ポニーガールとご主人様 最終章(14)品定め

「どう、分かってもらえた?」
新田が、1年生たちを見回す。
その声に、ハッと我にかえる1年生たち。

「た、確かに、脅されてるわけではなさそうだったけどさぁ…」
顔を赤くした内海。
「いきなりなんてもの、見せんのよ」
大貫が、どこか気まずそうに新田を睨む。

「でも、この人たち、馬術部の先輩って…」
優菜の声が震えていた。

「ねえ新田、大丈夫なの?ホントに、この人たちって、先輩方なの?」
大貫が、不安そうな顔で新田に尋ねる。

「ふふっ、そうだよ。何なら、本人たちにも聞いてみる?」
大貫の視線が、私に向けられる。
「あ、あのぉ…ホントに私たちの…馬術部の先輩、なんですか…?」

逃げ場はなかった。

新田たちにペットとして飼われ、調教されているマゾ女たち。
破廉恥な姿で、リードを引かれながら1年生たちの前に現れた、家畜。

日頃、彼女たちに畏れられ、敬われている存在。
それはまだ、今も続いている。
1年生たちの、遠慮がちでどこか怯えるような目。

私が頷くことで、消え失せる。
代わりに向けられるのは、好奇と侮蔑。
彼女たちの自尊心を満たし、娯楽を提供する存在として、成り下がる。
私が頷いた瞬間。
彼女たちは後輩ではなく、圧倒的な強者として、私たちの前に存在することになる。

1年生たちの視線。
両隣の、ポニー2頭の息遣い。

尋ねられた私は…
ゆっくりと、頷いた。

「マジか…」
内海が、呻く。

「それでね、レースの結果、もし負けちゃった子は、罰ゲームが待ってるの」
「別ゲーム?」
「うん。その時によって内容は変わるんだけど、今回の罰ゲームは…」
新田が言いかけた、その瞬間。

「バカバカしい」
吐き捨てるように呟く、溝口。
視線が、溝口に集まる。
「こんなくだらないこと、付き合ってらんない…私、帰るから」
そう言って、出口へと歩いて行こうとする。

その腕を、新田が掴んだ。

「なっ…!は、離せよ、新田」
振りほどこうとする溝口。
しかし、ほどけない。
よほど強く掴まれているのか。

二人のやりとりを緊張した面持ちで見つめる、騎手たち。
他の1年生も、どうしたらいいか分からず、不安そうに眺めていた。

「ってーな!離せったら!」
部内でも長身な溝口と、小柄な新田。
体格差のある溝口から凄まれても、新田は怯まない。

むしろ…
普段は見せない新田の気迫に、溝口の方が気圧されていた。

新田が、手を離す。
腕をさする溝口の耳もとに、口を寄せ…
何かをつぶやいた。

溝口が目を見開く。
何か言いかけた溝口を、新田が人差し指を唇に当てて制する。

私たちポニーを、無言で眺める溝口。
そして…
「嘘じゃ、ないだろうな」
新田を睨みつけるように問いかける。
微笑みながら、無言でうなずいく新田。

改めて、溝口の視線が私たちに向けられる。
そして…
もと居た場所へと戻った。

「さて、映像を見てもらったところで…1つ、みんなに提案があります。この後のレースをもっと楽しくでもらうために、ね」
「提案?」
「うん。レースの結果を予想してもらいたいの。さっき、罰ゲームの話したの、覚えてる?」
「え、ええ…レースで負けた子には、罰ゲームが待ってるって…」
「そうなの。で、今回の罰ゲームは…マスクを脱いで、素顔を晒すこと」

ざわめく、1年生たち。
「え、それって…」
「それでね。レースの結果を当てられた人には…素顔、見せてあげる」

内海が、喉を鳴らした。
「当てたら、誰なのか分かるってこと…?」
「せいかーい」

1年生たちが、顔を見合わせる。

人を馬に見立てて、レースをさせるなんて…
それも、この人たちは私たちの先輩らしいのだ。
後輩としての、遠慮。
人としての道義。
断るべきだ。

しかし…
その一方で、好奇心が滲む。
この機会を逃したら、もう二度とこんなことには出会えない。
素顔を見てみたい。
あのマスクを引き剥がして、普段エラそうにしている先輩の情けない顔を、拝んでやりたい。

良心と好奇心との呵責。
そんな彼女たちに対し、新田が告げる。
「もし、センパイたちに遠慮してるなら、そんなの意味ないからね?みんなに見てもらいたくて、こうして出てきたんだからさ」

「そうそう。みんなに楽しんでもらうために、こんなカッコまでしてくれたんだよ?そんなセンパイたちの好意を、むげにしてもいいの?そのほうが失礼じゃない?」
浜本が続く。

「中谷先輩たちも仰ってたでしょう?今後、馬術部を担うみんなに、仲を深めてほしいって。もうじき新入生もやってくることだしさ」
鳥越。
「それに、みんなでヒミツを共有したらさ…今まで以上に仲良くなれると思わない?」

詭弁だ。
おそらく、ここに居るほとんど全員がそう思ったはずだ。
しかし…
スクリーンに映ったあの映像が、頭から離れないのだ。
モザイクのない、声も加工されていない映像を、見てみたい…
目の前にいるブザマな先輩の、マスクを引き剥がしてやりたい…

真っ先に参加を表明したのは、意外な人物だった。
「私、参加する」
優菜。
小さな声で、しかし力強く宣言する。

「優菜、アンタ、分かってるの?こんなの…」
内海が窘めようとする。
「だ、だってさ、センパイたちがせっかく勇気をだしてくれたのに、参加しないなんて、カワイソウだよ。それに、みんなともっと仲良くなりたいし…」
言葉は、徐々に尻すぼみになっていく。
それは、自信のなさというより…
もっともらしい言葉で己の好奇心を隠している後ろめたさによるものかもしれない。

「それは、だから…」
なおも、言葉を続けようとする内海。

「私も参加する」
溝口。
「ゆ、結花!アンタまで…!」

「さっきの言葉、嘘じゃないよな、新田?」
新田を見据えて、言い放つ。
口もとに笑みを浮かべ、意味深に頷く新田。

「わ、私も、参加しよっかな…」
大貫。
「こんな恥知らずなことをなさる先輩。どなたなのかは知らないけど、ちゃんと叱って差し上げないと」
参加したいが、自分からは言い出せなかったのだろう。
自分へ言い訳するかのように、つぶやく。

はぁ、とため息をつく内海。
「分かったよ。私も参加する」
他のみんなが参加するのに、自分だけ参加しないわけにはいかない。
チームワークを乱すのを嫌う内海。

こんな態度を取ってはいるが、実際のところ彼女も映像に釘付けになっていたのだ。
ため息をつきつつも、安堵しているのが透けて見えた。

「そうこなくっちゃ」
浜本が笑う。

かくして、1年生全員の参加が決まったのだった。

「それじゃ、次はパドックでーす」
浜本が、陽気な声を出す。

「パドック?」
怪訝そうな顔の内海。
「うん。順位を予想するにしてもさ、判断材料がないと、でしょ?」
「なるほど…」
優菜が頷く。
「これから、それぞれ騎手と馬がコースを回るので、それを見て、どのペアが勝ちそうか、予想してね」

「まずは、1号から。騎手を務めるのは畑川失輩です。失輩、よろしくお願いします」
新田の言葉に、手を上げて応える畑川。
私を一瞥し、コースへと歩いていく。
その表情からは、感情を読み取ることができなかった。
サディストとしてふるまう自分に酔っているのか。

畑川に限って、そんなわけはない。
マゾヒストとしての自分を、必死に隠しているのだ。

「お馬さんたちに言っておきますけど、誰にも一位予想してもらえなかった場合も、オシオキしますからね?ちゃんと1年生のみなさんに、アピールするんですよ?」
1年生から、笑い声が漏れる。
ただ、どこかぎこちない。

会場に漂う、どこか淫靡で異様な空気。
それと、普段とは違う新田の雰囲気に、1年生たちは飲まれかけていた。

スタート地点。
黒いビニールテープが貼られた目印の前で。
立ち止まり、畑川が振り向く。
私は四つんばいのまま、背中に力を込めた。

「よっ!」

掛け声とともに、畑川が私に跨った。
何を、大げさな…
思ったが、会場はどよめいた。

畑川が、太ももで合図を送ってくる。

進め。

畑川を乗せて、コースを進む。

前回レースに続き、ニ度目のパドック。
こみ上げる緊張は、前回の比ではなかった。
観客の数が違うというのもあるのだろう。
それもあるが…

会場を取り巻いている、異様な空気。
ご主人様である、3人の1年生。
その目には、どこか妖しい光が宿っていた。
そして、観客の1年生にも。

食事会で使用した机と椅子は、今はコース近くへと置かれている。
今度は、観覧席として使用されるのだ。
まだ残っていたお菓子などをつまみながら、私たちを値踏みする1年生。

「ほら、1号さ~ん!オドオドしてないで、もっとアピールしたほうがいいんじゃないですか~?」
大貫の声。
笑い声が起こる。
さっきまでの躊躇いはどこへやら。
この状況を愉しみ始めていた。

「続いて、3号!ペアとなる騎手は…」
「いえーい!みんな、投票してねー!」
浜本の声に、笑いが起こる。
「3号ちゃん、がんばろーね?」

私はただ、前を向きながら、4つ足で進み続ける。
観客たちの注目が、浜本たちへ移っていくのを感じる。
それが、焦りへと繋がっていく。
『誰にも一位予想してもらえなかった場合も、オシオキしますからね?』
このままでは、オシオキされてしまう…

そんな気持ちを見透かしたかのように…
「3号も、やる気満々です。ほら1号、負けてらんないねぇ。アンタも頑張んな?」
新田の声に、笑い声が起こる。

全身に力が入る。
「アハハ!1号が張り切ってる!」
見下したかのような、内海の声。
「カワイー!」
優菜の、無邪気な笑い声。

「ラストは、4号!騎手を務めるのは、鳥越!」
「はーい、がんばりまーす」
どこかおちゃらけたような、鳥越の返事。
「4号、行くよ!もし勝てたら、キミの大好きなアレ、いっぱい嗅がせてあげるからね」

パァン!
鞭で、お尻を叩く音。

「ほら、進みな!」
スイッチが入ったかのように、凛々しい声で命令する。

コースを練り歩く、3組の出走者。
ギャラリーの視線を感じながら、私は前を見据えて進む。

「ここで、それぞれのお馬さんの追加情報をお伝えします」
いつになく饒舌な新田。
「まず、1号。その名の通り、お馬さんになった最初のセンパイです。そんな彼女はなんと…連戦連勝の負けなしです」
おお、とどよめきの声があがる。
「映像にもあったように、お尻を叩かれるのが好きな彼女ですが、特技が一つ。それは…ストリップです」

「えーっ」
「ストリップだってぇ…」
ギャラリー席から、照れたような声。

「もし彼女が敗者となった場合、当てた人は彼女のセクシーなダンスを堪能することができます。普段エラそうにしてるセンパイが、あなたに媚びながらエッチに誘惑する。そんな優越感を、ぜひお楽しみください」

会場の熱気が増していく。

「続いて、3号!」

「彼女は粘り強いレース展開が持ち味で、これまで何度も1号を苦しめてきました。残念ながら戦績には恵まれませんでしたが、その負けん気で、今日こそは雪辱を果たしてくれるかもしれません」

「3号ー!負けんなー!」
内海の声。

「プライドの高い彼女ですが、実は悔しくて恥ずかしいことが大好きです。敗北宣言もそうですが、ライバルである1号に…どこのとは言いませんが、お毛々を剃られ、悔しそうに下唇を噛む表情は必見です」
「お毛々って、もしかして…」
「そ、そんなことも、させてるんだぁ…」
「マジかよぉ…」

「かと思えば、1号との熱々なディープキスでうっとり蕩けたりする、乙女な一面もあります」
「え、えぇ!?女の人同士で?」
「二人って、そういう関係なの…?」

「彼女が負けた場合は、どちらか1つお選びいただけます。悔しそうに剃毛される様子を堪能するか、もしくはラブラブなチューでトロトロに蕩ける、乙女な彼女をみるか。いずれにせよ、普段の凛々しい彼女を知る人が見たら、そのギャップで彼女の虜になること間違いなしです」

「凛々しい…?いや、でも、まさかね…」
「わ、私、キスしてるとこ、見てみたい、かも…」
「私は、剃られてるところかな。ライバルに負けて、あ、アソコの…剃られるなんてさ、屈辱的過ぎでしょ。どんな顔してんのか気になる」
「内海、あなた、さっきまであんなこと言ってたのに、すっかり楽しんでるじゃない」
「い、いいじゃんか。どうせなら、楽しんだ方がさ。大貫だって、お嬢様のクセにこんなレースに夢中になってんじゃんか」
「わっ、私は、先輩としてあるまじきあの人たちを、後できっちりと…」
「はいはい。わかったわかった」

「最後に、4号!3号のご主人様を気取っていた彼女ですが、無謀にも私に挑み、返り討ちにあってしまいました」

「あぁ、さっきの映像にもあったね」
「エラそうにしてたけど、それが今じゃアレなわけでしょ?変わりすぎ」

「負けたことで、ご主人様としての地位を失ってしまった彼女。でも、そのほうが彼女にとってよかったのかもしれません。馬になったことで、ようやく本当の自分に、そして今のご主人様に出会えたのですから」

「ドラマがあるんだね」
「ご主人様からお馬さんになったんだぁ。それって、どんな気持ちなんだろ…?」
「ドSからドMに、ね。案外、あんたみたいな人がMだったりしてね、結花」
「ばっ、バカなこと言ってんじゃない!」
「冗談だってば。そんなに怒るなって」
「ったく…おい、優菜、何見てんだよ?」
「あっ、ご、ごめんなさい!」

「馬としては新参者の彼女ですが、クレバーな戦術で対戦相手を幻惑します。そして、特技も多彩です。先ほどの映像は、なんと全て彼女が編集したものです」

「へぇ、すご…」
「ってことは、4号自身の映像も、自分で作ったってことか」
「新田たちも、ムゴイことをさせるね」
「でもさ、本人もそういうのがいいんじゃない?悔しい、恥ずかしいって思いながら、作らされるの」
「そういうものかねぇ」

「彼女の大好物は、なんと靴下。しかも、部活後の汗と汚れに塗れて、蒸れたものが、特にお気に入りです。いつも大好きなご主人様の靴下を嗅がせてもらいながら、嬉しそうにクンクンしてます。優しいご主人様に出会えてよかったね、4号?」

「ほら、キミのことだよ?」
パシッ!
鳥越が、鞭を振るったのだろう。

「多彩な彼女は、好みも多彩です。なんと、強めの言葉で詰られたり、鞭で叩かれると…あっという間に、気持ちよさそうに、ブルブル体を震わせちゃいます。これは、さっきの映像にもありましたね」

「あれはびっくりしたね」
「言葉だけで…なんて、よっぽどじゃない?い、いや、私はそういうの、よく知らないんだけどさ」
「しかも、先輩なんでしょ?後輩にあんなことされて、あんなこと言われたらさ、普通、怒るよね?それがさ…」

「とまあ、多彩でご主人様大好きな4号ちゃんですが…実は、ご主人様にも言ってない、エッチなヒミツがあります」
「え!ウソ!ホントに?」
鳥越が大声を出す。
「ふふっ。内緒にしててごめんね?風香ちゃんには、後で教えてあげる。あとは、レースで当てた人にも、ね」

面白おかしく、競走馬たちの特徴を紹介する新田。
好奇心と興奮を煽られた観客のボルテージは、ますます高まっていく。

パドックを終えて、観客席の前へと並ぶ出走者たち。
その横で、新田が説明をする。
「1着から3着まで、予想を書いてね。書き終わったら、この箱の中に紙を入れてくださーい。あ、そうそう、自分の名前を書くのも忘れずにね」

真剣な表情で、私たちポニーを見比べる者。
さっと書いて、すぐに紙を投函する者。
友人と意見交換をしながら予想する者。

そして…
「はーい、それではお待ちかね!出走の時間となりました!」

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