マナドリンカー ~尊厳を搾り取る者~ 第8話

前回のあらすじ
マルレートの寝室で受けた、サキュバスからの屈辱的な責め。
マナを搾り取られるという恐怖、快感、興奮を思い出しながら、自らを慰めるマルレート。
強烈な屈辱を伴う自慰によって、彼女は自身の脳が、プライドが溶けていくのを感じる。
『マルレート様の魔力がたっぷりと溶け込んだマナ、私が飲み込んであげますね』
妄想の中のサキュバスに、マルレートは怒り、発情し、怯え、ひれ伏しながら、何度もマナを差し出すのだった。
そして、ヴァレオンから書簡が届く。
デスハイムから遠く離れた竜人族の集落にある、研究室。
そこで、彼女は竜人族の秘密を知る。
マルレートの持つ類まれな資質と、竜人族の持つテクノロジー。
圧倒的な力を持ち、魔族の頂点に君臨する魔王を倒す。
マルレートと、竜人族の存在を掛けた闘いが始まろうとしていた。

主な登場人物
マルレート・フォン・シュルツ
 吸血族の当主。
 魔石に込められた力を、自身に取り込み己の力とすることができる。
 竜人族と運命共同体となった彼女は、彼らの協力のもと、更なる成長を遂げていく。

竜人族
 かつて、圧倒的な力とテクノロジーによって隆盛を誇った一族。
 争いを好まない彼らだったが、魔王の策略により竜人族の王は敗れてしまう。
 以来、彼らは魔族として魔王に仕えながら、再起の機会を伺い続ける。
 
サキュバス
 力の源である『マナ』を奪い取るという特殊能力に特化した夢魔族。
 かつて、その能力を使い、権力者へとのし上がった者もいたが、その能力を恐れた者たちによって、多くの制約が課せられることとなった。
 謀反を企てた上級魔族や、勇者たちのような強者のマナを奪い取るという役目を与えられる者もいるが、そのマナは全て魔王へと献上され、彼女たちが口にすることは決して許されない。 


竜人族の集落は、決して近いとは言えない場所にあった。
何度も通うには、遠すぎる。
それに…
短いスパンで頻繁に通うとなると、誰かに疑問を持たれるかもしれない。
事の重大さを思えば、どれだけ慎重になっても、なりすぎることはなかった。
それに、領内で起こった問題への対処、魔王城への出仕、判断を仰ぐ部下たちへの指示など。
マルレートも、決して時間に余裕があるわけではなかった。

マルレートは、ヴァレオンたちと、今後のやり取りの方法について話し合った。
例えば、書簡がもし誰かに読まれた場合、計画が露呈してしまう恐れがある。
書簡の場合は、事前に決めた符丁を用いること。
仮に、誰かに読まれたとしても、そこから読み取れるのは全く別のことになる。
符丁を用いなければ、その真意を知ることはない。
このことを知っているのは、マルレートと、竜人族の一部と、マルレートの腹心である、影のみ。

書簡のやり取りをしながら、計画を進めていく。
そして、商談と称し、屋敷を出発するマルレート。
竜人族の集落への二度目となる訪問。
そして、巨大魔石から、勇者たちのエネルギーを取り込んでいく。
しかし、一度に取り込める量には限界があった。
もっと頻繁に、かつ安全に行き来ができるように。
竜人族のテクノロジーを用い、マルレートの屋敷と竜人族の集落とをつなぐ計画が立ち上がる。
いずれは、一瞬で行き来ができるようになる。
しかし、それを完成させるにも、やはり長い時間が必要なのだった。
マルレートが魔石に入れ込んでいるのを知っている、彼女の側近たち。
何をしているのかは知らないが、いずれその熱中も冷めるだろう、と。
主人の飽き性を知っている彼らは、半ば呆れながら彼女を見守るのだった。


そんなある日のこと。
魔王城から自分の屋敷へと戻る途中。
あの図書館の前を通りかかった時、マルレートは彼女を見つけた。
心臓が、大きく脈打ち始める。
思考が鈍り、感情が乱れる。
あの日の屈辱が、興奮が、鮮やかによみがえる。
見つかってはいけない。
本能的にそう思ったマルレートは、引き返そうとする。
しかし、踵を返そうとしたところで、彼女はマルレートの存在に気付いてしまった。
パッと笑顔になり、そばまで速足で近づいてくる。
「マルレート様、先日はお招きくださり、ありがとうございました」
深々と頭を下げる、下級魔族。
努めて冷静を装い、涼し気な笑みを顔にはりつけて、マルレートは頷く。
彼女から感じる、上級魔族への敬意と畏怖のこもった態度。
そして、マルレートへの敬愛。

彼女の記憶からは、確かに消えていた。
己の唇で、マルレートの唇を啄んだことを。
己の舌で、マルレートの口腔内を侵したことを。
己の唾液を、マルレートに飲ませ、発情させたことを。
己の言葉で、マルレートの被虐心を煽ったことを。
マルレートのお腹を揉みしだき、マナを、プライドを絞り出したことを。
杯に貯められたマナを見て、『美味しそう』と呟いたことを。
マルレートにとって、恥ずべき痴態。
彼女は覚えていなかった。
もし覚えていたなら、マルレートには分かっただろう。
上級魔族を敬う態度の中に見え隠れする、彼女の本心に。

己の身を案じるならば。
そして、竜人族との盟約を守るならば。
これまでに築いてきた名声と、これから得られるであろう、更なる栄華を失いたくないのであれば。
マルレートは、堪えるべきだった。
でも、それはできなかった。
彼女の体の奥底から湧き上がる、情欲。
マナを搾り取られるあの屈辱を、知ってしまったから。
下級魔族に詰られ、被虐心を刺激される悦びを、知ってしまったから。
数百年という歳月を生きてきて、最近になって気付いてしまった、マゾヒストとしての性。
上級魔族として生まれ、高い能力を持っているにも関わらず。
否。
マナとして搾り取られ、奪い取られるために、その類まれな能力を持って生まれ、それを育ててきたのではないか。

あの日、サキュバスを屋敷に招かなければ。
あの『儀式』に立ち会わなければ。
かつて、上級魔族がマナを搾り取られる姿を、見ていなければ。
もしかしたら、このような忌々しい『願望』は芽生えなかったのかもしれない。
しかし、そうはならなかった。
いや、たとえこれらのことがなかったとしても、いずれは別のキッカケによって発芽したかもしれない。
彼女が生まれた時から、そうなることが決まっていたのだとしたら。
現実は、なんと残酷なのだろう。

ともあれ、マルレートは再び彼女をお茶会に誘ってしまった。
マナを絞り出すという、恐ろしい能力をもつ種族の女性を。
マルレートのマナを搾り取り、己のものとすることのできる、この女を。
『大丈夫だ。前回は無事、力を取り戻すことができた。それに、サキュバスの記憶操作も成功している。いざとなれば、影に対処させればいい』
他にも、マルレートは数々の安全策を用意していた。
万が一にも、失敗することは許されないのだ。

サキュバスが、再びマルレートの屋敷へやってくる。
そしてまた、彼女の手で、マナを、マルレートがマルレートであるためのエネルギーを搾り取られるのだ。
あの言いようのない屈辱を、惨めさを、もう一度味わえる。
部下からの報告書に目を通す。
領内で起こったいざこざや、今期の収支などが記載されている。
目が、紙の上をすべっていく。
情報が、頭に入ってこない。
サキュバスの声、表情、しぐさ。
そして…
書類の束を、机に置く。
目を閉じ、お腹に手を当てる。
サキュバスにやられた時のように、お腹をグニグニと揉む。
ここに、私のマナが…
火照った体を鎮めるために、あれから何度も、何度も自身を慰めた。
そして、今も…
まるで、盛りのついたメス猫ではないか。
そう思っても、体の昂りはおさまるどころか、なおもマルレートを責め立てる。
目を閉じ、湧き上がる情欲を必死に耐える。
しかし…
一度、火がついてしまうと、この情欲は決して消えないことを、マルレートは思い知っていた。
『ヴァレオン殿、申し訳ない…』
引き出しを開け、木箱を取り出す。
木箱から魔石を取り出し、左手で握りしめる。
あの日から、何度繰り返しただろう。
記録の魔石から、あの時の映像を取り出す。

サキュバスとの、恋人同士がするようなキス。
ついばむようなキスを繰り返しながら、やがて二人の息が荒くなっていく。
『ほら、もう一度、舌、出してください?べーって、ほら』
下級魔族からの指示に、従順にしたがう自分。
舌と舌を絡ませ合う音。
サキュバスの舌を思い出しながら、マルレートは無意識に、自身の舌を動かしていた。
サキュバスの、煽情的な吐息。
彼女の二つの目が、マルレートの目をジッと覗き込んでいる。
胸の奥が、下腹部が、キュンと反応する。
髪を撫でられながら、再びキスをする。
サキュバスの手が触れるたび、愛情が伝わり、じんわりと幸福感が拡がる。
もっと、撫でられたい。
もっと、撫でてほしい。
もっと…

情熱的で、激しいキス。
サキュバスの唾液が、マルレートの口腔内へと注がれる。
それを、自分は喉を鳴らしながら、嬉しそうに飲み込んでいく。
飲みたい…
私も、飲みたい…
私にも、飲ませてください…
サキュバス特製の媚薬を美味しそうに飲む自分自身に、嫉妬する。
サキュバスの態度には、もはや上級魔族への敬意などカケラも感じられない。
私は彼女にとって、エモノにすぎない。
そのことが、私をいっそうミジメで、情けなく、興奮させた。
『お召し物、汚してしまわないよう、脱がせていただきますね』
サキュバスの手によって、服が脱がされていく。
服を着た下級魔族の前で、上級魔族である自分は一糸まとわぬ姿をさらしていた。
恥ずかしそうに、手で胸と股間を隠す私を見て、サキュバスが嘲笑うような笑みを浮かべている。
『そろそろですよ。ご準備はよろしいですか、マルレート様?』
ああぁ…
この声。
この表情。
何度聞いても、何度見てもゾクゾクしてしまう。
『こんなものをご自身で用意なさるなんて…マルレート様も、だいぶ変わったご趣味をお持ちなのですね』
そうなんです…
私は、マルレートは、ヘンタイなんです…
マルレートのマナ、この杯の中に、絞り出してください…
己の被虐心をより一層高めるため、映像の中のサキュバスを見つめながら、つぶやく。
『貴重な、貴重なマルレート様のマナ。それが、ご自身の身体から流れ出ていく様を、じっくりとご覧になってくださいね』
背後から抱きかかえられるようにして、マルレートのお腹をもみほぐす、サキュバス。
サキュバスの手の感触を思い出しながら、右手で自身のお腹をもみほぐす。
『マルレート様の魔力も、スキルも、知識も、ぜんぶ、マナと一緒に出してしまいましょうね。きもちよーく、マルレート様のおまたから流れ出ていくのを、感じてくださいね』
はい…
しぼりとってください…
マルレートのマナも、ぜんぶ、なにもかも…
マルレートのこと、しぼりかすに、してください…
『マルレート様の有り余るほどの魔力も、高位魔法の数々も、多岐にわたる知識も、手練手管も、全てこのマナに溶け込んでいるのですよ。こんなに貴重で、高貴なマナなのですから、一滴もこぼしてはいけませんよ?分かりましたね?』
わ、わかりました…
サキュバスの手が、容赦なく私のお腹をつかむ。
何度もうなづく私を見て、サキュバスが嘲笑う。
サキュバスが、私にチャームの魔法をかける。
耳元でサキュバスに囁かれながら、私はイヤイヤをする。
そんな私を、サキュバスはじっくりと追い込んでいく。
下腹部が、子宮が、キュンと反応する。
ケモノのような荒い息遣いをしながら、私はこみ上げてくる何かを必死に耐えている。
上級魔族としての威厳など、微塵も感じられない姿。
『いっぱい、いっぱい、オモラシ、してくださいね?マルレートさまのマナが、ピュルピュルッと、おまたの間から出てきますよ?ほらほら、どんどん、どんどん集まってくる…』
そして聞こえてくる、自身の切羽詰まった声。
『まって、でちゃう、でちゃうからぁ…もうだめ…あっ…あっ、あっ…でちゃ…あっ…ああっ…!』
私は、お腹を思い切り掴んだ。
あの時と同じ、屈辱感を敗北感。
それが脳に刻まれるのを感じながら、マルレートは身体を痙攣させるのだった。

そして、その日はやってきた。
先日と同じく、客間でお茶を楽しむ二人。
いや実際のところ、マルレートは楽しむどころではなかった。
この後訪れるであろう出来事を思うたび、体が反応する。
ただ、そんなそぶりは見せず、余裕の表情でサキュバスをもてなす。
そんなこととは露知らず。
二度目ということもあってか、サキュバスはこのお茶会を純粋に楽しんでいた。
そんな彼女に、再び記憶操作をしていくマルレート。
こういう時こそ、慎重にならねばならない。
はやる気持ちを抑えながら、一つひとつ試していく。
すり替えた記憶を、会話の中で丁寧に確認していく。
大丈夫、大丈夫だ…
確信したマルレートは、本題を切り出す。

マルレートの告白を聞いて、驚愕するサキュバス。
前回もこんな反応だったなと、説明しながらマルレートは考えていた。
戸惑い、ためらいを見せるサキュバスを、丁寧に説得する。
彼女のためらいが、少しずつ別の感情へと移っていくのを、マルレートは感じていた。
サキュバスの目が、妖しい光を放ち始める。
エモノを狙う、捕食者の目。
舌なめずりをしたのを、マルレートは見逃さなかった。
大丈夫だ。
前回に続き、気配を消した『影』に見張らせている。
もし、サキュバスが少しでもおかしなそぶりを見せたら『対処』することになっている。
そして、事が終われば、また記憶操作をすればいい。
それに、もし万が一。
もし記憶操作に失敗するようなことがあれば、その存在ごと彼女を…

寝室へと移動する二人。
サキュバスの耳元で、マルレートが囁く。
「遠慮することはないぞ。ここでは、上級魔族も下級魔族もない。だから、思う存分、してほしい…」
サキュバスが、ニヤリと笑う。
マルレートの胸が締め付けられる。
キス。
様子をみるような、ついばむキス。
でも、それは最初のころだけで…
サキュバス主導の、濃厚なキス。
ねっとりと舌を絡ませ、マルレートの口腔内を犯していく。
唾液をマルレートの口に移し、飲み込ませていく。
体内へと納められた媚薬が、発情したマルレートの体を更に昂らせていく。
サキュバスの笑み。
マルレートのすべてを見透かしたような、その目。
ゾクゾクする。
勇者たちにすら感じなかった、興奮。
いや、数百年という歳月のなかで、初めてのことだった。
捕食者。
能力も立場もはるかに格下である下級魔族に、己の全てが握られてしまっている。
知られたくない。
知られてはいけない。
上級魔族の風上にもおけない、願望。
この女にそれを知られてしまったら、本当に取返しのつかないことになってしまう。
わずかに残った理性で、考える。
大丈夫、大丈夫…
記憶操作をすれば…
いっこうに消えない不安をかき消すために、頭の中で繰り返し続ける。
まるで、そうすることでマルレートが悦ぶことを知っているかのように。
サキュバスが、イジワルそうな表情を浮かべる。
自分の鼓動の音。
やけに大きく感じる。
サキュバスに聞かれていないだろうか。
マルレートの太ももを、ゆっくりと焦らすようにサキュバスの手が撫でる。
マルレートの耳元で、そっと囁く。
「マルレート様のその表情、とっても、かわいいですよ?」
普段なら、絶対に許されない口の利き方。
今なら許されることを、この女は分かっていた。
太ももの内側が、触れるか触れないかのタッチで、撫でられる。
「マルレート様のような高貴なお方でも、このようなことをされるのがお好きなのですね。他の上級魔族の皆様もそうなのでしょうか。普段は威厳があって、凛々しく、近寄りがたいほどオーラのあるお方でも…このような一面をお持ちだなんて意外です」
サキュバスの声。
耳から脳へ侵入し、理性を、威厳を、溶かしていく。
「それとも…」
上目遣いで。
じっと、マルレートを見据える。
「マルレート様が、特別なのでしょうか」
わざと、怒らせるようなことを口にする。
やはり、分かっているのだ。
マルレートの性癖を。
「言いすぎだ。口の利き方に気をつけろ」
上級魔族としての、プライド。
いや、見栄か。
「はい。申し訳ございません…」
反省のカケラも見えないその態度に、マルレートは少し焦りを覚える。
「では、そろそろよろしいでしょうか?」
マルレートのお腹に手を当て、上目遣いでたずねるサキュバス。
「ああ。構わない」
必死に、威厳を保とうとする。
それを見透かしたかのように、クスッとサキュバスが笑う。
床に置かれた、杯。
搾り出された私のマナが、またあの杯を満たしていく。
「もうじき、念願が叶いますね、マルレート様」
サキュバスの手が、マルレートのお腹を優しく揉み始める。
緊張、不安、興奮、羞恥心…
顔が、熱い。
おそらく、耳まで赤くなっているのだろう。
そんな自分も、サキュバスに見られている。
「マルレート様のここに集まってきたマナを、たっぷりと搾り取って差し上げますからね?」
「あ、ああ…」
それだけ答えるのがやっとだった。
「マルレート様のような高貴なお方のマナを見られるなんて、感激です。きっと、私が見たこともないような、美しいものなのでしょうね」
先日の記憶がよみがえる。
杯に満ちた、己のマナ。
「そういえば…マルレート様、ご存じですか?」
「な、なにを、だ…」
言いようのない不安。
嫌な予感がした。
「我々サキュバスの持つ能力のことです。魔王城の地下で、あの『儀式』を、勇者たちがマナを奪われる様子をご覧になったとき、不思議に思いませんでしたか?」
こんな時に、なにを…
言いかけて、口をつぐむ。
不安は、更に膨れ上がっていく。
「サキュバスが、相手を魅了してエッチな気分にさせたり、こういう風にマナを絞り出したりできることは、ご存じですよね?そして、絞り出したマナを自分のものにすることも」
「あ、ああ…」
「例えば、魔法使い。彼女は勇者への想いを胸に秘め続けていました。その想いは誰も、仲間ですら知りませんでした」
サキュバスの右手は、相変わらずマルレートのお腹を責める。
「次に、神官です。彼女は聖職者としてあるまじき性癖を持っていました。強靭な理性で抑えつけられたリビドーによって歪められた性癖を、自身のアナルを虐めることで、その欲求を満たすようになりました」
「だ、だから…それが、なんなのだ…」
「戦士は、仲間の目を盗んでは娼館で女を買っていました。まるで赤子のようになって、乳を吸い、おしめの中にオモラシをして…」
マルレートのマナが、お腹に集まってくる。
それを、マルレートは恐怖とともに感じた。
「勇者は、とある国の王子に恋をしていました。しかし、生まれた時から女であることを取り上げられた彼女は、その想いを抑え込んできた。でもずっと望んでいたのです。女性らしくあることを。女として、求められるということを」
サキュバスの言葉が、マルレートの心を、体を縛っていく。
「仲間にも話したことのない、己の胸に秘め続けてきたことを、どうして我々は知りえたのでしょうか…」
本能が身の危険を感じ、サキュバスをはねのけようとする。
しかし、思いのほか力強いサキュバスに抵抗することができない。
「マナを相手から絞り出すには、その者を性的に昂らせる必要があるのです。いえ、そのような言い方では足りないかもしれませんね。発情させ、魅了するのです。我々から逃げ出せないように。心も体も屈服させ…そうやって捧げさせるのです。覚えがありませんか、マルレート様?」
「なっ…!」
「我々の、サキュバスのもう一つの特技。それは、相手の秘めた性的願望を感じ取ること。普段、どんなにすました顔をしていても、心の中ではどんな願望を、性癖を抱えているのか。発情したその体から、漏れ出てくるのです。どのような事を想い、どのような事をしながら、その性癖を満たそうとしているのかを、ね」
初めて聞くことだった。
何か、とんでもないことが起こっているのではないか。
「魔力の低い者や、自身に屈服している者が相手なら、たやすくそれはできます。でも、マルレート様のように非常に高い能力をお持ちの方が相手では、とてもできません」
マルレートの鼓動の音。
異様に早く感じるそれが、更に不安を高めていく。
「でも、肌を触れ合わせ、粘膜を擦り合わせているうちに、おぼろげですが少しずつ見えてくるのですよ。マルレート様が、どのような気持ちで私の前に立っているか。余裕のある表情をしながら、本当は私にどのようなことをされたいと願っていらっしゃるのか。マルレート様がエッチな気持ちに…いえ、私の前で発情していくにつれ、はっきりと、見えてきましたよ。日頃、どのようなことを想って、ご自身で『なさって』いるか。従者の方を相手に、どのようなことをなさっているのか」
ドッドッドッドッ…
心音。
頭の中がぐちゃぐちゃで、感情の整理ができない。
そんなマルレートに、サキュバスがトドメを刺す。
「マゾなのでしょう?下級魔族相手に発情し、屈服し、マナを搾り取られたがっていたのでしょう?そのお気持ち、今なら手に取るように分かりますよ?」
余裕たっぷりのサキュバス。
逃げようとするが、マルレートのお腹をガッチリと掴んだ右手がそれを阻む。
「わたくしの記憶を、操作なさいましたね、マルレート様?」
ゾッとするような、サキュバスの声。
「なっ…」
「あの日、マルレート様のお屋敷で起こった出来事。マルレート様から流れ込んでくる映像と、私の記憶とに食い違いがあったのです。なぜだろう、なぜだろうと思っていたのですが…少しずつ、思い出してきました」
恐怖。
たかが下級魔族に過ぎないこの女に。
マルレートは確かに恐怖を感じていた。
「お茶会のあと、確かに私はここに来ました。マルレート様の寝室へ。そして…」
ふふっと、笑う。
「思い出しましたよ。マルレート様から搾り取ったマナ。そこにある4つの杯を満たしていく、マルレート様の極上のマナ。とってもいいニオイで、美味しそうで…思い出しただけで、達してしまいそうです」
「や、やめろ…」
「何をおっしゃるのです。私にこうされたかったのでしょう?だからまた、私をお茶会へお誘いになられた。違いますか?」
「ち、違う!」
「まだそのようなことを。言ったでしょう?マルレート様のお気持ち、今なら手に取るように分かるって。あの日、私にされたことを思い出しながら、何度も、何度もオナニー、したんでしょう?」
「し、してない!そんなこと、していない!ふざけるな!いい加減にしろ!」
「マルレート様が、そのように取り乱されるなど…いつものようなイゲンに満ちたマルレート様は、どこへ行ってしまったのですか?」
「き、き、きさま、ほんっ…ほんとうに、い、いい加減にしろ…こ…ここまでさせるとは言っていない…!さっ…さすがに、げっ…限度を、超えて、いる…!」
マナが、お腹に集まってくる。
サキュバスへの怒りと、恐怖と、興奮とで、舌がうまく回らない。
「い、いまなら、まだ、ゆるす!ごたいまんぞくなまま、帰してやる。でも、それ以上、やると…」
「それでは、抵抗なさってはどうです?マルレート様ほどのお方なら、下級魔族の私など、引きはがすのは造作もないことでしょう?」
「くっ…!」
力任せにサキュバスを引き剥がし、壁に叩きつける。
高位魔法でサキュバスを燃やし、消し炭にする。
どちらも、できなかった。
「なっ…なぜ…」
「ご自身のお腹、見てください」
勝ち誇ったような、サキュバスの声。
マルレートのお腹。
もみほぐすサキュバスの手の下で、何かが見えた。
アザのようなもの。
血の気が引いた。
不気味な模様のそれには、見覚えがあった。
これは…
隷属の印。
「なっ、なんで!なんで私のお腹に、れっ、れいぞくの…なんで!どうして…えっ?」
取り乱す私を、サキュバスが嘲笑う。
「はっ、外せ!消せ!今すぐに!」
「私には、できません」
「う、うそを、嘘をつくな!」
「本当です。私のようなものには、このような高位魔法は扱えません」
「だ、だって、げ、げんにここに、お腹に、印が…」
「先日、この部屋にお招きいただいた時、マルレート様にかけさせていただいたのですよ…」
「なっ、なに、何を、だ」
「マルレート様が私に逆らえなくなるように、チャームの魔法を、ね。マルレート様を魅了して、ご自身に隷属の印を刻むように、マルレート様に暗示を送ったのです。でも、さすがマルレート様、まったく効いていらっしゃいませんでしたね」
「で、でも、じゃあ、なんで…」
「確かに一度では効かなくても、何度も何度も繰り返されれば…ふふっ。マルレート様はご自身で気付かぬうちに、己の深層意識に刷り込んでいたのですよ。私の暗示を…隷属の印を己に刻み、サキュバスである私に服従しなさいという命令を、ね」
「そ、そんな…そんなことが…」
「記録の魔石、ですか。ヴァレオン様が『儀式』の際にお持ちになっていたものですね。竜人族以外で、魔石を使う方がいらっしゃるとは思いませんでした。でも、まさか、あのような破廉恥な使い方をされるなんて…ヴァレオン様も、思ってもみなかったでしょうね」
魔石を使って繰り返し観た、あの日の映像。
そこに、サキュバスのチャームが映っていたのだ。
その真の意味を知らず、それを何度も何度も見て…
屈辱的なオナニーを繰り返しながら、忌々しい印を自分自身に刻むよう、刷り込んでしまったのだ。
「ご自身で『下ごしらえ』をしてくださったおかげで、今回はすんなりチャームを成功させることができました。ありがとうございます、マルレート様」
煽るようなサキュバスの言葉。
しかし、反応できなかった。
あまりのことに、頭が、感情が追い付いてこないのだ。
「これでもう、私に逆らえなくなってしまいましたね、マルレート様?あの日のように、この杯に、マナを吐き出させて差し上げます。でも…今日は、それをマルレート様は飲み込むことはできません。杯をなみなみと満たしたマルレート様のマナ。膨大な魔力や数々の高位魔法、身体能力、地位もプライドも知識も何もかも全て、私が奪い取って差し上げます。マルレート様は、ご自身のマナが私のお腹にしまわれていくのを、指をくわえて見ているしかないのです。どうです、ステキでしょう?」
絶対的な強者として生まれてきたマルレートが、感じたことのない感情。
なにか、理不尽なことが起こっている。
自分が自分ではなくなってしまう。
マルレートが当然の権利として持っていたものが、奪われようとしている。
そして、奪われたそれは永久に取り戻せないのだ。
奪った本人は、マルレートのそれを、わがもの顔で使用する。
それが、当たり前だとでもいうような顔で。
それを、今後自分は指をくわえて見ているしかない。
そんなことが、あっていいのか。
そんな理不尽なことが。
断じて、認めるわけにはいかなかった。
事前に用意していたセーフティーネット。
影。
そうだ、影がいた。
気配を消しながら、主人の合図を待っている、マルレートの忠実な部下。
『こいつを、殺せ』
事前に取り決めていた合図を送ろうとする。
「だめよ、マルレート。やめなさい」
「あっ…」
「マルレート。お前に、私を殺すことを禁ずる。今後、いかなる手段をもってしても、私に危害を加えることを許さない。これは命令よ、分かったわね」
先手を、打たれてしまった。
「あなたの部下もね。もし、私に危害を加えるようなことがあれば…自害なさい、マルレート」
「そ、そんな…」
「ずいぶん、周到に準備をなさったのですね。でも、言ったでしょう?あなたの考えていることは、まる見えなんですよ?」
「い、いや…」
「かげ、とおっしゃるのですか?とってもお強い方のようですけど…もう、私に手出しをさせられなくなってしまいましたね。合図など決めておかず、ご本人の判断で『対処』するよう命じておけばよろしかったのに。それに、部屋中に仕掛けられたトラップの数々も、無駄になってしまいましたね…屋敷にいる部下の方々にも、いろいろ命じていらっしゃるみたいですが、これも私を逃がさないためですか。あぶないあぶない。危うく殺されてしまうところでした」
カチカチという音。
しばらくして、自分の奥歯が打ち鳴らされている音だと気付いた。
恐怖で震えているのだ。
「や、やめろ…」
「あんな美味しそうなマナを見せられて…サキュバスにとっては、極上のご馳走ですよ?誘惑に駆られて、でも、なんとか堪えた。もしあの時、奪おうとしていたら…すでに私は、この世にはいなかったのでしょうね。でも、耐えた。そうして、こうして迎えることができた。あなたのような者から、マナを、力を、名誉を奪える瞬間を」
「や、やめろ…やめて…」
「あの時は、あれでも手加減したのですよ?でも、今回は違う。本気で搾り取ってあげる。あなたの中のマナが空になるまで。あなたの力が全て私のものとなるまで。何度も何度も、ね」
魔族としての残虐さを剥き出しにする、サキュバス。
「やめて…お願いだから、やめてください…」
「いいですね、その表情。あのマルレート様が、私にそのような顔をなさるなんて、とっても興奮しちゃいます」
マルレートのお腹で、マナがせりあがってくる。
「前にも言いましたよね。この状態になると、もう後戻りはできません。マナをピュルピュルと吐き出し終わるまで、止められませんからね」
「い、いやだ…やだ、やだやだ!」
「ああぁ、想像しただけで、いっちゃいそう…マルレート様の…マルレートのマナも、力も、財産も、すべて、私のものになる…お前がいま甘受しているこの状況も、これから得られたはずのものも、全て私のものになる。それを、お前は最も近い場所で、指をくわえて見ているしかないの」
半狂乱になるマルレート。
構わず、お腹を揉みしだくサキュバス。
「お前は、私にマナを奪われるために生まれてきたのよ。その力も、立場も、所持するすべてを私に捧げるために生まれてきたの。あぁ、ゾクゾクする。これで私も上級魔族の仲間入りができる。いや、ひょっとすると、それ以上の存在になれるかもしれない。こいつから奪った力と、サキュバスとしての力があれば…」
決壊寸前のダムから、マルレート自身が流れ出てこようとしていた。
自分が自分である最後の瞬間を、少しでも遅らせようと。
顔を真っ赤にして、歯を食いしばりながら。
無駄な抵抗だと分かっていながら、そうするしか、彼女に残された道はないのだ。
「ああ、なんて顔してるの。あのマルレート様が…」
恍惚とした表情を浮かべるサキュバス。
「ほら、ほらほら、ガマンして?もっともっとお股に力を込めて、必死にガマンしないと。そうしないと、漏れてきちゃうでしょう?あなたのここから、大切なマナが…ほら、頑張りなさい、マルレートちゃん♡」
「ぐ、ぐぅぅっ!」
目を固く閉じ、こみ上げてくるものを必死にこらえる。
「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ…!」
マルレートが、マルレート自身が、この体から出ていってしまう。
いやだ、いやだいやだいやだいやだ!
「あーん、早く、早く飲ませて?マルレートちゃん特製のマナ。たくさんの魔力と、たくさんの高位魔法がたっぷり詰まった、マルレートちゃんのマナ、早く飲みたいな。ほらほら、マルレートちゃんのお腹の中で、どんどん、どんどん、集まってきてるでしょう?これからこの杯で、マルレートちゃんのマナ、受け止めてあげるからね?杯にたまったマナ、ゴクゴク、ゴクゴクって、飲み込んであげる。だから、早く出して?美味しい美味しいマルレートちゃんのマナ。もう、ガマンできないんでしょう?ほら、もうガマンしなくていいのよ?出して?出しちゃお?ね?ピュルピュルって。ピュルピュル、ピュルピュル~って。いっぱい出して、気持ちよくなろ?マルレートちゃんの全てを、私が絞り出してあげる。絞り出して、奪い取ってあげる。ね、嬉しい?嬉しいでしょ?だってあなたはマゾだものね。マゾで愚かな、マルレートちゃん。気持ちよくなりたいがために、こんなことして…せっかく上級魔族に生まれたのに、これで台無しになっちゃうね?あれ?あれ?もう限界なの?もう出ちゃうの?いいよ?出して?いっぱい出して?マルレートちゃんのマナ、いっぱい出して?受け止めてあげる。マルレートちゃんのマナ、私が美味しく飲んであげるから。ほら、出して?出しなさい?上級魔族としてのあなたの最後の瞬間、しっかりと見届けてあげるから、さっさと、出しなさい?ほら、ほら!」
「ふーっ、ふーっ、ふーっ、ふーっ…!」
マルレートの脳裏に、これまでの数百年が走馬灯のように現れては消えていく。

代々受け継がれてきた、シュルツ家の血統。
上級魔族として、吸血族当主としてのマルレート。
竜人族の協力を得て、勇者たちの力を取り込むマルレート。
いずれは、あの魔王をすら凌ぎ、魔族の王として君臨することになるマルレート。
かつて、確かにあった事実。
そして、いずれは事実となったはずの、一つの可能性。

それが、彼女の体から出ていってしまう…
顔を涙と鼻水でぐしゃぐしゃにしながら。
「ヴァ…たす、け…くぅぅっ!」
しかしついに…
その瞬間は訪れてしまった。
「あーっ!出ちゃう!ヤダヤダ、とっ、止めて!お願いだから、あっ…あっ…あぁ…あぁぁぁ…でっ…でちゃ…出ちゃった…」
彼女は、己の力が失われていくのを感じた。
彼女の股間から、彼女自身が流れ出ていく。
そしてそれを、サキュバスが特製の金属でできた杯で受け止めていく。
前回の時にあった、暴力的なまでの快楽。
今回は、その比ではなかった。
脳細胞が焼き切れる、などという生易しいものではない。
脳が、内臓が、溶けだしていくような感覚。
上級魔族としてのマルレート。
吸血族当主としてのマルレート。
勇者たちを捕らえた、魔族の英雄としてのマルレート。
魔族の頂点に君臨する、魔王マルレート。
彼女の過ごした数百年という歳月が、可能性が、何もかもが、己の股間から流れ出ていく。
情け容赦のない、サキュバスの手。


サキュバスは、マルレートの全てを絞り出すように、お腹を揉みしだく。
マルレートのマナ。
一つ目の杯を満たし。
二つ目の杯を満たし。
三つ目の杯を満たし。
四つ目の杯を満たし。
それでも、まだマナは止まらない。
マルレートの秘部に、口をつける。
流れ出てくるマナを、その口で直に受け止め、飲み込んでいく。
一口飲み込むだけで、感じたことのないような力がみなぎってくる。
何度も何度も、執拗に、マルレートのお腹を絞るサキュバス。
そこに、上級魔族への敬意も畏れも配慮もなかった。
やがて。
マルレートのお腹をどれだけ絞っても、マナは出てこなくなった。
「これで、全部か…」
まだ、杯4つ分のマナが残っている。
マルレートに、四つんばいの姿勢になるよう命じるサキュバス。
羞恥心なのか、怒りなのか。
非難するような目で、サキュバスを睨むマルレート。
以前のサキュバスなら、マルレートに睨まれただけで縮みあがってしまっただろう。
でも、今は違う。
恐れるどころか、むしろいっそう、嗜虐心が刺激された。
逆に、マルレートを恫喝するサキュバス。
マルレートは、一瞬ためらいを見せたあと…
おずおずと、言われたとおりの姿勢になる。
サキュバスの前で、両手と両ひざを床につくマルレート。
悔しさを、必死にこらえているのか。
下唇を噛みながら、じっと床を見つめている。
屈辱の姿勢で、サキュバスの前で跪くマルレート。
その背に、サキュバスをゆっくりと腰かけた。
姿勢を崩しそうになるマルレートを叱責するサキュバス。
慌てて、マルレートが背中に力を込める。
上級魔族の背中をイス代わりにしながら、杯の一つを手に取る。
杯を満たす、溢れんばかりのマナ。
口の中で、よだれがじわっと広がる。
杯を傾け、マナを飲み込んでいく。
力が、漲っていく。
これが、上級魔族の、マルレートの力。
途中で飲むのを止め、チラっと、下を見る。
マルレートが、情けない顔をしながらサキュバスを見上げていた。
サキュバスは満足して、再び杯を傾ける。
マルレートに聞こえるように、わざと喉を鳴らしながら。
かつて彼女だったものを、飲み込んでいく。
無様な顔をしながらこちらを見上げるイスは、かつて彼女だったものの搾りかすにすぎない。
飲み込むたびに、膨大な魔力が流れ込んでくる。
チャームしか使えなかった彼女の頭に浮かぶ、数々の術式。
彼女にとっては複雑すぎるはずのそれらが、今は手に取るように理解できた。
これが、高位魔法か。
一つ目の杯を空けた。
「ほら、一つ目の杯がカラッポになっちゃったよ。あーあ、ここに入ってた分はもう取り返せなくなっちゃったね。どう?悔しい?マルレートちゃん?」
杯の中を見せつけてから、床に置く。
「あぁ…」
床に置かれたそれを、泣きそうになりながら見つめる女。
二つ目の杯に手を伸ばす。
「この杯も、飲み干してあげるね。マルレートちゃんのしぼりたてマナ、二杯目、いただきまーす」
美味しそうに喉を鳴らしながら。
今後のことに思いを馳せるサキュバス。
『魔族からマナを奪ってはいけない』
サキュバスなら、誰もが知っている決まりだ。
生まれた時から、彼女たちは何度もそう教え込まされてきた。
でも、そんなルール、いったい誰がいつ決めたのだ。
おそらく、サキュバスの持つこの能力を恐れた誰かが、勝手に決めたのだろう。
だから、サキュバスにそのような制約を、枷をつけたのだ。
自分は今、魔族からマナを奪うという禁忌を犯している。
もし、このことが他に知れたら…
恐らく、かなり面倒なことになる。
もし、魔王にでも知られたら、私は跡形もなく消されてしまうだろう。
いや、あるいはもっと恐ろしい目にあわされるかもしれない。
だから、しばらくはまだ、おとなしくしていた方がいい。
上級魔族としての、吸血族当主としての全てを自分のものとできるまでは。
それまでは、このヘンタイ女を徹底的に利用させてもらう。
かつて上級魔族として生まれ、今後は下級魔族として生きていくことになるこの女。
自裁することを禁じられたこの女は、その知識や権力を私に受け渡しながら、オモチャとして私に弄ばれながら、余生を送るのだ。
空になった杯を床に置く。
「私の、私のマナが…」
イスが、震え始める。
「ほら!ちゃんとしなさい!」
かつて、上級魔族として敬っていた存在の臀部を、手のひらで思い切り叩く。
「くぅっ!」
「これはもう、私のものなの。イスはイスらしく、しっかりと私を支えなさい!そんなこともできないの?」
「ご、ごめんなさい…」
元上級魔族の尻を、もう一度叩く。
「ひうっ!」
「申し訳ございません、サキュバス様、でしょう?」
「も…申し訳…ございません…サキュバス、様…」
悔しさを噛みしめながら、マルレートが答える。
再び、手のひらを振り下ろす。
「声が小さい!」
「ぐっ…も、申し訳ございません!サキュバス様!…うっ、ううう…」
三つ目の杯を手に取る。
このオモチャは、性的な奉仕はもとより、どんなに惨めで恥ずかしい命令にも従わなければならない。
勇者たちと同じように、魔族たちの慰みものとするのもいいな。
下級魔族から下卑たヤジを一身に受けながら、マゾダンスを踊るかつての上級魔族。
首輪をつけた全裸のマルレートが、下級魔族にリードで引かれながら四つんばいで散歩する。
かつての部下たちの前で、恥ずかしいことをさせるのもいいか。
かつて己にかしずいてきた者たちに対して、今度は自身がかしずくことになるのだ。
上級魔族としてあるまじき、己の情けない性癖と、辿った末路を告白させる。
憧れや畏れが、哀れみや蔑みに変わっていく。
これまでは、夜伽のたびに従者たちの記憶を消していたが、今後はそうはいかない。
以前のような尊敬のまなざしを向けられることは、二度と来ないのだ。
三つ目の杯が、空になった。
体中に漲る、魔力。
手のひらを上に向ける。
そこに、人の頭ほどの大きさの火球が浮かび上がる。
軽く念じただけで、こんなことが…
手を閉じると、火球も消えた。
今度は、人差し指をマルレートのお尻に当てる。
「ぎゃぁっ!」
電流を体に受けたマルレートが、悲鳴を上げた。
これが、この女が持っていた力。
手加減をしているにも関わらず…
「いいわ…とってもいい…お前の持っていた力、いいじゃない…でも、お前のようなヘンタイには、もったいないわ。これからは私が、ちゃんと活用してあげる」

四つ目の杯に、手を伸ばす。
「これで、お前が持っていた力は、完全に私のものになる」
自分が当たり前のように持っていた力、権利、立場。
自分が得られたはずの、栄光。
それを、この女に見せつける。
見せつけて、悔しがらせる。
悔しくて、憎くて憎くてたまらないはずなのに。
このマゾ女の脳は、心は、体は、怒りを悦びに変換してしまう。
それを必死に否定しても、体は熱く火照り、愛液がとめどなく溢れてくる。
顔を、頭を、股間を踏みつける。
真っ赤に腫れあがるまで、尻を叩く。
下級魔族たちに、そしてかつての部下たちに、ペットのように扱わせる。
そんな私に対して彼女が抱く怒り、憎しみは、決して殺意へとは変わらない。
はらわたが煮えくり返りそうなほどの激烈な感情は、この女にとってはこの上ない快楽なのだ。
散々懇願させたあと、私が一日中履いたブーツの臭いを嗅がせる。
足の指の一本一本を、丁寧に舐めとらせる。
愛液を垂れ流しながら、しかし触れることは許されない。
メスの顔をした犬が、鼻息を荒くしながら、切なげにご主人様を見上げる。
オアズケを喰らったままのメス犬。
散々焦らし、ようやく私は許可を出す。
感謝の言葉を何度も口にしながら、浅ましく股間を弄る女。
切なげな声は、やがて切迫したものへと変わっていき…
しかし、私はそこで止めるよう命令する。
あと少しで得られたはずの、快楽。
行き場を失った情欲が、女の体で暴れる。
『お願いします、イかせてください…』
再び、許可を出す。
涎を垂らしながら、絶頂を迎えそうになる、女。
しかし、私は再び止めるよう命じる。
何度も、何度も、絶頂を迎えそうになりながら、寸前でオアズケを喰らう女。
しかし、結局、絶頂を迎えることは許されないのだった。
私は、汗で蒸れた靴下とブーツを女に渡す。
女は、それをさも大切なもののように受け取り、部屋へ持ち帰る。
自由に使っていいが、オーガズムを迎えることは決して許さない。
靴下をしゃぶり、ブーツに鼻を突っ込みながら、自身の秘部を指で擦り上げる。
絶頂を迎えそうになるたび、手を止め、波が引いていくのをじっと待つ。
しかし快楽は、なかなか引いてはくれない。
刺激され、すっかり大きくなったクリトリスが、包皮から顔を出している。
触ってほしそうに、自己主張をするそれを、荒い息をしながら見つめる女。
どれほど時間が経っただろうか。
再び、女は手を動かし始める。
行き場のない情欲が、彼女を苛む。
そうやって一晩中、屈辱を、興奮を、私の臭いを、忠誠心を脳細胞の一つひとつに刻む。
そして、そんな悦びを与えてくれるこの私に、ひれ伏し、泣きながら懇願するのだ。
『もっと、イジメてください、ご主人様…』
上級魔族だったかつての栄光を胸に秘めながら、下級魔族として私に仕える。
自分から全てを奪った私に跪き、罵られながら。

最後の杯を、飲み干した。
空になった杯を、女の目の前に置いた。
「ごちそうさま。美味しかったわよ、あなたのマナ」
湧き上がる、万能感。
体中を、魔力が駆けめぐっているのが分かる。
今なら、何でもできそうな気がする。
気持ち落ちつけながら、しかし込み上げてくる笑いを抑えることができない。
「あーあ、ついに全部飲まれちゃったわねぇ。ねえ、マルレート。今、どんな気持ち?」
「う、ううぅ…」
涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった女の顔を、覗きこむ。
「あなたのマナが、私の中でどんどん吸収されていってる…すごいわね、あなた。こんなに素晴らしい力を持ってたなんて。でも、もうこれは、私のもの。残念ね」
子どものように泣きじゃくる、マルレート。
「どんなに後悔しても、もう遅いの。あなたが失った力は、もう二度と取り戻せない。二度と、ね」
慟哭するマルレートの頭を、優しく撫でる。
「こんな素敵な力をくれたあなたには、感謝してもし足りないくらい。だから、これからたっぷりとお礼をしてあげる。力を失って、下級魔族となったあなたを、私が飼ってあげる」
「かきゅう、まぞく…」
「そうよ。あなたはもう、上級魔族でも何でもない、ただの下級魔族。名目上、あなたはまだ吸血族当主のマルレート・フォン・シュルツだけど、それも時間の問題。私へその地位を引き継いだあと、あなたはただの下級魔族になるの。下級魔族マルレートとして、私に飼われるの。一生ね」
「い、いやぁ…」
「いやなの?じゃあ、独りで寂しく生きていく?でも、いいのかな?上級魔族だった頃のあなたを知ってる魔族たちは、あなたを放っておかないと思うけど?例えば、かつてのあなたの政敵たち。彼らに捕まったら、あなたはどんな目にあわされちゃうだろうね?両手両足を切断されて、詰られて、見せ物にされて…そんな彼らに命乞いしながら、余生を送りたい?」
マルレートが、勢いよくかぶりを振る。
「運よく魔族のいない場所へ逃げたとしても…人間に見つかったら、オシマイ。勇者たちを捕らえたマルレートの存在は、人間界でも広く知れ渡っているからね」
うなだれるマルレートに、囁く。
「だから、ね。私のペットになりなさい、マルレート。私があなたのご主人様になってあげる。あなたを、かつての政敵や人間どもから守ってあげる。どう、悪い話じゃないでしょう?」
自身から全てを奪い取った女に、庇護を求める。
忠誠を誓い、顔色をうかがいながら、ペットとして飼われる。
自分なら、絶対に嫌だ。
そんな屈辱、とても耐えられそうにない。
でも、どんなに嫌でも、この女には選択肢はない。
憎き相手に、ペットとして、マゾ奴隷として飼われながら生きていくより他ないのだ。
自ら刻んだ隷属の印によって、自害することも許されず、やがて身も心も私に書き換えられていく。
私は、立ち上がった。
マルレートが、四つん這いの姿勢のまま、私を見上げる。
私は、スラックスを、下着ごとずり下ろした。
マルレートの眼前で露わになる、黒い茂み。
赤く充血した目が、そこへと注がれる。
「ほら、お前のご主人様となる上級魔族さまの、大切な場所よ」
少し腰を突き出すようにして、じっくりと見せつける。
「ペットとして飼われたければ、ご主人様のここにキスをしなさい」
マルレートの体がかすかに反応したのを、私は見逃さなかった。
「そのまま顔を突き出して、キスをするの。忠誠のキス。『マゾ犬マルレートを飼ってください、ご主人様』って、感謝の気持ちを込めながら、キスするのよ」
恥辱と屈辱によって、白いマルレートの体に朱がさしていく。
こんな状況になってもなお、この女は興奮しているのだ。
可哀想に…
半開きになった口を震わせながら、なおも一点に視線を集中させる、マルレート。
「ほら、どうするの?私に飼われたいの?飼われたくないの?どっち?」
「わ、私は…私は…」
「じゅーう、きゅーう、はーち、なーな…」
「えっ、えっ…」
「ろーく、ごーお…」
うろたえるマルレート。
そして、ゆっくりと顔を伸ばす。
しかし…
「よんさんにーいちぜろ!はい時間切れ!」
早口でまくし立てる。
「な、なんで!そんな!待って、待ってください!飼ってください!お願いします、サキュバス様ぁ!キスします、キスしますから!」
プライドを捨て、情けない声をあげながら必死に懇願する、かつての上級魔族。
「どうしよっかなー。私、グズグズするペットなんて、いらないんだけどなぁ」
「お願いします!お願いします!」
跪き、額を床につけながら、なおも懇願するマルレート。
その頭に、軽く足を乗せる。
「ちゃんとご主人様の言うこと、聞ける?」
足の裏で、頭を撫でるように動かす。
「聞きます!聞きますから!」
くぐもった声で、必死に懇願するマルレート。
「これが最後のチャンスよ?いい?」
言って、足をどける。
「じゅーう…」
私がカウントダウンを再開した瞬間、ものすごい勢いでマルレートが顔を近づけてきた。
愛液で濡れた私の秘部に顔を埋め、何度も、何度もキスをする。
「どう、マルレート?ご主人様の大切なところ、美味しい?」
私の愛液で顔をベトベトしながら、マルレートが言葉にならない声をあげる。
「うふふ、いい子ね。分かったわ。これから私が、あなたを飼ってあげる。こんな素敵な力をくれたんだもの、たっぷりと可愛がってあげる。よかったわね、マルレートちゃん」
かつて、私の憧れの存在だった上級魔族、マルレート・フォン・シュルツ。
私だけじゃない。
多くの魔族にとって、高嶺の花だった彼女。
そんな彼女が、ペットとして私に忠誠を誓っている。
必死になって、口で奉仕をする、可愛い可愛い私のペット。
そんな彼女の頭を、優しく撫でる。
ほんの少し前までは、想像すらできなかった光景。
でもこれは、夢ではなかった。
思いがけず手に入れた幸運。
そして、遠からず訪れるであろう栄光の日々。
高らかな笑い声が、部屋に響き渡った。

コメント