ポニーガールとご主人様 第三章(8)刑の執行

馬が新田を睨みつける。
新田が、ふふっと笑う。
いや、嗤ったのか。

新田に脅威を感じさせた女。
それが今、馬の格好をして部屋を這いまわっている。
どんなに悔しくても、せいぜい新田を睨むことくらいしかできないのだ。

三井を屈服させ、私や畑川にも手を伸ばそうとした彼女。
新田へキバを剥け、いずれはこの会を手中に収めようとしていたのだろう。
レースの結果が違っていたら、あるいはそんな未来もあったかもしれない。
でも、負けてしまった。

三井というペットは取り上げられ、屈辱的な衣装を着させられ。
同期である畑川を乗せ、後輩である新田に手綱を引かれて這いまわる馬。
それが今の彼女であり、現実だった。

私の役目は、その現実をスマホで記録すること。
彼女の屈辱極まりないこの瞬間は、半永久的に映像として残るのだ。

新田が私を手招きする。
後方からだけじゃなく、前方からも撮影すること。
仕草で私にそれを伝える。
言われたとおり、私は彼女たちの前へと出る。

馬の格好をした女が、畑川を乗せて這い進む。
手綱は、1年生である新田が握っている。
戸惑いながらも、一歩ずつ前へと這い進む、馬。
その表情を、全身を、息遣いを。
スマホで記録していく。

藤崎の中で芽吹き、大きく育とうとしていたドミナントとしての可能性が。
畑川に押さえつけられ、新田に踏みにじられていく。
必死に抵抗する、藤崎のプライド。
藤崎を奮い立たせようとする。
大量に分泌されたドーパミンが、彼女を責め立てる。

スマホの画面越しに、それが伝わってくる。

なぜ、新田に屈するのか。
後輩である新田に。

なぜ、こんな屈辱を受け入れているのか。
はらわたが煮えくり返りそうなほどの屈辱を。

いくじなしめ。
ほら、抵抗しろ。
抵抗しないのか、このいくじなしめ。

馬の感情が、私に流れ込んでくる。

新田へ向けるべき怒りが、馬自身へと向く。
もがけばもがくほど、自身を攻撃してしまう。
防衛本能。
ベータエンドルフィン。
自身を守るために分泌された脳内麻薬が、彼女の痛みを和らげる。
引き換えに、書き換えられていく。
怒れば怒るほど。
悔しければ悔しいほど。
深く刻まれていく。
そうやって、堕ちていくのだ。

藤崎の葛藤を。
息遣いを。
私は、スマホに記録していく。

と。
馬の目が、私の持つスマホを捉えた。
そこで初めて、馬は自分が撮られていくことに気付いた。
喚き声を上げながら、馬が暴れる。

ビシッ!
乾いた音が、室内に響いた。
畑川が、鞭を振り下ろしたのだ。

さっきまで暴れていた馬が、黙った。
何が起こったのか、瞬時には理解できなかったのだろう。
ビックリした表情の馬。
やがて、鞭で叩かれたのだと理解し…
怒りと恥ずかしさとで、顔がまっ赤に染まっていく。

誰だ!
誰が叩いた!

馬が、犯人を捜し始める。

馬が、新田を睨む。
彼女の手にあるのは、手綱のみ。
ということは、畑川か。
騎手に抗議しようとした馬。
しかし、そんな馬に再び鞭が振り下ろされる。

馬が、ようやく冷静さを取り戻す。
屈辱的な恰好。
同期を乗せて、後輩に手綱を引かれて這い進む姿。
それだけではない。
鞭を打たれるところまで、撮られているのだ。

今撮られている動画。
どんなことに使われるのか。
明白だった。

藤崎の弱み。
負け犬としての烙印を刻むだけでなく。
オモチャとして弄ぶだけでなく。
逆らえないように。
藤崎に首輪をはめているのだ。
服従の首輪。

罰ゲームなどと言っていたが、これが目的か。
調子に乗った女の鼻っ柱をへし折り、屈辱にまみれさせ。
誰にも見られたくないような情けない姿を、撮られる。
逆らえないように。
もし逆らおうものなら…
終わってしまう。
地に落ちてしまう。

彼女の、馬術部内でのヒエラルキー。
つい先ほどまでは対等な関係だったはずの、同期たち。
自分を先輩として敬い、慕ってくる後輩たち。
築き上げてきたものが、一瞬で崩れ去ってしまう。
学年が上がっても、境遇は変わらない。
どこまで行っても、馬として扱われる。
逃げることもできず。
4年生の藤崎が、新入生たちにバカにされる。
彼女以外の4年生には恐縮している小娘たちが。
彼女には、舐め切った態度を取る。

そんな、恐ろしすぎる状況。
それがイヤなら、受け入れるしかない。
首輪を付けたまま、忠犬として振舞うしかないのだ。
この後輩に。

レースに負けるということ。
三井への支配を失うということ。
それだけでも、身を引き裂かれるような想いだった。

自身が馬としてデビューするということ。
消えがたい、負け犬としての烙印を刻まれるということ。
一生、新田に逆らえなくなるということ。

脳に、体に、スマホに、記録されていく。
騎手としてコースを1周するときとは比べ物にならないほどの長さに感じているはずだった。

一刻も早く責め苦から解放されたい馬。
スピードを上げようとする。

「こーら、畑川センパイが乗りづらいでしょう?」
新田が、畑川に目で合図を送る。
すぐさま、鞭が振り下ろされる。
叱責された馬は、すぐ元のスピードに戻った。

「次また同じことしたら、オシオキですよ?分かりましたね、藤崎センパイ?」

はっきりとした、大きな声。
馬に言っているようにも、スマホに向けて言っているようにも聞こえる。
もし、この動画を誰かが観たとしたら。
彼女たちの関係を、立場の違いを、10人が10人とも同じように解釈するだろう。

「ご主人様が分かったかって聞いてるんですよ、藤崎センパイ?ほら、お返事は?」
鞭。
「う、うぁい…」
しぼり出すような声。
いや、呻きか。

「声が小さいですよ」
鞭。
「う、うぁい!」
馬が叫ぶ。

「はい、でしょ?」
鞭。
「は、はいっ!」

「よしよし。ごめんなさいね、藤崎センパイ。でも、センパイが悪いんですからね。ちゃんとご主人様の言うことを聞けるように、いい子になりましょうね」
新田が馬の頭をなでる。

後輩の命令に『はい』と返事をしてしまったという事実。
そして、その後輩に優しく語りかけられることで、馬の中の何かが刺激された。
馬の目に、これまでとは違った色が混じり始める。
新田の顔色を窺うような、そんな表情。

「いい子になりましょうねって言ってるんですけど?お返事、できないんですか?」
先ほどとは打って変わって、低い、有無を言わさぬ声。
鞭が、ビタビタと馬のお尻を軽く叩く。
鞭で叩かれる痛みを、屈辱を、馬の体が思い出す。

「は、はいぃ!」

馬が叫ぶように応える。
ただ、ヒトだったころのプライドが残っているのか。
どこか非難がましい目を新田に向ける。

「まだちょっと反抗的ですね。まったく。私のお馬さんの中で、一番物覚えが良くなさそう」

『私がいつアンタの馬になった』
そう言いたげな表情をする馬。

「ねえ藤崎センパイ、そんなに反抗的だと、ホントにオシオキしますよ?その姿、みんなに見せてあげましょうか?」
馬の顔が恐怖でひきつる。
「うそうそ。ごめんね、センパイ。そんなことしないから。ちょっとイジワルだったね。ほら、怖がらないで?よしよし…」

めまぐるしく変わる、新田の表情。
そんな新田に振り回されっぱなしの馬。

自分をこんな目に合わせている新田への怒り。
こんな姿を晒していることへの情けなさ。
そして、一部始終を録画されているという、恥ずかしさ。
撮られた動画は、どう使われるのだろう。
一生、新田に逆らえなくなってしまうのではないか。
自分を知る誰かに、見られてしまうのではないか。

入れ替わり立ち代わり馬を責め立てる、様々な感情。
私ではないのに、まるで私が責められているような気がして…
体が熱くなる。

この馬をもっとイジメてやりたい、情けない姿が見たい、という感情。
この馬に自己投影して、もっと責められたい、辱められたい、という感情。
交錯する。

撮っているのか。
撮られているのか。
曖昧になっていく。

ビシッ!
鞭。

反抗的な態度を取ろうものなら、鞭が飛んでくる。

痛みもあるが、それ以上にショックなのだ。
鞭で打たれている自分。
鞭を打ってくる相手。
そこに存在する、大きな隔たり。
あまりにも一方的で、理不尽な関係性。
立場の差を、強く、強く意識させられる。

そして、鞭で打たれるたび、意思に反して体が反応してしまう。
屈辱、恥辱とともに湧き上がる、別の感情。
戸惑い、否定するも…

ビシッ!

鞭。
やはり、湧き上がる感情。
体の奥底から、全身へと広がっていく。
鞭を恐れると同時に、期待している自分。

次はいつ来る?
次はいつ来る?
頭の中が、鞭のことでいっぱいになる。
そんな頭の中を見透かしたかのように。
ビタビタと、鞭で軽くお尻を叩かれる。

脳が、想像する。
体が、思い出す。
鞭で叩かれる屈辱。
それを、待ち焦がれている自分。

違う!
自分は、そんな人間じゃない!
こんなの、何かの間違いに決まってる!

必死に否定する。

ビシッ!

答え合わせ。

痛みとともに、何かが脳に拡がっていく。
思い知らされる。
何かの間違い、ではなかった。

現実を突き付けられる。

待ちわびていた痛み。
屈辱。
体が、心が、震える。

ありえない。
こんなの…
だってこれじゃ、まるで…

存在していたことすら気付かなかった、己に秘められた願望。
資質。
否定する。
必死に、目を背ける。
でも…

ビシッ!

鞭で打たれるたび。
心が、全身が切なくなる。

ご主人様を名乗る、理不尽な存在。
私から三井先輩を奪った、憎き小娘。
屈辱的な言葉。
甘い言葉。
交互に投げつけてくる。
その一つひとつに、翻弄される。

必死に否定していた、己の願望。
剥き出しになっていく。

『コイツには、決して知られてはいけない』

『私が、アレだってこと』

『こんなカッコさせられて、馬として扱われて』

『鞭で叩かれるたびに、心がかき乱される』

『撮られてるって意識するたび、体が熱くなる』

『こんなこと、もし知られでもしたら、一生コイツに逆らえなくなっちゃう…』

想像し、ゾッとする。
同時に、言いようのない興奮がこみ上げてくる。

自身が三井に対してしていたことを。
今後、しようと思っていたことを。
逆に、新田からされてしまう。
言うことを何でも聞く、マゾペット。

『マゾ…』

必死に避けていた言葉。
たった二文字の言葉。
でも、もう遅い。
自覚してしまった。

『マゾ、だったなんて…』

『で、でも、コイツには、新田にはバレちゃだめ…』

『気付かれたら、終わる』

『気付かれてない…気付かれてない…』

祈るような気持ちで、新田を見る。
口元に笑みを浮かべながら、全てを見透かしたような目。
慌てて顔を伏せる。

『嘘でしょ…』

ドッドッドッドッ…

心臓の音。

『ダメだった…もう、逆らえなくなっちゃった…』

ご主人様の目を、思い出す。

『ち、違う!アイツは、ご主人様なんかじゃ…』

ビシッ!
身もだえするほどの屈辱が、全身を悦ばせる。

「ほら藤崎ぃ、馬に集中しろ?」

呼び捨てにされた!

命令された!

新田に!

後輩に!

熱い、ドロドロとしたものが、とめどなく溢れてくる。
性欲。
発情しているのだ。
後輩から受ける、屈辱極まりない仕打ちに。
先輩と後輩の立場が逆転してしまったという、事実に。

新田は、馬鹿ではない。
普段はおどけた様子を見せているが、実際は頭の回転が速い子だった。
そんな彼女が、先輩を呼び捨てにすることのリスクを知らないはずはなかった。

心臓が、大きく跳ねた。
コイツは、私を呼び捨てにしても問題ない、と判断したのだ。

完全に私を下に見ている。

確かに、弱みを握られて逆らえない、というのもある。
でも、一番の理由は、きっと…

呼び捨てにされることで、私がどういう反応をするか。

見抜かれたのだ。
確信はなかったとしても、今の反応でバレてしまっただろう。
現に、私は今、どうしようもないほど欲情している。

この場に、自分以外に誰もいなかったら。
体が自由に使えたら。
自分が何をするか。
考えるまでもなかった。

「藤崎ぃ、ちゃんと反省してんのかぁ?反省してるなら、ごめんなさいできるよねぇ?」
新田の声。
まるで、先輩が後輩を叱るときのような言葉。
でも、怒気はなかった。
ただ、どこか揶揄するような響きがあって、それがまたどうしようもなく私を昂らせる。

「ご、ごめんなさい…」
絞り出す。

「あれぇ、やけに素直になったじゃん」

恥ずかしい。
恥ずかしすぎる。
私の心の変化に、気付いている。

「私のお馬さんだって自覚が、出てきたみたいだねぇ」

強烈な羞恥心。
顔が熱い。

「でも…」
鞭。
ビタビタと、お尻を軽く叩かれる。
それだけで、もう達してしまいそうだった。

「ご主人様の目を見て、言おうね。ほら、できるでしょ?」
「は、はいぃ…」

顔を上げる。
目が合う。
新田。
嘲笑している。

負けた。
はっきりと、自覚した。

彼女は、生粋のサディストなのだ。
自分のような、サディストのフリをしたマゾではないのだ。
敵うわけがなかった。

『ほら、私に詫びてみな、負け犬』

目が語っていた。
「ごめんなさいぃ…」

先輩である三井を手玉に取り、思うままに弄んでいた自分。
三井のライバルである中谷、自身の同期である畑川をも、屈服させ。
不敵な笑みを浮かべながら、新田を見下ろす。
女王としての威厳とオーラに満ちた、己の像。

鞭で打たれるたび、像がひび割れていく。
狼狽えながら、原型をとどめようと両手で押さえる。
しかし、必死の抵抗も空しく、像は跡形もなく崩れ去ってしまう。

像のがれきが、再び別の形を作っていく。

馬。
媚びた笑みを浮かべながら、四つんばいになって地を這う、己の姿。
その背には、鞭を握る新田の姿。
その周囲を、馬術部のメンバーが取り囲む。

軽蔑。
憐れみ。
嘲笑。

『やめて、見ないで!違うの、これは私じゃないの!』
己の像を必死に隠そうとする。
しかし、そんな様子すらも彼女たちにとっては可笑しくて仕方がないらしかった。

同期から、後輩から。
揶揄いの言葉が飛ぶ。
その度に、像は恥ずかしそうに身もだえする。
そんな反応、するな。
あんなの、私じゃない。
そう思っても…

『なーんだ、やっぱり嬉しいんだ』
『そうして欲しかったなら、最初から言ってくださいよ、センパイ』

三井の取り巻き。

『ち、違う!違うったら!』

『何が違うんだよ。ホントのこと言えって』
『素直になりましょ、センパイ?そしたら、センパイがしてほしいこと、私がしてあげてもいいですよ?』

『い、いい加減にしなよ。違うって、言ってんじゃん!』

『おいおい藤崎、まだそんなこと言ってんの?』
『ウソついてもムダですよ?新田から全て聞いてるんですから。それに、証拠だって…ほら、これ見て?』

スマホ。
畑川を乗せて這いまわる、己の姿が映し出されていた。
そして…

『ご主人様の目を見て、言おうね。ほら、できるでしょ?』
『は、はいぃ…』

爆笑。

『はいぃ、だって!』
『ちょっとちょっと、笑わせないでくださいよ、センパイ!』

知られてしまった。
それだけでなく。
嗤われている。

あまりにも強烈な感情。
二度と、以前の自分には戻れなくなってしまう。
そんな思いを抱きながら。
脳が焼かれていく感覚を、興奮とともに受け入れる。

実際のところ、その通りなのだ。
この強烈な感情は、一生消えない傷痕として残る。
この責め苦から解放され、ヒトとしての姿を取り戻したあとも。
傷痕は、馬だった時の記憶を、感情を、何度も何度も思い出させる。
この屈辱極まりない瞬間を。
何度も。
何度も。

消そうとしても消えず、むしろいっそう鮮やかになっていく。
それを、忌々しく思いながらも。
いつか、愛おしそうに指でなぞっている自分に気付き、ゾッとするのだ。

藤崎の自室。
夜、独りきり。
どうしようもないほどの昂り。
鎮めるために、藤崎がヒメゴトを始める。

四つんばいの姿勢になって、目を閉じる。
思い出す。
高慢だった自分。
憧れだった先輩を跪かせ、思うままに弄ぶ。
ナマイキな後輩を思い知らせるはずが、レースに負けて、馬の格好をさせられる自分。
新田の命令で、這いつくばり…
ヒトとしての権利を取り上げられ、『お馬さん』としての第二の人生が始まる。

投げかけられる言葉。
鞭で打たれる衝撃と、音。
ご主人様の蔑んだ目。
自分に向けられたスマホ。

藤崎の頭の中で、再現される。

己を貶めれば貶めるほど。
体は熱く反応する。

鞭。
想像し、左手で己の尻を叩く。
衝撃。
でも、違う。
もう一度叩く。
乾いた音が部屋に響く。

こんなんじゃ、なかった。
満たされない。

机から、定規を取り出す。
プラスチック製の、30㎝の定規。
再び、振りかざす。
ビシッ!
尻を叩く音が、室内に響く。
違う。
何の味気もない。
ただ痛いだけ。

これでもない…

叩いて欲しい。
鞭で。
ご主人様に。

藤崎の背に跨るご主人様。
いつしか、畑川ではなく、新田になっていた。

新田が鞭を振り下ろす。
同時に、藤崎も定規を振り下ろす。
衝撃。
音。
痛み。

欲しい。
本物が、欲しい…
ご主人様…

コメント

  1. 佐々木 より:

    女王様気取りの真性マゾ描写がとても良かったです。
    これからマゾの尻を四つ並べる宴でしょうかw

    • slowdy より:

      >佐々木さん
      返信、遅くなりました💦
      コメント、ありがとうございます!
      新田の前に、四人のお尻を並べるのも面白そうですね。
      小柄な一年生の前で、彼女に屈したセンパイたちが屈辱的な姿勢でひれ伏している。
      それを眺めるもよし、同じ一年生たちに馬として貸し出すもよし。
      エッチなシーンが描けそうです!