと固くした。
「マスクを脱ぎなさい」
優しく諭すように新田が告げる。
自身を抱いたまま、2号は小さく1回、うなずく。
両手がマスクに触れる。
視線が、集中する。
目の前にいるポニーの正体を、1年生たちは知っているはずだった。
しかし、実際にその目で見るまでは、本当には信じられないのだろう。
マスクを脱ぎ去る瞬間を、固唾を飲んで見守っていた。
全頭マスク。
ゆっくりと、引き抜かれていく。
そして…
1年生の口から、小さなため息がもれた。
目を丸くしてうなずき合ったりしている。
「1年生のみなさんに、改めて自己紹介をしなさい、2号」
やはりどこか優しげな声だった。
口を開き、何かを言いかけた2号。
うまく言葉が出てこないのか、ゴクリと唾を飲み込む。
「に、新田様のペットで、2号をしています、畑川麻友です。ど、どうか…かわいがってくださいね、ご主人様?」
たどたどしい口調。
しかし、媚びるような声音で1年生たちに挨拶する。
このセリフは、自分で考えたものなのか。
それとも新田の指示なのか。
畑川らしくない言葉と態度だと感じた。
それは1年生たちも同じだったらしい。
「畑川センパイなんスか、それ…?」
内海が失笑する。
「内海ちゃん、からかっちゃかわいそうだよぉ」
言いながらも、笑いをこらえきれない優葉。
大貫は冷笑を浮かべていた。
1年生たちの反応に、もともと赤かった顔がさらに赤く染まっていく。
恥ずかしそうにモジモジしながら、ぎこちない笑みを浮かべる畑川。
「それにしても、畑川センパイも『そっち側』だったんスね。ついさっきまでは『こっち側』にいたはずですけど?」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら、内海が続ける。
「そうそう。私たちのこと騙してたんですか、センパイ?」
蔑むような目を向ける大貫。
オモチャを前にしてはしゃぐのははしたない、とでも思っているのか。
しかし仮面の奥では、どういたぶってやろうかと、舌なめずりしている彼女も見え隠れしている。
「す、すみません…そんなつもりは、なかったんです…」
恐縮する畑川。
「あれ、センパイなのにそんな言葉遣いになっちゃうんだぁ?いいんですよ、センパイなんですからいつもみたいに話しても」
無邪気さでオブラートに包んだ言葉を投げかける優葉。
「あ、あはは…」
気まずそうに苦笑いする畑川。
優葉にからかわれている。
完全に立場が逆転してしまっている。
そのことを、畑川は心と体で敏感に感じ取っていた。
その証拠に、恥ずかしそうに身をよじりつつも、媚びるような目で優葉を見ている。
後輩に対し、卑屈な態度を取る畑川。
そのシグナルを、1生たちはしっかりと受け取っていた。
この先輩は、格下として扱ってよいのだ。
むしろ、本人はそうされたがっているのだと。
「でも、センパイがそうなさりたいのなら、止めませんよ?」
上から目線の優葉。
被虐と、先輩としてのプライドとの間で揺れる畑川。
微妙な反応をする。
「あ、そうだ! ねえ、センパイのこと、何て呼べばいいんスか?畑川センパイ? それとも、2号?どっちで呼んでほしいんスか?」
畑川が内股になる。
太ももをこすり合わせ、右手は口元に、左手は股間に。
何かに耐えるようにモジモジと動く。
うるんだ目で、恥ずかしそうに。
「に、2号、で…」
「2号って呼んでほしいの?」
「は、はい……」
「分かった。じゃあ、これからは2号って呼んであげるね」
「あり、ありがとうございます……」
顔を真っ赤にしながら、お礼を述べる畑川。
「でも、マゾって不思議ね。後輩にこんなこと言われて、悔しくないの?」
口元に冷たい笑みを浮かべる大貫。
「悔しがるどころか、興奮しているのが丸わかり。こんなことされて興奮するなんて、プライドってものがないの?」
プライドがないわけではない。
でも、そのプライドを踏みつけられることで、体が、心が反応してしまう。
悔しさは快楽に、情けなさは惨めなほどの高ぶりに変わる。
そして相手が年下の後輩であっても。
いや、だからこそ余計に…
「顔まっ赤だよ、2号」
優菜の言葉には、もはや先輩に対する敬意はない。
からかうような口調、態度。
「エッチなスイッチ、入っちゃったんだ?」
恥ずかしそうに頷く畑川。
「ちゃんとお返事しょうね、2号?」
「はい…」
消え入りそうな声。
「うふふっ。そうそう。素直でよろしい」
立場逆転。
その感触を楽しむかのように、畑川をからかう優菜。
「命令、してあげよっか?」
優菜の声。
さっきまでより、少し低い声で。
驚いたように、目を見開く畑川。
「えっと…その…」
「どうなの?」
いたずらっぽい笑みを浮かべる優菜。
「しっ、して、欲しいです…」
「貞操帯、見せてみな?」
ブルッと。
小さく震える畑川。
そして…
俯いたまま、ボンデージに手をかける。
スカート型のピンクの拘束服。
ゆっくりとずり下げていく。
1年生たちの視線が、熱く突き刺さる。
畑川は顔を上げられないが、全身でその視線を感じ取っているはずだった。
脱いだボンデージを握りしめ、両手を体の後ろで組む。
腰をわずかに引いて、直立する畑川。
まるで、先輩に呼び出されて叱責を受ける後輩のような、縮こまった姿。
3人の後輩がニヤニヤと笑みを浮かべる。
「ちゃんと言うこと聞いて、エライじゃん、2号?」
内海の言葉に、畑川は卑屈な笑みを浮かべる。
「これが貞操帯かぁ。近くで見ると、なんか生々しいね」
照れたように笑う優菜。
「鍵が付いてる。なるほど、こうなってるのか…」
興味深げに、貞操帯を観察する大貫。
一方、溝口だけは俯いたまま。
膝の上で両手をぎゅっと握りしめ、口を固く閉じている。
そして、どこか困ったような表情。
そんな彼女の様子など、まるで目に入っていないのだろう。
はしゃぐ三人組。
「鍵、新田に管理されてるんだ?」
内海の問いに、畑川は小さく頷く。
「自分じゃ外せないんでしょう、それ?エッチな気分になっても、これじゃあどうにもできないねぇ?」
畑川の顔を覗き込む内海。
貞操帯を眺めながら、大貫が呆れたように呟く。
「だから、胸をいじってるんでしょう?下を触れない代わりにね。さっき見た映像みたいに、だらしない顔しながら」
優菜が嬉しそうにはしゃぐ。
「そうそう。新田ちゃんに形を変えられちゃうかもね、2号の乳首。引っ張られて、どんな風になっちゃうんだろうねぇ…あ、そうだ!」
何かを閃いたらしい優葉。
悪い笑みを浮かべて、二人を振り返る。
「長くなった2号の乳首に紐をくくりつけて、お散歩するなんて、どう?」
「何それ?どういうこと?」
内海が怪訝そうに尋ねる。
「だからね、他のポニーは首輪にリードをつけるじゃない?でもこの子は乳首に紐をつけて、お散歩するの」
「あぁ、そういえば最初、控え室から出てくるとき…」
ご主人様にリードを引かれ、這いつくばって進む私たち3頭のポニー。
その中に、2号が加わる。
ただし、別の姿で。
「今みたいに、両手は後ろにしてね。両方の乳首にひもをつけて、立ったまま歩かせるの」
「何それ、痛そう…」
「大丈夫だよ。ご主人様の言うとおり、素直にしてればね」
聞いているだけで、ぞわぞわする。
想像しただけで、乳首が固く、尖っていくのを感じる。
笑みを浮かべて、前を歩く後輩。
その手にはひもが握られている。
その後ろを、後ろ手に歩く私。
周囲から注がれる好奇の視線。
私は思わず立ち止まってしまう。
『何してんの?止まってないで歩きなよ』
言いながら、ひもを引っぱる後輩。
全身に衝撃が走る。
痛みは甘い媚薬となって、脳を溶かしていく。
衝撃の余韻を体に残したまま、私は再び歩き始める。
嘲笑。
失笑か。
後ろ手に縛られ、はしたなく突き出された両胸にはひもが結びつけられ…
ペットのように、あるいは捕虜のように、後輩の後ろに続く。
下を見る。
ひもが結ばれた乳首。
かつての面影はない。
後輩におもちゃのように弄ばれた果てに、すっかり形を変えてしまった。
これが、私の乳首なの…?
長く、いびつになったそれは、もう二度と元の形には戻らない。
悔しさと敗北感をかみしめる。
前を歩く後輩。
私の体をこんなにした、憎くてたまらない女。
でも…
彼女の蔑むような視線と、私への執着に満ちた笑み。
それが、さらに私をダメにしていく。
まるで宝物を見せびらかすかのように歩く後輩。
愛しさがこみ上げてくる。
子宮がキュンと締まる。
ぐちゃぐちゃになった私の感情。
ドロドロに発情した、私の体。
この先の未来を想像し、絶望しながらも昂ってしまう。
この子に、私の体はどこまで作り変えられてしまうのだろう。
取り返しがつかないほど伸びてしまった、胸の先端。
恐怖で身体が震える。
いや、違う。
期待しているのだ。
前を歩く後輩の後ろ姿。
この子は、誰だろう。
新田か、それとも…
椅子に座る1年生たちの顔を眺める。
嗜虐的な目で畑川を見つめる彼女たち。
その誰かに、私は…私の乳首は…
いや、違う。
そんな目に遭うのは、私ではない。
畑川。
今、後輩たちの目で身悶えしている、彼女なのだ。
後輩たちにぶざまに引き回され、プライドを踏みつけられる。
体を作り変えられ、歪になったそれを嗤われる。
そんな、屈辱。
狂おしいほどの甘美。
それを与えられるのは、私ではなく、畑川。
それに気づいた瞬間、私の体をドロドロした情念が巡り始めるのを自覚した。
畑川への嫉妬と羨望。
込み上げてきた感情が、胸を切なく締め付ける。
当の畑川は、あいかわらず卑屈な目で、後輩たちの顔色をうかがっていた。
「貞操帯で管理されて、つらい?」
内海が尋ねる。
「えっ、あ、は、はい…」
戸惑いながら、返事をする畑川。
「貞操帯、外してほしい?」
「え、と、その…」
とっさに、新田の顔色をうかがう。
微笑む新田。
それを見て、内海に対し小さく頷く。
「ホントかなぁ?」
「えっ…?」
「管理、してほしいんでしょう? 顔に書いてあるよ?」
「そ、そんなこと……」
膝をこすり合わせる畑川。
上擦った声は、どこか艶を帯びていた。
「だってさぁ、ホントにイヤなら抵抗すればいいじゃん。力だって、新田よりあるんだから。カギだって、無理やり奪い取ることだってできるだろうし?」
「そ、それは…」
「なんで、そうしないのかなぁ?」
畑川の顔を覗き込む内海。
「だ、だって、そんなこと…」
「そうだよねぇ。そんなことしたら、もうイジメてもらえないもんね? 『外してください』って、オネダリさせられて、揶揄われて、焦らされてさ。そういうのが『いい』んでしょう、センパイ?」


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