遠野シスターズ プロローグ 見送り

「それじゃ行ってくるけど、留守番はお願いね、葵」
「うん、分かった」
「雫も、ちゃんとお姉ちゃんの言うこと聞くのよ?」
「へいへーい」
「まったく…じゃ、行ってきます」
『いってらっしゃい』

単身赴任中の父のもとへ向かう母を、姉とともに見送る。
母はそのまま、父のところで一泊するらしい。
だから、今日一日は姉と二人きりで過ごすことになる。

ソファに、並んで座る。
ゲームをしているアタシの横で、スマホを眺める姉。
お互い、無言のまま。
やがて、姉が立ち上がり、自分の部屋へと戻っていく。
それを、特に目で追うわけでもなく、ゲームを続ける。

まじめで優等生の姉と、ふまじめなアタシ。
イタズラばかりして、成績もさほど良くないアタシは、そのたびに『姉を見習え』と言われてきた。
優秀な姉は、何をやってもそつなくこなした。
周囲からの期待に、常に応えてきた姉。
一方、アタシはというと、そうはいかなかった。
期待の視線が、失望へと変わる瞬間。
そんなことを、何度経験したか。

家でも近所でも学校でも、比較対象として常に姉の存在があった。
私の心を知ってか知らずか、姉はいつも口うるさく細かいことを指摘してくる。
何でもできて、頼りがいのある、優しい姉。
それがいつしか、疎ましい存在へと変わっていった。

自室から再びリビングへとやってきた姉。
そのまま、アタシの横に立つ。
「アンタ、宿題やったの?」
「まだ」
振り返りもせず答える。
「ふぅん」
「怒んないの?」
「ん、まぁ、ね…」
歯切れの悪い姉。

「あのさ」
「なに?」
姉のほうを見る。
「これ…」
手に持っていたのは、黒い、革製のヒモ。
バックルがついており、一見ベルトのようにも見えるが、その割には小さく短い。
「これが、どうしたの?」
アタシはニヤニヤしながら、姉を見上げる。
無言のまま、立ちつくす姉。
「言わなきゃ分かんないよ?アタシ、お姉と違ってアタマよくないし」
「これ、付けてよ」
わざと、ぶっきらぼうな言い方。
「やだよ。自分で付ければ?」
「アンタに付けてほしいの」
「ふぅん…」

アタシは、わざとらしく意味ありげに笑みを浮かべる。
「もう、ガマンできなくなっちゃったんだ?」
アタシの言葉に、顔を赤くしながらうなずく。
「分かったよ。付けてあげるけど、自分で外しちゃダメだからね。それ付けてる間は、お姉は私のペット。私に逆っちゃダメだよ。分かってる?」
「分かってるよ…」
「ねえ、なんでヒトの言葉しゃべってんの?」
「わ、わん…」
「そうそう、分かってんじゃん。葵はおりこうさんだね」
「わん…」
「でもさ、葵は犬なのに、なんでお姉の服を着てんの?アタシのお姉はニンゲンなんだけど?」
おずおずと、服を脱ぎだす。
「そこじゃなくて、ここ。こっちきて、アタシの目の前で脱ぎなよ」
下唇を噛みながら、何かに耐えるような顔をする姉。

アタシの目の前へ移動した姉が、服を、下着を脱いでいく。
恥ずかしそうに、腕で大切な場所を隠している。
同性の、しかも姉の裸なんて見慣れていた。
でも…
そのしぐさ、表情が、アタシの嗜虐心を刺激する。
期待するような潤んだ目で、アタシを見つめる姉。
「それじゃ、首輪つけたげる。葵、おすわり」
「わん」
犬のように、お座りをする姉。
姉に、首輪をつける。
「お母さんが帰ってくるまで、葵のこと、かわいがってあげるね」

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