遠野シスターズ エピローグ いつの日か

朝。
起きる。
姉の部屋。

体を起こすと、となりから姉の声がした。
「おはよ、雫」
「あ、ごめん、起こしちゃった?」
「いや、少し前から起きてた」

洗面所で歯をみがきながら…
「雫さ、アンタ、いびきかいてたよ」
「えっ、ウソッ!」
「ウソ」
「もう!」

朝食をとりながら、他愛ない雑談をして。
リビングで、テレビを観ながらぼうっとする。
「今日のお昼、どうする?」
「食べに行く?でも外暑くなりそうだよね。それに、実はおこづかいがピンチで…」
「久しぶりに出前でもとる?姉ちゃんがお金出すから」
「いいの?」
「うん。あ、そうだ蓄光シール」
「あ、そういえば」
「どうする?今さがしてみる?」
「さがす!」
お互い、スマホで調べながら、よさげなものを見繕う。
「ほんとにいいの?」
「いいよ、気にしないで。それに、雫だって色々買ってきてくれたでしょ?」
散々迷った結果、星形のシールと魚のシールを両方買ってもらった。

その後、お昼まで勉強し。
出前で注文したお蕎麦を食べる。
「今日、お母さん帰ってくるのって、夕方だよね」
「うん」
「そっか…」
母が帰ってくるまで、あと数時間。
ペットプレイをするなら、今しかなかった。
でも…
「どうする?する?」
「えっ、いいの?」
「楽しみにしてたんでしょ?昨日言ったこと、ちゃんと忘れてなければいいよ」

姉が差し出した首輪を受け取る。
これを使うのは、これが最後なのだろうか。
するすると、服を脱いでいく姉。
ん、と。
白い首を、アタシに晒す。
首輪をつける。
黒い、革製のヒモ。
初めて見た時は、生々しいとすら思ったそれは、今は愛おしくて仕方なかった。

首輪を付けた姉に、芸をさせたり、散歩したり。
一通りのプレイをした後、ソファに腰かけ、ひざまくらをする。
アタシの太ももに頭を乗せたあおいの頭。
髪を、そっとなでる。
「全部なくすんじゃなくてさ、どういう形がいいか、これから話し合っていこうよ。アタシも、お姉に言われたこと、これから真剣に考える。でも、いきなり全部なくすのはさ、ちょっと違う気がする」
「うん…私も、ちょっと思いつめすぎてたかも」
「いつか、離れ離れになる日が来るとしてもさ、それまではお姉と一緒にいろんなことしたい。首輪のこともだけど、それだけじゃなくて…」
「うん」
「せっかく今、こうして一緒にいられるんだからさ」
「そうだね」

夕方、母が帰ってくる。
ふたりで出迎える。
買物袋をキッチンまで運びながら、父のことを聞く。
「雫、アンタ、お姉ちゃんの言うこときいて、ちゃんといい子にしてた?」
「うん」
「ほんとに?」
「お母さん、大丈夫。雫はちゃんといい子にしてたよ」
少し驚いた顔をする母。
「ならいいけど…」
「あのさぁ。いい子いい子って言うけど、アタシもう中学生…」
「じゃあ、いい子にしてた雫のために、今夜はハンバーグ作ってあげる」
「やった!」
「葵も、ありがとね」
「いえいえ」

先のことは分からない。
姉の言うように、いつかお互い家庭を持つ風がくるかもしれないし、こないかもしれない。
でも、今は、姉と過ごす日々を大切にしたかった。
いろんなことをしたり、話したり。
時々、ケンカもするかもしれない。

そしていつか、ふたりが大人になったとき。
そんなこともあったね、なんて、笑いながら話すのだ。

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