ポニーガールとご主人様 最終章(4)犬たちの芸比べ

レースから2週間後。
あのホテルで、再び合同調教が開催された。
いや、合同とは言えないかもしれない。
なぜなら…

ソファに座る、私服姿の1年生3人。
その足元で、3匹の犬が待てのポーズを取っていた。

私と三井、そして…
かつて新田と並んでソファに座っていた藤崎。
今は全員、全頭マスクを被り、首からネームタグをぶら下げている。

前回と違う点は、もう1つあった。
ビブスだ。
「1号」「3号」「4号」と書かれたそれを、私たちは身につけていた。

ソファの横では、畑川が椅子に腰かけている。
足を組んで、笑みを浮かべながら。
まるで、この会の主のような態度だった。

ついさっきまで、私たち3人は畑川から屈辱的な命令を受けていた。
お手、おかわり。
仁王立ちした畑川の股を、潜らされたりもした。

畑川の脱いだ靴下を咥えさせられ、1年生たちの前を這いまわった時は、怒りで目の奥がチカチカした。

お手本と称し、1年生たちの前で得意げな畑川。
実際、1年生ふたりは、そんな畑川に憧れのまなざしを向け始めていた。

畑川の『お手本』を見た浜本と鳥越は、すっかりSっ気に火がついてしまったらしい。
サディスティックな笑みを浮かべながら、私も3匹の犬を競わせた。
靴下を放り投げては、取ってこさせるゲーム。
1年生たちに揶揄われ、詰られながらも、犬に堕ちた先輩たちは、恥辱と興奮に包まれていた。

「このゲームも、ちょっと飽きてきちゃったかも」
鳥越がつぶやく。
「じゃあ、次は何する?」
浜本。
「うーん、そうだなぁ…ねえ、畑川先輩、どんなのがいいと思います?」
頼れる先輩に助言を求める。

「ひとりずつ芸をさせるってのはどう?」
「芸、ですか?」
「そう。私たちを楽しませるためにね。順番に芸をさせて、もしつまらなかったらオシオキするの。それなら、この子たちも一生懸命になるでしょ」

余計なことを…
3人の恨めしい視線にも気付かず、得意げに答える畑川。
「おお、確かに!さっすが畑川先輩」
浜本が感心する。

「でも、オシオキかあ。どんなのがいいんだろ」
考え込む浜本。
「そんなに難しく考えなくていいんだよ。この子にこんなことさせたら面白そうだな、とか、こんなことさせたら、悔しがるだろうな、可笑しいだろうなってやつをさせればいいんだからさ」
「なるほど…あ、分かった!」

何かを思いついた浜本。
どうせ、ろくでもないことなのだろう。
しかし、こちら側にとっては、その内容は死活問題だった。
「私も、思いついた。オシオキの内容は、順番に決めようよ」
「うん。そうしよっか」
後輩の前で芸をする。
ただ後輩を楽しませるために。

それだけでも、屈辱極まりないことだった。
つまらなければ、オシオキ。
彼女たちのさじ加減一つで、どんな目に遭わされるか分からない。

負けたくない。
このふたりには。
同じ境遇の、三井、藤崎。
抱くのは、共感でも仲間意識でもない。
ライバルとしての対抗心。

「それじゃ、まずは誰からにしよっかな」
目の前で待てのポーズをする3匹の犬を、順番に眺める浜本。
「ビブスの順でいいか。1号、まずはお前からだよ。1号として、他のワンちゃんたちに、お手本見せてあげな」

2学年も下の後輩のクセに、とは思わなかった。
というより、負けてオシオキされるのだけはイヤという気持ちが強かったのだ。

「3号と4号もこっちに来て、よく見てな。自分が何をするのか、よーく考えるんだぞ?」
待てのポーズを解き、直立する。
目の前には、3人のご主人様。

嘲笑。
憐れみ。
好奇心。

三者三様の視線が、私の肌を刺した。
そして、3人を挟むように、両サイドに三井と藤崎。
中腰で、前足を胸もとで揃えながらこちらを見ていた。

改めてこうして見ると、なんとも滑稽で、惨めな姿だった。

ただでさえ情けないのに、ふたりとも、興奮しているのが丸わかりで…
それが一層、彼女たちの身分を低く見せている。
ソファに座る、堂々とした佇まいの3人。
見た目も境遇も、なにもかもが違いすぎた。

「ほら1号。始めな」
私は首のネームタグを外し、3人に見えるように右手で構えた。
不思議そうな顔をする浜本と鳥越の前で、左手を下に90度に曲げる。
ガニ股で足を開きながら、左右にステップを踏んだ。

いっちに、さんしっ…
心の中で唱えながら、足を動かす。

にいにっ、さんしっ…
上半身は固定したまま。

呆気に取られていた二人が、噴き出した。

二人の蔑むような目が、笑い声が、私の女としてのプライドを汚していく。

一方、新田。
口をへの字に曲げて、呆れたような目で私を見ていた。

「はい、終わりー」
ひとしきり笑ったあと、浜本が告げた。

「いやあ、いきなり凄いのが来たねぇ。見てるこっちが恥ずかしくなっちゃった」
「芸というか…完全にヒトとしてのプライドがないんだね」
浜本と鳥越の、容赦ない言葉。

それよりも、新田。
一言も発さず、私を睨み続けていた。
『おーい、紗枝。そのダンス、ワンパターンじゃない?さすがに飽きてきたんだけど』
以前、彼女から言われた言葉を思い出した。

きっと、新田の興を削いでしまったのだ。
さっきのダンスをしたのは、これで何回目だ?
これでは、オシオキを逃れたとしても、勝ったと言えるのか?
胸に痛みを感じつつ、自問する。

「次は、3号の番ね。ほら、前に出な!」

浜本の命令。
おとなしく従う三井。
いや、その表情に一瞬、悔しさが滲んだように見えた。

私は、三井と場所を入れ替わった。

鳥越、浜本、そして藤崎。
三井にとっては取り巻きの3人。
幸い1年のふたりには、彼女の正体は気付かれていない。

ただ、バレてしまうことへの恐怖は、私とは比べ物にならないはずだった。
手足の震えを見れば、それは一目瞭然だった。
「よーし、3号、始めな」
浜本の合図。

両手両足を床に付け、四つんばいの姿勢になる三井。
そのまま、ソファへと這っていく。
新田の足に、顔を近づける。

「ふごっ!ふごっ!」
鼻を鳴らしながら、靴下のニオイを嗅ぎ始めた。
「ちょっとー。汗で蒸れてるから、臭うよ、きっと」
浜本と鳥越が真顔で見つめる中、新田が苦笑する。
豚のような鳴き声を上げながら、這いつくばる3号。

新田の靴下から、顔を離した3号。
新田にしたのと同じように、浜本、鳥越の靴下へと顔を近づけ、鼻を鳴らす。

「はーい、そこまで」
浜本。
「まあ、頑張ってはいたけど…」
「うん。ただ、1号のインパクトがねぇ…」
小声で話す二人。

三井にしては思い切った行動だと思うが、二人には響かなかったようだ。

「よし、ラスト、4号、行きな」
浜本の命令。
おずおずと、前に出てくる藤崎。
三井も藤崎も、お互い目を合わせようとはしなかった。

余計、惨めな思いが募ってしまうからだろうか。
これ以上、情けない姿を見たくも、見せたくもないのかもしれない。
藤崎。
しきりに、前に座っている1年生をチラチラと見る。
正確には、鳥越。

レース後、鳥越を乗せてコースをはい回った藤崎。
お尻を叩かれ、息を詰まらせながら全身を震わせていた藤崎。
結局のところ、鳥越に正体を知られてしまったのかどうか。
分からなかった。
.
鳥越の顔色をうかがう藤崎。
そんな藤崎に、目を細めながら微笑む鳥越。

ふたりの間には、目に見えない繋がりが、すでにできているように感じた。

「始めな」
浜本の言葉に、4号が小さく頷いた。
私たちに背を向け、しゃがみ込む藤崎。
3人が、顔を見合わせた。

カエルのような恰好でしゃがんでいる4号。
ゆっくりと、お尻を左右に揺らし始める。

次第に上下、前後にも動き始めた。
腰を振りながら魅せる、煽情的なダンス。
時には円を描き、ねちっこく動く腰使い。

性の経験に疎いであろう1年生たちが、戸惑いつつも目が釘付けになっていた。
藤崎に、こんなことができたなんて。
その意外性に、私は息を飲んだ。

ひととおり芸を披露した、3匹の犬たち。
再び、ご主人様たちの前で並ぶ。
それぞれの芸を見た飼い主たちのジャッジが下されようとしていた。

「良かったと思うワンちゃんを、いっせーので、指差すの。いい、もう決めた?」
浜本。
「誰にも選ばれなかった子はオシオキだからね。いくよ? いっせーの…」
指を差す、ご主人様たち。

新田は藤崎を。
浜本と鳥越は私を選んでいた。

「はい、決まりー!最初のオシオキは、3号!」
浜本が高らかに宣言する。
三井の震えが大きくなる。

「玲奈、オシオキの内容は、もう決めてあるの?」
「うん。今日、新田がこの子を紹介してくれた時からね」
「 ふうん」
「3号ちゃんの大好きな、お尻!」
「ああ、なるほど!」
三井が拳を握りしめる。

前回レースを欠場した三井。
そのため、浜本と鳥越には初対面として、新田が紹介したのだ。
その際、例の『敗北宣言』についても軽く触れたのだった。

「私はもう散々見たから、飽きちゃってるんだけど…でも、ふたりが楽しんでくれるなら、いいか」
新田が苦笑する。
「3号?己の不甲斐なさを噛みしめながら、やるんだよ?文字どおり、自分で尻ぬぐいをするの。分かった?」
三井が頷く。

「どんなのかな。ワクワクする」
「私たち、仮にも女子大生だよ?それなのに、お尻の穴を見せろって言いながら期待してるなんて…」
呆れつつも、鳥越の顔にも笑みが浮かんでいた。

「はーい、3号ちゃんのオシオキ、スタート!」
浜本の開始宣言を受けて、三井が背を向ける。

背中を曲げて、両手で膝を持つ。
お尻を突き出した状態。
そのまま、ジッとしている三井。
おそらく、屈辱や羞恥心に耐えているのだろう。
それが分かったのか、1年生ふたりも急かすことなく、じっと見つめていた。

両手を、水着のボトムスへと伸ばす。
ゆっくりと、ずり下げていく。

形のいい、三井のお尻が現れた。
「出たぁ!3号ちゃんのお尻!」
歓声を上げるギャラリー。
全頭マスクで覆われていて見えないが、彼女の顔は耳まで真っ赤になっているのだろう。
「ほら、ふたりに見えやすいように、もっとこっちに来な」
新田の命令。

お尻を突き出したまま、ソファの方へにじり寄っていく三井。
「やだぁ、こっちに来たぁ」
はしゃぐ浜本。
「ホントにやってるよ。どこの誰かは知りませんけど、女として終わってますよー」
揶揄うような口調で、3号のプライドをしっかりと貶めていく、鳥越。

「ほら、それだけじゃないでしょ?それから、どうするんだっけ?」
新田に促された3号が、己の尻を掴む。
やはり、少し躊躇いがあったあと。
グッと、尻肉を押し広げた。

『そこ』が露わになる。

歓声。
「うわぁ、見えちゃった!」
「うげぇ…きったな…」

羞恥心を煽り、自尊心を踏みにじる後輩たち。
「氷、押し当てちゃおっか。冷蔵庫に入ってるかな」
「やめなよ、可哀想じゃん。せめてこれくらいにしときなって」
笑いながら、ジュースの入ったコップを手に取る鳥越。

三井の指が震えている。
彼女の羞恥心が、屈辱が、痛いほど伝わってくるようだった。

「あ、そうだ」
浜本。
ソファから立ち上がり、バッグから何かを取り出した。
ペン。
キャップを外し、突き出された尻たぶに何かを書き始めた。

「さ…ん…ご…う…っと」

「ちょっと玲奈、それはさすがにやりすぎじゃない?」
「心配しなくても、水性ペンだから。すぐ落ちるって」
悪びれもせず、そう答える浜本。

「さぁて、1回目のオシオキは、こんなところかな。次。2周目ね。1号、前に出な」

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