「どう、楽しんでもらえた?」
特意げな表情の藤崎。
その横で、可哀想なほど顔を真っ赤にさせた三井。
藤崎に身も心も踏みにじられ、すっかり変わり果てた、かつてのライバル。
自信なさげに、視線をさまよわせている。
今の彼女の心境を思うと、いたたまれなくなる。
ついこの間までは、憎まれ口をたたき合っていた新田と藤崎。
そして、同期の私や、後輩の畑川。
観られてしまった。
知られてしまったのだ。
自身が、マゾであることを。
後輩に調教され、ペットとして堕ちていく様子を。
そして、映像が嘘ではないことを証明するかのように、今もこうして藤崎に媚び、服従し、言いなりになっている。
これまでの自分を知られているだけに、余計に恥ずかしい、悔しい、情けない。
でも、逆らえない。
三井の脳に構築されたマゾの回路が。
三井の体に刻まれた、負け犬としての根性が。
逆らうことを許さない。
しかし逃げることもできず、こうして無様な己の姿を晒すことしかできない。
その結果が、耳まで真っ赤になった彼女の有様だった。
たった一か月で、こうも変わってしまうものなのか。
畑川。
三井ほどではないにしても、顔を赤くしている。
映像を観てスイッチが入ってしまったのだろう。
ただ、藤崎の手前、平静を装っていた。
自身の性癖を、藤崎に知られたくないのかもしれない。
それもそのはず。
もし知られてしまったら、対等な関係ではいられなくなってしまう。
かたや、先輩を調教するサディスト。
一方、自分は後輩に調教されているマゾヒストなのだ。
知られたくない。
でも…
不安の中に混じる、期待。
矛盾した感情。
『なぁんだ、麻友ちゃんもソッチだったんだぁ。言ってくれればよかったのに』
親しげな笑みの奥で見え隠れする、蔑みと嘲り。
『ほらほら、アッキーの隣に並んで。麻友ちゃんは、なんて呼ばれたい?』
性癖を揶揄われながら、藤崎にペットとして扱われる。
『ペットになったんだから、ご主人様の言うこと聞くんだぞ?』
『ふ、藤崎…』
『ご主人様、でしょ?もう対等な立場じゃないんだよ?オシオキが必要かな』
藤崎の足もとで跪く三井。
その横で、同じように跪く畑川。
悔しそうに唇を噛みながら、額を床につける。
その頭に、酷薄な笑みを浮かべながら足を乗せる藤崎。
『そういえばさぁ、新田から面白いもの、借りてるんだよねぇ』
ポケットから、あるものを取り出す。
カギ。
『貞操帯、だっけ?初めて聞いたとき、ビックリしたよ。これで、新田に管理されてるんだ?いや、管理していただいてるんだっけ?』
畑川が慌てて頭を上げようとしたが、藤崎が足で押さえつける。
『鍵、外して欲しかったら、ご主人様に気に入られないとね?』
そんな映像が、脳裏に浮かんだ。
新田。
右手の親指を唇にあてながら。
じっと、考えごとをしているようだった。
さっきの映像を観て、思うところがあったのか。
扱いやすそうだと思っていた藤崎が見せた、思いがけない行動。
3回目のレース後に新田と畑川が交わした約束があった。
藤崎が、三井を『レンタル』するための条件。
① レンタル期間は4回目のレースまで。
② このレースに関することは決して他に漏らしてはいけない。
③ 三井に危害を加えてはいけない。
動画や写真の撮影を禁じてはいないが、それは①~③が前提である。
藤崎がここまでするとは思わず、そこまで厳しく制限をしなかったのかもしれない。
だとしたら、新田は藤崎という人物を読み誤ったのか。
「それじゃ、ふたりとも衣装に着替えてもらおっか。新田も、荷物を置いてきな」
「分かりました」
「アッキー、3人を控室に案内してあげな」
「わ、わん…」
リードが、藤崎から新田の手に渡る。
「アッキー、よろしくね」
新田を、三井が悔しそうに見上げ…
そして、目を伏せる。
部屋の奥へと這っていく三井。
我々も、彼女の後に続いて歩く。
1年生にリードを引かれながら、這い進む3年生。
歩くたび左右に揺れる、形のいいお尻。
まっ赤に染まった耳。
ほんの少し前までは考えられない光景だった。
ふと、不思議な感情が芽生える。
藤崎に命じられるまま、四つ足で私たちを案内する彼女。
一方、私は彼女を見下ろしながら歩いている。
自分のほうが彼女より立場が上であるという、かすかな優越感と。
それ以上に、私もそう扱われたいという羨望と。
新田にリードで引かれながら、四つ足で進む自分の姿を想像する。
その後ろには、1年の溝口結花や2年の高倉小乃実の姿。
『さすが中谷センパイ。乗馬だけでなく、ハイハイもお上手なんですね』
『なっさけな。恥ずかしくないの?』
『こら、結花ちゃん、そんなこと言わないの。中谷センパイ、これからは私たちも可愛がってあげますからね』
『溝口先輩、こんなヤツ呼び捨てで十分ですよ。おいヘンタイ、よくも今までセンパイ面してくれたね。二度と偉そうなこと言えないよう、立場の違いをきっちり教えてやるかんな?』
もし、今日のレースで負けたら。
次のレースでは、ふたりを呼ばなければならない。
ふたりに、見られてしまう。
馬としての、己の姿。
そして、そのレースでも負けてしまったら…
三井が、ドアの前で止まった。
いつの間にか、控室の前まで来ていたらしい。
ドアの横に、講師控室と書かれたプレートが掛かっている。
三井が、私たちを見上げる。
恥ずかしいのか、あるいは悔しいのか。
睨むような目つき。
変わり果てた三井の中に、わずかに残っていた彼女らしさを垣間見た気がして。
少しだけ、嬉しくなる。
でも…
「アッキー、待て。待てのポーズしな?」
新田が命令する。
「ぐっ…」
三井の表情が、歪む。
そして…
しぶしぶ、といった感じで。
言われた通り、待てのポーズをとった。
恨めしそうに新田を睨む三井。
それでも反抗のそぶりはなく、顔色を窺うような、どこか媚びたような目。
負け犬の目だった。
「えー、ホントにやるんだ。すっかり従順になっちゃいましたね、三井センパイ」
三井が、目を伏せる。
「私、新田ですよ?1年生の。私なんかの命令に素直に従っちゃうんですか?この間まで、あんなにツンケンしてたのに。ほら、怒ってくださいよ。先輩に指図するナマイキな後輩、ちゃんと叱らないとダメでしょ?」
唇を噛みながら、視線を泳がせる三井。
「なんかガッカリだなぁ。もうちょっと骨のある人かと思ってたのに」
オロオロと、ふたりを交互に見る畑川。
「私たちが出てくるまで、そこでそうして待っててくださいね、忠犬さん」
そのまま、新田が控室へと入っていく。
三井に声を掛けようとして、結局何も言えず、新田の後に続く畑川。
私も、控室に入ろうとして…
あることに気付く。
真正面を見据え、屈辱的なポーズをとる三井。
その目に、涙が浮かんでいた。
「三井…」
思わず声に出ていた。
「なに?」
こちらを振り向きもせず。
ぶっきらぼうな言い方。
「ホントにいいの?」
「いいって、何が?」
「だって、いくらなんでもやりすぎだよ。それに、あの映像だって…こんなこと、私が言えた義理じゃないけど…」
「ほっといてよ」
それ以上の会話を拒むかのような、頑なな態度。
何も言えず、私も控室へと入っていく。
部屋の中央には、テーブルが1台。
そして、その両サイドに椅子が3脚ずつ並んでいる。
テーブルの上には、新田たちのバッグが置かれていた。
新田は、椅子に座ったままこちらを見ている。
テーブルの反対側では、畑川が着替え始めていた。
慌てて、私もバッグをテーブルの上に置く。
「先に、ふたりでざっと部屋を見てみたんですけど…監視カメラとかはなさそうでした。だから、安心してください」
畑川が微笑む。
「ありがとう、ふたりとも…」
「別にいいですから。早く着替えてください」
無表情のまま、新田が言う。
「う、うん…」
バッグの中から、いつもの衣装を取り出す。
馬のコスプレ衣装。
私の勝負服であり、もう一つの姿でもある。
最初の頃は恥ずかしかったが、さすがに慣れてきた。
でも…
今日は新たなアイテムがあった。
バッグからネームホルダーを取り出す。
そしてその中に、とあるカードを入れる。
壁に掛かった鏡を見ながら、ネームホルダーのフックを首輪に取り付ける。
鏡に映った己の姿を見る。
首もとでユラユラと揺れる、学生証。
新田の提案で、今回から馬が身に着けることになったのだ。
顔写真も、名前も、学籍番号も、テープでマスキングしてある。
それでも、これが学生証だということは見れば分かる。
己の身分証を首から下げているのは、なんとも心許なかった。
それに、なんだか…
こうしてみると、まるで家畜ではないか。
家畜が付けている、タグのようなもの。
学籍番号は、個体識別番号のようなものか。
家畜へと堕ちた女子大生ふたり。
名前も人権もはく奪され、屈辱的なレースへと参加させられる。
かつては我々を先輩と敬っていた女の子たち。
彼女たちに教えてきた乗馬の技術によって、調教され、服従させられる。
ヒトではなく、馬として。
跨られ、尻を叩かれながら這い進む。
勝てば一時の休息が、負ければ更なる辱めを与えられる。
私にとっては、幼いころから夢想していた願望。
ずっと疑問だった。
なぜ、自分はこんなことを考えてしまうのか。
時には、嫌悪すらしていた願望。
破滅願望なのだろうか。
似ているが、違う。
幼少の頃、あのアニメを観ていなかったら、こんなことにはならなかったのか。
分からない。
ただ、確かなのは。
馬として扱われることに。
後輩たちに、屈辱的な扱いを受けることに。
どうしようもなく、昂ってしまうということだ。
それぞれの衣装へと着替え終えた、私と畑川。
その間、新田は無表情のまま。
「さてと。それじゃ、行きますか」
新田が立ち上がる。
畑川がドアを開け、部屋を出る。
その後に、新田、私と続く。
果たして、三井は同じ姿勢のまま待っていた。
「ちゃんと言いつけが守れたね。偉いよ、アッキー」
口元に笑みを浮かべ、新田が三井の頭を撫でる。
少し困ったような表情を浮かべながら、ジッと床を見つめる三井。
そんな三井に、新田が冷めた目を向ける。
床に落ちている、リード。
それを、新田が拾い…
私へ手渡した。
「…えっ?」
戸惑う、私と三井。
「ほら、ご主人様のところへ案内しな、忠犬?」
何か言いたげに、口をパクパクさせる三井。
でも、結局何も言えないまま…
藤崎のいる方へと向く。
私にリードを引かれながら這い進む三井。
その横を新田が歩く。
「ねえ。このままじゃ、藤崎先輩にダメにされちゃいますよ?」
ボソッと。
新田が呟く。
「親の会社、継ぐんでしょ?あんなに頑張ってたじゃないですか。このままじゃアイツに何もかも奪われて一生搾り取られるのがオチですよ?自分でも、分かってるでしょ?」
「関係、ないでしょ、アンタに…」
前を見据えたまま、三井が応える。
「なんか今の三井センパイって、従順すぎてらしくないっていうか、いじめ甲斐がないんですよね」
「なにそれ…」
「反抗的な三井センパイを揶揄うのが楽しいのに」
ふたりがどんな表情をしているのか。
後ろからでは、分からない。
「それに…これでも少しはセンパイのこと尊敬してたんですよ?」
「何を今更…」
「売り言葉に買い言葉っていうか、ついカッとなっちゃって。それに、悔しそうなセンパイの顔見てると、もっといじめたくなっちゃうんですよね」
床を這う三井と、その横を歩く新田。
その後を、畑川と並んで歩く。
藤崎のところまでは、まだ少し距離がある。
「私に、どうしろってのよ」
「アイツじゃなくて私を選んでくれるなら、アイツから守ってあげる」
アイツというのは、藤崎のことなのだろう。
無言のまま、前へ進み続ける三井。
沈黙。
そして…
「つまり、私に負けろって言ってるの?」
新田は、何も言わない。
「ずいぶん都合のいい話ね」
吐き捨てるように言う三井。
「アンタが私のことをどう思ってるかは知らないけど。だったら奪い返してみなよ、アイツから。力づくでさ」
それきり、ふたりとも黙ってしまう。
私は、先ほどの新田の言葉を反芻していた。
『それに…これでも少しはセンパイのこと尊敬してたんですよ?』
『アイツじゃなくて私を選んでくれるなら、アイツから守ってあげる』
あれは本心だったのか。
それとも、三井の心を揺さぶるための方便か。
モヤモヤする。
不安、焦り、苛立ち。
少しでも勝つ可能性を上げるための姑息な手段だとしたら。
新田に少しガッカリしてしまう、という気がする。
私を信じてもらえていないのだとも思う。
でも…
その方がまだマシだった。
新田は、私のご主人様なのだ。
21年生きてきた中で、ようやく出会えた、私の。
私は新田の指導担当であると同時に、彼女に飼育していただいている馬であり、1号なのだ。
その立場を、三井に奪われる。
新田に、捨てられる。
漠然とした恐怖。
新田への独占欲。
三井への嫉妬。
新田に、すげない態度を取る三井。
口調も、いつの間にか以前のものに戻っていた。
先ほど抱いていた優越感など、消え失せていた。
同期として、三井を心配する気持ちと。
馬として、三井に負けたくないという気持ちと。
何かを察したのか、畑川が心配そうな表情で顔を覗き込んできた。
ぎこちない笑みを浮かべ、畑川を安心させようとする。
全頭マスクを被っていたことを思い出す。
これでは何も伝わらないだろう。
何をしているのだろう、私は。
ふふっと。
自嘲気味の笑いが漏れた。
藤崎の待つ場所へ戻る。
「アハハ!ペットがペットの散歩してる!」
私と三井を見て、藤崎が笑う。
「へえ、かわいいじゃん、似合ってるよ」
藤崎の、見下すような目線。
屈辱感と恥ずかしさで、被虐心が刺激される。
「ただでさえ立場が低いのに、そうやって学生証ぶらさげてると、更に格下の存在ってカンジがして、いいね」
思わず、学生証を手で隠す。
「ペットの癖に、いっちょ前に恥ずかしいんだぁ。ほら、隠すなよ、マーゾ?」
ケラケラと笑う藤崎。
蔑まれている。
揶揄われている。
あの藤崎に。
目を細めながら笑みを浮かべる、藤崎の視線。
体が熱くなる。
そんな私の変化すら、彼女に見通されている気がして…
自分がマゾであることを、改めて自覚させられる。
藤崎が、私に手を差し出す。
「それ、返しな?」
少しして、リードのことであることを理解した。
馬の格好をして、学生証を首から下げた私と。
乗馬服を着て、これから三井に跨り鞭をふるう彼女と。
そこには、明確な立場の違いがあった。
本来は、このリードは私が持つことすらできないものなのだ。
慌てて、リードを元の持ち主に返す。
そんな私を、藤崎が鼻で笑う。
再び、カッと体が熱くなる。
少し遅れてやってくる屈辱と敗北感が、欲情を加速させていく。
そんな、マゾの習性を。
藤崎は知っている。
知っていて、ただ利用する。
自身は一度も経験することもなく、ただサディストとして、マゾヒストをひれ伏せるために。
ただ一方的に利用する側として存在する。
そんな理不尽さが、私を更に発情させる。
そして藤崎は、それを成功体験として更に成長していく。
いや、彼女にとっては当たり前のことなのかもしれない。
息をするように、マゾヒストを屈服し、媚びさせる。
そんな藤崎の口が開いた。
「ふたりとも。ご主人様たちの前で、待てのポーズしな?」
藤崎の命令。
ふたりとも、というのは、もちろん私と三井のことだ。
先に三井が動いた。
3人の後輩の前で。
膝を少し曲げ、両手は胸元のあたりで揃えて。
待て、のポーズ。
顔を赤らめ、トロンとした目でご主人様を見上げる三井。
ただ、完全にMのスイッチが入っているというよりは…
羞恥心と自尊心が見え隠れしているようにも見える。
先ほどの新田との会話で、本来の自分が戻りかけてしまったためか。
悔しさを滲ませながら、それでも従順な三井。
鋭いキバを持ちながら、その使い方を忘れてしまった獣。
猛獣使いによって飼いならされ、いつしか自分が獣であったことも思い出せなくなっていくのか。
調教の成果を確かめ、満足げに頷いていた猛獣使いの目が。
私を捕らえた。
身がすくむ。
相手は、あの藤崎だぞ。
普段だったら、逆なのだ。
こちらの顔色を窺って、阿るような態度をとってくる藤崎。
三井の取り巻きのひとりで、小心者の後輩。
こんなやつ、普段の私だったら…
強がってみても、火照った体は別のことを欲していた。
三井のようにひれ伏し、藤崎に尻尾を振る負け犬。
これまで積み上げてきたものを全て取り上げられ、嗤われながらダメにされていく。
そんな、己の姿。
「ほら、そっちのキミもだよ。アッキーの横で、仲良く待てのポーズしようね?」
言い方は穏やかでも、有無を言わさないものがあった。
逆らうことなど決して許さない、絶対的な命令。
でも…
このまま従ってしまうのは、私のご主人様に対する裏切りのような気がして…
藤崎の横で、右手を腰に手を当てながら立つ新田。
私を見つめながら、無言で頷いた。
待てのポーズをする三井。
その隣へ移動する。
後輩たちの視線を感じながら。
ゆっくりと腰を落とす。
そして、両手を胸元で揃える。
「そうそう、よくできたじゃん」
満足げにほほ笑む藤崎。
部内でツートップと言われた、私と三井。
それが今、こうして後輩たちの前で並んで、情けない姿を晒している。
「でもさ、こうして比べてみると、同じようで、ちょっと違うよね。新田もそう思わない?」
「どういうことですか?」
「アッキーはさ、一見すると従順なんだけど、本心では悔しさと情けなさが渦巻いてる」
「そうですね。マゾ犬としての卑屈さと、元々のプライドの高さとがせめぎ合ってる感じがします」
「マゾのスイッチが入りきっちゃえば、そうでもないんだけどねぇ」
酷薄な笑みを浮かべながら、三井を見下ろす藤崎。
視線を、私に移す。
「でもさ、こっちの子は、どこか嬉しそうなんだよ。恥ずかしくて悔しいけど、それは表面上で。命令されるのが好きなんだ。マスク越しでもそれが分かる」
「まあ、もともと根っからのマゾですからね、コイツ」
新田が顎で私を差す。
「ふぅん。プライドってもんがないんだ?」
藤崎が嘲笑う。
「それが、そうでもないんですよ。こう見えて、普段はプライドのかたまりみたいなところがありますよ、コイツ」
藤崎が意外そうな顔をする。
「へぇ…」
藤崎が、ペロッと唇を舐める。
獲物を見るような目が、私を射抜く。
「一概にマゾって言っても、いろんなのがいるんだねぇ」
「でも、そのほうが面白くないですか?バリエーションがあったほうが」
「あはは!だよねぇ!分かるわ」
先輩ふたりを見下ろしながら、藤崎が笑う。
「ねえ、麻友ちゃんもそう思わない?」
「あ、え?う、うん、そうだね」
いきなり話を振られた畑川が狼狽える。
そんな畑川に、冷酷な笑みを浮かべる藤崎。
「麻友ちゃん?」
「な、なに?」
「ううん、何でもない」
何それ、と言いながら作り笑いを浮かべる畑川。
明らかにホッとしていた。
畑川を見る藤崎の目が、細くなる。
おそらく、見抜いているのだろう。
畑川がどちら側なのか。
藤崎や新田とともに、私と三井を見下ろしているが…
本当は、見下ろされる側なのだ。
私たちと一緒に、待てのポーズを取り。
後輩や、同期に対して媚びた笑みを浮かべる、畑川。
そんな日が来るのも、そう遠くないのかもしれない。
畑川本人は気付いていないかもしれないが、対等だったはずの2人のパワーバランスは、既に傾きはじめていた。


コメント
同期や後輩にメス犬として調教されるシーンを見られる三井良すぎます!
泣いちゃうところも弱弱しくなっててたまらないっす。
ライバルにリード持たれるとか屈辱なんでしょうね!
三井先輩、登場人物の誰よりも堕ちて行って欲しい!
>Aさん
コメントありがとうございます!
三井ですが、このレースの後も様々なシチュで恥ずかしい目にあう予定です。
ぜひ楽しんでいただけたら嬉しいです。
(返信、遅くなってごめんなさい!)