ポニーガールとご主人様 第三章(7)勝者と敗者


スクリーンに映し出されたタイムは、2分20秒。
相手チームが2分21秒だから…
「や、やった、勝った!」
畑川の声。

そうか、勝ったんだ…
喜びよりも、安堵が先だった。
大きく息をつく。

「あ、ごめんなさい!」
畑川が、あわてて私から降りる。

もし。
藤崎たちの迫力に飲まれたままだったら。
畑川が私を現実へと引き戻してくれなかったら。
あるいは、結果は違ったかもしれない。

「ち、ちょっと待ってよ!」
声のしたほうを振り返る。
藤崎。

両手を腰に当てながら、険しい顔をしていた。
負けたことに納得がいかないのか、映像の再チェックを要請してきた。

両チームのスタートからゴールまでの様子を、画面で確認する。
フライングもなければ、コースアウトもない。
タイムの計測にも問題はなかった。

レース中まではあった、藤崎の堂々とした態度は消え失せていた。
負けた悔しさか。
あるいはこの後に待ち受けている出来事への不安か。
右手で口もとをおさえ、神経質そうに足をゆすっている。

「藤崎センパイ ?」
新田が甘ったるい声を出す。

勝者の余裕か。
新たなオモチャを手に入れた嬉しさか。
どこか馴れ馴れしさを含んでいた。

対して、呼びかけられた藤崎。
「ん?」
体を硬直させたまま、新田に視線を向ける。

「センパイのことだから、大丈夫だと思いますけど…お約束、忘れてないですよね」

畑川を乗せて、コースを周回する。
それも、馬の衣装を身に纏って、だ。

「え?あ、あぁ、約束ね。覚えてるよ。忘れるわけないじゃん」
言いながら、強張った笑みを浮かべる藤崎。
「ですよね。ごめんなさい」
と、新田も笑う。

「それじゃ、控室に行きましょうか」
「え、控室?」
「ええ。今のカッコじゃ、大切な乗馬服がシワになっちゃうでしょう?ちゃんと藤崎センパイ用の『衣装』を持ってきてますので、お着替えしましょうね」
「くっ…」

新田の言う衣装が何なのかは明白だった。
そして、それを着させられる屈辱を思ったのか。
藤崎の顔が、悔しそうに歪む。

新田に連れられて控え室に向かう藤崎。
それを、残された3人で見送る。

どこか、不貞腐れたような表情で俯く三井。
無言のまま、床を見つめている。
最初は怒っているのかとも思ったが。
おそらく、気まずいのだ。

後輩である藤崎に屈服し、調教される様子を、私たちに見られており。
ご主人様である藤崎も、これから辱めを受ける。
自分が負けてしまったばかりに。

これまでのレースでも、彼女は負け続けだった。
そのうちのいくつかは彼女に非はないのだが、それは本人は知らない。

どこか痛々しい彼女に、声を掛けることができなかった。
私が何を言っても、彼女を傷つけることになるだろうから。

しばらくして、控室のドアが開いた。
出てきたのは、なぜか乗馬服に身を包んだ新田。
藤崎に乗るのは、彼女ではなく畑川だというのに。

ただ。
左手に乗馬鞭を持ち、堂々とこちらへ歩いてくる姿。
自信に満ちた表情と、ピンと伸びた背筋。
どこか風格さえあった。

そして、次に控室から出てきたのは本日の主役。
ご主人様という立場から転落した、憐れな女。
乗馬服などという、分不相応なものではなく。
今の彼女にふさわしい衣装を、身に纏っていた。

乗馬服を着た新田と、馬に身をやつした藤崎。
馬は、羞恥心からか、少し背を丸めながら視線をさまよわせている。
つい先ほどまで漂わせていた、ドミナントとしてのオーラは消え失せ。
まるで新田の従者であるかのように、後ろを歩いていた。

ふたりが、私たちの前で立ち止まった。
恥ずかしさを隠すためか、ぎこちない笑顔を見せる藤崎。
虚勢。
むしろ、どこか痛々しかった。
その横で、余裕の笑みを浮かべている新田。

「あ、そうだ」
新田。
「三井センパイ。ほら、こっち来て」
私の横にいる三井に、呼びかけた。
藤崎が、怪訝な表情をする。
呼びかけられた三井も、少し戸惑いつつ。
言われたとおり、新田に近寄っていく。

「ここ。藤崎センパイの横。ほら、ここに立ってください」

藤崎の隣に、並ぶように立つ三井。
馬の耳を模したカチューシャ。
エナメルでできた、水着のような服。
腰の付け根あたりから生えた、しっぽ。

先輩と後輩であり。
そして、主従関係でもあったふたり。
それが今、ふたりとも同じ姿をしていた。

ついさっきまで、自身が調教していた三井。
その彼女と、同じ格好をしている。
いや、させられているのだ。
自分の後輩である新田に。

「ふふっ。お揃いの衣装ですね」
「お、おいおい、新田、アンタねぇ…」
強張った笑みを浮かべながら、抗議する藤崎。

「それじゃ、早速ですけど、コースへ行きましょうか、藤崎センパイ?」
「あ、ちょ、ちょっと待って!」
藤崎が大きな声をあげた。

「そのことだけどさ。新田に、お願いがあるんだけど…」
悔しさと恥ずかしさが入り混じった顔。
「ん、何ですか?」
「え、と…」
ちらっと、三井を見る藤崎。

「罰ゲームの間、みつ…アッキーにはさ、控室に居てもらいたいんだけど」
新田の口もとが緩んだ。
「へえ…でも、なんでです?」
イジワルな笑みを浮かべる新田。

「な、なんでって、そんなの…言わなくても分かるでしょう?」
「えー、なんだろうなぁ。教えてくださいよぉ」

新田は、藤崎が何を思っているか、分かっている。
分かったうえで、あえて藤崎に言わせようとしているのだ。
そのことに、藤崎も気付いているのだろう。
しかし、言うしかない。
苛立ちを隠しきれない様子で、もどかしそうに声をしぼり出す。

「アッキーに見られたくないからに決まってるでしょ」
「ふぅん。そうなんですねぇ」
焦らすように、どこか間延びした話し方をする新田。

「でも、まぁ…確かにそうかもしれませんね。さっきまで三井センパイをお馬さんとして扱ってたのに、今度はご自身がお馬さんになっちゃうなんて…そんな姿見られたら、ご主人様としてのイゲンがなくなっちゃいますもんね」

後輩にあるまじき失礼な物言い。
でも藤崎は…
「ち、ちょっと新田…でも、まぁ、そんなとこよ」
新田の機嫌を損ねるわけにはいかない。
なので、強く咎めることもできず。
三井のほうを気にしつつ、顔を赤らめる。

「分かりました。他ならぬ藤崎センパイの頼みなら、聞かないわけにはいかないですね」
「えっ」
意外そうな表情をする藤崎。
素直に要求が聞き入れられるとは思っていなかったのだろう。
明らかに安堵していた。

「という訳ですので…少しの間、控室で待機していただけますか、三井センパイ?」
問われた三井。
新田と藤崎を交互に見比べたあと、不安そうに頷いた。
もとより、立場の低い彼女に拒否権などないのだ。

「こ、この子に、あんまり酷いこと、しないでよ」
ご主人様であり、可愛い後輩でもある藤崎。
彼女の身を案じているのか、新田にそう告げる。
三井は、新田の恐ろしさを身にしみて知っているのだ。

新田が、笑顔で答える。
一方、藤崎は。
三井に『この子』呼ばわりされたのが気に入らなかったのか、少し不機嫌そうな顔をしていた。
いや、悲しんでいるのか。

控室へと歩いていく三井を見送ってから…
「あ、ありがと、新田」
「いえいえ、いいんです。でも…」
新田が真顔になる。

「三井センパイのレンタルは今日でおしまいですよ?いまさら見栄を張っても仕方ない気もしますけど?」
「そっ、そんなこと、分かってるよ」
イラつく藤崎。
「それに、先輩に対してこんなことを言うべきではないのかもしませんが…」
申し訳なさそうな素振りをしつつ、続ける。
「三井センパイに対しての呼び方も。先ほどまでならともかく、もうアッキーなどと呼んでは、失礼かと」
「そ、それは…」
言い返したいのに言葉が出てこないのか、口をパクパクさせる藤崎。

新田の言う通りなのだ。
負けてしまった以上、三井への調教はこれで終わり。
以前のような、先輩後輩の関係に戻らなければならない。
いや、あんなことをしておいて、そもそも戻れるのか…

「でもまぁ、それはそれとして…」

残忍な笑みを浮かべる、刑の執行者。
「三井センパイも見ていないことですし、これで心置きなくお馬さんになれますね」
「こっ、心置きなくって何よ」
「だって、三井センパイが見てたら恥ずかしいんでしょう?」
「それは、そうだけどさ…」
ゴニョゴニョと口ごもる藤崎。

「それに…藤崎センパイの頼みを聞いてあげた代わり、って訳じゃないけど…私も、ちょっと楽しんじゃおうかな」
冷酷な女王様。
その本性を、少しずつ剥き出しにしていく。
「た、楽しむ…?」
藤崎の顔が引きつる。
「で、でも、私が乗せるのはアンタじゃなくて…」
「分かってますよ。乗るのは畑川センパイです。私はただ、お馬さんの傍を一緒に歩くだけ」
「お、お馬さん、って…」

お馬さん呼ばわりされた藤崎が、非難するような目で新田を睨む。
しかし、新田は全く意に介していない。
「実は、考えてたんですよね。三井センパイも見ている手前、ちょっと手加減してあげないとかわいそうかなって」
「え、て、手加減…?なにを言って…」

「でも、三井センパイは今、控室にいらっしゃるわけですからぁ…」
左手に持った鞭。
その先端で、自身の右手のひらを軽く叩く。
それを、数回繰り返す。

「あっ、アンタ…変な事考えてたら、承知しないからね!」
精一杯の強がり。
でも、声が震えている。
それが一層、彼女の今の心境を表しているように感じられた。

「そんなに恐がらなくても大丈夫ですよ。いつもこの子たちがされてるよりは、全然楽だと思いますからぁ」
この子『たち』。
新田のその言葉に、畑川がかすかに反応する。
不安そうに、藤崎の顔色をうかがう畑川。
藤崎は、本当に余裕がないのだろう。
微妙なニュアンスの含まれた新田の言葉に、何の反応も示さなかった。

「それともぉ…やっぱり恐いんです?逃げてもいいんスよ、センパイ?」
新田の、明らかな挑発。
しかし…

「だ、だれが!」
今の藤崎には、受け流す余裕もないのだろう。
「ふふっ、ごめんなさい。少し調子にのっちゃいました」
悪びれもせず、言い放つ。
むしろ、舌なめずりをしているようにも見えた。

「さてと。おしゃべりはこの辺にして、そろそろ始めましょうか。お馬さんになる心の準備はできましたか?」

膝パッドを付け終わった藤崎。
「ね、ねえ、ホントにコレ付けなきゃダメ?」
手に持っているのは、轡を模したマスクと、手綱。
「先輩に対して心苦しいですけど…でも、ルールですから」
新田の言葉に、渋々従う藤崎。
装着に手間取る藤崎を、私と畑川が手伝う。

ようやく付け終わった藤崎を眺めながら、新田がささやく。
「お似合いですよ、藤崎センパイ」
「むぅっ!」
自分を舐め切った後輩の言葉。
抗議しようとした藤崎を、慣れない轡がジャマする。

スタート地点であり、ゴール地点でもある、黒いビニールテープ。
その前に、藤崎が立つ。
「それじゃ、まずは両手と両ひざを床につけて…お馬さんのカッコ、してくださいね?」
屈辱的な姿をとらされる。
それも、後輩に命令されて、である。

『私の前でひれ伏しなさい、負け犬』
まるで、そう言っているかのような新田の目。

悔しさがこみ上げてきたのか、あるいは羞恥心か。
藤崎がうつむく。
何かに耐えているかのように、じっと動かない。

そんな彼女をじっと見つめる新田。
あえて急かさないのは、彼女のそんな様子をさえ楽しんでいるからなのかもしれない。

自尊心が藤崎を責めたてているのか。
あるいは、まだ現実を受け入れ切れていないのか。
それでも。
ふーっと大きく息を吐きながら。
ゆっくりと腰をかがめていく。

両膝が床に着き。
両腕を体の前に出す。
震える手。
それが、床に触れた。

藤崎の、四つんばいの姿勢。
いや、敗北のポーズか。

そんな藤崎を、新田が見下ろす。
あざ笑うかのような新田の表情。
鞭を手で弄びながら。
しかし、床を見つめている藤崎は、そのことに気づけない。

「それじゃ、畑川センパイ、藤崎センパイに乗ってください」
馬の背に跨る畑川。

藤崎が、うめき声をあげる。
人を乗せて這い進む。
一見すると、なんでもないようなことだが、実際はかなりしんどいのだ。

騎手の体重に慣れようとしているのか。
それとも、己の境遇に必死に慣れようとしているのか。
藤崎が、ふーっ、ふーっ、と、何度も大きく息をしている。

と。
新田が、私のほうを見ていた。
手招き。
近寄った私に、新田が渡したのは…

「撮りな」

私にしか聞こえないような、小さな声で。
スマホを手渡す新田。
画面に映った、赤い丸ボタン。
ここをタップすれば、すぐにでも録画が始まるようになっている。
これで、罰ゲームの様子を撮影しろというのか。
新田を見る。
しかし彼女は、既に私のほうを見ていなかった。

「騎手にいきなり手綱を引かれるのは怖いでしょうから、私が引かせていただきますね」
新田が手綱を握る。
馬は相変わらず床を見つめたまま、荒い呼吸をしている。
もはや、新田の声がどこまで届いているのか分からなかった。

新田が、無言で畑川に何かを手渡した。
驚きの表情を浮かべたあと、意図を理解したのか、頷く畑川。
受け取ったそれを、左手に持ち替える。
それを見届けた新田。
馬の耳に顔を寄せた。

「とってもお似合いですよ。センパイも、本当はこちらのほうが向いているのでは?」

馬が、目を見開いた。
「お、おい!どうい…うっ…」
言い終えることができない馬。
畑川が、太ももで馬を締め付けたのだ。
「くっ…」
苦しいのか、あるいは屈辱なのか。

畑川が、脚で合図を送る。

『進め』

藤崎の顔が真っ赤になる。
命令されているのだ。
馬として。

「ほら、何してるんです?」

新田。
グズグズするな、と言わんばかりに。
それが、藤崎の感情を煽る。
再び、騎手が合図を送ってくる。

『進め』

観念したのか、ようやく馬が進み始める。

「藤崎センパイの、お馬さんとしてのデビューですね。思い出に残る、楽しいお散歩にしましょうね」

コメント

  1. てつ より:

    良い感じの調教がはじまりますね!
    これからどんな感じになるか楽しみです!

    次、楽しみにしてます!

    • slowdy より:

      >てつさん
      返信、遅くなりました💦
      コメント、ありがとうございます!
      藤崎が、今後どのような道を辿っていくのか。
      見届けていただけたら嬉しいです。

  2. 匿名 より:

     素晴らしいです。やはり新田が一枚上手の雰囲気が出ていて良い感じに調教スタートして、次回に期待です!

     その一方で、逆に藤崎が勝利して、立場逆転するIFルートも読んでみたいです! M転する新田も見てみたい!

    • slowdy より:

      >匿名さん
      返信、遅くなりました💦
      コメント、ありがとうございます!
      IFルートですが、今のところ中谷と三井の大まかなシチュは考えており、早く書いてみたいと思っています。
      あとは、新田と藤崎の力関係がどう変わっていくか…
      エッチな展開をお届けできたらと思いますので、気長にお待ちいただけたらと思います😌