部室の片隅で、ボンヤリと眺めていた。
取り巻きの2年生たちと一緒に、楽しそうに話している3年生。
変わらない日常。
変わらない風景。
でも。
それはあくまでも表面上のハナシだ。
彼女たちが敬愛しているその先輩は、自分たちよりも年下の少女に屈服し、弄ばれたのだ。
取り巻きの子たちは、思いもよらないだろう。
数日前、彼女がどれほどブザマで滑稽で、屈辱的な姿を晒していたのかを。
未だに脳裏に浮かぶ、三井の情けない姿。
どこか夢のようで、しかし現実に起こった出来事だった。
悔しそうに、恥ずかしそうに、後輩に許しを懇願するその惨めな姿は、彼女のスマホに記録されている。
あんな出来事などなかったかのように、先輩然として振舞っている三井。
部室に、誰かが入ってきた。
その姿を目に捕らえた三井。
一瞬、身を固くした三井は、しかし、何事もなかったかのように再び話し始めた。
入ってきた少女は、そのまま三井たちの座るテーブルまで近寄ってきた。
「三井先輩、こんにちは」
あくまで礼儀正しく。
後輩として、先輩にあいさつする新田。
「こんにちは」
三井もにこやかに返事をする。
その、あるかなきかのぎこちなさに、誰も気付いていない。
三井の取り巻きたちにも、あいさつをする新田。
からいらしい後輩を、2年生たちがかわいがり始める。
それを、こわばった笑みで眺める三井。
新田の本性を彼女たちは知らない。
知っているのは私と三井と畑川のみ。
サディストとしての彼女の声は、己のみじめな姿とともに、三井のスマホに記録されている。
三井は気が気ではないだろう。
自身のあんな姿が後輩たちに知られてしまったら。
敬意は一瞬で蔑みに変わってしまうだろう。
例の勝負から1週間後。
部室には、私と新田と畑川がいた。
私が新田に調教される日。
そして、畑川の罰ゲームを執行する日でもあった。
イスに腰かけた新田。
そしてそのすぐ横に、畑川も座っていた。
ただし新田のように、イスにではない。
床に、正座をさせられていたのだ。
楽しそうに笑みを浮かべる新田とは対象的に、緊張した様子の畑川。
そんなふたりの前で私は立っていた。
新田が、あごで私の後ろを示す。
私はうなずき、後ろを向いた。
ズボンに手をかける。
お尻を突き出しながらクネクネと左右にゆする。
そうしながら少しずつズボンを下へずらしていく。
調教のたびにさせられる、煽情的なダンス。
新田は、私にこれをさせるのが好きだった。
時には、何分も続けてさせられたこともあった。
「手、止めな」
半分ほどずり下げた辺りで、新田から指示が出る。
「お尻は動かし続けなさい。そうそう、そんな風にね」
いつもの調教。
でも、違うのは…
「今日はお客様がいるんだから、いつも以上に心を込めて踊りなよ。分かった?」
「は、はい…」
返事をしながらも、お尻は動かし続ける。
新田にみっちりと仕込まれた、新田を楽しませるためのダンス。
それを、畑川にも見られている。
畑川が新入生のころ、私は彼女に対して厳しく指導してきた。
乗馬の技術以前に、道具の扱い方、先輩後輩としての礼儀、言葉遣い。
時には叱責することもあったのだ。
そんな私が今、1年生に命令されながら、お尻を振っている。
イスに座った1年生の前で立たされ、彼女を楽しませるために。
礼節をわきまえないどころか、先輩に命令するという、あり得ない行為。
しかし私は、彼女を叱るどころか、命令に忠実に従っている。
畑川は今、どんな思いで私を見ているのだろうか。
どんな目で、私を…
「どうですか、畑川センパイ。中谷センバイのお尻ダンス。私が仕込んだんですよ?」
「し、仕込んだって、アンタねぇ…」
「ほらほら、見て?あんな恥ずかしい踊りを、あの中谷センパイがしてるんですよ?普段、あんなにすました顔してる中谷センパイが、ですよ?信じられます?」
新田の無遠慮な言葉が、私の羞恥心をあおる。
「あの耳も、見て?あんなに赤くなって。きっと恥ずかしくて仕方ないんですね。ゆでだこみたいな顔も、見てて楽しいんですよ。こっちを振り向かせましょうか?」
「い、いい!見たくない!先輩にあんなことさせて…」
「そうですか、残念です。畑川センパイなら楽しんでくれると思ったのに」
「楽しいわけないでしょ!」
「ちょっと中谷センパイ!畑川センパイがつまらなそうにしてるんですけど。ご主人様に恥をかかせる気ですか?」
「ち、ちょっと新田。アンタ…」
「中谷センパイには、キツーいおしおき、しないとですね。ほら紗枝、さっさとそれ脱ぎな」
新田の声色が変わった。
「はっ、はい…」
いそいそと、下着ごとズボンを脱ぎすてる。
「お尻、叩いてあげるから、テーブルに手つきな」
言われたとおり、目の前にあるテーブルに両手をつく。
そして、再びお尻を突き出すような姿勢になった。
新田がイスから立ち上がる気配がした。
「畑川センパイ見て?こいつのお尻、キレイでしょ?これからこのお尻が真っ赤っかになっちゃうから。よく見ててね」
「中谷先輩…」
新田が鞭を手に取った。
「勝負のこともあったから、最近は叩いてあげてなかったけど。今日は思う存分たたいてあげるから。覚悟しなよ?」
鞭でピタピタと、私のお尻に軽く触れる。
たったそれだけで。
私の全身が、細胞の一つひとつが、思い出す。
鞭で打たれたときの衝撃を。
情け容赦ない新田の責めを。
暴力的に支配されることの屈辱と、悦びを。
意思とは関係なく、私の体が新田に媚び始める。
どれだけ否定しても、消そうとしてもムダだった。
私の性癖。
私の願望。
どれだけ知識を得ても、技術を磨いても、立場が上だったとしても。
この子には、敵わない。
鞭の先端でお尻に触れられるだけで、簡単に屈服してしまう。
なぜ興奮してしまうのか。
そう思えば思うほど、悔しくて悔しくて、もっといじめてほしいと思ってしまう。
屈辱と怒りと羞恥心とが、私の頭の中をグチャグチャにかき乱す。
「もう息が荒くなってるよ?期待してんの?ヘンタイだね」
屈辱の炎が、私の下腹部をグツグツと煮えたぎらせていく。
「ねえ、まだ叩いてないんだけど。なんでそんなにサカッてんの?先輩のくせに、雑魚すぎでしょ」
軽蔑しきった新田の声。
それがまた、炎に薪をくべていく。
「それとも、畑川センパイに見られてコーフンしてるのかな?」
1年生に詰られて、発情している情けない姿。
畑川に、見られている。
「初めて三井センパイと畑川センパイの前で乗ってあげた時もさぁ。コーフンしてたでしょ」
ふーっ、ふーっ…
「人に見られると余計にコーフンしちゃうんだ?やっぱヘンタイじゃん。どうしようもないヘンタイだよ、お前」
ふーっ、ふーっ…
「ほら、畑川センパイ、見てください。こいつの太もも、濡れてるでしょ。こうして言葉でイジメてあげると、とってもよろこぶんですよ」
新田が、私の耳もとに顔を寄せてくる。
そして…
「お前がどんだけマゾなのか、畑川センパイに見てもらおうね」
ゾクゾクッとした。
「もっとも、とっくにバレてるけどね、アンタがマゾだってことは」
イヤイヤをする。
態度とは裏腹に、身も心も求めていた。
畑川の前で、新田にプライドを踏みにじられることを。
「ねえ、なんでこんなに濡らしてんの?鞭でちょっと触っただけだよね?それでこんなにビショビショにするって…どんだけゆるいの、アンタのココは?」
ツンツンと、ムチの先で『そこ』を軽くつつかれる。
「あうっ」
「いっちょまえに感じてんの?ヘンタイマゾのくせに。
お前みたいなどうしようもないヘンタイ、私が鍛え直してあげる。歯、食いしばりな」
ピタピタとお尻を叩いてから、鞭がふり上げられる。
そして…
ビシッ!
勢いよく、お尻に叩きつけられた。
目の前が一瞬、真っ白になる。
脳天までひびくような衝撃。
「ほら、お礼は?」
「あっ、ありがとうございます…」
「畑川センパイ。聞いてました?コイツ、叩かれてるのにお礼言うんですよ。笑えるでしょう?」
「それは、アンタが言わせてるからでしょうが」
「それにしても、残念でしたね、センパイ。センパイが勝てば、コイツを私から助け出すことができたのに。おかげで、まだお尻を叩かれて悦ぶヘンタイさんのままですよ」
「あ…アンタねぇ!」
「それとも…センパイ、本当は見たかったんじゃないですか?」
「な、なにを?」
「コイツが、私に調教されてるとこ」
「ち、調教って…」
「もう分かってるんでしょ、私とコイツとの関係?」
「そんな…でも、中谷先輩はアンタにムリヤリ…」
「ふうん。ここまで見せてるのにまだそんなこと言うんだ?」
「ち、違う、中谷先輩は…」
「畑川センパイがそう思いたいなら、どうぞご自由に。でも、今日の調教を最後まで見たあとでも同じことが言えるかな?」
鞭が再びお尻にあてられる。
「ほら、頑張りなよ?お前のこと信じてくれてる、けな気な畑川センパイのこと、裏切るんじゃないよ?」
鞭をふりかぶる音。
ピシッ!
目の奥がチカチカした。
「まだ2発だよ。ほら、頑張れ、頑張れ!」
ふたたび、鞭をふりかぶる新田。
ビシッ!
「3回!」
連続して叩かれる。
あまりの痛みに、思わずうめき声をあげる。
「ふふっ。いい声で鳴くでしょ、この子。どうです、気に入っていただけましたか、畑川センパイ?」
「よ、よしてよ。そんなわけない…」
「そうですか?それにしては、くい入るように見てましたけど?」
「みっ、見てない!」
「素直じゃないなぁ。ほら、見て、センパイ?この子のお尻。叩かれた所が赤くなってきてるでしょ?」
鞭の先端を、お尻をなでるようにうごかす新田。
「これがね?真っ赤っかになっちゃうの。白いところがなくなっちゃうくらいにね」
ピタッ、ピタッ…
鞭で、軽く触れるように。
もっかい鳴かせるから、よーく聞いててね。畑川センパイ?」
鞭がお尻から離れる。
そして…
ビシッ!
「5回!」
ビシッ!
「6回!」
ビシッ!
「7回!」
続けざまの衝撃。
足をバタバタさせながら、堪える。
「あはは!ほら、また鳴いた!」
「や、やめて、やめてよぉ…」
畑川の声。
「ホントにやめちゃっていいの?もっと聞きたいんでしょ?」
「そんなわけ、ないって…」
「ウソウソ。コーフンしてますよね、センパイ?」
「してないったら!」
「じゃあなんで、そんなにモジモジしてるんです?トイレをガマンしてるわけじゃないでしょう?」
「こ、これは、その…」
「太もも同士、スリスリこすり合わせて。潤んだ目で中谷センパイのこと見て。エッチな気分になっちゃったんでしょ?ちゃーんと分かってるんですよ?」
「い、いいかげんなこと言うな!」
「まだそんなこと言うんだ?じゃあ誓えますか?エッチな気分じゃないって」
「そ、それは…」
「どうせ、エッチなお汁で下着濡らしてるんでしょ?それとも、私、確かめてもいいですか?」
畑川が黙り込んだ。
「なんて、ごめんなさい。言いすぎました。中谷センパイが叩かれてるのを見てコーフンするような、ヘンタイじゃないですもんね、畑川センパイは?」
「う、うん…」
ふふっ。
新田が鼻で笑った。
「ほら、誰が休んでいいって言った?」
鞭がお尻に押しあてられた。
そのまま、グイッと押される。
「お尻は、ここ。姿勢、崩すなよ?いいって言うまで、そのままでいるの。次、姿勢崩したら、もっとキツいオシオキするから」
新田が、冷たく言い放つ。
畑川というギャラリーがいるからか。
あるいは、三井という強敵を屈服させたことで自信をつけたのか。
今日の新田は、いつも以上に横柄だった。
時に、ランダムに。
時に、リズミカルに。
鞭をふりおろす新田。
鞭で叩くフリをして、直前で止め。
反射的に体を震わせる私を見て、嘲笑う。
「ほら見て、畑川センバイ?センパイが負けちゃったせいで、大好きな中谷センパイのお尻、こんなに真っ赤になっちゃいましたよ?」
「なっ!なにを言って…」
「次の勝負では、もっと頑張ってくださいね?中谷センパイのお尻がこんなに腫れてるところ、もう見たくないでしょう?」
「ううぅ…」
「ねえ 畑川センパイ」
新田が、私から離れた
畑川のほうへ歩み寄っていく。
そして、何かを囁いた。
声が小さくて、内容は聞き取れなかった。
「なっ!?ふっ、ふざけるな!誰が、そんなこと!」
「大丈夫ですよ。ここには私と畑川センパイと、中谷センパイしかいません。それに、中谷センパイはむこうを向いてるから、畑川センパイのほうは見えません。私もふり向かないから、誰も畑川センパイが何をしてるかなんて、分かりません」
「だからって、そんなこと…」
「したくないんですか?」
「したいわけ、ないでしょうが!」
「そう、そんなに嫌なんだ」
「あ、あたり前でしょ!」
「じゃあ、次の再戦の条件はそれにしようかな」
「えっ?」
「だからー。もし次の勝負で負けたらぁ、ここで、してくださいね、オナニー」
「なっ、なんでそうなる!」
「また勝負するなら、条件があるのは当然でしょ?それに、センパイが嫌がることじゃなきゃ罰ゲームにならないじゃない。それとも尻尾巻いて逃げる?三井センバイ、せっかくあんな思いまでしたのに不戦敗なんてかわいそう…」
「わ、わかった。それでいいから…」
「了解です。それと、勝ちの条件は前回と同じでいいですか?」
「ああ…」
「次は救えるといいですね、中谷センパイのこと。もし負けちゃったら…大好きな先輩がお尻を叩かれてるところを見ながら、オナニーですよ?そんな屈辱的で情けないところ、イヤでしょう?」
畑川の返事はない。
「オナニーしてるところ、中谷センパイに見てもらう?それとも、私にバカにされながら見られるのがいいのかな?」
「お、お前っ!」
「どんな顔しながらオナニーするのかな、畑川センパイは?悔しそうな顔かな?それとも恥ずかしそうな顔かな?」
「い、いい加減に…」
「見られるのが恥ずかしいなら…ドアの向こうでさせてあげてもいいですよ?」
畑川が、声にならない声をあげた。
「ドアの隙間から覗きながら、オナニーするの。でもそれはそれで、ミジメじゃない?部屋に入ってくる度胸もない、いくじなしの負け犬オナニー。
救うと言っておきながら、そんな情けないことできませんよね?あれ、どうしたんですか、俯いちゃって?」
「アンタ、やっぱり…」
「え、なんですか?」
「な、何でもない…」
後ろを向いていても、分かった。
真っ赤になった、畑川の顔。
それを、面白そうに見下ろす新田。
もはや、ふたりの力関係は歴然としていた。
私という生餌を使って、畑川という新たな獲物を捕らえた新田。
一度捕まったが最後、がんじがらめにされ、二度と抜け出すことはできない。
新田というサディストによって、彼女もまた、性癖を拗らせていくのだ。
三井があんな思いをしてまで手に入れた再戦の権利。
しかし、勝敗はすでに明らかだった。
誇りを取り戻すどころか更に深みにはまっていく。
私や畑川だけでなく。
三井もそうなってしまうのか。
ぞんざいに扱われるほど体を昂らせてしまう人種。
むしろプライドが高い三井のことだ。
私たちよりも、もっともっと深く、低いところまで堕ちていってしまうかもしれない。
「ほら、言ったそばから姿勢崩すなよ、マゾ女。ホントにグズだねお前は。そんなんでよく3年生を名乗ってられるね。新入生からやり直す?」
「ごっ、ごめんなさい!」
「謝っても遅いんだって。それとも、ホントに新入生からやり直す?結花ちゃんたち、呼んでこようか?『溝口先輩、新田先輩、こんにちは。新入生の中谷紗枝です。昨日まで3年生だったけど、グズでドジなので、新入生としてやり直すことになりました』ほら、言ってみな」
「うぅぅ…」
「ほら、言えよマゾ女」
ビシッ!
勢いよく、鞭が叩きつけられる。
「早く言わないと、ホントに呼ぶよ?」
「わ、分かりましたから…呼ばないで…」
「こっち向いて、私の顔を見ながら言いな」
お尻をかばいながら、振り向く。
新田がイスに腰かけ、腕を組みながら私を見上げる。
その横で、泣きそうな目で私を見上げる畑川。
ふたりとも、私が指導をしてきた後輩だった。
そんなふたりの前で…
「溝口先輩、新田先輩、こんにちは。新入生の中谷紗枝です…」
屈辱的なセリフ。
「そうだ。撮ってあげるから、もっかい言いな」
スマホを取り出し、私に向ける。
「え、あの…」
「大丈夫、誰にも見せないから。ほら、早く早く!」
期待に満ちた目で、画面越しに私を見つめる新田。
「え、でも、その…」
「三井センパイみたいに、お尻をフリフリさせながら撮られたい?」
「わ、分かりました」
再び、屈辱極まりないセリフを言わされる。
今度は、新田のスマホに記録されながら。
「帰ったら、これ見て嗤ってあげるね。畑川センパイもこれ、欲しいでしょ?」
「あ、えと…」
潤んだ目で私を見つめながら、太ももを擦り合わせていた畑川。
「いいよ、あげる。このレースに付き合ってくれたお礼と、これからもよろしくの気持ち。受け取って?」
「わ、私は、その…」
「あはは!さっきまでだったら迷わず拒んでたのにね。ようやく素直になってきたじゃん、畑川センパイ。今日はそれ見てオナニーするんだぞ?」
「ち、ちが…私は…」
「でも、取扱いには気を付けなよ?そんな動画がもし馬術部内で出回りでもしたら…」
ゾッとした。
「その動画の内容が、現実になっちゃうかもよ?」
畑川が唾を飲み込んだ。
「中谷センパイが1年生を先輩呼びしてる姿なんて、見たくないでしょ?」
絶対に逆らえなくなるような、弱みを握られていく。
脳裏に浮かぶ、後輩たちの顔。
あんな動画、もし他の後輩に見られでもしたら…
『中谷センパイ、動画観ましたよ』
酷薄な笑みを浮かべた後輩たちに取り囲まれ。
『新入生からやり直すそうですね』
『後輩になるんだから、これからは私たちのこと先輩って呼んでくださいね?』
『私たちもセンパイのこと、紗枝って呼びますから。ほら、そうしないと他の部員に示しがつかないでしょ?』
『分かったら返事しな、紗枝?』
『ドジでグズな紗枝のこと、私たちが厳しく躾けてあげるね』
恥ずかしそうに返事をした私を、面白そうにケラケラ嗤う『元』後輩たち。
絶対に握られてはいけない、握られたくない弱み。
それを、気まぐれな小悪魔に握られてしまった。
そんな絶望的な状況に置かれたことにすら欲情してしまう。
「ホントは見られたいんでしょ?見られるの好きだもんね」
新田の声。
全てお見通しだった。
「ちがっ、違います…やめてください…」
「じゃあなんでそんなエッチな顔してんの?自分の顔、鏡で見てみる?」
「それは…」
「今なら許してあげるから、ホントのこと言いな」
「その…」
「見られちゃうかもって思うと、コーフンしちゃうんでしょ?」
「は、はい…」
「ふふっ。正直ないい子は、私好きだよ」
「中谷先輩…」
畑川の情けない声。
初めて、畑川にイラッとした。
私を救うとか言っておきながら、新田にあしらわれ発情しているマゾ女。
意気地のない負け犬。
見せつけてやる。
私は、新田に思いっきり媚びた。
新田が、私の頭をなでる。
私は、嬉しそうに甘えた声をあげた。
「中谷先輩…」
また。
私は、自分のことを棚に上げながら。
被虐心と嗜虐心との間で、たゆたっていた。
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