ポニーガールとご主人様 最終章(20)調教師と調教馬

ただ妄想を膨らませながら、私は何度も体を熱くしていた。

いや、食事会が決まってからではなく。
新田を乗せて『お馬さんごっこ』をしたときから、かもしれない。

あるいは、幼いころに観たアニメ。
妹を乗せてお馬さんごっこをする少女を観た瞬間から、こうなることは決まっていた。
そんな気がする。

会場の傍らで固まるポニー4頭。
罰ゲームを免れた3号。
しかしその表情に安堵はなかった。

可愛らしくも残酷な、我々のご主人様たち。
このまま逃げ切りを許すほど、彼女たちは甘くないことを、三井は知っているのだ。

正体を知られずにこの場を切り抜けられるのか。
藤崎の罰ゲーム。
そして、私の罰ゲーム。

正体を晒し、羞恥に震える私たちを見ながら、怯え、期待する。
マゾヒストとしての性。
体の奥底から湧き起こる被虐の欲求からは、逃れることなどできないのだ。
一度知ってしまった以上は、永遠に。

4号。
先ほど『処刑』された彼女の体には、まだ色鮮やかに『記憶』が残っているはずだった。
その記憶は、私の処刑シーンによって再び鮮明によみがえる。
むしろ、そうすることによってクッキリと刻まれるのだ。
生涯消えることのないトラウマとして。

今も、被虐的な願望が彼女の中で渦巻いているのかもしれない。
彼女の、荒く熱っぽい呼吸。
じっと聞いてしまうと、共鳴してしまいそうだった。

畑川。
彼女自身の罰ゲームは免れた。
そして、目前に迫るのは私の罰ゲーム。

どんな気持ちだろうか。

寝取られマゾ。
私が新田に調教される様を、偶然覗き見てしまったという。
それで目覚めたという、彼女の性癖。

貞操帯という屈辱的な器具を身に着けさせられ。
目の前で見せつけられながら、ずっとオアズケをされている状態。

それでも新田に逆上するどころか、なお一層、ひれ伏しているように見えた。
好きな人を奪った相手に、自分自身の大切な『権利』も差し出す。

悲しいほど歪で、倒錯的な願望。
そして今、私は新田だけでなく、他の後輩たちにも差し出されようとしていた。
内海、溝口、優菜。

畑川の後輩で、彼女を敬う女の子たち。
3人とも、期せずして手に入れた権利。
畑川が一生を掛けても触れることのできないそれを、彼女たちは手のひらで弄ぶ。
そしてそれを、畑川の目の前で見せつけるのだ。

ポニーたちが抱える、それぞれの想い。
色も形も違うそれは、しかし共通した性質を持っていた。
ボンデージの中で密閉されたそれは、圧を高め、私たちを苛む。

口から微かに漏れ出たそれは、すぐ隣の個体へと吸い込まれていく。
宿主を替えて、更に凶悪に成長していく被虐願望。

新田たちのような強い個体群と、それに隷属する個体群。
私たちは、隷属する個体として、その特徴を強化していく。
反逆するためのキバを自ら溶かし、服従する歓びを何度も学習する。

弱い、隷属する個体である私たちにとって、それがどれほど幸福で、狂おしいほどの快感を与えてくれるのかを。
この待ち時間によって、改めて認識させられるのだった。

「さて、準備ができたので、早速始めましょうか」
新田の声。
その瞬間、風景は一気に色彩を取り戻した。

心臓が早鐘のように鳴り響く。
『さあ、そこの台に乗ってください、センパイ?』
私の心の準備などお構いなしに、物語は進行していく。
処刑台。
あの上で私は、馬術部3年生としての立場を、中谷紗枝としての経歴を失う。
文字通り『処刑』されるのだ。

そして、生まれ変わる。
1号として。
馬術部員ではなく、馬術部員を乗せて走るポニーガールとして。

台へ向かって歩く。
膝がガクガク震える。
全身が震え、奥歯が噛みあわない。

本能が感じる恐怖。

ヒトとしてこの世に産み、育ててくれた、お父さん、お母さん。
21年間、中谷紗枝として過ごしてきた記憶の数々。

何かが、必死に囁く。
今ならまだ、取り返しがつく。
引き返すなら、今のうちだぞ。

本当に、そうだろうか。

気付けば、台に右足を乗せていた。
せいぜい高さ20cmほどの台。
乗るのに造作もなかった。

観客席を振り向く。

パイプ椅子に座る3人の後輩たち。

内海の挑戦的な視線。
溝口の同情的な表情。
優菜の好奇心に満ちた瞳。

私と、彼女たちとを分けているものは何だろうか。
何かが違えば、私もあちら側で座っていたのだろうか。

三井や藤崎は、そうだったかもしれない。
サディストとしての資質は、間違いなく持っていた。

マゾヒストとサディスト。
不思議な関係だった。

私や畑川はどうだっただろう。
あの日、あのアニメを観なければ、私に被虐の資質は芽吹かなかったのではないか。
畑川は、私を好きにならず、新田に調教される私を見ていなかったら。
別の人生を歩んでいたのではないか。

あるいは、何かのきっかけで、サディストへと目覚めることがあるのかもしれない。
三井や藤崎がマゾヒストへとなったように。
私と畑川も。

そこまで考えて、やめた。
意味のないことだった。
どれだけ考えても、これから訪れる出来事を、結末を変えることはできないのだから。

ふと、両脇を見ると、右側には三井、左側には畑川と藤崎。
オブジェにふさわしいポーズをして、儀式を彩っていた。

「心の準備はできましたか、センパイ?」
新田の声。
台のすぐそばで、私を見ていた。
「それではこれを、受け取ってください」
リモコン。
そうだ、これを…
自分で押すのだ…

胸が、締め付けられる。
心臓がすり潰されるような感覚。

心の準備なんて、できない。
どれだけ時間があっても。
むしろ、時間が経てばたつほど、気がどうにかなってしまいそうだった。

手のひらにあるリモコンを見る。
再生を示す、▶。

視線を、前を見る。
期待に満ちた目で、あるいは緊張した面持ちで私を見る後輩たち。
このボタンを押せば。
彼女たちの中で、中谷紗枝という人物が書き変わる。

序列。
2学年も上でありながら、自分よりも格下へと成り下がった女。
畏れ敬うべき相手だったのが、今はこちらの顔色を窺いながら卑屈に媚びる忠犬。

大量に分泌される脳内麻薬。
恐怖に、痛みに備えているのか。
かつて経験したことがないほどの倒錯的な状況に、酔いしれているのか。

己の存在が、書き換えられる。
1年生にひれ伏し、マゾ犬として、調教馬として生涯を過ごす。

こちらを見上げる、3人の後輩たち。
数分後には、後輩ではなく、私の上位存在となる存在。

これが、中谷紗枝として見る最後の光景か。

震えが止まらない。
奥歯がカチカチと音を立てて鳴り合う。

この期に及んで、まだ覚悟ができていないのか、私は。
自分を叱咤するが、体の奥から湧き上がる感情を止めることができない。

「紗枝」
ご主人様の声。
「怖がらなくて大丈夫だよ。どんなことがあっても、私が紗枝のこと守ってあげる。生涯、愛してあげる」
それは、びっくりするほど優しい声で。
固く、意固地になっていた私の心を、優しく解きほぐしていく。
「あの時、言ったでしょ?カメラの前で」
彼女の囁きが、記憶を呼び覚ます。
これから流れる映像を撮った時、彼女は…
「言ったとおり、私なりの愛し方だけどね」

私の被虐的な性癖。
マゾヒストと名づけられた、衝動。
葛藤に苛まれる日々もあった。
でも、そのおかげで出会うことができた。
彼女と…新田と、絆を深めることができた。

きわめて歪な形をしてはいるが、私にとってはかけがえのないもの。

新田もまた、葛藤の中で生きているのだろうか。
分からない。
これまで、そういった話はしてこなかったのだ。
でも、もしそうなら…
彼女の力になってあげたい。

こみ上げる、温かい感情。
愛おしさ。

彼女と一緒なら。
彼女が傍にいてくれるなら。
私は…

リモコンの▶ボタンに、親指を乗せる。
私は、目を閉じ、息を止め…
親指に、力を込めた。

流れ始める、BGM。
藤崎の時と同じ、重低音が響く。

私は、リモコンを足元へと置く。
そして、待機のポーズを取る。

室内が薄暗くなっていく。
背を向けているので、スクリーンに映し出される映像は見えない。
しかし、脳裏にはっきりと浮かんだ。

真っ黒い画面。
そこに浮かぶ、赤い文字。
『罰ゲーム、執行』

甲高いシンセサイザーの音。
神経を逆なでるような不協和音が、私の不安を掻き立てていく。
ドッドッドッドッ…
底に流れるアップテンポのビート。
強制的に、鼓動が同調していく。

心が剥き出しになっていく。
私の、裸の心。
後輩たちの無遠慮な視線によって、踏みにじられていく。

『ねえ1号、これを見てる1年生に、アンタの学年と所属サークルを教えてあげな』
背後から新田の声。
数日前の記憶が、鮮やかに蘇る。
撮影の日、確かに聞いた言葉。
そして、私は…
『は、はい…3年生で、馬術部に、所属しています…』
体中の血液が、顔に集まっていく。
加工されていない声。
私の、中谷紗枝の声。
目の前で座る1年生たちが、目を見開いた。

3人とも、スクリーンではなく、私を見ていた。

気付かれただろうか?
気付かれてしまっただろうか?

必死に祈る。

気付かれていないことを願っているのか。
それとも、気付かれていることを願っているのか。

それすらも、分からないまま。

『3年生なのにさ、なんで1年である私の前で、そんなカッコしてるわけ?』

ソファにふんぞり返る新田。
その前で、私は待機のポーズをしている。

記憶に刻まれた光景。

『に、新田様は、私のご主人様で…私は、新田様のペットだからです…』

耳を塞ぎたくなるほど、卑屈で情けない言葉。
媚びるような声色が、嫌悪感を掻き立てる。
命令されているからではなく、自らの意思でそうしている。
そのことを、目の前の1年生たちははっきりと理解できただろう。

『これを見られてるってことは、アンタ、負けちゃったってことだよ。ついに知られちゃうんだ。センパイ面してるアンタが、ホントはどんな情けないヘンタイなのかをさ』

『もう、言い逃れできないよ?ほら、いつも見たいに可愛がってあげるから、取ってきな?アンタの大好きなオモチャ』

『わ、分かりました…』

そう言って、私は…

四つんばいの姿勢になり、床を這う。
ローテーブルに置かれた『それ』を口に咥える。
そして、ソファに座るご主人様へと差し出す。

私の大好きなオモチャ。
乗馬鞭。
というより、これを持つご主人様のお姿が、好きなのだ。
威厳があって、自身に満ちた、強い個体。
それを振るわれるたび、私は己の立場を思い知らされる。
痛み、衝撃とともに広がる、甘い痺れ。
そこに、ご主人様からの愛も感じられるから。
ご主人様の所有物であることを、強く感じられるから。

私をじっと見下ろす、ドミナント。
私は、差し出したそれを受け取ってもらえるよう、お尻を振りながら媚び続ける。
しかしご主人様は、なかなか受け取ろうとしなかった。

焦らされている。
いや、他の1年生に見せつけているのかもしれない。
3年生をひれ伏させる、己の姿を。
ブザマな姿を晒しながら後輩に媚びる、憐れなマゾ女を。

こんな姿を見られたら、もうその子には絶対に逆らえないだろうな。
そんなことを、あの時の私は考えていたはずだ。
そして今、その姿を見られている。

内海。
溝口。
優菜。

いや、もう呼び捨てにはできない。
先輩と後輩という関係性はなくなり。
あるのは、飼い主とペット。
支配する者と、服従する者。
もう、序列は入れ替わってしまったのだ。

今後、私がお仕えする方々のお顔を、じっと見つめる。

見慣れたはずの、3人の顔。
輪郭が、少しずつぼやけていく。
別の存在へと変わっていく女の子たち。
いや、変わっているのは私のほうか。

『それじゃ、可愛がってあげるね』
鞭を受け取った新田が、立ち上がる。
『アンタの大好きなお尻叩き。と、言いたいところだけど…』
私を見下ろしながら、呟く。
『その前に、ちょっとお散歩しようか、センパイ』

室内を、四つんばいの姿勢で這いまわる。
その背には、1年生の女の子。
右手に持った鞭で、私のお尻をペチペチと軽く叩く。

抑えめになったBGMのボリューム。
代わりに、はっきりと聞こえるようになったもの。
床の軋む音。
ボンデージの擦れる音。

映像の見えない私にとって、それは想像を掻き立てるのに十分だった。

三脚で固定されたスマホ。
その前を通過するたび…

『ひっ、ヒヒーン!』
馬のいななき。
ブルブルと首を震わせ、馬になりきる。
新田の命令だった。

『ダメ。なに恥ずかしがってんの?もっとお馬さんらしく鳴きな』
『ヒィ…ヒヒーン!』
声を張り上げる。
しかし、途中で声が掠れてしまった。

パシッ!
新田の鞭が、私のお尻を叩いた。

『ヒィッ!ヒヒーンッ!!』
痛みと興奮とが入り混じった、渾身のいななき。
あまりにも必死でブザマな姿に、内海と優菜が噴き出す。
目の前に先輩が、本人がいるにも関わらず。
全く遠慮のない笑い声。

『どう?私の馬、カワイイでしょ?』
冗談めかした、新田の声。
『ほら、進みな』
新田の太ももが、私の脇腹をギュっと締め付ける。

再び歩き始めながら、私は想像していた。
私のこの姿を見る後輩たちのことを。
そしてその時、私をどんな感情が襲っているのかを。

笑い声。
映像の世界へ入り込んでいた私の意識が、呼び戻された。
目の前の少女たち。
スクリーンを見ながら、クスクスと笑っていた。

二人の声が、表情が。
私のプライドを、すり潰していく。

その横で、溝口。
泣きそうになりながらも、じっと画面を睨みつけていた。

『ヒヒーンッ!』
クスクス…
私が鳴き声を上げるたび、失笑が漏れる。
『さっきと同じじゃないの。もっとお尻を突きあげて、ブルブルって震えながら鳴きな!?』
『ヒヒーンッ!!』

「アハハ!なにあれ、ひっど…」
内海の、無遠慮な態度、言葉。
「1号さん、カワイイ!大きなお尻も、ブルブル震わせちゃって。いいなぁ。私も乗ってみたい」
目を輝かせる優菜。

溝口は、スクリーンと私とを交互に眺め、下唇を噛んだ。
おそらく、気付いているだろう。
これだけ声を聞いたのだ。
溝口だけでなく、内海も、優菜も。

正体に気付いてなお、あんな態度を取っている。
それはもはや、私に対しておそれを抱いていないから。
見下しているのだ。
私は、自分のヒエラルキーが堕ちていくのを実感する。

先輩への敬意をなくし、笑い者にする後輩たちの姿。
それを、私はステージの上で見させられ続ける。

『ブルルルルッ!』
「アハハハハ!だめっ、笑わせないで…」
「あー、可笑し…1号さん、お馬さんだけじゃなくて、お笑いの才能もあるかも…」
馬になりきった私が、嘲笑の対象になっている。

いたたまれなかった。

どのくらい経っただろうか。
『止まりな』
ご主人様の声。

目の前の、後輩たちの顔を見つめながら。
意識は再び映像の中へと吸い込まれていく。

馬上のご主人様の命令。

停止した私のすぐそばには、スマホ。
後輩を乗せて這いまわる私の姿を、じっと撮り続けている。

背に感じる、新田の体重。
お尻に当てられる、鞭の感触。
全身を締め付ける、ボンデージ。
年下の女の子に、部の後輩に見られているという事実。

ヒトとしての、先輩としての自尊心を傷つけていく。
それが、どうしようもないほど狂おしく、愛おしかった。
自傷行為。
あるいは、破滅願望に近いのだろうか。
違うのは、ご主人様の存在。
その温もりを、愛情を、確かに感じていた。

『よし、降ろしな』
『は、はぃ…』
身を屈め、降りやすいようにする。

『ウォーミングアップは、これで終わり。それじゃお待ちかねのアレ、してあげるね』
『は、はいっ!』
嬉しそうに返事をする、マゾ女。
これが自分の声でなければ、嗤っていたかもしれない。
目の前に座る、内海や優菜のように。

『お尻、突き出しな、センパイ』
『はっ、はいっ…!』

脳裏に、鮮やかに浮かぶ己の痴態。

ペチペチと、肉を叩く音。
その感触まで、はっきりと思い出すことができた。
ビュッ!
ビュッ!

鞭が、空を切る音。

『今日は10回、叩いてあげる。自分で数えるんだよ?』
『はいっ、わかりましたっ』
上擦った声が、神経を逆撫でる。

ビシッ!

一回目。

柔肌に叩きつけられる、乗馬鞭。
響き渡る強烈な音が、容赦のなさを物語っていた。

鞭を打たれた調教馬が、切なげに悶える。
か細い鳴き声には、どこか媚びが含まれていた。

衝撃とともに、鋭い痛みが尻肉に広がっていく。
私の心と体に刻み込まれたあの感覚。
音を聞いただけで、私の中で再現されていく。

ジンジンと熱を持って主張する痛みが、私の下腹部を熱くする。

『いっ、いっかーい!』
叩かれた回数をカウントする、私の声。
掠れたそれは、私の恥ずかしさを増幅させる。

後輩たちの顔に、緊張が走る。
優菜など、鞭の音に反応して体をビクッと震わせていた。

『あーあ、聞かれちゃったね。センパイの情けない声』
クスクスと笑うご主人様。

脳で分泌された媚薬が、全身に溶けていく。
体は熱く火照り、秘部が疼く。

ビシッ!

二回目。

乾いた音。
馬の鳴き声が続く。
そして…
『にっ、にかーい…』

深く沈んでいった痛みの上に、鋭い痛みが重なっていく。
声を上げそうになるのを、内ももを擦り合わせて必死に耐える。

『ふふっ。震えちゃって、カワイイね。その姿を見て、その声を聞いて、2号は寝取られマゾに目覚めちゃったんだよねぇ。これを見てる1年生のみんなには、どう映るかな?』

真剣にスクリーンを見つめていた3人の後輩たち。
少し気まずそうに、あるいは照れたように俯いた。

そして、再び顔を上げる。

空気を切り裂く鞭。
肉に叩きつけれらる瞬間。
白い肌に赤く浮かぶ、痕。

乗馬鞭。
彼女たちの見慣れたはずのそれが。

馬ではなく、ヒトに振り下ろされる。

ビシッ!

三回目。

『さっ、さんかー…い…』

『ほら、声が小さくなってる!もっとちゃんと数えな!いつもみたいに大きな声で!センパイのクセに、言われなきゃ分かんない?』
『…っ!さっ、さんかーい!』
『まったく。三年生にもなって声が小さいなんて一年生に注意されるの、アンタくらいだよ?恥ずかしくないの?』

ヒトに擬態するために、何重にも纏った衣。
鞭によって、それが1枚ずつはたき落とされていく。

痛みの余韻で、尻肉がヒクヒクと痙攣する。
ふうっ…と。
背後から、熱い吐息が漏れる。

ビシッ!

四回目。

鞭の音が聞こえるたび、優菜の体が小さく震える。

会場を支配する、緊張感。
その内に潜む淫靡な響きが、彼女たちの心を切なく締め付ける。

内海も、溝口も、優菜も。
体をギュっと固くしつつも、目が離せなくなっていた。

時折、何かを確かめるかのように、視線がこちらへと向けられる。

目が合った時の反応は、それぞれ違った。
慌てて視線を逸らす者。
口もとに笑みを浮かべる者。
じっと、こちらを観察する者。
そのどれもが、私の羞恥心を煽ってくる。

尻に刻まれた、四筋の赤い線。
皮膚が敏感になり過ぎて、微かな風さえ痛みに変わる。
目に浮かぶ涙。
それなのに。
心の底から浮かぶのは、被虐の悦び。
ご主人様の息遣い。
想いが、鞭を通して伝わってくる。

ビシッ!

五回目。

私のプライドを削ぎ落してきた、新田の鞭。
私に馬としての悦びを教えてくれた、新田の鞭。

鞭打たれるたび実感する、ご主人様の存在。
私の立場。

自分自身ですら気付いていなかった、心の奥底にある願望。
その輪郭が、クッキリと浮かび上がっていく。

『ほら、姿勢崩すな』
冷たく言い放つ新田。
『ご、ごめんなさいっ!』

声が上擦り、必死に尻を突き出す私。
厳格な主従関係。

背後で繰り広げられる映像。
調教師と、調教馬。
新田と、私。

汗で濡れたボンデージが、肌に張り付く。
逃げ場のない、下腹部の熱。
ボンデージの下で、乳首が固く尖る。
身じろぎする度に擦れ、甘い電流が走る。

後輩に調教される、情けないセンパイの声。
待機のポーズをする私を眺める、後輩たちの視線。

体から噴き出す愛液の感触。
ボンデージの内側に溜まったそれが、太ももを伝ってしまうのではないか。
それを、後輩たちに見つけられてしまうのではないか。
考えれば考えるほど、私の身体は熱く火照っていく。

ビシッ!

六回目。

『ろっ…ろっかーい!』

『だーかーらぁ、姿勢崩すなっての』

鞭打たれるたびに蓄積されていく、痛みと熱。
意思とは裏腹に、私の体は鞭から逃れようとしてしまう。
それはヒトに備わった本能で、自然なこと。
だから、不自然なのだ。
私はヒトではないのだから。

新田が、私を叱責する。

それを聞きながら、私はいたたまれなくなる。
全身を刺すような羞恥心。
後輩に叱られている姿を、別の後輩たちに見られている。

尻を叩く掲げ、次の衝撃に備える。

ビシッ!

七回目。

実際に叩かれたわけではないのに。
音だけで、私の体が反応する。

痛みと衝撃で、身悶えする。
鞭を避けようと、腰をクネらせる。

『ワザとやってるわけじゃないよねぇ。調教のし直しが必要かな?1年生たちの前でさ、その根性、叩きなおしてあげよっか?』

叱責。
真剣さと揶揄いの混ざり合った声色。
私は興奮でめまいを覚えつつ、慌てて謝罪の言葉を口にする。

目の前に座る後輩たち。
映像は、彼女たちの何かを目覚めさせたようだ。

ある者は、鞭を振るう者の権威性に。
ある者は、鞭を通した主従関係の尊さに。
ある者は、鞭を打たれる者の切なく狂おしい甘美に。

肉を打つ音。
牝馬の艶っぽい鳴き声。
三者三様の共鳴。

ビシッ!

八回目。

あっ…

ボンデージの隙間から、熱い滴りが太ももに伝っていく。

お願い…
気付かないで…

後輩たちを見つめながら、祈る。

視線。

気付いただろうか…
気付いたかもしれない…

実際に、鞭で打たれている訳でもないのに。
映像を見ているわけでもないのに。

音声を聞きながら、思い出し…
体を熱くさせながら、股を濡らしている。

卑しい、女の顔をして。
違う。
牝馬。
発情したメスのケモノ。

それを、人である女の子たちに見られている。

ずっと隠していた、私の正体が…

『みんなに見られちゃったねぇ』

ゾッとするほど冷たい、新田の声。
それだけで、体がブルッと震えてしまった。

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