マゾ犬ポチが、ご主人様を見つけるまで


藤沢 梓(ふじさわ あずさ)
 入社8年目のOL。30歳独身。

川端(かわばた)
 入社2年目の新人OL。ナマイキな後輩。


入社して8年が経った。
同期の半数以上は結婚し、家庭を持っている。
私もかつてはそんな生活を夢見ていたことがある。
しかし、言い寄ってくるのは、私の理想とはかけ離れた人たちだった。
冷たくあしらっているうちに、いつしかそれもなくなり。
仕事が面白いと感じ始めた時期だったこともあり、当時はそれでいいと思っていた。
同期の中でも昇進は早いほうだった。
ときおり好意を見せてくる者もいたが、性欲を剥き出しにしているか、オドオドとした軟弱者か。
中にはいいなと思う人がいたが、少しそっけない態度を見せただけで、引き下がってしまう。
あと一歩、踏み込んできてくれたら。
私が、歩み寄っていれば。
そう思っても、仕方なかった。
いつしか『藤沢は男に興味がない』だの、『ドSな女王様として、マゾ犬を飼っている』だの、根も葉もないウワサが流れていた。

そんな私の、密やかな楽しみ。
帰宅後、私はカメラの前に立つ。
その前で、一枚一枚、服を脱いでいく。
ブラウスを脱ぎ、スカートを脱ぎ。
やがて、下着姿になる。
ブラを外し、ショーツを脱ぎ。
手で、胸と下半身を隠す。
カメラの前で、ゆっくりと、手をどかす。
おっぱいと、黒い茂みが、カメラに収められていく。
テーブルの上に置いた、大型犬用の首輪。
取り上げ、自身の首に取り付ける。
カメラの横に置いた姿見に、全身が映る。
一糸まとわぬ姿をした私が、耳まで赤くして。
首元にある、革製のアクセサリー。
屈辱感とも、恥ずかしさとも少し違う。
チリチリとした刺激が、下腹部を熱くさせる。
カメラに向き直り、私は告白する。
「〇〇商事に務める、藤沢梓です。30歳独身。私を飼ってくださるご主人様をさがしています。ポチって、呼んでください…」
顔が熱い。
「職場では、気の強い女を装っていますが、本当は、いじめられるのが好きな、ま…マゾ、なんです…」
己の秘めた性癖を、カメラが記録していく。
「ご主人様にイジワルされているところを想像しながら、いつもオナニー、してます…今も、見られていると思うだけで、こんなに、濡れてます…」
媚びた視線を、カメラに向ける。
「発情したマゾ犬のポチが、オナニーするところ、どうか、見ててください…」

撮影した動画を編集する。
目線を入れて、声のトーンを変えて。
個人情報の部分については、別の音をかぶせて上書きする。
何度も再生し、編集漏れがないことを確認する。
いつものSNSにログインする。
私のヒミツを、秘めた願望をさらすことのできる、聖域。
先ほどまで編集していた動画データを、アップロードする。
再生数を示すカウンターが回り始める。
見られている…
私の恥ずかしい姿が、誰にも言えないヒミツが、こんなに多くの人に知られてしまっている…

きっかけは、偶然見かけたネットの記事だった。
身元を隠しながら、インターネット上で自身の裸体をさらす女の子たち。
そんな彼女たちを紹介する記事を、私はどこか冷めた目で読んでいた。
正体がバレるかもしれないリスクを負いながら、自身の裸を不特定多数にさらす。
承認欲求を満たすためか、それとも、ただ刹那的な快楽を得るためか。
私には理解できない。
この時は、そう思っていた。

寝る前に行う、いつもの日課。
ルーティン化したそれは、どこか作業的ですらあった。
ストレス解消と、寝付きをよくするため。
それ以上の理由はなかった、と思う。
動画、小説、音声作品。
内容は、気の強い女性が、調教されるものがほとんどだった。
その女性に自己を投影し、被虐の快楽に身を浸していく。
満たされない思いを、代替手段で解消する。
それの、どこが悪いのか。

ふと、目を開く。
媚びた笑みを浮かべ、切なそうに身をくねらせる、一匹のマゾ犬が、そこにいた。
鏡に映ったおのれの姿を見て、私のなかで何かが芽生えた。
心臓が、早鐘をうつ。
血液が沸騰でもしたように、全身が熱くなる。
これまで経験したことのない昂り。

物語の中の、女性。
普段クールな彼女は、とあるキッカケが原因で、マゾであることがバレてしまう。
相手は、後輩や部下、近所に住む高校生や、親戚など。
これまでの立場は一変し、マゾであることを思い知らされていく、女性。
そんな、物語の中のマゾ女が、鏡の前でこちらを見ている。

誰にも見せたことのない、見せてはいけない、私のもう一つの顔。
でも、本当は知って欲しかった。
すました顔をしていても、本当は違う。
プライドを踏みにじられ、屈辱で身を焦がされたい。
からかわれ、恥ずかしさで悶えさせられたい。
ご主人様に、この身を使ってご奉仕したい。
一人の女の子として、甘えたい…
抑え込んでいた感情が、あふれ出す。
私はスマホを取り出し、鏡に向けた。
シャッターの音。
私のヒミツが、記録されていく。
ヒクツな笑みを浮かべた、この顔も。
普段はきつく抑え込んだ、この胸も。
とめどなく愛液を溢れさせる、黒い茂みの中の秘部も。
熱にうかされたように、カメラに収めていく。
シャッターの音が鳴るたび、体の奥が熱くなる。
親も、友人も、職場の人も、誰も知らない。
ひた隠しにしてきた、性癖、願望。
こんなものが、知られてしまったら。
友人たちの顔、職場の人たちの顔が、脳裏に浮かぶ。
驚きと、けいべつの混じった視線。
ぜったい、ぜったいに、知られてはいけない。
固く決意しながら、なおもシャッター音は続く。
職場の、ナマイキな後輩の顔が浮かぶ。
蔑んだ目で、私をなじる。
屈辱と、怒りと。
彼女に罵られながら、私は全身を震わせた。

それが、自撮りをはじめたキッカケだった。

同じ毎日の繰り返し。
いつものように出社し、理不尽な上司に耐え、部下や後輩の尻ぬぐいをさせられ。
帰宅後の、ストレス解消。
マゾ犬ポチは、今日もカメラの前に立つ。
まだ見ぬ飼い主を想い、痴態をさらす。
「ご主人様、どうか、ポチのこと、いっぱいイジメてください…」

「これ、藤沢主任ですよね?」
ナマイキな表情をしながらスマホを差し出す後輩、川端。
大切な話があると言われた私は、終業後に会議室へと向かった。
誰もいない会議室で、待っていた川端。
開口一番、川端の言葉がそれだった。
差し出したスマホに視線を移す。
画面に映っているのは…
手で口元を隠しながら、媚びるようにこちらを見上げる、女性。
その身には何もまとっておらず、胸も、おなかも、大切な場所も、露わになっている。
『マゾ犬ポチの、露出日記』
私の裏アカウント。
写っている女性は、私自身。
血の気が引いていくのが分かった。
ぜったいに避けなければいけないことが、起こってしまった。
しかも、よりによって川端に。
でも…
でも、これだけでは、私であると断定はできないはずだ。
「ち、違うわ。こんなのが、私なわけないでしょう。ふざけないで!」
「ふーん、まだそんなこと言うんですね。じゃあ、これも違うんですか?」
首輪をした、全裸の私。
その下には、『飼い主募集中』の文字。
目元は隠されているが、さっきよりも近い距離で撮っているため、細かい部分までよく写っている。
「ほら、見てください。ここのホクロ、藤沢主任と同じ場所にありますよ?髪型もそっくり」
写真の女と、私の目元を指さす川端。
「たっ、たまたま、近い場所にホクロがあるだけでしょ!髪型だって、めずらしいものじゃないし。それだけで、こんなヘンタイ女と一緒にするなんて…」
「ふぅん、ヘンタイね…」
意味深な笑みを浮かべる川端。
「じゃあ、この写真は?ねえ、見て?顔を隠してるつもりでも、鏡にはバッチリ、藤沢主任の顔が映ってますよ?」
「うっ、嘘!」
慌ててスマホを見る。
しまった、と思ったが、もう遅かった。
川端の勝ち誇ったような顔。
「ち、ちがうの、これは…」
「ちがうって、何がですか、藤沢主任?」
何か、何か言わなければ…
私がこんなことしているなんてバレたら、職場にいられなくなってしまう。
「あのマジメな藤沢主任がこんなことしてるなんて、ビックリしました」
決して知られてはいけない秘密を、知られてしまった。
しかも、よりによって川端に。
自分の甘さを呪った。
「藤沢主任て、やっぱりMだったんですね。いつもはあんなにキビシイのに…」
からかうような目。
いつもだったら、叱り飛ばしていただろう。
でも、できない。
「分かりますよ。お仕事、忙しいですもんね。ストレスもたまるでしょうし、恋人を探す時間もないでしょうし」
「あ、あなたに、何が分かるっているの」
「年頃の女性が、相手もいず、切ない気持ちを持て余して…こんなかたちで発散させるしかなくて」
「い、いい加減にしなさい、川端」
それだけ言うのがやっとだった。
「でも、もったいないなぁ。こんなにエッチな身体してて、誰のものでもないなんて。私ならほっとかないんだけどなぁ」
「くっ…」
「ねえ、梓さん。私に飼われたくない?」
下の名前で呼ばれて、ドキッとした。
「な、なに、を言っているの…」
「だ・か・ら。私が梓さんの飼い主になってあげるって、言ってるんですよ」
「なにを、バカな…ふざけないで」
「実は私、Mな女の子が大好きなんですよね。何人かの女の子と付き合ったことがあるけど、みんなMな子ばかり」
「だっ、だから、なんなのよ」
「私、梓さんのこと、いいなって思ってたんですよね。いつも強がってるけど、本当はMなんだろうなーって。誰かに甘えたい、支配されたい。そんな梓さんのこと見てると、イジメてあげたくなっちゃうんです。Mっ気を隠してるつもりでも、見る人が見れば分かっちゃうものなんですよ?」
社会人になったばかりのヤツが、知った風なことを。
思うが、川端から目を離すことができない。
「それとも、女の子が相手じゃ、嫌ですか?」
わざとらしく、悲しそうな目でこちらを見つめる川端。
「そ、そういう問題じゃ、ないの…」
「梓さん、私のペットになってください」
「そ、そんなの…」
「梓さんがしたがってた『おさんぽ』も、『お尻ペンペン』も、してあげますよ?」
私が裏アカに書いていたことだ。
「首輪にリードを付けて、近所をお散歩してみたいんでしょ?お尻をご主人様に叩かれてる動画を観て、羨ましくて仕方なかったんでしょ?」
秘めた願望。
マゾとしての性癖。
それを、この後輩にはすべて知られている。
「それに、お仕事で頑張った梓さんのこと、いっぱいナデナデしてあげる。裸んぼになって、私におなかを見せながら、頭をヨシヨシってされるの」
「う、あ…」
「それとも、Mな梓さんは、もっと屈辱的なこと、されたいんですか?いいよ梓さんが望むこと、いっぱいしてあげる」
卑屈な笑みを浮かべて、川端の前でひざまずく自分の姿を想像する。
首輪を付け、飼い主である川端にリードを引かれ、『おさんぽ』をする私。
お尻を突き出し、川端に『お尻ペンペン』をされる私。
おなかを見せながら、赤ちゃん言葉で川端に甘える私。
「私なら、どんな梓さんも受け入れますよ?」
ナマイキな後輩としか見たことがなかった、川端。
それが今、私の飼い主候補として目の前にいる。
私の、ご主人様。
「ほら、ポチ、おいで?」
川端の声。
「私のペットにしてほしかったら、ここにキスしなさい?」
川端が、自身のスカートの裾を、少しずつ持ち上げていく。
やわらかそうな、川端の太もも。
少しずつ、露わになっていく。
思わず、喉を鳴らしてしまう。
川端が笑うのが分かった。
でも、目が離せない。
やがて。
白いものが、目に入った。
川端の下着。
同性の、後輩の下着。
なのに、目が離せない。
鼓動が、早くなっていく。
「ほら、ポチ、ご主人様の大切な場所にキスするの。ポチなら、できるでしょう?」
川端のささやきが、媚薬となって脳に溶けていく。
「私のペットに、なりたいんでしょ、ポチ?」
まるで、吸い寄せられるように。
目が離せない。
「ふふっ。すごい顔してますよ、梓さん」
川端のからかう声が、私の身体を更に熱くさせる。
そして…
川端の、発情した雌の匂いが、鼻腔をくすぐる。
これが、私の飼い主となる女性の匂い。
私を支配してくださる、ご主人様の匂い。
「ふふっ。ホントにキスしちゃった。これから、いっぱい可愛がってあげるからね、ポチ?」
「あ、ありがとう、ございます…」
「ちゃんと言葉遣いも変えられて、エライね。いい子、いい子…」
川端に、頭を撫でられる。
乾ききっていた私の中の何かに、スーッとしみわたっていく。
なぜか、涙が出そうになった。
「今まで誰にも見せられなかった梓さんの可愛いところ、私にいっぱい見せてね?」
私は、黙ってコクンとうなずいた。
「そうだ!今度の休み、予定あります?なければ、一緒に買い物に行きません?」
「買い物、ですか?」
「はい。梓さんに似合う首輪とリード、一緒に探しましょ?買い物が終わったら、どっちかの家に行って…いっぱい、イジメてあげるからね、ポチ?」


Twitter上で実施したアンケート項目をもとに作成した物語です。
本作は『後輩にマゾであることがバレて、立場が逆転』となります。

『後輩(恋人)に優しく責められる、あまあまエッチ』
  ⇒ 千紗先輩はオギャりたい ~一生懸命頑張る、すべての”甘えた”さんへ~

『先輩が後輩に責められている場面を目撃(第三者視点)』
  ⇒ 新人調教師は、憧れの牝馬を寝取る

『強い女性が、能力や立場を奪われていくシチュ』
  ⇒ マナドリンカー ~尊厳を搾り取る者~


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