マナドリンカー ~尊厳を搾り取る者~ 第1話


主な登場人物

マルレート
 生まれながらにして高い能力を持つ女魔族。
 その実力は、同じ上級魔族の間でも一目を置かれるほど。
 魔王に勇者たちの捕獲を命じられる。

勇者
 魔王を倒すために生まれてきた、人類の希望。
 生まれた時から男として育てられ、厳しい修行を課せられてきた女性。
 仲間たちとともに、魔王討伐の旅へと出る。

戦士
 屈強な鎧を身に着けた、美しき女戦士。
 己の背丈ほどもある大きな剣を軽々と振るい、魔族たちを切り伏せる。
 勇者の剣術の師でもある。

神官
 勇者たちの傷を癒し、魔族を滅する聖魔法の遣い手。
 物腰は柔らかだが、一度こうと決めたら譲らないという一面を持つ。
 高い教養をもち、勇者の教育係を務める。

魔法使い
 様々な高位魔法を自在に操る、若き天才魔女。
 その能力は、下級魔族のみならず、多くの上級魔族を葬ってきた。
 見た目は幼いが、戦士の次に年長。

魔王
 絶対的な支配者として君臨する、魔族の王。
 過去、種族を問わず多くのツワモノたちのマナを奪い、取り込んできた。
 その出自については、魔族の中でも知る者はいない。

サキュバス
 男性女性を問わず、相手を魅了し、そのマナを奪い取る下級魔族。
 捕らえられた強者のマナは、彼女たちによって搾り取られ、魔王へと献上される。


魔族の都市、デスハイム。
ここには、魔王をはじめ数多くの魔族が暮らしていた。
支配階級である、上級魔族。
彼らは、魔族の中でも圧倒的な能力を誇っていた。
その力は、1人で人間の軍隊一万にも値するという。
年齢は、数百から数千とも。
生まれた時から高い能力を持つ彼らは、デスハイムの中でも絶大な権力を握っていた。
マルレート・フォン・シュルツ。
彼女も、そんな上級魔族の一人。

マルレートは、吸血族の当主だった。
上級魔族の中でもたぐいまれな魔力と、頭の回転の速さ。
肉弾戦でも互角に渡り合える魔族は、数えるほどしかいない。
真紅の髪と、口を開けた時にチラっと覗かせる、長い牙。
なによりその美貌は、これまで多くの魔族の心をつかんで離さなかった。

生まれ持った才能と美しさから、彼女は幼いころから可愛がられていた。
どんな魔術も、あっという間に習得し。
どんなに希少なものでも、欲すれば与えられ。
だからこそ、というべきか。
彼女は、飽きるのも早かった。
彼女の辞書に、『不可能』という文字はなかった。
そして、『努力』という文字も。

そんな彼女の中で、とある願望が生まれたのは、つい最近のことだった。
魔王を倒すために、伝説の勇者たちがやってくる。
そんなウワサが、デスハイムの中でささやかれ始めたのだ。
魔族たちに、緊張感が走った。
とはいえ、マルレートが生まれてから、勇者を名乗る者が現れたのは、一度や二度ではない。
彼らはみな、魔王城へたどり着くことはなかった。
いずれも、魔王が差し向けた刺客に敗れ去ったのだ。

どうせ、今回も同じだろう。
マルレートをはじめ、多くの上級魔族はそう思っていた。
しかし、違った。
勇者には仲間がいた。
いかつい甲冑を身にまとい、巨大な剣で魔族たちを切り伏せる、屈強な戦士。
聖なる力で勇者たちの傷を癒し、魔族を退ける、神官。
魔族顔負けの魔力と、様々な高位魔法を自在にあやつる、魔法使い。

行く先々で強力な武具を手に入れていく、勇者一行。
そして、戦いの中で更に成長していく。
ウワサによると、勇者のパーティーはいずれも女性のみ。
エルフの女王から受けた祝福により、魔族からの呪いのたぐいは全く寄せ付けない。
魔王が差し向けた刺客を、次々と切り伏せていく、一行。
そしてついに、マルレートに魔王からの命令が下った。
マルレートは、ワクワクしていた。
ようやく、本気になれる。
生まれて初めて、全力を出して戦えそうな相手が現れたのだ。

勇者一行と対峙するマルレート。
そこから離れた場所で、マルレートの配下たちが、主君を見守っている。
マルレートの思っていた以上に、彼女たちは強かった。
一瞬でも気を抜けば、やられる。
4人の連携した攻撃に、漆黒のマントをはためかせながら応戦する。
さすがに、すべての刺客を葬ってきただけのことはある一行。
少しずつ追い込まれていく、吸血族の当主。
生まれてはじめて感じる、緊張、恐怖。
だが、そこまでだった。
一度も本気になったことがなかっただけのマルレート。
戦いの中で、その素質を目覚めさせていく。
その一方で、魔力が尽きかけ、疲労困憊の勇者たち。
そしてついに、勇者一行はマルレートの前に屈したのだった。

逆らえないよう、マルレートは勇者たちに隷属の印を刻んでいく。
この印を刻まれたものは、刻んだ相手に逆らうことができなくなる。
とはいえ、相手は高い抵抗力を持つ勇者たちだ。
その効果がもつのは、せいぜい数時間ほどか。
それでも、デスハイムまで移送するには、十分な時間だろう。

一行を生け捕りにして、デスハイムへと凱旋するマルレート。
魔族たちは、熱狂に包まれた。
美しき女魔族は、勇者たちを魔王の側近に引き渡す。
上級魔族から下級魔族まで、マルレートを賞賛する。
中には嫉妬の感情を向けてくる輩もいたが、彼女にはどうでもいいことだった。

魔王の謁見が許される。
絶対的な存在として君臨する、魔族の王。
圧倒的な能力をほこる曲者ぞろいの上級魔族でも、その足元にも及ばない。
たとえ、全員で束になってかかったとしても、5分と持たず、みんな消し炭にされるだろう。

デスハイムにそびえる、魔王城。
そこで、彼女は魔王からねぎらいの言葉を賜った。
こちらを圧倒するような、オーラ。
全身を包む黒いローブから、陽炎のように魔力が立ちのぼっている。
もし魔王の気分を害するようなことでもあれば、たとえ上級魔族といえど、一瞬でこの世から消されてしまう。
普段は飄々としているマルレートだが、この時ばかりは冷や汗をかいた。
「褒美として、ひとつだけ望みをかなえてやろう」
玉座からこちらを見下ろす絶対的な強者。
彼女は、そのプレッシャーに耐えつつ、かねてから抱いていた願いを、魔王に申し上げた。


魔王城の地下にある一室。
この、ジメジメとした場所に勇者たちは監禁されていた。
かつて、魔王を倒すとまで言われた者たちの、末路。
伝説の武具をすべて取り上げられ、魔力は無効化され。
彼女たちの下腹部には、マルレートに刻まれた隷属の印。
この印を消すのは容易なことではなかった。
よほど高い魔力をもつものでなければ、これを解くことはできない。
本来の彼女たちなら、それは可能だった。
エルフの女王による加護。
神官の聖なる力。
魔法使いの高位魔術。

しかし、魔王城をすっぽりと包む不思議な力により、エルフの女王の加護は阻まれ。
耳に付けられた封魔のピアスによって、彼女たちの魔法は無効化されてしまう。

類まれな資質に恵まれ。
厳しい旅の中で培われてきた、彼女たちの能力。
本来なら、彼女たちの一人ひとりが、並みの上級魔族以上の強さを持っている。
しかし今は、武器も魔力も奪われ、下級魔族ひとりにすら、歯向かうことができないのだ。
悔しさに歯がみしつつ、脱出の機会をうかがう勇者一行。
しかし、ついにその時は来てしまった。


ほの暗い地下室。
そこには、数人の魔族。
魔王の側近である竜人族の上級魔族と、数人の下級魔族。
そして、マルレートの姿があった。
「君が、こんなものを見たがるなんてな」
竜人族の魔族が言う。
圧倒的なまでの力をほこる魔王。
その強さの秘訣。
それをこの目で見てみたいと思っていたのだ。

重い音をたてて、地下室の扉が開く。

下級魔族に連れられて、一人の女性が入ってくる。
一糸まとわぬ姿で、手かせを付けられ。
首輪からのびたリードの端は、先導役の下級魔族にしっかりと握られている。
勇者一行の一人、魔法使いだった。
黒い、ショートボブの髪。
背丈は低く、控えめな体つき。
トレードマークである魔導士のローブも杖も取り上げられ。
見た目だけで言えば少女のようにも見えるが、勇者よりも年上だったはずだ。

ヘソの下には、隷属の印。
そのほかにも、能力を封じるための印やマジックアイテムがいくつも付けられていた。
実際、これらの制御がなければ、この部屋にいる魔族のほとんどが、一瞬で倒されてしまうだろう。
仲間から離され、何をされるかわからないという恐怖のなか。
それでも、気丈にも、マルレートたちを睨みつけている。

儀式は始まった。
先導役の下級魔族が、服を脱ぎだす。
全裸になった彼女は、魔法使いを背後からそっと抱きしめる。
もがき、振りほどこうとする魔法使い。
そんな彼女のくちびるを、下級魔族が無理やり奪う。
口移しで、何かを魔法使いの口へと流し込んでいく。
吐き出そうとするが、口をふさがれた魔法使いは、それを飲み込むしかなかった。
下級魔族が、耳元で何かをささやく。
すると、それまで抵抗していた魔法使いが、おとなしくなった。
下級魔族と見つめ合うその目は、トロンとしてきて…
下級魔族が、再びささやく。
それを、ウットリとした表情で見つめる魔法使い。
「ユリ…」
勇者、ユリアンネ。
その愛称を口にする、魔法使い。
彼女の目には、この下級魔族がユリアンネに映っているのだ。
この下級魔族、サキュバスの技の一つだった。
サキュバスが、魔法使いに顔を寄せていく。
目を閉じながら、受け入れる魔法使い。

ちゅっ…ちゅっ…
恋人同士のような、キス。
サキュバスが、魔法使いのくちびるをついばむ。
室内に響く、むつみ合う音。
次第に二人は熱を帯びていく。
サキュバスの舌を受け入れ、己の舌を絡ませる魔法使い。
相手が魔族であることも知らず。
普段の勝気な態度はなく、恥じらいながら、勇者の名を呼ぶ。
愛する者の唾液を、嬉しそうに飲み込む。
顔は赤く上気し、鼻息は荒く。

サキュバスの唾液は、催淫性がある。
思考を溶かされ、暴力的なまでに性欲を掻き立てられ。
愛液を垂れ流す魔法使い。
それは、本当に垂れ流すという表現がぴったりだった。
足元に落ちた愛液が、水たまりを作っていく。
失った水分を取り戻すかのように、サキュバスの唾液をむさぼる魔法使い。
飲めば飲むほど、彼女の身体は昂っていく。

そして…
キスをしながら、サキュバスが魔法使いのお腹に手をあてる。
魔法使いの柔らかそうなお腹を、やさしく揉みほぐす。
嬌声をあげる、魔法使い。
気の強そうな表情とは裏腹に、可愛らしい喘ぎ声。
サキュバスが、魔法使いの耳元でささやく。
魔法使いが、何度もうなずく。
妖しくうごめく、サキュバスの手。
目をじっと閉じながら、それを受け入れる魔法使い。

サキュバスが、近くにいる下級魔族に目配せをする。
下級魔族はうなずき、一抱えほどもある杯を持ち上げる。
特殊な金属でできた、杯。
それを、魔法使いの股の下に押し当てる。
愛液が、杯の中に滴り落ちていく。
サキュバスは、なおも彼女のお腹を揉み続ける。
グニグニ、グニグニと。
再び、サキュバスがささやき…
魔法使いは、うなずくのとほぼ同時に、全身を大きく震わせた。
その瞬間。
魔法使いの秘部から、淡い光を放つ液体が噴き出した。
いや、あれは液体なのか。
大きな杯が、魔法使いのそれで、満たされていく。
なおも執拗に、魔法使いのお腹を揉むサキュバス。
揉まれるたびに、魔法使いの下腹部から液体が絞り出されていく。

儀式が終わり、魔法使いが正気を取り戻す。
さっきまでそばにいたはずの、最愛の人が、いない。
自分を抱きしめているのが、サキュバスであることに気付く。
さっきまで己がむつみ合っていたものの正体。
慌てて振りほどこうとするが、かなわない。
そして、彼女は思い出してしまった。
今まで誰にも話したことのない、知られてはいけない秘密。
それを、魔族たちに晒してしまった、むりやり晒されてしまったということを。
己の聖域を理不尽に汚され、憤怒する魔法使い。
そんな彼女に突き付けられる、非常な現実。
彼女の目の前には、大きな杯。
そしてそれを満たす、不思議な液体。
その液体と同じものが、自身の秘部を濡らしている。

常人のマナなら、その杯を十分の一ほども満たせないだろう。
しかし、魔法使いのそれは、杯をなみなみと満たしていた。

不思議な液体の正体が何であるか。
彼女の頭に、恐怖とともによぎる。
半狂乱になって、泣きわめく。

返せ!
返してよ!
お願いだから、返してください…

青ざめながら懇願する、稀代の魔法使い。
しかし、その言葉は聞き届けられない。
彼女の生まれ持った膨大な魔力と、努力で培ってきた様々な高位魔法。
その全てが、彼女の身体から流れ出てしまった。
あの杯を満たし、己の股を濡らしているこの液体は、彼女を魔法使いたらしめていたもの。
そのすべてが凝縮されたこのマナは、魔王に献上されるものなのだ。

魔王が、魔王である所以。
圧倒的なまでの、その強さの秘密。
それは、返り討ちにしてきた強者たちのマナを奪い、自分のものとしてきたからなのだ。
その秘密を知りたくて、マルレートはこの現場に立ち会う許しをもらったのだった。

うなだれながら、部屋から連れ出される魔法使い。
一方、魔族たちは、竜人族の魔族の指示のもと、マナの入った杯を運ぶ準備をしていた。
厳重に梱包され、慎重に運ばれていく杯。

マルレートは、竜人族の手に握られたものを見つけた。
あれは、記録の魔石。
魔力を込めながら握ることで、使用者は見えているものを映像として記録することができる。
非常に高い魔力を必要とし、上級魔族でも、使いこなせるものは多くない。
おそらく、マナとともに、あの魔石も魔王へ献上するのだろう。
『儀式』の中で己のヒミツを暴かれ、マナを失う魔法使いの映像。
それを眺めながら、魔王はマナを取り込むのだ。
その様子を想像し、マルレートの身体が震えた。
恐怖ではない。
高揚感とも違う。
初めて味わう感情に、戸惑うマルレートだった。

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