遠野シスターズ 第二章(1)変化

朝起きて、口うるさい姉から身だしなみを指摘され。
家を出て、授業をうけて。
部活で、顧問の先生や先輩にさんざんしごかれる。
クタクタになりながら帰宅し、晩ご飯を食べる。
そんな、いつも通りの日常を終えたあと。
勉強道具を持って、姉の部屋へと向かう。

他愛ない雑談をしながら、それぞれ勉強する。
分からないところは、姉に質問する。
すると、嫌な顔もせず教えてくれる。
そんな時間も、アタシは嫌いではなかった。
そして、勉強がひと段落した時。
非日常の時間がやってくる。

アタシの前で正座をする姉。
スッと、首輪を前に置く。
そして…
「よろしくお願いします」
額を床につける。
再び顔を上げた彼女が、期待するような目でアタシを見上げる。
姉としての威厳と、妹に服従する羞恥心とが入り交じった表情。
ゾクゾクする。
しだいに姉としての名残は消えていき、飼い犬へと没入していく。
そんな姉の変化を眺めるのが、アタシは好きだった。

まずは、ルール作りから始めた。
首輪を付けている時は、ご主人様とペットになりきること。
その間、姉はアタシを『ご主人様』、アタシは姉を『葵』と呼ぶこと。
嫌なことは無理強いせず、首輪を外したら、元の関係に戻ること。
エッチなことはしない、ということ。
そして、このことはふたりだけのヒミツであり、バレそうなことは決してしないこと。

姉は、アタシが思っていた以上に積極的だった。
最初のころは照れもあったのか、おずおず、という感じではあったが、途中からふっきれたらしい。
今では完全にその立場を満喫しているようだった。
犬としてのロールプレイの一環なのか、それとも、もともと姉が持っていた性質なのか。
ご主人様に頭をなでてもらうのが、彼女は好きだった。

甘えた表情で、ご主人様を見上げる葵。
「おいで」と言うと、うれしそうにアタシのひざに頭をのせる。
ひざまくらをしながら、頭をやさしくなでてやると、気持ちよさそうに目を細めるのだ。

時に、アタシは葵に芸を仕込んだ。
「お手」
差し出したアタシの右手に、葵が手を乗せる。
「おかわり」
今度は左手。
「おすわり」
体の前で、両手を床につけ、そのままお尻を床につける。
その目の前で、手のひらにのせたスナック菓子を見せつける。
「待て。待てだよ。まだ食べちゃダメだからね」
スナック菓子とご主人様の顔を交互に見る。
「よしっ」
ご主人様の許可を得た葵が、顔を近づけて、スナック菓子を口に入れる。
手のひらに、葵の唾液が少しついた。
いつもの姉と妹の関係だったら、嫌だっただろう。
でも、今はちっとも不快ではなかった。

そうやって、時間はあっという間に過ぎてしまう。
長くても1時間まで、というのも、ふたりで決めたルールだった。
名残惜しさを感じつつ、首輪を外してあげる。
そして、犬は姉へと、ご主人様は妹へと戻っていく。
じゃれ合いのような、ふたりのゴッコ遊び。
しかし、何度も繰り返しているうちに、少しずつ、アタシたちの中で変化が起こっていく。

姉は、アタシに甘えたり、命令されることに抵抗がなくなっていった。
それどころか、より一層支配されることを望むようになった。
ロールプレイの内容も、少しずつ、形を変えていく。

姉の机のイスに腰かけたアタシは、ゴムボールを放り投げる。
ポンッと跳ねたボールは、部屋の隅へと転がっていく。
それを、よつんばいの姿勢で葵が追いかける。
ホットパンツからのびる、白いふともも。
目が吸い寄せられては、あわててそらす。
葵がボールを口にくわえ、もどってくる。
ご主人様の足もとに、それを落とし、うるんだ目でみつめてくる。
手をのばし、頭をなでる。
顔を赤らめ、心からうれしそうにする。
そして、再びボールを放るよう、せがむのだ。
ボールを追いかける葵を眺めながら、考える。
さっきまで、アタシに勉強を教えてくれていた人と同じ人物とは思えないほどの変わりよう。
アタシも楽しいし、姉もよろこんでくれてるみたいだからいいんだけど。

そんな姉を見ていて、感じていることがあった。
首輪を外し、姉に戻った彼女に、つぶやく。
「お姉ってさ」
「ん、なに?」
「マゾッ気、あるよね」
きょとん、とする姉。
そして…
バシッ!
「痛ったぁ!」
顔を耳までまっ赤にした姉に、背中を叩かれた。
「なっ、なんで叩くの?しかも思いっきり」
「うるさい。チョーシに乗んな」
そう言って、アタシを部屋から追い出すそぶりをする。
「ごめん、アタシが悪かったから」
怒っているのか、それとも恥ずかしがっているのか。
ムスッとした姉をなだめる。
そして、翌日の夕食後…

「ほら、やっぱりマゾッ気、あるじゃん」
首輪を付けた葵が、トロンとした目でご主人様を見上げる。
「そうじゃなきゃ、そんな顔しないよ?ご主人様にホントのこと言いなさい、葵」
恥ずかしそうに、太ももをこすりあわせる葵。
「葵は、マゾッ気のあるワンちゃんなのかな?」
顔をのぞき込みながら、質問する。
しばらくモジモジした後、恥ずかしそうに、コクンとうなずいた。
その仕草が、アタシの胸をキュンとさせる。
それを気付かれないように。
「やっぱりー!」
少しイジワルッぽく言う。
葵が、少しすねたような目で、アタシを見る。
「ごめんごめん!チョージにのりすぎた」
犬が、ご主人様のひざに頭をのせてきた。
そして…
『なでろ』
と、目でうったえてくるのだった。
しょうがないなあ、と思いつつ、姉のキゲンがなおるまで、その頭をやさしくなでるのだった。
そして、さらに数日後…

これは、マゾッ気なんていうレベルではないのかもしれない。
下着姿の葵が、うるんだ目をしながらご主人様の指示を待っている。
というのも、これまではせいぜい薄着になるまでだったのだが、更に服を脱ぎたがるようになったのだ。
アタシが止めなければ、すっぽんぽんになってしまいかねない勢いだった。
せめて、下着姿まで。
それが、ご主人様であるアタシの判断だった。
『なんで?姉ちゃんの裸なんて見慣れてるでしょうが』
などと言う姉。
以前の彼女ならこんなこと言わなかった、と思う。
それが、こうも変わってしまうとは….
『そういう問題じゃないでしょ。とにかく、裸はダメだからね』

戸惑いと、焦り。
姉の危なっかしさに、姉本人が気付いていない。
アタシがしっかりしないと…
自然と、ご主人様としての自覚がめばえていく。
しかし…
「こーら、なにやってんの、葵!」
ご主人様の太ももにまたがり、腰を前後にゆする葵。
「ダメだよ、葵、やめなさい!」
不満げな顔の犬。
しぶしぶ、といった表情をしながら、ご主人様からどいた。
「もう…エッチなのはダメって言ってたじゃん!」
うつむく犬。
それでも、昂りがおさえられないのか、太ももをモジモジと擦りあわせている。

肉親でもある姉の性欲を目のあたりにして、とまどう。
アタシにも、経験がないわけではなかった。
ときどき、どうしようもないほど昂ってしまう時がある。
そうなると、もう他のことは考えられなくなってしまう。
そんな時は、自室で誰にも気付かれないよう、オナニーをするのだ。
気持ちよさの後で襲ってくる、罪悪感と自己嫌悪。
自分がどうしようもないヘンタイのような気がして、もうこんなことはしないと決意する。
でも、昂ってしまうと、そんな決意など消え去ってしまう。
そして、事を終えたあと、自分を責めるのだ。

今、目の前にいる姉も、ひとりの女の子なんだ。
そんなことを、改めて思う。
もうこの状態になると、自分ではどうしようもない。
ただ、昂りが鎮まるまで、己の敏感な部分を指で撫でるほかない。
耐えがたいほどの欲求。
辛さは、とても分かる。

「もう、仕方ないなあ」
そう言って、アタシは右手を差し出す。
「ほら、アタシの手、貸してあげるから」
恥ずかしさで、耳まで熱くなる。
いいの?
意図を理解した葵が、目でたずねてくる。
アタシは、黙ってうなずいた。
差し出した腕に、葵がまたがる。
右手で手首を、左手で肩をつかまれる。
そして…
腰を、前後にゆすり始めた。

目をギュッと閉じ、快楽に集中する犬。
ときおり、口から「んっ…」という切なげな声が漏れる。
普段の姉からはとても想像ができない声。
『こんな声も出すんだ。お姉って』
下腹部が熱くなり、胸がキュンとなる。
ヤバい…これって…
性欲。
このまま姉の声を聞いていると、自分までおかしくなってしまいそうだった。
あわてて、意識をそらそうとするが…
姉の、やわらかな太ももの感触。
姉の熱が、情欲が、太ももを通して腕に伝わってくる。

腕が、濡れていた。
エッチな気分になると、股から出てくる液体。
愛液というのだと、最近、知った。
ベトベトに濡れたアタシの腕が、なおも葵の股間で擦り上げられる。
かすかにただよってくる、エッチなにおい。
姉から放たれる全てが、アタシの昂りを誘い、駆りたてる。
ヤバイ…ヤバいって…
このままじゃ、自分も耐えられなくなる。
そう思った時。
姉の様子が変わった。

もしかして…
眉根を寄せて、下くちびるを噛む姉。
手首と肩をつかむ力が強くなる。
そして…
「いっ…イクッ…」
ブルブルッと体をふるわせる姉。
太ももが、アタシの腕をギュウッと締め付ける。
ほんの数秒だったのか。
それとも、数分はそうしていたのか。
姉が、アタシにもたれ掛かってきた。
息を荒くしながら、グッタリする。

イッちゃったんだ…
イク、というのがどういうものか、知識としてはあった。
ただ、アタシは経験したことがない。
初めて、見ちゃった…
ドッ、ドッ、ドッ、ドッという、心臓の音。
アタシの鼓動か、それとも、彼女のものか。
絶頂の余韻に浸る葵を、アタシはただ抱きとめていた。

首輪を外し、姉妹に戻る。
「ごめん。姉ちゃん、どうかしてたわ…」
我にかえった姉は、ひたすら謝ってきた。
ただ、恥ずかしいのか、アタシとなかなか目を合わせようとしない。
「アンタの手、よごしちゃったね。姉ちゃんが片付けとくから、風呂に入ってきな」
「うん…」
そそくさと、部屋を後にする。

脱衣所で、服を脱ぐ。
見慣れた、己の体が鏡に映る。
先ほどまで見ていた、肉付きのいい姉の肢体。
それと、己のそれを比べる。
アタシも、あと何年かしたら、あんなカンジになるのかな…

右うで。
さっきまで、姉がまたがっていたもの。
腰をゆする、姉の姿がよみがえる。
眉根を寄せ、切なそうな顔。
太ももの感触。
そして…
腕を、鼻先にづける。
女のニオイ。
決して、いいニオイとは言えない。
でも、嗅ぐのを止めることができない。
頭がボンヤリしてくる。
ダメだ、もう…

急いで浴室へ入る。
イスに腰かけ、左手で股間をまさぐる。
右うでに残った、姉の残り香を嗅ぎながら。
左手の指先で、クリトリスをなでる。
愛液をぬりたくり、ひたすら、円を描くように、こねくりまわす。
普段とは違う手なので、ぎこちなく、もどかしい。
まぶたの裏には、腰をゆする姉の姿。
姉の動きに合わせて、指を動かす。
このまま、どうなってもいい。
姉と一緒に、どこまでも堕ちてしまいたい。
体の奥から、何かが来ようとしている。
同時に、強い不安におそわれる。
どうでもいい。
このまま、姉と一緒にどこまでも…

肥大したクリトリスを一定のリズムで撫であげ、こねくり続ける。
そして…
あ、ヤバい…
体がふるえはじめる。
ヤバい、まって、まって…
しかし、左手は止まらない。
クリトリスも、膣も、ヒクヒクと震えはじめる。
おしっこを強くガマンしている時のような、感覚。
何も考えられなくなる。
「おねぇっ…おねぇっ…」
全身に電気が走った。
ギュッと力を込めた体がビクビクッ、ビクビクっと震える。
経験したことのない快感が、アタシを包み込む。
うなだれたまま、快楽の波に身を委ねる。

ゆっくりと、ゆっくりと、波が去っていくのを感じる。
そして、少しずつ、思考力が戻ってくる。
しばらくの間、初めて体験したオーガズムの余韻にひたるのだった。

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