志穂たちが実家へ帰るまでの間、私は内心穏やかではなかった。
誰にも知られたくない、知られてはいけない秘密。
それを、幼い志穂に見られてしまった。
幼さゆえの、悪意のない言葉によって、大人たちにバレてしまうのではないか。
大人たちであれば、私が嘘をついていることを…私が本当は何をしていたかを、察するだろう。
もしそんなことになれば、恥ずかしすぎて生きていけない。
本気で、そう思った。
しかしその後、志穂はあの件について誰にも話さなかったようだ。
私は、己の軽率さを反省しつつ、心の中で志穂に感謝したのだった。
いつもの日常がやってきた。
学校へ通い、授業を受け、友達と他愛のない会話を交わし、部活に励む。
いつしか、志穂との出来事も、記憶から薄れていった。
あの一件があってから、及川のことを意識してしまうようになった。
部活中、気が付くと、及川の姿を探しているのだ。
それでいて、及川と目が合うと、とっさに視線を背けてしまう。
最初は、恋心なのだろうかと、なんとなく思った。
身近に、女の子同士で付き合っている子はいたし、私自身、そういったことに抵抗はなかった。
むしろ、興味はあった。
一度、及川と二人っきりになったことがある。
何か話さなければ、と思った。
しかし、口から出てくるのは、面白みのない、部活の話。
先輩としての、後輩としての会話。
やがて、他の部員たちが集まりだし、自然と会話は中断された。
その後、私と及川は部活の先輩と後輩という関係性は変わらず、それ以上の仲になることはなかった。
及川にとって私は、怖くて厄介な先輩の一人でしかないのかもしれない。
入浴後、自室で明日の準備をする。
そして…
スマホにイヤホンを差し込む。
着ていたものを脱ぎ、そのままベッドにもぐりこむ。
音漏れがしていないことを確認してから、音声作品の世界へと、浸っていく。
志穂との、あの一件があってから、もう一つ、変わったことがある。
視聴する音声作品の傾向に、偏りが生じてきたのだ。
それまでは、女の子同士の、どちらかといえば甘いエッチなお話を聴くことが多かった。
それが今は、女の子が、もう一人の女の子に責められるという内容のものを好んで購入するようになった。
責められるのは年上で、責めるのは年下の女の子。
それ以外の内容の作品も聴いてはみるが、なんとなく、物足りなさを感じてしまう。
ある程度は楽しめるのだが、満たされない。
志穂が来ていたあの日に聴いていた作品。
後輩の女の子にいじめられる先輩のお話。
あの作品は、他の作品では満たされない何かを、満たしてくれた。
私は繰り返しその作品を視聴した。
及川の顔を思い浮かべながら。
見知った後輩に責められ、辱められる。
主導権を奪われ、マゾとしての癖をなじられ、プライドを踏みにじられる屈辱と快感。
後輩に許しをこいながら、おのれの乳首をつまむ。
普段、決して浮かべることのない、ヒクツな顔で及川を見上げながら、指の腹で乳首をこする。
「ま、真由美は、及川…さま、に、乳首をコシコシされて、感じてしまう、え、エッチな…ま…マゾ、先輩、です…」
及川のイジワルな表情。
この子に、もっとイジメられたい。
支配されたい。
己の被虐心をかり立てるために、ミジメな言葉をつぶやく。
そしてやってくる、絶頂。
戻ってくる理性とともに訪れる、自己嫌悪と、後悔。
満たされない及川への想いを、このような形で解消しようとしている自分。
しかし、同じ作品を何度も聴けば、やがて飽きてくる。
かつての刺激も、興奮も得られなくなってくる。
私は、私を満たしてくれる作品を探した。
そんな時、見つけた作品。
主人公は、私と同じか、少し年上くらいの女性。
どこか気の強そうな彼女は、悔しいのか、恥ずかしいのか、顔を赤らめながら唇を噛んでいる。
その視線の先には、彼女より明らかに年下の、まだ幼さの残る少女。
イジワルな笑みを浮かべながら主人公を見下ろす少女を見て、私の体に衝撃が走った。
震える指で、画面をスクロールしていく。
作品の紹介文。
二人の関係性や、あらすじを読みながら、言いようのない感情がこみあげてくる。
これだ。
この作品なら、私を満たしてくれるはず。
突き動かされるようにして、購入ボタンをタップした。
服を脱ぎ、いつものように、布団にもぐりこむ。
音声作品が始まる。
顔が、身体が熱い。
久しぶりに、期待で胸が高鳴る。
イメージ画像どおり、少し気の強そうな女性と、そんな彼女を慕う、親戚の女の子。
親戚から、子どもの家庭教師を頼まれた女子大生。
割のいいバイトだったため、夏休み期間中だけなら、と、引き受ける。
もともと仲のいい姉妹のような二人。
しかし、あるきっかけで、女性は女の子に弱みを握られてしまう。
最初は、大好きな主人公にイジワルをするくらいのつもりだった少女。
しかし…
自分にとって完璧な存在だったはずの主人公が、自分の言いなりになっている。
少女の中で、次第に、とある感情が芽生えていく。
女性も、最初は気丈に振舞っていたが、少女の変化や、自身の変化に戸惑う。
己の中で日増しに成長していくマゾとしての資質に、必死に抗い、隠そうとする主人公。
そんな彼女の心を見透かしたかのように、彼女の被虐心を掻き立てていく少女。
仲のいい姉妹のような関係が、やがて、支配する側とされる側とに分かれていく。
『ほら、おねえちゃん、休んでないで、ちゃんとすすんでよー』
『ま、待って、千佳…』
四つん這いの姿勢で、前へ進む女性。
その背には、千佳と呼ばれた女の子が。
勉強に飽きた千佳が、女性に提案したこと。
気分転換をかねた、他愛ないあそび。
『ほら、すすめ、すすめー』
無邪気な笑みを浮かべて、女性のお尻を叩く千佳。
『もう、分かった、分かったから…』
女性は、少し嫌そうな表情を浮かべつつも、顔を赤く上気させている。
傍から見たら、可愛らしい妹と、妹想いの姉に見えるかもしれない。
室内で、テーブルの周りを、ぐるぐると回る二人。
『ねえ、千佳、そろそろ休ませて…』
『だーめ。まだ遊ぶの』
千佳のワガママに振り回される女性。
少し前までなら、千佳を叱ることができた。
千佳にワガママを言わせず、大人として、接することができたのだ。
しかし…
『だって、おねえちゃんも好きでしょ?』
胸が、キュンと締め付けられる。
『こうやって、千佳のお馬さんになるの、おねえちゃんも楽しいでしょ?』
『そ、それは…』
『あの本に出てくるおねえちゃんも、こうしてお馬さんになってたよね。千佳くらいの女の子を乗せて、こうして、ぐるぐる回って』
部屋の本棚にある、マンガ、小説。
それらとは別に、押し入れにしまってある作品がある。
女性の、人には言えない性癖を満たしてくれる、マンガ、小説。
それらが、千佳に見つかってしまったのだ。
『おねえちゃんも、千佳のお馬さんになれて、うれしいでしょ?』
『そ、そんなこと…』
否定するが、千佳の小さな手でお尻を叩かれるたび、言いようのない感情がこみあげてくる。
『千佳は、おねえちゃんとお馬さんゴッコするの、好きだよ?だって、こうしてると、おねえちゃんよりエラくなったような気がして、楽しいんだもん』
『そ、そう…』
そろそろ、大人としてビシッと言わなければ。
そう思うが…
パシッ。
お尻を叩かれる。
その度に、怒ろうとする気持ちが削がれてしまう。
代わりに、別の感情が芽生えていく。
このまま、千佳の下で、千佳のペットとして扱われたい。
千佳に振り回され、嫌々つきあっている風を装いつつ。
この幼い女の子に、大人としてのプライドを踏みにじられ、支配されたい。
そんな、恐ろしいとも思える考えが、頭をよぎる。
『ちょっと前までは、おねえちゃんにこんなことできるなんて、思ってなかったのに。前だったら、ぜったい怒られてたもん』
あの秘密を、押し入れのマンガ、小説を知られてから、二人の関係性は少しずつ変わっていった。
最初は冗談だった千佳のイジワル。
しかし、女性の反応や態度から、千佳は彼女の別の一面を知ってしまった。
まだ幼い千佳にとって、それは驚きであり、信じられないことでもあった。
しかし、絶対的な存在である大人の女性が、自分の言いなりになっている。
それも、自分の大好きな、親戚のおねえちゃんが、だ。
憧れや尊敬が、別の感情へと移り変わっていく。
押し入れの中にあったマンガには、さまざまな『あそび』が描かれていた。
首輪とリードを付けられて近所を散歩する、『ワンちゃんゴッコ』
ワザと失敗して、お尻を叩かれる『オシオキ』
裸の身体をキャンバスに見立てて遊ぶ『らくがき』
いずれも、小さい女の子が、大人の女性に対して行う『あそび』だった。
マンガや小説に出てくる女性は、嫌がっているように見えて、実は女の子にそうされることを望んでいた。
初めて見たとき、千佳には理解できなかった。
普段のおねえちゃんは、大人びていて、きれいで。
イタズラすると怒られる、ちょっと怖い人で。
そんなおねえちゃんが、こんな本を…
そんなこと、あってはならないことだったのだ。
しかし…
千佳を乗せてぐるぐると回っている、この大人の女性は、嫌そうにしつつも、決して断らなかった。
断ろうとしても、千佳が強い口調でお願いすると、必ず受け入れてくれるのだ。
そして、悔しいのか、恥ずかしいのか、唇を噛んで、じっとこちらを見てくる。
『もう、飽きちゃった?お馬さんゴッコじゃなくて、別のあそび、したいの?』
『そ、それは…そうじゃなくて…』
家庭教師と、その教え子。
大人の女性と、幼い子ども。
二人の間には、明確な立場の違いが存在していた。
しかし今は、完全に逆転してしまっていた。
己の秘めた願望を、この子に知られてしまった。
千佳は、おねえさんにちょっかいを出しながら、少しずつ確かめていった。
そして、確信してしまった。
おねえさんが、マゾであることを。
おねえさんは、自分が千佳にイジメられたがっていることを、見抜かれてしまったのだ。
お姉さんで『あそぶ』うちに、支配者としての振舞いを学ぶ千佳。
どう振舞えば、おねえさんが悦ぶか。
どう振舞えば、おねえさんが自分に逆らえなくなるか。
どう振舞えば、おねえさんのマゾとしての性癖を、より拗らせることができるか。
おねえさんという存在を糧にして、支配者としての成長を続ける千佳。
日に日に、千佳に逆らえなくなっていくおねえさん。
表面上の関係性は変わらないまま。
二人の『あそび』は、次第にエスカレートしていく。
おねえさんは、いつしか私になっていた。
幼い千佳に、首輪を付けられ、リードを引かれながら散歩する。
ひと気の少ない路地。
それでも時々、人とすれ違う。
私は、首輪を見られないよう、身を縮めて歩く。
それを咎めるように、千佳が私の身体をつねる。
私が、千佳のペットであることを。
幼い少女に支配された、マゾ女であることを、隠してはならない。
私と同年代の女の子が、歩いてくる。
よく見ると、私の同級生だった。
しかし、千佳につねられ、私は首輪を隠すことができない。
すれ違いざま。
私に気づいた女の子が、挨拶をしようとして…
その途中、私の首輪に気づいた。
驚いた顔で、私の顔を見る。
リードを握った千佳と、私の顔を交互に見比べ、そして…
状況を理解したのか、軽蔑しきった視線を私に投げかける、女の子。
私は逃げることもできず、ただ、恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、女の子が立ち去っていくのを待った。
幼い千佳に、服を脱ぐよう言われる。
例のあそび、『らくがき』だ。
私は千佳を叱るが、千佳はまったく怖がる様子を見せない。
私の虚勢を見抜いているからだ。
本当は、千佳にらくがきをされたがっていて…
でも、大人としてのタテマエで、怒っているようにふるまっている。
そんな私を、この子は見抜いている。
私は、しぶしぶ服を脱いで、千佳の前に立つ。
服を着た、幼い少女。
その少女の前で、言われるまま全裸になる、私。
千佳の手には、様々な色のペンが握られていた。
ペンのキャップを外し、思い思いにラクガキを始める千佳。
ペンが身体を走るくすぐったさと、ラクガキされているという屈辱感と、惨めさ。
『千佳のモノ』
『ワンちゃん』
『おさんぽだいすき』
好き勝手に書かれていくラクガキ。
それらの一つひとつが、私が千佳の所有物であるということを突き付けてくるような気がした。
『あっ』
よろけて、テーブルに足をぶつけてしまう。
千佳のコップが倒れて、中に入っていたジュースがこぼれてしまった。
『ご、ごめんね、千佳…』
テーブルを拭きながら、謝る。
『あーあ、おねえちゃん、何やってるの』
そう言って、ペンのキャップを締める千佳。
『私のジュース、こぼれちゃったじゃん』
非難の目を向ける、千佳。
『こんなことするおねえちゃんには、オシオキ、しないとだね。ほら、ここに手をついて、お尻をこっちに向けて』
『えっ』
『ほら、ここに手を付いて。それで、お尻をこっちに突き出すの。千佳の言うことが聞けないの?』
『わ、分かったよ、分かったから…』
千佳の言う通り、テーブルに手をつく。
身体にラクガキされた、全裸の女が、少女に向けてあられもない姿を晒している。
いい年をした女性が、こんな小さな女の子に…
屈辱と、これからされるであろう仕打ちに、胸が高鳴る。
千佳に向けて、お尻を突き出す。
ふと、千佳の方を振り向いた時、あるものが視界に映った。
鏡に映る、自分の姿。
自分からは見えない、背中の部分に書かれた文字。
『マゾおんな』
『いじめられてよろこぶヘンタイ』
突き付けられる現実。
いままで、直接的な言葉にはされず、オブラートに包まれていたもの。
それが、姿を現した。
『ほら、いくよ、まゆちゃん』
志穂の声。
さっきまで、千佳がいた場所には、なぜか志穂が立っていた。
なぜ…
思う間もなく、オシオキが始まった。
『いーち!』
パシッ。
お尻に衝撃が走り、ジンワリと痛みがひろがっていく。
『にーい!』
パシッ。
『さーん!』
パシッ。
言葉だけでなく、身体で、分からされる。
私は、マゾなのだということを。
私のご主人様は、志穂なのだということを。
作品を聴き終えたあとも、しばらくは虚脱感で起き上がることができなかった。
それからというもの、私は似たようなジャンルの作品を探しまわった。
年上の女の子が、年下の女の子から責められる内容。
さすがに、ここまでくると認めないわけにはいかなかった。
私は、いわゆるマゾと呼ばれる人間なのだ。
それも、ただのマゾではない。
同性の、しかも年下の女の子に責められることに悦びを感じてしまうのだ。
もともと、そういう資質を秘めていたのか。
それとも、あの日の出来事が、そうなるキッカケとなったのか。
その後も私は、気に入った作品を見つけては、登場人物に自分を重ね続けた。
部活で厳しく指導している後輩に、部活後にペットとして飼われたり。
OLとして働く私の部下として配属された新入社員に、性癖を知られてしまい、マゾ奴隷として調教されたり。
教師として指導している教え子の女の子たちに、裸になるよう命令され、はやし立てられながら、オナニーをさせられたり、性癖を告白させられたり。
様々な場所で、様々な女の子が、私に屈辱を、はずかしめを与えてくれた。
しかし彼女たちは、いつも決まって、途中で、とある女の子に姿を変える。
時には、及川に。
時には、志穂に。
私は妄想の世界で、何度も彼女たちに服従し、支配されていった。
進学を機に、県外で一人暮らしを始めた私は、就職を機に実家へ戻ってくるまでの数年間、志穂と顔を合わせることはなかった。
時折、親の口から志穂の名前が出たときは、鼓動が早くなるのを感じたが、動揺を悟られないようにした。
妄想の中で、私は何度も、何度も、志穂に恥ずかしいお願いをしてきた。
みっともなく、情けなく、思い出すだけで顔が熱くなってしまうような姿で。
年下の少女に、オネダリをさせられたのだ。
さんざんに焦らされて、ばかにされた後、耳元で罵られながら、乳首をこねくり回されて。
イキそうになるたびに、焦らされ、何度も服従を誓わされ、大人としての尊厳を踏みにじられながら、ようやく、志穂から『お許し』をいただく。
志穂にされているところを想像しながら、自らの指で、乳首をこすり、摘まみ上げる。
次第に大きくなる波。
絞り出すような声で、感謝と謝罪の言葉を志穂に伝えながら、私はその波に飲み込まれていく。
やがて、けだるさとともに襲ってくる自己嫌悪。
これも、何度も繰り返してきたことだ。
キッカケは、何でもいいのかもしれない。
ただ、一度ついた紙の折り目が消えないのと同じように。
志穂に責められたいという欲求は、消えることがなかった。
折り目を押し伸ばしても、すぐにまた、さらに強い力で折り目がついてしまうのだ。
実家に戻ってきて数年が経ち、仕事にもようやく慣れてきた頃。
母から、衝撃的なことを聞かされた。
志穂が、この家に来るというのだ。
それも、何日か泊まっていくという。
もともと、志穂の父は単身赴任で県外に住んでいるのだが、体調を崩してしまったらしい。
幸い、大事には至らなかったようだが、心配した志穂の母が、身の回りの世話もかねて、数日間泊まりにいくことになった。
受験を控えていたため、志穂は家に残ることにしたが、それを聞いた私の母が、数日間、志穂の面倒をみることにしたらしい。
「そんな、急に…」
「別に、いいじゃない。志穂ちゃんも、あなたに懐いていたし、可愛い姪のためでしょう?」
「それは、そうだけど…」
私の複雑な心境を知るはずもない母は、嬉々として、志穂を迎え入れる準備を始めたのだった。
やがて、その日がやってきた。
チャイムが鳴り、玄関へ向かう母の後に続く。
数年ぶりに会う叔母。
そして、そのすぐ後ろに…
志穂がいた。
かつての面影を残しつつ、少し大人びた志穂。
ボストンバッグを両手で持ち、少し緊張した表情で立っている。
目が合った。
心臓が飛び跳ねる。
悟られないように…
笑顔で、会釈する。
大人としての余裕を見せつつ、内心、動揺を隠しながら。
志穂も、少し硬い笑顔で、お辞儀をしてきた。
玄関で数分、姉妹での会話が続く。
その後、叔母は母と私に感謝の言葉を述べ、夫のところへ向かっていった。
母が、志穂を家の中へと招き入れる。
「三日間、よろしくお願いします」
深々と頭を下げる志穂。
「いいのよ、そんなにかしこまらなくて。自分の家だと思って、くつろいでね」
母が、笑いながら言う。
「ありがとうございます」
靴を脱ぎ、あがってくる志穂。
「真由美さん、よろしくお願いします」
改めて、私に頭を下げる志穂。
「うん、よろしくね、志穂ちゃん」
志穂の、まっすぐで、屈託のない目。
私は、少し後ろめたさを感じつつ、笑顔でそれに答えた。
志穂の滞在中、客間が志穂の部屋となる。
荷物を降ろした志穂に、家の中を案内しようとしたが、以前来た時のことを志穂は覚えているらしかった。
母は、キッチンで昼食の用意をしている。
手伝おうとした志穂に、母は『部屋でゆっくりしてなさい』と優しく伝えた。
エアコンの効いた客間で、麦茶を飲みながら志穂と二人きり。
志穂は、礼儀正しい女の子になっていた。
ただ、数年ぶりに会ったせいか、緊張とぎこちなさが残っている。
「真由美さん、N高出身でしたよね。私も今、N高を目指してるんですけど、なかなか厳しくて…」
「そうなんだ。勉強道具、持ってきたでしょ?よければ、少し見てあげようか」
「ホントですか、嬉しいです!」
「別に、気にしなくていいよ。それに、その、そんなにかしこまらなくてもいいよ。昔みたいに、まゆちゃんて呼んでよ」
「は、はい…じゃなかった、ありがとう、まゆちゃん」
はにかみながら見上げてくる志穂の表情に、むずがゆいような、気恥ずかしいような感情を覚える。
しかし、決して不快なものではなかった。
それから、打ち解けるのにさほど時間はかからなかった。
昼食の時間になり、母も交えての談笑。
昔、志穂親子が泊まりにきたときの話や、ここ数年にあった、出来事など。
午後は、私の部屋で志穂の勉強をみた。
なかなか、飲み込みがいい。
本人は厳しいと言っていたが、勉強の仕方さえ間違えなければ、合格はじゅうぶん狙えるはずだ。
素直に言うことを聞く志穂に、私は少し得意になって、いくつかアドバイスをするのだった。
志穂が滞在している間、私は満ち足りた時間を過ごした。
日中は、志穂の勉強を見てあげて。
休憩時間には、二人で談笑して。
私は、志穂の日常生活の話を聞き、志穂は、私のN高校時代の話を聞きたがった。
傍から見れば、少し年の離れた、仲のいい姉妹のようだったと思う。
ただ…
私は、そんな志穂に対して、秘めた願望を持っていた。
参考書を見ながら頭を悩ませる志穂の横顔。
分からないところを、申し訳なさそうな表情をしながら質問する志穂。
N高時代の私の話に、どこか憧憬のまなざしを向ける志穂。
志穂からの、年上の女性としての敬意や、憧れを感じるたび、頭の中で、別の情景が浮かんでくる。
イタズラっぽい目で、私を見下ろす志穂。
私は、正座をしながら、志穂を見上げている。
私に向けて突き出された、志穂の親指と人差し指。
私の目を見ながら、志穂はその二本の指を動かす。
さっきまでの、ハキハキとした明るい声ではなく、こちらをばかにしたような、からかうような声。
その声が、私の胸を締め付ける。
クルクルと、円を描くように回る、志穂の可愛らしい指。
妄想の中で、私は何度も、この指で弄ばれた。
服の上から、つま先で乳首を擦られ…
時には正面から、時には背後から抱きかかえられるようにされながら、乳首を摘ままれ…
耳元でささやかれながら、志穂の指先で、優しくこすられる。
私を焦らしながら、ねちっこく責める志穂の指。
耳に吐息を感じながら、私は…
「…ちゃん、まゆちゃん!」
「…えっ?」
「どうしたの、ボーっとしちゃって」
心配そうに見上げる、志穂。
「あ、ああ、ごめん、少し考え事しちゃって」
「私の顔をじっと見つめて…ちょっと、ドキドキしちゃったよ」
「はは、なに言ってんの」
少し、おちゃらけて、誤魔化す。
「あの、この問題が分からなくて」
「どれどれ…」
気まずさを振り払うかのように、私は問題集を覗き込んだ。


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