ポニーガールとご主人様 最終章(21)中谷紗枝として

交差した、鞭の痕。
その上に、更に痕が刻まれていく。

ジンジンと脈打つたび、股から愛液が溢れ出る。

恥ずかしい…

両腕で隠そうとする私を責めるかのように…

ビシッ!

九回目。

鞭が振り下ろされる。

さらけ出された、私の全裸。
耳まで真っ赤に染まった顔。
汗でびっしょりな体。
腫れあがったお尻。
愛液で濡れそぼった股間。

全てが、見られている。

馬術部三年、中谷紗枝の、本当の姿。

『ねえ、なんで濡れてんの?』
心臓が、鷲掴みされたような気分だった。
胸が詰まり、呼吸が浅くなる。

『気付かないと思った?濡れてるじゃん。ほら』
揶揄うような声で指摘するご主人様。

『叩かれちゃって、興奮しちゃったんだぁ?乗馬鞭で叩かれて。それとも、後輩たちに見られてるのが、いいのかなぁ?』

『情けないセンパイだねぇ。顔、見てもらおっか?そんなので隠してないでさぁ』

後輩たちの目が、見開かれた。

そうだ。
この時、新田は私のマスクを掴んで…

『みんなの見たがってる、1号ちゃんの情けなーいお顔。…ほーら、ジャマすんな。両手はテーブルに置いたまま!…そうそう、いい子ね、センパイ?』

スクリーンを見つめる溝口が、唾を飲み込んだ。

新田の指が、マスクの縁に食い込む。
『は~い、するするする~』
引っ張られていくマスクの布地が、肌を擦り上げていく。
冷たい空気が、顔に触れる。
『あっ…いやっ…』
小さな喘ぎが漏れる。
心臓が早鐘を打つ。

『はーい、ごたいめーん…とは、残念ながら行かないけどねぇ』

カメラに対して背を向けているので、顔は映らないのだ。
しかし…
少しでも振り向けば、顔は映りこんでしまうだろう。

既に晒されている声。
それに、後頭部しか見えないとはいえ、髪型で『答え合わせ』できたとしても不思議ではない。

『耳まで真っ赤っかなの、みんなに見えちゃったよ?お尻も真っ赤っかだし。恥ずかしいねぇ?真っ赤っかなお顔も、みんなに見てもらう?』

『あはは!イヤなんだぁ。だったら、あと一回。耐えなよぉ?ちゃんと耐えられるかな?最後くらい、センパイらしいとこ見せてね。いくよ…』

ビシッ!

最後の最後に、強烈な一撃。
食いしばった歯の間から、悲鳴ともつかない声が漏れ出ていく。
切ない、尾を引くような鳴き声。
遠のきそうになる意識。
体が崩れそうになるのを、必死に叱咤しながら…

『じゅっ…じゅっかー、い…』

最後のカウントを終えた。

全身が、汗まみれになっていた。
視界がぼやけている。
それとは裏腹に、熱く脈打つ下腹部がやけにはっきりと感じられた。

後輩たちの顔。
不思議そうにこちらを見ている子もいれば、イジワルげな笑みを浮かべている子もいた。

『はい、おしまい。よく頑張ったね、センパイ。偉かったよ』
慈愛に満ちた、ご主人様の声。
剥き出しになった心に、優しく溶け込んでいく。
『私の可愛い、大好きなセンパイ。いつもイジワルしちゃうけど、これが私の愛し方なの』

『ふふっ。どう?羨ましいでしょう?私のセンパイで、私のカワイイお馬さん。普段はとってもキレイで、とってもクールで…でも、ホントはこんなに素直でカワイイんだよ?』

目の前で座る後輩たちに語りかける、スクリーンの新田。

『それじゃ、映像はここまで。現場の私にお返ししまーす』

やがて、BGMもフェードアウトしていく。

『これからもいっぱい可愛がってあげるからね』

その言葉を最後に、スピーカーからは完全に音が途絶えた。

シン、と静まり返った会場。
誰も、一言も発せないまま。

私の荒い呼吸が、際立つ。
激しい運動をしたわけでもないのに、私は全身が汗まみれだった。

顎から、汗が滴り落ちる。
と。

「それでは、1号。台から降りて、3人の前で立ちなさい」
ご主人様の命令。

スクリーンではなく、すぐそばにいる。
同じ時間を、同じ空気を共有している。

その存在感を肌で感じながら、私は台から降りた。
一言も発せず、こちらを見つめている3人の1年生。

場を緊張感が支配していた。
まるで、さっきの映像の続き。
罰ゲームの名を借りた調教。
ご主人様と私の関係をお披露目する場だった。

3人の前に立つ。
私に注がれる視線。
この後に起きる出来事を思っても、不思議と怖くなかった。
後ろに彼女が、新田がいるから。
「1号、何をすればいいか、分かるよね?」

私は…

「はい」

声を出して、返事をした。

3人が目を見開く。
私が声を出すとは思わなかったのだろう。

私は両手をマスクに掛ける。

馬術部3年の中谷紗枝。
新田のペット、1号。

その両者を分ける一枚の布きれを…
私は、ゆっくりと引き抜いた。

「あっ…」
溝口の口から言葉が漏れる。
唇をギュッとかみ、うつむいてしまう。

「やっぱり、中谷センパイだぁ」
無邪気な声を上げる優菜。

内海は遠慮がちで、どこかぎこちない笑みを浮かべていた。
「中谷先輩相手にマウントなんて、畏れ多くて…マジかぁ……ってか、どんな顔すればいいんだろ?」
ぶつぶつと呟きながら、上目遣いで私を見る。
「ほら、自己紹介しようね」
新田。
いつの間にか、私のすぐ隣にいた。
「はい、分かりました」

溝口の肩がビクッと震えた。
構わず、私は待機のポーズをとる。
そして…
「中谷紗枝です。新田様のペットをしています。どうか、かわいがってくださいね」
かつての後輩たちに挨拶する。
精一杯の媚びを浮かべて。

「中谷センパイ、カワイイ!」
優菜の黄色い声。
「普段おっかない中谷先輩が、こんなカワイイ恰好して、 こうしてお馬さんとしてハイハイしてたなんて! なんか不思議!」

「アンタ、中谷先輩相手にすごいね。私はまだちょっとドキドキしてるよ」
内海が呆れたように優菜の顔を見る。
手を胸に当てて、ふうっと息をつく。

「しっかし、あの中谷先輩がねえ…それに、新田、アンタ、ほんといったい何者なの?」
冗談めかした声の裏に、好奇心と畏怖が混じる。

溝口は両手を固く握り、うつむいたまま。

「こうしてお喋りしてたいけど、時間もあまりないし。続き、しましょうか。紗枝」
そう言って、ご主人様が私に差し出したもの。
乗馬鞭。

「これで、3人にかわいがってもらおうね」

手を伸ばして受け取ろうとする。
すると、ご主人様は鞭を遠ざけてしまう。
「違うでしょう?」
優しく叱るご主人様。

言葉の意味が分からず、彼女の顔を見つめる。
再び差し出された鞭。
確かに、私に向けて。

「あっ…」

ようやくその意図を汲み取った私。
その場で両膝をつき、両手をついた。
床に。
「いい子ね、紗枝」
目の高さにある鞭の柄。
私は横向きに口にくわえる。

そのまま、3人に向き直る。
私を見下ろす6つの目。

「まずはこの鞭で、この子のこと、かわいがってあげてね」
新田の言葉に、内海がハッと顔を上げる。
「かわいがってあげてって…つまり、鞭で叩くってこと? 中谷先輩を?」
「うん」
「マジかぁ…でも、いいのかな、ホントに?」
「イヤなら、無理には言わないけどね。でも、さっきは先輩にマウント取りたいって言ってなかったっけ?」
「それはそうだけどさ…」
「こんな機会、もう二度と来ないかもよ? それに…中谷センパイも、あなたに叩いてもらいたがってると思うけど?」
内海の視線。
私は笑みを浮かべてうなずいた。
「うわぁ、やっぱり中谷先輩だ…めっちゃ緊張する…いいんスね、ホントに?」
コクンと、頷く。

「分かりました。失礼します」
そう言いながら、手を伸ばす内海。
私の口から鞭を取る。

内海が叩きやすいよう、私は回れ右をした。

鞭を持つ1年生の前で、お尻をつき出す。
こうしていると、立場が入れ替わったのだと実感する。

支配者と被支配者。

とまどいながら私を見下ろす内海。
彼女が支配者としての自覚と自信を持てるように。
私に『マウント』を取れるように。
私はお尻を左右に振る。
フリフリ、フリフリ、と。

そして、上目遣いで後ろを振り向く。
媚びと誘惑を込めた目で。

ほら、私のお尻を叩いていいのよ、内海…

いえ…

叩いてください、内海様…

「よぅし」
内海が意を決した。

鞭の先端が、私のお尻に当たる。
まるで距離を測るかのように、ゆっくりと鞭を上下に振る。

そして…
パチンッ!
内海の振り下ろした鞭が私のお尻を打った。

「た、叩いちゃった…」
小さく呟くつぶやく内海。

優菜が語りかける。
「そんな叩き方じゃあ、中谷センパイに失礼じゃない? さっきの映像の新田ちゃんみたいに、もっと強く、思いっきりしないと」
「そ、そんなこと言ってもさ…」
チラっと、新田や私の顔を伺う内海。
「大丈夫だよ、内海ちゃん。遠慮なくもう1回叩いてあげて?」
「いいの、新田?…いいんですか、センパイ?」
「ふふっ。どうなの、紗枝?」
「うん、いいの…いいです…叩いてください、もっと…」
猫なで声で、媚びるように。
普段は決して後輩の前では出さない声。

内海が、唾を飲み込んだ。
無言で頷き、再び鞭を構える。

そして…

ビシッ!
室内に響く、鋭い音。
衝撃がお尻に走り、続いて鋭い痛みがやってくる。
熱を伴う、ジンジンとした痛みを感じながら、私は内海に向き合う。

「ありがとうございます」
床に額をつける。

顔を上げると、驚いた内海の顔。
「どういたしまして…」
そう言った直後、彼女の口元が緩んだ。
目には、さっきまでとは違う色が浮かんでいる。

一瞬、胸がキュッと締め付けられた。

支配者の目。
彼女は今、私を先輩ではなく、下位の存在として認識した。

畏れる相手、ではなく。
鞭で叩いてもいい相手。
怒るどころか、跪きながら嬉しそうにお礼を述べる。

立場が入れ替わった。
順位が書き変わった。
それが、はっきりと伝わってきた。

心臓の音が、やけにはっきりと聞こえる。
頭だけでなく、全身が理解したのだ。
私と内海の間で起きた、不可逆的な変化を。

彼女の先輩として存在したはずの私の将来が、この世界から消えていく。
代わりに訪れたのは、内海のペットとして生きる未来。

内海に跨られ、詰られ、鞭を打たれながら揶揄われる。
そんな屈辱を、私の脳が、体が勝手に想像し、期待する。

脳が熱くなり、下腹部から蜜が溢れ出る。

「じゃあ、次は優菜ね。鞭を優菜に渡してあげて?」
「うん、はい、どうぞ」

一つ目の役目を終えた鞭が、もう一人のご主人様候補へと渡った。
「やったぁ!」

重さを確かめるように、ビュッビュッと鞭を振る優菜。
鞭の先端で自身の左手のひらを軽く叩く。

パシッ…
パシッ…

その音が、私に想像させる。
あの鞭が私のお尻を叩いた時の、痛みを。
子宮がキュンと疼く。

私を見下ろす、優菜。
「中谷センパイ、部活中はあんなにおっかないのに、今はすっごくかわいいですよ?」
「う、うん…」

急に恥ずかしくなり、私は視線を落とした。
追い打ちをかけるように、しゃがみ込む優菜。
まるで、逃がさないとでもいうかのように、私の顔を覗き込んでくる。

「私たちが入部したばかりのころ、道具を出しっぱなしにしてたのを、中谷センパイに叱られたことがあったんですけど、覚えてます?」
「う、うん…」
「自分にも他人にも厳しい、ストイックな先輩。馬術部のエースで、どこか近寄りがたい雰囲気があって…」

ふふっと、優菜が笑う。

「でも、ビックリですぅ」

真顔になる優菜。

「私たちのこと叱りながら、ホントはこんなことされたいって思ってたんですねぇ?」

体中の血液が、顔に集まってくるのが分かった。

「ほら、目を逸らさないでください。こっち見て、センパイ?」

見られたくない…
こんな、顔…
でも…

「顔、真っ赤ですよ?」
嘲るような表情。

子宮が、再び反応した。

顔だけではない。
全身が火照っている。

優菜が立ち上がる。

「お尻、こっちに向けてください、センパイ?」
笑顔で言い放つ。
そこには後輩としての遠慮も、畏怖もなかった。
むしろ、どこか見下すようなニュアンスすら感じられた。
私はうなずき、指示に従う。

「後輩の前で、そんなカッコして、いけないセンパイですねぇ。私がオシオキしてあげますね?」
私の尻を鞭の先端で軽く叩く。

「お尻上げな、1号ちゃん?」
からかう口調に、再び私の顔は熱くなる。

「耳まで赤くなってるよ? 悔しいの?ほらほら、ナマイキな後輩のこと、叱らなくていいの?でも、言い返さないってことは、いいってことだよね、センパイ?」
ふふっと笑う。

返事をする代わりに、私はお尻を高くつき出した。
そして、フリフリと左右に振る。
プライドがすり潰されていくのを感じる。
それが、苦しくて…
それでいて、たまらなく心地よかった。

「センパイのくせに、ずいぶん従順なんですねぇ。新田ちゃんに調教されちゃったんだ?」

少し気弱で、天然な女の子。
それが優菜の印象だった。
今は違う。
ズケズケとした口調で、あえて私の辱めを煽っている。

私が怒らないのを知っているから。
ぞんざいに扱われることで、私が怒りつつも高ぶっていることを見抜いているから。
たった数時間で、彼女は目覚めてしまった。

ピトッと、鞭がお尻に当てられた。
離れた、と思った瞬間…

ビシィッ!
鞭が空を切り、鋭い音が響く。
「ああぁっ…!」
衝撃が尻を貫く。
切ない叫びが口から漏れた。

「そうそう、この声。2号さんて、この声が好きなんでしょ?」

処刑台の横でオブジェと化した2号に向けて、語りかける。

「中谷センパイのエッチな鳴き声が聞けて、よかったですねぇ」

生意気な後輩に対して、何も言い返せない2号。
全頭マスクから覗く両目が、じっと私を見つめていた。

情けない、寝取られマゾ。
そんな畑川の情けない姿が、私の何かを刺激した。

優菜に向き直り、
「あ、ありがとうございます」
ひれ伏し、頭を垂れる。

畑川に、見せつけるように。

彼女が嫌いなわけではない。
むしろ、大切な後輩のひとりだった。

でも…

彼女の情けない姿を見ていると、私の中で残酷な感情が芽生えてくるのだ。

「えへへ、どういたしまして!」

顔を上げる。
私を見下ろす、優菜の顔。
人懐っこい笑顔ではなく。
口の端をわずかに上げて、目を細めていた。
私を蔑んでいる、侮っている。

心臓が飛び跳ねた。

私を、中谷紗枝と知っていて。
そんな表情をするのか。

ほんの1年前までは高校生だった彼女。
そんな彼女にお尻を突き出し、鞭で打たれ、跪いてお礼を述べる。

私の中でこみ上げる凶暴な感情は、決して彼女へは向かわない。
下腹部をチリチリと焦がし、脳をトロトロに溶かす。

全身を巡る血液。
マゾヒストとしての、血。
体中の細胞が、悦んでいる。

込み上げる感情。
脈動に合わせ、トクン、トクンと膣が収縮する。

コップから水がこぼれるように、私の体から愛液として溢れ出ていく。

どれでけ溢れても、決してなくなることはない。
足りなくなれば、作ればいい。
私の血を、肉を削り、愛液として作り変える。

そして、絞り出す。

濡れたタオルを絞るように、私の下腹部から。

私の体は、脳は、まるでそうすることが至上命題と思い込んでいるようだった。

蕩けた表情で己を見上げる、かつての先輩に対して優菜が抱いている感情。
想像するだけで、被虐の炎はより一層燃え盛る。

「はい、最後は結花ちゃんの番ね」
そう言って、鞭を渡す優菜。

鞭を握りしめる溝口。
しかし、なかなかそれを振るおうとしなかった。

優菜によって、赤く火照った私の体。
次の刺激を求めて、焦れていた。

溝口の視線が、私の体を這いまわる。

肌に食い込んだボンデージ。
股間部分から滲み出た愛液で濡れた太もも。
汗が浮き出た素肌。
全頭マスクを脱ぎ去った、私の素顔。

しかしそれは、イヤらしいというよりは…
「何やってるんですか、先輩…」

溝口がつぶやく。
「尊敬してたのに…憧れてたのに…なんで、そんな恰好してるんですか……なんでそんな顔で私のこと見てるんですか…」

怒りと悲しみの混じった声。
責めるような目が、私の心に突き刺さる。

「先輩のこんな姿、見たくなかったです」

鞭を振り上げる溝口。
そして…
ビシッ!
衝撃と痛みが、臀部に走る。
「っくぅ、んっ!!」

声が漏れる。
あまりの痛みに、身悶えする。
溝口を見上げる。

「…っ!」

溝口が、目を見開いた。
「私の知ってる先輩は、そんな情けない声出さない…そんな情けないな目で、私を見ない…」

目に涙を浮かべながら、私を糾弾する。

「っ、そんな、そんな顔、しないでよ、先輩…」
掠れた声で。

突然の出来事に、内海も優菜も唖然としていた。
浜本は、どうしていいか分からず狼狽えている。

しかし、新田は…

「あなたが信じようと信じまいと、これも中谷先輩なの。理想を抱くのは勝手だけど、それを先輩に押し付けないで」

溝口の心を逆撫でするような、新田の言葉。
キッと新田を睨みつけ…
「お前!お前が先輩をこんな風にしたんだろ!お前がいなければ、先輩はこんな…先輩…」

すがるような目で私を見下ろす溝口。
いつも堂々としていて、時として先輩にすら食って掛かるような態度を見せることもあった。
こんな頼りない、儚げな彼女を見るのは初めてだった。

それに、彼女がここまで私を慕ってくれているとは思ってもみなかったのだ。
むず痒いような、申し訳ないような、複雑な心境だった。

「どうなの、センパイ?結花ちゃんの言うように、私のせいなのかな?教えて?」
不安げな溝口とは対照的に、自信ありげな新田。

確かに、新田がいなかったら、こうはなっていなかったと思う。
憧れと畏怖の念を持たれながら、溝口たちの良き先輩としてあり続けただろう。

満たされない願望を押し殺したまま。

そのまま大学を卒業し、就職し、老いていく人生。
それもある意味では、一つの幸せな人生なのだろう。
しかし…

『私のお馬さんになっていただけませんか?』
新田の提案。
心臓が、バクバク震えたのを覚えている。

『こうしてみると、ホントに馬の調教してるみたい…あっ、ごめんなさい』
初めて新田を乗せて這い回った時から、私はこのために生まれてきたのだと思った。

『私、中谷先輩がどんなことされたがってるか、分かりますよ?だって、ぜんぶ顔に書いてあるんだもん』
後輩に、新田に、全て見透かされていた。
ヒトとしての、仮初の姿。
その中にある、本当の願望。

『え、ウソ!泣いちゃったの?あーあ、もう。泣かないの。ちょっと言いすぎちゃったかな。ごめんごめん』
泣いてしまった畑川を前に狼狽える新田。
どこか不器用で、繊細で。
妹のような、娘のような存在。

『怖がらなくて大丈夫だよ。どんなことがあっても、私が紗枝のこと守ってあげる。生涯、愛してあげる』
私のすべてを、ありのままの私を受け入れてくれる女の子。

この幸せを知ってしまったら、私はもう…

どこか祈るような目で見つめる溝口に対し、私は…

お尻を振って、応えた。
溝口の、傷ついた表情。
胸が、チクッと痛む。
それと同時に、どこか嗜虐的な高揚が生まれた。

申し訳なさと、もっと傷ついた表情を見たいという、矛盾した感情。

自分に対して好意を向けてくる相手が、媚びるような目で見てくるとき。
私は、残酷な気分になってしまうのだ。

畑川に対して、そうであるように。
溝口に対しても、同じ感情を抱いていた。

私の持つ、悪いクセなのかもしれない。

「ほらね?結花ちゃんより私のほうが、中谷先輩のこと知ってるの。ふふっ。悔しい?だったら私から奪い取ってみる?」

一瞬で、溝口の顔が怒りに染まる。

「ふふっ。カワイイね、紗枝。私がいなかったら、結花ちゃんの理想の先輩でいられたのにねぇ? 」
そう言いつつも、満足げに口角を上げる新田。
「ほらほら、結花ちゃん?大好きな中谷センパイが、お尻を振ってオネダリしてるよ?叩いてあげなくていいの?」

「く、クソッ!」
再び鞭を振り上げる。
そして…

ビシィッ!
力任せの鞭打ち。
目の前がチカチカするほどの痛み。
しかしそれは、ただただ乱暴で、痛いだけだった。

私は、非難がましい目を溝口に向ける。
狼狽える溝口。

「結花ちゃん、そんなに力任せで叩いたら可哀想だよ?」
優しくたしなめる優菜。
しかしその表情は、どこか溝口を侮っているようにも、揶揄っているようにも見える。

「優菜の言う通りだよ、結花ちゃん。ほら、見て?中谷センパイ怒ってる。あーあ、嫌われちゃったかな?」
新田の煽りに、溝口が分かりやすく動揺する。

「全く、乗馬の腕は私より上でも、マゾ女の扱いはヘタクソだね、結花ちゃん?」
「ま、マゾ女…てめっ、中谷センパイに対して…」

「ここまできて、まだ何にも分かんないんだね、中谷センパイのこと?」
「は、はぁ?なにが…」

「ほら、貸してみ?私が見本を見せてあげるからさ」
そう言って、溝口の手から鞭をひったくる新田。
「あっ…」
鞭を奪われた溝口の口から、気弱な声が漏れる。

鞭を構え、私を見下ろす新田。
そんな彼女を、私は期待のまなざしで見上げた。

鞭の先端が、私のお尻をつつく。
それだけで、私の胸は期待でいっぱいになる。

新田に向けて、お尻を振る。
卑屈な目で、媚びるような表情で、懇願する。
溝口に見せつけるように。

私を焦らすように、ピタッ、ピタッと、鞭が押し当てられる。

溝口を見る。
不安げに、私を見下ろす。

残念だけど、アナタじゃ私のご主人様にはなれない。
だって…

新田が鞭を振り上げた。

来る!

脳内で大量に分泌されるドーパミン。

全身に力を込めながら、『その瞬間』の訪れを待つ。

ビシッ!

お尻から背骨を伝い、全身へ広がっていく衝撃。
ジンジンとした痛みが、私の下腹部をイジワルくいじめる。

お尻の穴が、ヒクヒクと収縮を繰り返す。

フーッ…
フーッ…

静寂の中に、私の荒い呼吸だけが響き、溶けていく。

鞭打つ側と、鞭打たれる側。
たった一振りで、両者を分ける境界線がクッキリと浮かぶ。

私をひれ伏させる、強者としての存在感。
それでいて、愛おしさが伝わってくる。
明確な立場の違い。
なのに、不思議と繋がっているような、一体感があった。

溝口の独りよがりの鞭とは、大違いだった。

こみ上げてくる、ご主人様への愛おしさ。

負け犬のように、情けない表情を浮かべる溝口。
そんな彼女を見ていると、もっとイジワルしてやりたいという感情がムラムラと湧いてくる。

私は、新田の足元に近づいていく。
そしてその脚に、私は頭を擦りつけた。

まるで、子猫が飼い主に甘えるかのように。

「な、なんで…」
溝口の、泣きそうな声。

新田への嫉妬。
私への執着。

憧れの女性が、普段は決して見せないような媚びた姿を見せている。
しかしその相手は、自分ではない。
その現実を、目の前で見せつけられる。

「ほらね。あなたの大好きな中谷センパイは私にメロメロなの。私も可愛くて、ついイジメちゃうんだけど」

私の頭に手を置く。
髪を優しく撫でる手のひらの感触。
ウットリとして、私はご主人様の太ももに頬擦りした。

「でもね。結花ちゃんじゃ、一生かけても中谷センパイをこんな風にはできないよ。なんでだか、知りたい?」

「なんで、だよ…」

新田の手が、私から離れた。
そのまま溝口に歩み寄るご主人様。

たじろいだ溝口が、半歩後退する。
新田は構わず、溝口へと接近していく。

触れ合うほどの距離。
新田の持つ鞭の柄が、溝口の顎を軽く持ち上げた。

「だってあんた、マゾじゃん」
「あっ…」

目を、カッと見開いた溝口。
顔が、みるみる赤くなっていく。

「なっ!ちっ、ちがっ…ふざけんな、お前…」
否定しつつも、その目は泳いでいた。

一連のやりとりを見ていた優菜が、加わる。
「えー、結花ちゃん、バレてないとでも思ったのぉ?全然隠せてないよ?」
挑発するかのような声音で。
「は、はぁ!?てめ、なに言って…」
「だって結花ちゃん、ポニーさんたちのこと、羨ましそうに見てたじゃん」

「そっ、そんなわけねーだろ!なにデタラメ言ってんだよ!」

「私、知ってるんだよ?ポニーさんたちの映像を観ながら、顔を真っ赤にして、モジモジしてたよね。切なそうな表情してさ」
「してないったら!」

必死に否定する溝口だが、彼女がどんな感情に苛まれていたか、私にも分かった。
同族として、同じマゾヒストとしてのシンパシーを、ずっと感じていたのだ。

溝口の右手。
自分では気づいていないのか、股間を押さえていた。
まるで、トイレを我慢しているかのように、モジモジしながら。

でも、我慢しているのは尿意ではないことは明らかだった。

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