ポニーガールとご主人様 最終章(27)「命令、してあげよっか?」

「2号、こちらへ来なさい」

新田が、手のひらを上にして観客席を指し示す。
2号は、待機のポーズを解いた。
ぎこちなく、こわばった動きで。
新田に先導されながら、2号は歩き出す。
座っている後輩たちの前へと。

先ほどの映像の余韻か。
それとも、これから味わう屈辱と恥辱を思ってか。
足が震えている。
それでも止まることはできない。
うつむいたまま、ゆっくりと歩みを進める2号。
そして……

1年生たちが座る椅子の前までやってきた。
新田が立ち止まる。
目的地に着いたのだ。
2号も歩みを止めた。

前に座る1年生たち。
好奇心に満ちた視線を、2号は全身で受け止める。
相変わらず、俯いてはいるが…
後輩たちがどんな目で自分を見ているのか、肌で感じ取っているのだろう。
自分を抱くように両腕を回し、体をギュッと固くした。

「マスクを脱ぎなさい」
優しく諭すように新田が告げる。
自身を抱いたまま、2号は小さく1回、うなずく。

両手がマスクに触れる。
視線が、集中する。

目の前にいるポニーの正体を、1年生たちは知っているはずだった。
しかし、実際にその目で見るまでは、本当には信じられないのだろう。
マスクを脱ぎ去る瞬間を、固唾を飲んで見守っていた。

全頭マスク。
ゆっくりと、引き抜かれていく。
そして…

1年生の口から、小さなため息がもれた。
目を丸くしてうなずき合ったりしている。

「1年生のみなさんに、改めて自己紹介をしなさい、2号」
やはりどこか優しげな声だった。
口を開き、何かを言いかけた2号。
うまく言葉が出てこないのか、ゴクリと唾を飲み込む。

「に、新田様のペットで、2号をしています、畑川麻友です。ど、どうか…かわいがってくださいね、ご主人様?」

たどたどしい口調。
しかし、媚びるような声音で1年生たちに挨拶する。
このセリフは、自分で考えたものなのか。
それとも新田の指示なのか。
畑川らしくない言葉と態度だと感じた。

それは1年生たちも同じだったらしい。
「畑川センパイなんスか、それ…?」
内海が失笑する。
「内海ちゃん、からかっちゃかわいそうだよぉ」
言いながらも、笑いをこらえきれない優葉。
大貫は冷笑を浮かべていた。

1年生たちの反応に、もともと赤かった顔がさらに赤く染まっていく。
恥ずかしそうにモジモジしながら、ぎこちない笑みを浮かべる畑川。

「それにしても、畑川センパイも『そっち側』だったんスね。ついさっきまでは『こっち側』にいたはずですけど?」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべながら、内海が続ける。

「そうそう。私たちのこと騙してたんですか、センパイ?」
蔑むような目を向ける大貫。
オモチャを前にしてはしゃぐのははしたない、とでも思っているのか。
しかし仮面の奥では、どういたぶってやろうかと、舌なめずりしている彼女も見え隠れしている。

「す、すみません…そんなつもりは、なかったんです…」
恐縮する畑川。

「あれ、センパイなのにそんな言葉遣いになっちゃうんだぁ?いいんですよ、センパイなんですからいつもみたいに話しても」
無邪気さでオブラートに包んだ言葉を投げかける優葉。
「あ、あはは…」
気まずそうに苦笑いする畑川。

優葉にからかわれている。
完全に立場が逆転してしまっている。
そのことを、畑川は心と体で敏感に感じ取っていた。

その証拠に、恥ずかしそうに身をよじりつつも、媚びるような目で優葉を見ている。
後輩に対し、卑屈な態度を取る畑川。
そのシグナルを、1生たちはしっかりと受け取っていた。

この先輩は、格下として扱ってよいのだ。
むしろ、本人はそうされたがっているのだと。

「でも、センパイがそうなさりたいのなら、止めませんよ?」
上から目線の優葉。
被虐と、先輩としてのプライドとの間で揺れる畑川。
微妙な反応をする。

「あ、そうだ! ねえ、センパイのこと、何て呼べばいいんスか?畑川センパイ? それとも、2号?どっちで呼んでほしいんスか?」

畑川が内股になる。
太ももをこすり合わせ、右手は口元に、左手は股間に。
何かに耐えるようにモジモジと動く。
うるんだ目で、恥ずかしそうに。

「に、2号、で…」
「2号って呼んでほしいの?」
「は、はい……」
「分かった。じゃあ、これからは2号って呼んであげるね」
「あり、ありがとうございます……」

顔を真っ赤にしながら、お礼を述べる畑川。

「でも、マゾって不思議ね。後輩にこんなこと言われて、悔しくないの?」
口元に冷たい笑みを浮かべる大貫。
「悔しがるどころか、興奮しているのが丸わかり。こんなことされて興奮するなんて、プライドってものがないの?」

プライドがないわけではない。
でも、そのプライドを踏みつけられることで、体が、心が反応してしまう。
悔しさは快楽に、情けなさは惨めなほどの高ぶりに変わる。
そして相手が年下の後輩であっても。
いや、だからこそ余計に…

「顔まっ赤だよ、2号」
優菜の言葉には、もはや先輩に対する敬意はない。
からかうような口調、態度。

「エッチなスイッチ、入っちゃったんだ?」
恥ずかしそうに頷く畑川。
「ちゃんとお返事しょうね、2号?」
「はい…」
消え入りそうな声。
「うふふっ。そうそう。素直でよろしい」
立場逆転。
その感触を楽しむかのように、畑川をからかう優菜。

「命令、してあげよっか?」
優菜の声。
さっきまでより、少し低い声で。
驚いたように、目を見開く畑川。
「えっと…その…」
「どうなの?」
いたずらっぽい笑みを浮かべる優菜。
「しっ、して、欲しいです…」

「貞操帯、見せてみな?」

ブルッと。
小さく震える畑川。
そして…
俯いたまま、ボンデージに手をかける。
スカート型のピンクの拘束服。
ゆっくりとずり下げていく。

1年生たちの視線が、熱く突き刺さる。
畑川は顔を上げられないが、全身でその視線を感じ取っているはずだった。
脱いだボンデージを握りしめ、両手を体の後ろで組む。

腰をわずかに引いて、直立する畑川。
まるで、先輩に呼び出されて叱責を受ける後輩のような、縮こまった姿。

3人の後輩がニヤニヤと笑みを浮かべる。
「ちゃんと言うこと聞いて、エライじゃん、2号?」
内海の言葉に、畑川は卑屈な笑みを浮かべる。

「これが貞操帯かぁ。近くで見ると、なんか生々しいね」
照れたように笑う優菜。

「鍵が付いてる。なるほど、こうなってるのか…」
興味深げに、貞操帯を観察する大貫。

一方、溝口だけは俯いたまま。
膝の上で両手をぎゅっと握りしめ、口を固く閉じている。
そして、どこか困ったような表情。
そんな彼女の様子など、まるで目に入っていないのだろう。
はしゃぐ三人組。

「鍵、新田に管理されてるんだ?」
内海の問いに、畑川は小さく頷く。
「自分じゃ外せないんでしょう、それ?エッチな気分になっても、これじゃあどうにもできないねぇ?」
畑川の顔を覗き込む内海。
貞操帯を眺めながら、大貫が呆れたように呟く。
「だから、胸をいじってるんでしょう?下を触れない代わりにね。さっき見た映像みたいに、だらしない顔しながら」

優菜が嬉しそうにはしゃぐ。
「そうそう。新田ちゃんに形を変えられちゃうかもね、2号の乳首。引っ張られて、どんな風になっちゃうんだろうねぇ…あ、そうだ!」
何かを閃いたらしい優葉。
悪い笑みを浮かべて、二人を振り返る。

「長くなった2号の乳首に紐をくくりつけて、お散歩するなんて、どう?」
「何それ?どういうこと?」
内海が怪訝そうに尋ねる。
「だからね、他のポニーは首輪にリードをつけるじゃない?でもこの子は乳首に紐をつけて、お散歩するの」
「あぁ、そういえば最初、控え室から出てくるとき…」

ご主人様にリードを引かれ、這いつくばって進む私たち3頭のポニー。
その中に、2号が加わる。
ただし、別の姿で。

「今みたいに、両手は後ろにしてね。両方の乳首にひもをつけて、立ったまま歩かせるの」
「何それ、痛そう…」
「大丈夫だよ。ご主人様の言うとおり、素直にしてればね」

聞いているだけで、ぞわぞわする。
想像しただけで、乳首が固く、尖っていくのを感じる。

笑みを浮かべて、前を歩く後輩。
その手にはひもが握られている。
その後ろを、後ろ手に歩く私。

周囲から注がれる好奇の視線。
私は思わず立ち止まってしまう。
『何してんの?止まってないで歩きなよ』
言いながら、ひもを引っぱる後輩。
全身に衝撃が走る。
痛みは甘い媚薬となって、脳を溶かしていく。
衝撃の余韻を体に残したまま、私は再び歩き始める。

嘲笑。
失笑か。
後ろ手に縛られ、はしたなく突き出された両胸にはひもが結びつけられ…
ペットのように、あるいは捕虜のように、後輩の後ろに続く。

下を見る。
ひもが結ばれた乳首。
かつての面影はない。
後輩におもちゃのように弄ばれた果てに、すっかり形を変えてしまった。

これが、私の乳首なの…?

長く、いびつになったそれは、もう二度と元の形には戻らない。
悔しさと敗北感をかみしめる。

前を歩く後輩。
私の体をこんなにした、憎くてたまらない女。
でも…
彼女の蔑むような視線と、私への執着に満ちた笑み。
それが、さらに私をダメにしていく。

まるで宝物を見せびらかすかのように歩く後輩。
愛しさがこみ上げてくる。
子宮がキュンと締まる。

ぐちゃぐちゃになった私の感情。
ドロドロに発情した、私の体。

この先の未来を想像し、絶望しながらも昂ってしまう。
この子に、私の体はどこまで作り変えられてしまうのだろう。
取り返しがつかないほど伸びてしまった、胸の先端。

恐怖で身体が震える。
いや、違う。
期待しているのだ。

前を歩く後輩の後ろ姿。
この子は、誰だろう。
新田か、それとも…
椅子に座る1年生たちの顔を眺める。
嗜虐的な目で畑川を見つめる彼女たち。
その誰かに、私は…私の乳首は…

いや、違う。
そんな目に遭うのは、私ではない。
畑川。
今、後輩たちの目で身悶えしている、彼女なのだ。

後輩たちにぶざまに引き回され、プライドを踏みつけられる。
体を作り変えられ、歪になったそれを嗤われる。
そんな、屈辱。
狂おしいほどの甘美。
それを与えられるのは、私ではなく、畑川。

それに気づいた瞬間、私の体をドロドロした情念が巡り始めるのを自覚した。
畑川への嫉妬と羨望。
込み上げてきた感情が、胸を切なく締め付ける。

当の畑川は、あいかわらず卑屈な目で、後輩たちの顔色をうかがっていた。

「貞操帯で管理されて、つらい?」
内海が尋ねる。
「えっ、あ、は、はい…」
戸惑いながら、返事をする畑川。

「貞操帯、外してほしい?」
「え、と、その…」
とっさに、新田の顔色をうかがう。
微笑む新田。
それを見て、内海に対し小さく頷く。

「ホントかなぁ?」
「えっ…?」
「管理、してほしいんでしょう? 顔に書いてあるよ?」
「そ、そんなこと……」
膝をこすり合わせる畑川。
上擦った声は、どこか艶を帯びていた。

「だってさぁ、ホントにイヤなら抵抗すればいいじゃん。力だって、新田よりあるんだから。カギだって、無理やり奪い取ることだってできるだろうし?」
「そ、それは…」
「なんで、そうしないのかなぁ?」
畑川の顔を覗き込む内海。
「だ、だって、そんなこと…」

「そうだよねぇ。そんなことしたら、もうイジメてもらえないもんね? 『外してください』って、オネダリさせられて、揶揄われて、焦らされてさ。そういうのが『いい』んでしょう、センパイ?」

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